台湾問題を考える(4) :日本の台湾政策 ―迫りくる台湾危機への対応を視野に―

台湾問題を考える(4) :日本の台湾政策 ―迫りくる台湾危機への対応を視野に―

1.はじめに:戦略的台湾政策の構築を目指して

 台湾有事は「起きるかどうか」ではなく、「いつ起きるか」という問題といわれてきた。ところが、第三論文の発表後、ロシアがウクライナに侵攻を開始し、経済もなお激しい戦闘が続いている。このロシア・ウクライナ戦争によって、国際政治を取り巻く環境は激変することになった。中台問題もその例外ではない。
 ロシア・ウクライナ戦争に際して、ロシアの侵略を厳しく糾弾し、ウクライナの防衛支援のために欧米をはじめ自由諸国が見せた結束と、世界規模になった厳しい対露制裁措置の発動を目の当たりにして、これまで一貫して中台統一の実現を掲げてきた中国の習近平政権も、台湾に対する武力侵攻には慎重にならざるを得なくなっている。中国による台湾侵攻の可能性がゼロになったわけではないが、第三論文で警戒すべき事態として指摘した離島への限定侵攻を含め、台湾有事が顕在化する危険性は当面、ある程度低下したといえよう。
 逆に言えば、中台問題に対する我が国の政策について、その在り方を検討するための時間的なゆとりが生まれたということも出来る(1)。最近、中国軍による台湾への軍事侵攻、即ち台湾有事が取り上げられ、日台関係といえばそうした有事における自衛隊の対応や関与の在り方ばかりが論じられることが多い。
 しかし、国家の外交や安全保障政策は有事に限定されるべきものではなく、平時、有事を通しての長期的かつ継続的なものでなければならないはずだ。そこで、ロシア・ウクライナ戦争における大国ロシア苦戦の戦況から得られた時間的余裕の好機を生かし、これまでの日本の台湾政策の課題や問題点を洗い出したうえで、安全保障分野だけに限定することなく、政治、経済、文化、観光なども織り込んだ包括的で幅の広い台湾政策の姿について検討、考察を行うべきであろう。
 そのためには中台間で軍事紛争が勃発する事態や、また様々な紛争のケースだけを考察の対象とするのではなく、平時における政治経済など幅広い日台交流の在り方から中台間の緊張が高まる危機時、そして不幸にして両社の間で武力衝突が生起する有事までを含めた台湾に生起する可能性のあるあらゆる事態を視野に入れて包括的な政策の在り方について考えてみたい。
 本稿では、かかる包括的な日本の対台湾政策を「戦略的台湾政策」と名付けたうえで、以下、その具体的な構想や課題、問題点などについて考察を進めていきたい。

