平和・安全保障分野の国際協力の日本政府内における調整の必要性

平和・安全保障分野の国際協力の日本政府内における調整の必要性

2019年12月15日
グローバルイシュー・平和構築
新しいアフリカ支援の明確化

 20198月下旬にTICAD VII(第7回アフリカ開発会議)が横浜で開催された。1993年以降、日本政府が主催して行ってきている会議である。現在は、国連、国連開発計画(UNDP)、アフリカ連合委員会(AUC)及び世界銀行が共催者となっている。TICADが当初持っていた意味は変わってきているが、依然として日本外交において重要性を持っている。
 アフリカの開発では、平和・安全保障分野が、欠かすことのできない重要領域である。今回のTICAD VIIにおいても、安倍首相が「アフリカの平和と安定に向けた新たなアプローチ(NAPSA)」という概念を打ち出し、日本がさらに平和・安全保障分野での支援を行っていくことを宣言した。その内容としては、制度構築支援やアフリカ主導の平和支援活動の後押し、紛争予防・「平和の持続」に向けた制度構築・人作り支援が謳われた。
 ただし、果たしてより具体的にどのような新しい支援を行っていくのかは、まだ必ずしも明らかではない。紛争予防を重視する姿勢は、国連などの国際機関も強調してきたし、2017年に国連事務総長に就任したグテレース氏は特にそうだ。制度構築支援や能力構築支援などは、国際機関はもちろん、過去の日本の開発援助でも行ってきている。
 日本の国際的な平和・安全保障分野での協力の総体の中で、NAPSAの意義を位置付け、資源の総合活用を図っていく姿勢が重要となるだろう。TICAD VIIで表明されて実施されていく平和・安全保障分野の日本の支援は、開発援助の枠の中だけの話で終わってしまう懸念がある。しかしそれは非常に残念なことである。
 日本はアフリカ諸国のPKO訓練センターへの支援を、TICAD IVが開催された2008年以降、継続して行ってきている。だが年間1億円程度の予算を、複数の国に配分し、UNDP経由で、支援を行ってきているため、あまり目立っていない。対象としてきたセンターが20カ所以上にまたがっているため、10年間で10億円以上を支出してきた全貌を体系的に理解することも簡単ではない。

単発的活動に終わらせない努力を

 実は、平和・安全保障分野の能力構築支援は、欧米諸国が力を入れて進めてきていた重要分野である。米国も欧州諸国も、アフリカの平和・安全保障に深く関わっているが、独自の介入部隊を出す余裕まではない。そこでアフリカ諸国の自助努力への支援に力を入れてきているのである。
 国連PKOだけでない。ソマリアのAMISOM、マリのG5-Sahel、ナイジェリア北部(周辺)のMNJTFなどは、「対テロ戦争」の最前線を担っていると言って過言ではない。欧米諸国は、膨大な資源を、この分野に投下し続けてきている。日本としても、本来は「インド太平洋構想」にもとづいて、各国と協調してアフリカ支援を進めたい重要分野であるはずだ。
 ただし、「積極的平和主義」を進めてきているはずの安倍政権が、果たしてこの分野での活動にどれくらいの熱意を持っているかは、明確ではない。日本は、内閣府に国際平和協力本部事務局を置いて、PKO協力法にもとづく「国際平和協力」を取り仕切ってきている。だが2017年に南スーダンの国連PKOから自衛隊施設部隊を撤収させて以降、PKO協力法に基づく自衛隊員の派遣は、司令部要員4人にとどまっている。近い将来に部隊派遣が行われる見込みもない。
 海賊対処法にもとづく海上自衛隊の派遣は続いており、ジブチに初の海外基地を持つまでにも至っている。ただしこれは海上保安庁・防衛省が主管となっているために、PKO協力法にもとづく「国際平和協力」とあわせて体系的に政策が位置づけられることはない。派遣が終了したイラク特措法にもとづくイラクへの自衛隊派遣や、テロ特措法にもとづくインド洋への自衛隊派遣についても、単発的な活動であったという位置づけで終わってしまっている。

政府内機関・部署の連携強化

 アフリカのPKOセンターへの支援は、TICADから始まった案件であるため、外務省が所管する案件となっているが、各国の大使館の駐在武官のイニシアチブが重要である。また講師派遣などの形で日本人が関与する場合、自衛官が派遣されたりすることが多い。管理は外務省が行っているが、実態面では防衛省(自衛隊)の関与が深いわけである。また、外務省の中において、PKOセンター支援は、アフリカ課が所管しているが、国連を通じた能力構築となると総合外交政策局の中の部署が担当する。もっとも本来はUNDPを通じた支援を担当しているのは、地球規模課題審議官組織だ。果たして、これらの複数の機関・部署の連携は十分にとられているだろうか。
 ひっ迫する財政上の中で、日本は、今まで以上に効率的に援助活動を進めていかなければならない。平和・安全保障分野は特にそうだろう。各機関の連携を高めて、限られた資源と専門家を有効活用していかなければならない。部隊派遣がない時代だからこそ、知的集約性が高いところでの関与に、大きな意味がある。専門家層がいなくなってしまったら、終わりだ。体系的な関与が求められる。

政策オピニオン
篠田 英朗 東京外国語大学教授
著者プロフィール
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大大学院政治学研究科修士課程修了。ロンドン大学(LSE)で国際関係学 Ph.D. 取得。広島大学平和科学研究センター准教授などを経て、現在、東京外国語大学総合国際学研究院教授。専攻は国際関係論、平和構築。主な著書に『国際紛争を読み解く五つの視座』『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』『平和構築と法の支配―国際平和活動の理論的・機能的分析』『「国家主権」という思想』『平和構築入門』など。

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