不透明さを増す東アジア情勢と朝鮮半島統一のビジョン ―米日韓パートナーシップ強化の重要性―

不透明さを増す東アジア情勢と朝鮮半島統一のビジョン ―米日韓パートナーシップ強化の重要性―

2022年3月18日

 本日は防衛と外交の視点から、朝鮮半島の平和的統一というビジョンを如何に達成できるのかについて、私の見方、考え方、着想を提供することで、何か建設的な役割を果たせればと願っている。そのためには朝鮮半島だけでなく、地域の外から迫っている課題、特に朝鮮民主主義人民共和国を利する形で再統一を遅らせかねない事態にも目を向ける必要がある。それらの課題は、アジアのみならず世界の自由を愛する人々が憂慮している脅威そのものであるからだ。
 欧州大陸では、米国とNATOの同盟国が、ウラジーミル・プーチン率いるロシア復権を目指した勢力からの挑戦に直面している。プーチン大統領はモスクワの支配、さもなければ紛れもない影響力を、旧ソ連の領域で回復しようとしており、その手始めに隣国ウクライナに手を掛けようとしている。プーチン大統領はロシア国民の福祉と国家の改善に取り組むどころか、民主主義、自由、経済の遺産までも破産させて、対外冒険主義と武力行使、ハイブリッド戦争、サイバー攻撃、国家的偽情報作戦を追求している。今こうして座っている時間にも、10万人以上のロシア軍がいつでもウクライナを攻撃できる態勢を整えているのだ。

不透明さを増す東アジア地域

 まず東アジアが今後数年間に、地政学上の不安定さと、大国間の競争の震源地になりかねないことを率直に申し上げたい。ただ、そうした可能性にもかかわらず、米国は世界の他の地域を注視しなければならないことが往々にしてある。たとえば中東には、世界最大のテロ支援国がある。自らの通常兵力に加え、代理の軍隊を使ったり、核兵器保有国になって地域支配を達成しようとしているイラン・イスラム共和国のことだ。テヘランを首都にした神権政治による支配は、色々な悪影響や危害を及ぼしながら周辺の支配を目論むだけでなく、自国民の宗教や言論の自由、リーダーを選ぶ自由を否認している。この地域及び、その西と東には、世界で最も凶悪なテロリストグループや組織が少なからず展開している。
 アジア大陸では、中国共産党が国境の周辺に理不尽で無法な主張をして、その地域の多くの国々を圧迫している。北京の行動は他の国の経済的利益を損なうばかりか、南シナ海の島々を軍事化しており、インド太平洋での行動はやがて、米国とその同盟諸国との対立を引き起こしかねない。中華人民共和国による外交上の威嚇や経済上の脅迫に加え、急速な軍事力増強は、中国共産党とその権威主義的な指導者・習近平の本性を顕している。こうしたダイナミクスの全てが、インド太平洋地域の人々の平和と主権と安全保障を脅かしている。
 しかし国防長官時代に私が注意を払っていた問題地域、紛争発生の可能性がある地域、米国とその同盟国が戦争状態に陥りかねない地域などを見回しても、東アジア地域ほど各国間の利害関係が険しく、当事国の規模が大きく、今後の状況が不透明で、それぞれの駆け引きが激しさを増している地域は他にないと言えるだろう。東アジアでは北朝鮮との戦争の危険性や、台湾海峡をめぐる紛争の可能性のみならず、地政学上の不安定さの震源地だと主張してあまりある、以下の様な不穏な現実がある。

・核能力を保有する国が4カ国ある。
・世界の経済大国のトップ3カ国、および上位12位までにランクされる経済強国が5カ国ある。
・世界で最大または最強の軍隊を保有する国が6カ国ある。
・世界で最高のハイテク国家が6カ国ある。