2.対台湾政策を考える際の基本的枠組み

 ウクライナとは異なり、台湾は一般の独立国家と同一には論じられない。台湾は中華民国として1971年まで国連に加盟しており、世界の主要な国は台湾を国家として承認していた。だが1971年のアルバニア決議(国際連合における中華人民共和国の合法的権利の回復)によって中国が国連安全保障理事国となり、それに抗議して台湾は国連を脱退した。その後多くの国は台湾と断交した。2021年12月時点で、中華民国を国家として承認し、公式の外交関係を持つ国は200近い国連加盟国の中で13か国(非加盟国のバチカンとソマリランドを含めると15か国)に過ぎない。独立した主権国家といい得るためには、他国からの承認が必要であり、現状では、国際社会において台湾が完全なる独立国家と認められているものとは言い難い。
 その一方、中国は 「一つの中国」を唱え、台湾はあくまで中国の一部であるとして中台の統一を主張しているが、中国共産党が台湾を自らの支配下に置き、統治をした実績は一度もなく、また第一論文で見たように、中国史を遡っても台湾が中国の一部に属すとも言い難い。こうした実態から、中国の習近平指導部が台湾に対して「一国二制度」に基づく統一構想を提示してはいるものの 台湾では80%の人がこれに反対しており、蔡英文総統も民意を踏まえこの中国の提示は受け入れないと明確に宣言している。
 では日本は、台湾をどのように位置づけているのか。1972年の日中国交正常化実現の際に示された「日中共同声明」では、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」という中国の主張に対して、日本政府は「この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」(台湾の地位について合意された日中共同声明第三項)との立場をとっており、中国の主張を「理解し、尊重する」が、中国の主張を受け入れ、それに同意したものではない。その一方で日本政府は、「中台問題は中国の内政問題」との立場も示しており、台湾を中国とは別の独立した主権国家として承認しているわけでもない。
 台湾は、一般の独立した国家と同列に扱うことには無理があるが、中国が主張するように中国の一部とも言い難い。冷戦終焉後、セルビアからの独立を目指したコソボの事例とは異なり、台湾では中国からの独立を求める声は強くなく、多数派は現状の維持を希望している。それは、そもそも台湾が中国の一部であった歴史的実態が伴っていないため、中国からの独立を希求するモメントが生まれにくいこと、近年国際社会の承認が少なくなったとはいえ、戦後中華民国として事実上の独立を維持してきた経緯もあり、独立国家あるいはそれに準じる地位を今後も維持継続させることが台湾の人々を代表する声として定着していることを意味している。
 かように、台湾の位置づけは非常に複雑かつ曖昧であるが、纏めるならば、
 ①台湾が中国の一部であるとの中国の主張を認めることには、これまでの統治の実績が伴わないことから疑義がある。
 その一方、多数の国が台湾を独立国家として扱っているとは言い難い国際世界の現状に鑑みれば、
 ②国連追放後の台湾は主権国家に準じる政治共同体ではあるが、中国とは別の独立した主権国家と認めることにも無理がある。
 日本は、中国と台湾の関係は内政問題と捉えている。だが「当事者間の平和的な話し合いで解決すべき内政問題」と明記している点は注意を要する。中台の平和的な話し合いがこの認識判断の前提となっているのだ。一方、最近の中台環境を見れば、「平和的な話し合いでの問題解決の動き」からは程遠く、中国は政治的軍事的な威嚇を台湾に加えることが常態となっており、台湾の中国への帰属を武力を行使しても実現する姿勢を強めている。国際社会の現状を暴力によって一方的に変更しようとする動きは、戦後確立された国際秩序に明らかに抵触するものであり、中国がそのような動きに出るのであれば、
 ③独立国家に準じる政治共同体である台湾の自由や平和は尊重されねばならず、それが暴力によって侵されることを国際社会は黙認することが出来ない。
 大陸中国の一部とは言い難い台湾が、台湾に住む人々の意志に反して中国に武力を含む強制的な力によって併合統一される事態は、侵略に準じた行為とみなすべきである。
 但し、台湾の安全保障問題及びそれに対する我が国の関与の在り方を考える際には、日本が日中正常化の際に示した認識が今日も基本的な枠組みとなることを忘れてはならない。
 22年3月、台湾を訪問したポンペオ米前国務長官は、中華民国(台湾)について「自由で主権国家である」と述べ、アメリカは台湾を外交的に承認するべきだとの見解を示した。ポンペオ氏は、台湾の国家承認は「明白な既成事実を認めることだ」と指摘。アメリカは中国との関わりを維持するべきが、自由を愛する台湾の2300万人と民主的に選出された政府に対するアメリカの外交的承認はもはや回避できないとしている。
 しかし、日本がこの立場を支持、さらに追随し台湾を独立国家として扱うことは、日中関係の基本枠組みを反故にすることになり、避けるべきである。対台湾政策の目的は、台湾の平和と安定が今後も確保される状況を維持することに置かれるべきで、殊更に中国との関係を悪化させ、日中の間に敵対関係を惹起させる必要はない。そうした事態を招くことは結果的に台湾を巡る国際関係を不安定化させることにもなり、日本の国益にも添わない。台湾の法的な位置づけに拘り、国際的な緊張を不用意に高めるよりも、台湾の安全を確保するという現実的実体的な目的の実現に意を用いることが大切である。

3.日台の近接性と台湾の戦略的重要性

 台湾と日本は距離的に近いだけでなく、一時期日本の植民地であったこともあり、歴史的にも深い関係を有している。民族上の相違はあるが、台湾はかねてより親日的で、日台の精神的な絆は太く、戦後も経済的な繋がりは強い。しかし、1972年の日中国交正常化を機に、日本と台湾の正式な外交関係が途絶えた。また改革開放政策を進める中国が日本との経済関係強化に乗り出したこともあり、冷戦時代の後期以降、日本と台湾の関係は疎遠化した。
 だが、政治経済情勢は変化しても、台湾の持つ地政学上の価値は変わるものではない。
 台湾は日本と中東、東南アジアを結ぶ重要なシーレーンの上に位置し、台湾の安全が中国によって脅かされれば、即日本の経済活動は麻痺する。経済に留まらず、台湾海峡を越えて中国の軍事力が西太平洋に拡大すると、日本の安全保障も危殆に瀕する。また台湾は 年に民主化を実現し、日本と同様、自由と民主主義を掲げる自由主義陣営の一翼を成している。こうした環境から、台湾の危機や安全は台湾だけでなく、日本の危機や安全と不可分であり、東アジア、ひいては自由世界の危機や安全にも深くかかわっている。台湾有事は即日本有事といわれるのは、こうした背景があるからに他ならない。
 冷戦の終焉後、中国の台頭は著しいものがあり、中国は政治的経済的、そして軍事的な影響力の拡大を続けており、そのような国力の向上を背景に、かねてから中国共産党が唱えていた「一つの中国」の実現に向けて、具体的な行動に出る危険性が高まっている。台湾の自由や民主主義に対する直接的な脅威であるばかりでなく、日本やASEAN諸国、さらに中国の太平洋進出を容易にし、西太平洋の海洋秩序が脅かされる危険が高まっている。
 2022年3月、日本台湾交流協会は、台湾人の海外に対する印象などを聞いた世論調査結果を公表した(2)。それによると、台湾に最も影響を与えている国はどこかという問い対して、1位の「アメリカ」(58%)、2位の「中国」(25%)に比して、「日本」とした人は13%にとどまった。だが、今後、台湾が最も親しくすべき国はどこかとの問いには、「日本」と回答した人が46%とトップで、2位はアメリカの24%、3位は中国の15%だった。最も好きな国はどこかという問いにも「日本」を挙げた人が最も多く、調査開始(08年)以来、過去最高の60%に達し、2位の中国(5%)、3位のアメリカ(4%)を大きく引き離した。この結果は、日台断交後、日本の台湾に対するコミットは限定的なものに限られてきたが、今後台湾に対して日本が積極的に関与することを求めるとともに、それを期待する声が非常に大きいことを示している。
 こうした台湾側の期待を踏まえ、台湾と地理的歴史的に関係の深い日本は、断交後、疎遠であった日台の関係を見直し、台湾の安全とその発展のために、新たな台湾政策を打ち立てるべき時期に来ている。台湾を独立国家と完全に同列に扱うことは出来ないが、台湾島を巡る中国の行動が地域的な脅威となっている以上は、その危険に対処することは、台湾のみならず国際秩序の平和を保つ上でも不可欠である。
 台湾有事に対処するだけでなく、平時から台湾との関係を密にし、中国の太平洋への膨張を阻止するとともに、台湾有事そのものが生起することがないような安定的な東アジア秩序の構築に取り組む必要がある。アメリカの台湾へのコミットが主に軍事的な措置が柱となるのに対して、日本は台湾の国際社会との連携を強め、中国が台湾への威嚇、武力行使に出にくくさせる国際環境作りに力点を置くべきであろう。
 以下、日台の太い絆の構築を目指し、平素から我が国が取り組むべき政策課題を政治、経済、文化学術交流、そして安全保障の各分野ごとに考えていきたい。

4.政治:政治的連携の強化

4-1 日台交流窓口の整備強化

 今年は日本が中華人民共和国と国交を樹立し、中華民国(台湾)と断交してから50年目たる節目の年だ。断交5050年を迎え、日台交流協会台北事務所の泉裕泰代表は、2020年を「日台関係100年の折り返しにしたい」と述べたが、過去の50年が日台疎遠の時代であったのに対し、これからの半世紀はその流れを逆転させ、日台連携強化の時代となさねばならない。国交断絶後、交流が途切れがちであった日台関係を各分野のそれぞれにおいて拡充強化することで、距離的・歴史的・政治経済的な近接性に見合った日台関係を構築することが最優先の課題である。
 先述したように、断交した日台の関係を見直し、正式な外交関係を再度樹立するという選択肢も理論上はあり得るが、その場合、中国の猛反発を招くことは必至であり、東アジアの国際関係に波乱と動揺を与えるだけで、日台関係の強化という当初の目的を満たすことにもならず、現実に取り得る政策ではない。日台の関係は、現在と同様に非公式な関係を維持したうえで、形式よりも実質的な関係の強化を目指し、台湾及び日本を含む北東アジア地域の安定確保を目指すべきである。台湾の独立支持に動くことは、この目的を却って悪化させることになろう。
 現在、日本と台湾に正式な外交関係はないが、民間機関という名目で外交代表に準じた機構が設立されている。日本側は「日本台湾交流協会(断交当時は交流協会)」が、台湾側は「台湾日本関係協会(断交時は亜東関係協会)」を設けている。日本の在台大使館にあたるのが、日本台湾交流協会の台北事務所・高雄事務所であり、台湾の在日大使館にあたるものとして東京に台北駐日経済文化代表処が設けられている。
 ともに経済・貿易・技術・文化といった実務関係の維持を業務としているが、日台の接触、交流の拡大に対応し得るよう組織の規模拡大や人員の増強を進める必要がある。また行政面での円滑な調整、連携を図るため、日台それぞれが各省庁の職員をこれら窓口機関に派遣出向させる必要がある。日台双方の窓口機関の定期的な会合の実施も検討すべきである。なお昨年4月には、日本台湾交流協会台北事務所長泉裕 康代表の名刺の肩書が「大使泉裕康」に変わり、台湾側もこの措置を歓迎している。