 さらに重要なことだが、これらの国々はすべて、お互いのミサイル射程内に位置している。こうした要素が独特の形で絡み合い、東アジアは世界で途方もない影響を持ちながら、その含蓄が十分に理解されていない火薬庫になっている。ペルシャ湾でイランとの戦争が起きたり、欧州でロシアと衝突するのとは異なり、東アジアで敵対行動が発生した場合、戦争それ自体が地理的に東シナ海と隣接海域に限定されたとしても、それがもたらす国際的インパクトは壊滅的なものになりうるのだ。数千人が死に、数万人が負傷し、数百万人が家を失うだろう。経済は弱体化し、金融システムは混乱し、サプライチェーンが崩壊する。政府は機能を失い、遂には核戦争に至る可能性を私は懸念している。
 もちろん、そのような紛争が発生したとしても、米国とその同盟国が勝利することは確信してやまない。しかし、その紛争は私たちが望むものではない。損害は大きすぎ、その成り行きは厳しすぎて、倒れるドミノの数は多すぎるからだ。とは言え、そこから手を引くべきだ、というつもりは全くない。むしろ私達の決意とコミットメントを明らかにするべきだ。特に米国は決意を真正面から示し主導することで、特別な役割を果たさなければならない。その意味で将来の指針を得るために、過去に目を向けるべきではないか。私たちの大半が熟知している歴史の一ページが、前を照らしてくれるかもしれない。

ソ連を崩壊へと導いたレーガン

 合衆国の最も偉大な大統領の一人で、私が好きな方がロナルド・レーガン大統領だ。この第40代大統領は米国を特別の役割を持つ国、多くの人々に希望とインスピレーション、約束の地を示すべき、いわば「丘の上の輝く街」(ジョン・ウィンスロップ、1630)と見ていた。大統領は神を畏れる愛国者であることを隠さず、合衆国の偉大さの基礎を、憲法と米国市民に見つめていた。もちろん、これら二つの要素は連結しているもので、合衆国憲法の秀でた文言が、人民による人民のための人民の民主主義という、新たな政府を作り出したのだ。
 その言葉は私たちの魂を揺さぶり、信念を堅くしてくれる。すべての男性と女性は神の前に平等に創られたこと、人生と自由については普遍的な真理があること、万民が信仰、言論、集会をはじめとする不可侵の権利を有していることなどなど。これらの原則以外にも、健全な家族を大切にすること、自由な社会を育てる教育の大切さ、私たちの言葉と行動が一貫性を持つこと、などの原則に従うならば、米国社会は数十年で築き上げられるだろう。
 レーガン大統領という方は色々なことで記憶されているわけだが、私にとって大事なのは、大統領の合衆国についての強い信念と、軍隊の再建という二点だ。大統領は私が1982年、ウェストポイント士官学校に入学することになった一番の理由だった。もちろんレーガンという人物が、若かりしマーク・エスパーを米国士官学校に入学するよう促した人物として記憶されるわけはない。何と言っても記憶されるに値する際立つ業績は、大統領があの時代の最大の挑戦に立ち向かい、戦わずして主要な敵を負かしたこと、つまり大統領が冷戦に勝利したそのやり方だろう。
 ロナルド・レーガン大統領は明晰なスピリットに力強さと決断力を持って、当時、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアで力を誇示し、共産主義の哲学と影響力を広めていたソビエト連邦の指導者たちを封殺したのだ。大統領はソ連を「悪の帝国」、すなわち神のいない政府であり、私たちが大事にしている価値や自由の尊さを認めることのできない政府だと言い切った。そして米軍を再建し、私たちの同盟を強化し、原則に立ちながらも、理に適えば妥協することも意に介しなかった。さらに強力な米国経済を構築したのだ。大統領が職を辞されて1年を経ずしてベルリンの壁が倒された。そしてその2年後、ソビエト連邦は崩壊したのだ。共産主義ロシアの瓦礫の中から希望の新時代が立ち現れた。そして冷戦で分断されていた一つの国一つの民族であるドイツが間もなく再統一されたのだった。
 大変残念なことに、たちの悪い共産主義イデオロギーは以後も、その根深い欠陥に気づけなかった人たちに、ソフトタッチに装う統治の信条として啓蒙されて、なかなか消えにくいようなのだ。米国でも一部で依然、この思想モデルを買い込んでいる人々がいる。ワルシャワ条約機構が解体して30年も経った今なお、この間違いだらけの共産主義哲学から改めて挑戦を受けている始末なのだ。
 まことに残念と言うしかないが、20世紀のソビエト連邦が衰退したのに取って代わり、21世紀に中国が台頭してきた。ソ連と同様のやりかたで中華人民共和国は、周辺諸国から世界支配を目論んでいる。まず中国西域のチベットから、南の香港、そして東の台湾を完全掌握しようとしている。高圧的なやりかたで徐々に遠くに手を伸ばし、もっと多くの国と地域を手中に入れるだろう。
 今や歴史の遺物となったベルリンの壁とは違い、朝鮮半島では非武装地帯によって、誇り高き韓国・朝鮮の人々が引き裂かれたままだ。金正恩が統治する平壌の専制政権は、北京とモスクワにいる後見人たちが、北朝鮮の不品行に目をつぶっているおかげで支えられている。もし中国とロシアが、米国、韓国、日本と連携して朝鮮民主主義人民共和国にアプローチし、この「隠者の王国」北朝鮮に対して中国・ロシアが持っている政治的梃子を存分に利用できれば、私たちは早晩、平和的統一に向けた建設的な道を進んで行ったであろう。しかし中国とロシアにその気はないようだ。
 レーガン時代から30年以上経った今日、新世代のリーダーたちはレーガン政権の教訓に倣ってほしい。米国は再びリーダーシップを取ってほしいし、国の価値観からしてもそうすべきなのだ。同盟国やパートナーと手を携えて進むべきだし、今一度、強さと明瞭さと決意を示すべきだと思う。
 外交は一番大事な分野だが、それは強力な軍隊と強靭な同盟、そして民主主義の連帯に支えられる必要がある。しっかりと連帯して、原則を遵守しながらも、理に適っていると判断されたら、長期的利益のために短期的犠牲を厭うべきではない。