4-2 日台議員の連携強化 

 日本政府は1972年に中国と国交を正常化させ、台湾と断交した。以後、日本政府が台湾と政策協議を行うことは出来なくなったが、それを補うため政治家どうしの交流の窓口となして、親台湾派議員で構成される超党派の議員連盟「日華議員懇談会(前身は日華関係議員懇談会)」がある。これまで日華議員懇談会(日華懇)は、台湾の立法委員による「台日交流聯誼会」と連携を重ねてきた。
 これとは別に、近年では日本と台湾の与党関係者(自民党と民進党)の間で政策協議の場が設けられるようになり、昨年は8月と12月の2回にわたり議員各2人によるオンラインでの「日台与党間2+2」が実施された。今年の1月にはやはりオンライン形式で「日台安全保障パートナーシップフォーラム」の初会合が催され、経済安全保障やフェイク(偽)ニュース対策について意見交換がなされている。
 また台湾の趙天麟立法委員(国家議員)は、日台で同時に「日本関係法」と「台湾関係法」を制定することを提案。同法に日台間の協力強化や意思疎通の体制整備などを盛り込むべきだと訴えている。こうした様々なレベルでの日台議員間の活発な意見交換が多層的に継続実施され、政策協議の枠組みが今後発展充実していくことが期待される。
 さらに日本国内の動きになるが、自民党の外交部会が昨年2月、台湾情勢を議論するプロジェクトチーム(名称は台湾政策検討プロジェクトチーム)を部会内の組織として新たに立ち上げた。台湾との経済関係強化やや議員交流のあり方の検討を始めており、その提言は今後政府自民党の具体的な台湾政策に反映されることになろう。なお、現職閣僚の相互訪問は難しいにせよ、元閣僚や首相経験者の往来は可能であり、大きな政治的効果も期待できるため活発化させるべきだ。

4-3 行政レベル

 政治家・政治レベルでの関係強化にとどまらず、行政レベルにおける日台の関係強化も必要だ。外務省では、台湾問題を扱う企画官ポストがアジア大洋州局中国・モンゴル第1課に新設されることが決まったが、外務省に留まらず中央の各省庁や地方自治体、さらに公益の各種団体にも台湾関係を扱うポストや窓口を整備することによって、各分野で日台の関係強化を目指す取り組みの円滑化が期待できよう。

4-4 台湾の国際機関加盟支援

 台湾の孤立化を狙う中国は、蔡政権の発足からパナマ、ニカラグアなど8カ国と国交を結び台湾と断交させたほか、新型コロナウイルス感染の世界流行(パンデミック)の深刻な局面にも関わらず世界保健機関(WHO)などの国際機関からの台湾の締め出しを図っている。
 こうした中国による台湾潰しの工作を阻止するため、日本は米豪等と連携し、時にクワッドの枠組みも活用して台湾支援のための国際フレーム構築に乗り出すとともに、台湾の国際機関への復帰実現に向けて台湾と国際機関とを結ぶ仲介役を果たすべきである。

4-5 日本版「台湾関係法」「交流強化促進法」の制定

 断交後、日本と台湾の関係を律する法的な基盤はなく、未だに「非政府間の実務的関係」に留まったままである。正規の国家関係に復帰することは難しいものの、事実上の国家関係を務めて安定的に維持発展せしめるには、条約あるいはそれに準じた規範が必要である。アメリカは台湾との国交を断絶した直後に、国内法として台湾関係法を制定している、我が国も、それに似た、例えば日本版台湾関係法のような規範的枠組みの制定に動くべきではないか。先述した「日台安全保障パートナーシップフォーラム」でも、日本版の台湾関係法を制定すべしとの提言がなされている。
 なおアメリカでは台湾関係法に加えて、トランプ政権下の2018年に台湾旅行法などが制定され、米台政府要人の相互交流や、米主催の軍事演習への台湾軍の参加容認など米台関係強化の立法措置化が進んでいる。日本も政治分野だけでなく、経済、文化など様々な分野の交流促進を目指すにあたり、その指針となるような法的枠組みの整備に着手すべき時期に来ている。日米が台湾との関係においてともに法的な枠組みの束を整備することは、台湾の国際的地位を高め、ひいては中国による威嚇や侵攻を阻む力ともなり得るものである。

5.経済:半導体を軸とした国際分業体制の強化

 経済の国際分業化が進む中、半導体をはじめとする先端技術の開発協力を日台は進めるべきである。台湾積体電路製造(TSMC)は半導体争奪戦においてシェア増大傾向にある。今後、半導体供給面におけるTSMCの競争力は一段と高まることが予想される。熊本県でTSMCの工場建設が始まったが、TSMCはわが国の半導体関連技術を必要としている。地政学リスクへの対応の点からも、わが国の半導体関連企業との関係を重視しているのだ。一方、半導体の製造装置や部材を生産するわが国企業はさらなる成長を目指す重要な局面を迎えており、TSMCとの技術連携は、日本にとっても大きな波及効果を生み出すであろう。
 台湾は昨年9月に環太平洋連携協定(TPP)への加盟を申請した。TPPに加盟することで台湾の国際的位置だけでなく、アジア太平洋地域も安定度を高めよう。台湾は日本と同じく自由主義市場・民主主義体制の価値観を持つ地域であり、経済安全保障においても大きな役割を担っている相手である。日本は、アジア太平洋地域において自由貿易体制を支える主要な一員として、台湾のTPP加盟実現に積極的に動く必要がある。台湾のCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)加入実現にも尽力すべきだ。国際経済枠組みへの台湾の加盟はサプライチェーン再編にも寄与し、経済安全保障の強化にも有意義なものである。
 なお台湾の特殊な外交的立場から、日本が台湾とFTA(自由貿易協定)を結ぶことは困難だが、実務レベルが交わす覚書が実質的にFTAの役割を担うことは可能である。2000年代後半から、日台間では租税や知的財産など各分野で既に40以上の覚書が締結されており、今後も同様の手法で対応すれば特段の問題は生じないであろう。

6.文化学術の幅広い交流

 中国に対する政治的配慮から、断交後、接触が途絶えがちであった日台間の学術、文化面の交流も促進する必要がある。経済にかかわりの深い先端技術分野などの交流に留まらず、大学や研究機関相互における研究者の人的な交流や学生の留学、語学研修等を活発化させるべきである。
 また学術、文化を狭く捉えず、ポップカルチャーなどにも目を向け、例えば台湾文化の日本紹介、日本文化の台湾紹介、食の交流等一般市民をも対象とした幅広い往来事業の企画・実行に対し政府・関係団体も支援を行うべきである。コロナ禍克服後には観光需要の急速な増大も期待できよう。2025年に大阪で開催される国際博覧会には台湾も出展する予定であり、類似のイベントを日台間で定期的に催すことも日台関係緊密化を目指すうえで効果的ではないか。
 22年2月、松野官房長官は中華圏の春節(旧正月)に際した岸田首相の祝辞について、初めて繁体字も使って発信を行ったことを明らかにした。例年は、中国本土で用いられる簡体字を使っての祝辞発表だけであり、今回初めて台湾で使用されている繁体字の使用は「台湾に向けたメッセージ」との見方が出ている。政府だけでなく、地方自治体なども姉妹都市の設定や観光シンポジウムの開催、学校の修学旅行など様々な機会を利用して、台湾と日本の往来、交流活発化に動き出すべきである。47都道府県の議会のうち、半数を超える28の議会が台湾の世界保健機関(WHO)参加支持を決議するなど地方交流の中では地方議会の交流が活発化しているが、研究機関や民間企業も含めて日台の草の根交流の拡大は双方を結ぶ絆の強化に寄与することは疑いを得ない。

7.安全保障

 台湾は東アジアの第1列島線(3)の要衝に位置しており、台湾海峡の平和と安全はこの地域の平和と安定に直結している。台湾が中国に支配されるようになれば、中国海軍は第1列島線の外に容易に進出することが可能となり、西太平洋の秩序やシーレーンは危殆に瀕する恐れがある。また台湾は日米豪と自由や民主主義という価値観を共有しており、インド太平洋地域の平和と安定にも重要な役割を果たしている。
 自由世界のシーレーンを扼し、また自由民主陣営の最前線である台湾が危うくなれば、日本の将来も危うい。インド太平洋地域の平和と安定の観点では、台日は運命共同体である。
 台湾は自己防衛能力の強化に努めているが、中国に単独で対抗できる力はない。日米その他の自由諸国は台湾の安保確保に向けて政治軍医経済力など戦略的に運用し、対抗していかなければならない。軍事バランスをアメリカをはじめとする民主主義陣営の優位に持っていくことによって中国を抑止し、台湾に対する挑発冒険的な行動に出さないように努めることが肝要である。