東アジアにおける同盟とパートナーシップの活用

 こうしたことを念頭に、東アジアで成果を上げるために採るべき基本的なステップの主なものを概略してみたい。まず中国、ロシア、北朝鮮に対して、私たちの一番の強みである同盟とパートナーシップを活用するべきだ。この点は私たちにとって、いわば非対称的な強みであり、言い換えれば、北京、モスクワ、平壌には持つことのできない強みなのだ。
 次に、中国、ロシア、北朝鮮からの脅威と挑戦が私たちの同盟関係を繋いでいる。しかしその基礎は、共有する価値観や歴史であり、人々の緊密な絆である。米国がインド太平洋地域で力強い二国間の同盟を結んでいるのはオーストラリア、フィリピン、日本、韓国などだ。しかし私たちが本当に必要としているのは、これら同盟国の間、中でもソウルと東京の協力と連携の改善なのだ。朝鮮半島の平和的統一、さらに中華人民共和国に国際法や規則、規範を遵守させる未来を掴み取ろうとするなら、一つのチームとして行動する必要がある。
 さらにインド、太平洋の島嶼諸国、およびASEAN加盟国と、より緊密に協力し、東南アジアについてはASEANが中心に立つよう支援する必要があるだろう。それらの国々の主権と国益に対する共通の脅威に立ち向かえるよう、助けなければならない。より良い選択肢を提供し、実現する必要がある。よく尋ねられることだが、米国は「アジア版NATO」を構築しないはずだね、と。逆に私は、「何故構築しないのか?」と問いたい。私たちは高い目標や期待を持つべきであって、歴史や距離感の食い違いで混乱させられてはいけない。
 米国の欧州における同盟諸国は、残酷な過去を乗り越えて、ソビエト・ロシアに対応するための集団安全保障体制を結んだ。インド太平洋地域では、我が道を行く北朝鮮や、攻撃的な共産中国との対決状況がますます悪化しており、欧州と同じ事態にならない理由はないのだ。だから私は、「日米豪印戦略対話(QUAD)」に大いに期待している。「クアッド」は中国の軍事力と経済力の高まりに対する統一的な対応だ。第27代の合衆国・国防長官として在任中、私は「クアッド」を前進させるため一生懸命働いた。ワシントンと海外の「クアッド」関係者たちに何度も会い、米国が関与する三つの「2 + 2」対話のうちインド洋関連の二つの対話にも参加した。彼らと共に重要な合意や了解事項、イニシアチブを前進させ、インドをクアッド軍事演習に参加させることができたが、これは大きな一歩だった。