7-1 北東アジア軍事バランスの維持と安定化に向けた取り組み

①日本が自ら為すべき努力:自主防衛力の強化
 日本が台湾の安保問題に関与する場合、日本と台湾との防衛面での連携を深めることと並行して、まずは日本自身の防衛力の強化を急ぐとともに、日米の同盟関係をより強固なものとすることが重要である。
 近年東アジアで高まる軍事的脅威に対して、日本が独自独力で対抗し得るだけの防衛力を整備し、この地域における力の間隙を作り出さないように努め、中国の冒険主義的な行動を牽制、抑止することは、端に日本の安全保障環境を改善するにとどまらず、台湾有事に際しての日米の対台湾支援のための行動力を向上させることによって、中国の台湾侵攻企図を制約し、台湾の安全保障確保にも寄与することになる。台湾有事の事態が起きればそれは即日本有事ともなるが、台湾有事において米国がその戦力を台湾と日本の防衛に分散させる事態は極力回避せねばならない。
 日本を自国の防衛に専念させ、台湾への米軍戦力の集中投入の発揮が可能となるようにするためには、自衛隊が独力で日本周辺での有事に対応し得る力(島嶼防衛、南西諸島での中国艦船の通過阻止等)の保持が必要である。自衛隊が日本防衛能力を高めれば、それだけ在日米軍は台湾への対応に主力を志向することができるのだ。日本の防衛力の強化と防衛費の増額は、日本一国のためだけでなく東アジア地域の平和と安定の維持にも寄与するのである。
 日本が急ぎ防衛力を強化すべき地域として筆頭に挙げられるのは、南西諸島及び九州である。中国が台湾侵攻を企図する場合、極力在日米軍の展開を阻むとともに、自らの作戦においては第一列島線を自由に越えて広域での行動展開を求めるであろうことから、沖縄や南西諸島に対して先制攻撃を仕掛けてくる公算が高いからである。同地域では自衛隊の基地建設が進められているが、ミサイルや水陸機動部隊の重点的な配備に加え、基地の抗堪性向上のための施策も重要である。また三自衛隊の継戦能力や後方支援体制の整備向上も急がねばならない。さらにグレーゾーン事態にも適切に対応し得るよう、サイバー攻撃やハイブリッド戦への対応力を整備しておく必要もある。

②日米の防衛連携体制強化
 日米の防衛協力を深化拡充するなど日米同盟の一層の強靭化に取り組む必要もある。21年3月に開催された日米2+2会合の共同声明では、「台湾海峡の平和と安定の重要性」が強調された。さらに21年4月の日米首脳会談後の共同声明でも「台湾海峡の平和と安定の重要性」が強調された。台湾問題が首脳会談での日米共同声明に登場するのは、佐藤栄作首相とニクソン大統領との69年の共同声明以来52年ぶり、日本が72年に中国との国交を正常化してからは初の出来事で、歴史的な転機といえる。
 またこの共同声明は、台湾有事に際し日米が共同対処を検討する方針を言外に示したものと解釈することも出来よう。それを受けての具体的な動きとしては、台湾有事のケースを想定して、主に日本有事を前提としている現在の「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の再検討作業を進めたうえで、必要と判断された各種施策を実施に移すことになるが、紙数の制約から本稿では、その中でも特に問題と考えられる諸点について指摘する。

 ア 日米施設区域の共同使用化
 南西諸島の防衛体制強化のため、自衛隊は与那国、宮古島に基地を開設したほか、さらに石垣島にも部隊を配備する計画だが、平時における日米間の連携にとどまらず、仮に台湾有事が生起した場合、初期の段階で、米海兵隊が自衛隊とともに沖縄など南西諸島に展開し、臨時の機動拠点等を設置する事態が想定されるため、そのような事態に備えて自衛隊と米軍との間で、施設区域の共同使用化を進める必要がある。
 22年1月に日米間で開かれた外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の共同発表文書では「南西諸島での自衛隊の態勢を強化し、日米の施設の共同使用を増加させる」ことで一致したことが明記された。共同文書で日本は、ミサイルによる攻撃に対し、敵基地攻撃能力の保有を念頭に「脅威に対抗するための能力を含め、国家防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する」と強調しているが、施設区域の共同使用化は台湾有事を見据えた米軍と自衛隊の共同作戦の策定を含めた一体運用のために必要不可避な措置である。
 さらに、台湾危機また台湾有事の際、自衛隊は米軍に対する後方支援活動を行うことになるため、沖縄本島に所在する米軍基地の自衛隊との共同使用化措置も急ぐ必要がある。

 イ 中距離ミサイルの導入・配備 
 21年11月、米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」(USCC)が公表した年次報告書では、台湾有事の際、中国が米国の軍事介入を遅らせるため在日米軍へ先制攻撃を仕掛ける可能性があるとし、中国の精密攻撃能力やミサイル保有数を踏まえ、中国が在日米軍のほぼ全ての艦船や200機以上の戦闘機、全ての主要な司令部、輸送施設、空軍基地の滑走路を攻撃する能力があると危機感を示した。
 同報告は、中国軍が約20年間にわたって台湾侵攻に必要な軍備の増強や訓練を続けており、「台湾に対する空・海域の封鎖、サイバー攻撃、ミサイル攻撃を行うために必要な能力を既に獲得している」と分析した上で、「アメリカの通常兵力だけでは、中国の指導者が台湾への攻撃を開始することを抑止し続けられるかどうか不確かになっている」との判断を示し、中国の軍拡に対抗し、台湾攻撃に対する抑止力低下を防ぐため、地上発射型の中距離ミサイルの配備についてインド太平洋地域の同盟国と協議するよう米政府に求めた(4)。
 中国は射程500〜5500キロの地上発射型ミサイルを1250発以上保有しており、特に「空母キラー」と呼ばれる中距離弾道ミサイル「東風26」の数を急増させている。USCCの報告書も指摘するように、中国の中距離ミサイルの脅威が今後さらに増大すると、これに対抗し得る同種ミサイルをINF条約の制約からこれまでアメリカが保有配備してこなかったことから、中国の台湾侵攻を阻止するために必要なアメリカの抑止力は一層揺らぎを強めることになる。
 台湾だけでなく、日本の安全保障にとっても、現在、中国の中距離ミサイルは大きな脅威となっており、その対応策として同報告も説くように、急ぎ東アジア地域にアメリカの中距離ミサイルを配備する必要がある。日本は同ミサイル配備の有力な候補国の一つであり、アメリカの抑止力を確保し日台の安全を図るため、アメリカから要請を受けた場合はミサイル配備に応じるとともに、配備が円滑に進むよう地元対策等受け入れ態勢を整える必要がある。
 また中国の核戦力は約10年後に質的に、2030年には量的にもアメリカと対等になる可能性があると予想されている。中距離ミサイル問題にとどまらず、アメリカの核抑止力の信憑性自体が揺らぎを見せ始めており、アメリカの優位を保つためには、バイデン政権が核戦力の近代化を進める必要があることは言うまでもないが、アメリカの核の傘に頼る日本としても、非核三原則のうちの「持ち込ませず」を見直し、アメリカの核兵器の受け入れや核兵器の共有などについても検討すべき時期に来ているのではないか。

③多角的安保の枠組みと台湾の連接
 台湾の安全保障を確保するためには、日米二国間の努力に留まらず、インド洋も含めた東アジア地域における多国間の国際協力枠組みにも働きかけ、台湾支援のモメンタムを活性化させるとともに、それら多国間機構と台湾の緊密な連携、さらに可能であるならば、多国間の国際協力機構への台湾参加の道を探り、日本がその実現に向けて支援することも検討すべきである。
 2022年4月、台湾の蔡英文総統は、訪台した米上下両院の超党派議員団との会談において、中国の脅威を念頭に、バイデン米大統領が打ち出したインド太平洋戦略に台湾も「積極的な役割を果たしたい」と表明した。日米に留まらず、豪印さらにASEAN諸国と台湾の連携を深めることは、台湾のみならず東アジア地域の安定に寄与する。よって、オブザーバー参加も含めて、台湾を日米豪印の枠組みである「QUAD(クアッド)」や米英豪で作る「AUKUS(オーカス)」の枠組みに組み込む方向で調整を図るべきである。

④日台の安全保障協力
 対中国の安全保障戦略の在り方について、岸田首相は22年1月26日の衆院予算委員会において、「日本と台湾の協力と交流のさらなる深化は図っていかなければならない」と答弁した。安全保障面での日台の政策として、ここでは以下の3項目の実施を提唱したい。

 ア 日台の防衛協議の枠組み作り 相互認識調整枠組みの整備強化
 日本は現在、米英豪等6か国との間で外務防衛閣僚協議(2+2)を立ち上げている。台湾とは正式な外交関係を持たないため、本来の2+2を創設することは難しいが、非公式な枠組みとして、防衛外務閣僚間の定期的な協議の枠組みを立ち上げ、日台両国に留まらず、東アジアの安全保障問題について広く意見や情報の交換を重ねていくべきである。また防衛駐在官(アタッシェ)の名称は付与できないにせよ、例えば防衛連絡管等の名称で、アタッシェと同様の機能を果たす防衛関係者を相互に派遣する必要もある。

 イ 情報収集監視体制の連携
 近年、台湾周辺において中国軍の活動が活発化している。特に中国軍機はバシー海峡(台湾−フィリピン間)と宮古海峡(沖縄本島−宮古島間)を抜け西太平洋に出た後、再び海峡を経て中国大陸に戻る「台湾周回」飛行を常態化させている。だが、台湾側には宮古海峡、日本側にはバシー海峡の監視能力がないため、中国軍の動向を正確に把握する体制が整っていない。そのため2019年2月、台湾当局が中国軍機の飛行情報を即時に交換する体制の構築を日本政府に要請したが、日本側が事実上これを拒否した経緯がある。
 台湾周辺に留まらず、日本周辺における中国軍の情報収集活動も増加の傾向にあり、日台双方がこうした中国軍の動きを迅速適切に掌握する必要がある。そのため、日台間で周辺地域の軍事情報の交換と共有を可能とし、監視体制の強化を図るための枠組みを整備する必要がある。

 ウ 防衛活動における日台の連携推進
 自衛隊と台湾国防軍との人的交流を活発化させる必要がある。防衛交流を進めるため、日本に台湾との防衛協議のための非国家組織(仮称:日台防衛協力フォーラム)を立ち上げることも可能であろう。自衛隊と台湾国軍との部隊・艦艇の相互訪問の実施、また自衛隊が東南アジア諸国などを対象に実施している平和構築支援活動の対象に台湾を加えることも検討すべきである。
 さらに日台の共同訓練の実施も視野に入れてはどうか。正規の国家関係にない台湾との共同訓練が難しいのであれば、例えば、日米の共同訓練への台湾のオブザーバー参加、あるいは米台共同訓練と日米共同訓練を同時に実施し、日本は台湾とは直接接触せずアメリカとの間だけで演練を行うなどの変則的な組み合わせにより、実質的に日米台三者の連携や安保協力を図るアプローチも検討に値するのではないか。

7-2 台湾危機・有事の際の自衛隊の対応

 最後に、台湾危機あるいは有事の際に自衛隊がとるべき行動について纏めておきたい。自衛隊は三つの法的な根拠に基づき、対応し行動することになる。
 第一は、台湾の危機・有事が「重要影響事態」と認定される場合である。「重要影響事態法(旧周辺事態法)」に基づき、「そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」として「重要影響事態」と認定されれば、同盟国である米国の軍事行動に対して日本の自衛隊は後方支援活動、戦闘参加者の捜索・救助、船舶検査活動などの共同対処を求められることになる。
 第二は「存立危機事態」、つまり、「日本と密接な関係にある他国が攻撃され、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と認定された場合には、集団的自衛権の限定的な行使が可能になる。21年7月に麻生太郎副総理兼財務相(当時)は、中国が台湾に侵攻した場合、安全保障関連法が定める「存立危機事態」に認定し、限定的な集団的自衛権を行使することもあり得るとの認識を示している。日本は米国との連携を強化するとともに、中国の台湾侵攻に備えてさまざまな事態を想定し、十分に対策を練っておく必要がある。将来的には、憲法改正によって集団的自衛権の全面的に行使できるようにする必要があろう。
 三番目が「武力攻撃事態」で、これは日本が攻撃を受けた場合で、当然のことながら防衛出動が下令される。中国軍部隊との戦闘に加え、米軍の保護を行う場合もあろう。
 第二、第三のケースでは、台湾在留邦人、また台湾に近接する与那国島等南西諸島島民の救出や避難対策が必要となる。
 なお、我が国に対する武力攻撃には至らないが、海上保安庁や警察では対処が困難なグレーゾーン事態も考えられ、この場合は防衛出動ではなく、自衛隊が海上警備行動や治安出動で対処することになる。

(2022年5月24日)

政策オピニオン
西川 佳秀 平和政策研究所客員上席研究員
著者プロフィール
1955年大阪府生まれ。78年大阪大学法学部卒。防衛庁入庁、その後、内閣安全保障会議参事官補、防衛庁長官官房企画官、英国防大学留学、業務課長、防衛研究所研究室長、東洋大学国際学部教授等を歴任し、現在、東洋大学現代社会総合研究所研究員、(一社)平和政策研究所上席客員研究員。法学博士(大阪大学)、国際関係論修士(英リーズ大学)。専攻は、国際政治学、戦略論、安全保障政策。主な著書に、『現代安全保障論』『国際政治と軍事力』『ポスト冷戦の国際政治と日本の国家戦略』『ヘゲモニーの国際関係史』(国際安全保障学会賞受賞)『国際地域協力論』『国際平和協力論』『紛争解決と国連・国際法』『日本の外交政策―現状と課題、展望』『特攻と日本人の戦争』『日本の安全保障政策』『マスター国際政治学』他多数。
台湾問題に関して、ウクライナ危機の経験を生かし日本の台湾政策の課題・問題点を洗い出し、今後包括的な台湾政策はどうあるべきか考察する。

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