クアッドの強化と拡大

 第二に、クアッドを深め強化する一方で、クアッドを拡大する必要がある。韓国が次の参加パートナーになるべきだと私は信じているが、クアッドをクイント(Quint)に移行するわけだ。これは韓国の大統領府・青瓦台が今年追求してほしい点だ。東アジアにおける将来の紛争を阻止するには、協力、連携、相互運用性を深める必要があるが、それだけでも不十分だ。各国が軍事力向上のために、もっと多くのことをしなければならない。
 従って第三に、米国の同盟国とパートナーには、国民総生産の少なくとも2%相当を国防に投資してほしい。そして長距離精密攻撃システムから、対空・対ミサイル防御システム、高性能潜水艦などの海軍システム、さらに第5世代戦闘機、そして指揮・統制系統から通信網、兵員、船員、航空兵、海兵隊員の能力強化に投資してほしいものだ。大韓民国とオーストラリアはすでに2%達成している。日本は長い間の1%リミットを超えようとしているが、もっと早く進める必要があるだろう。台湾など一部の国では2%を超えているが、これらの国が置かれている状況を考えると、然るべき分野で、はるかに高い国防費が必要だろう。
 中国は世界最大級の海軍を建設し、驚異的ペースで極超音速兵器を開発し、空軍の近代化と拡張を続け、信頼性の高い宇宙空間とサイバー空間での能力を高めている。それを考えると、中国を圧倒するために私たちが協力して働ける能力を開発する必要がある。北京の下位パートナーであるロシアにも同様のことが言える。中国とロシアは核兵器を近代化している。それらの脅威に対する防御能力を強めることは、世界4番目に規模の大きい軍隊を保有している途上国・北朝鮮からの侵略を阻止する私たちの能力向上にも直結するだろう。
 そして最後の点だが、私たちの計画、演習と行動は、今のものより頻繁かつ適切に調整され、完全に統合される必要がある。東シナ海での軍事演習や、北朝鮮沖で国連決議を執行すること、朝鮮半島での合同演習、領海の保全、そして南シナ海全域に施行されていた規則や規範を維持すること、それらを一貫して管理できる国際システムを保証できるまで、私たちは連携して然るべく行動しなければならない。世界の民主主義が持ちこたえ、今享受している自由が保証されて、言論・信仰・集会の自由が保全されるためならば、私たちは共にお互いのために立ち上がるだけでなく、強権政治に抵抗できないでいる人々を助けてあげなければならない。

「隠者の国」北朝鮮の現実

 以上の点を広範な戦略の基礎にして、朝鮮半島の具体的状況と、朝鮮民主主義人民共和国に対する目標について、お話ししたい。北朝鮮問題は数十年来の課題で、その政権は類例がないほど抑圧的で残忍な性格を持っている。2600万の人口を持つ「隠者の王国」では、神から賦与された基本的な権利と自由、私たちが当たり前と思ってきたものが欠落し、絶望の中にある人々には当局に訴えたり、自らの将来を作る術がないのだ。悪いことに人々は、食糧不足から貧弱な医療まで、私たちには想像が難しい苦しみに喘いでいる。もっと酷いことに、この収容所国家では家族や友人さえもが互いについて報告しなければならない。それは人間性を欠いた地上の地獄であり、金正恩と取り巻きエリートたちによる支配を維持するシステムだ。
 金正恩は国家の資源を国民の福祉に投資したり、国の成長を助けるよりも、軍隊と権力維持に投入している。朝鮮民主主義人民共和国は不道徳と抑圧を自国民に押し付けるばかりか、その悪行を国境を超えて拡散している。他の国々、主に日本の市民を誘拐したり、海外在住の北朝鮮国民を悩ませ、殺害することもある。サイバー盗難その他の違法行為を大がかりに実行し、通常兵器や大量破壊兵器を拡散し、国際的ルールや規範を次々に破っているのだ。
 北朝鮮というのは私たちの多くが、はるか昔に世界から消えたと思っていたような時間と空間とスタイルで生き続けている国なのだ。私たちの尽力にもかかわらず、平壌は韓国、日本そして米国にまで到達可能な核兵器と弾道ミサイルを保有する軍事能力を作った。国連報告によれば北朝鮮が国際制裁に違反して、こうした軍事能力を開発し続ける一方、コロナ禍と自然災害が原因で国情は悪化しているという。同国の軍事能力は周辺諸国を脅かし、他国の人々を入国させず、自国の人民は海外に出さず、エリートたちの必要を満たすために地球社会を脅迫するよう設計されている。

北朝鮮との信頼醸成措置も必要

 私が奉職したトランプ政権は北朝鮮の核・ミサイル計画を終わらせることも、その悪事のすべてを抑制できたわけではない。しかし長距離ミサイルと核兵器テストを中止するのを目の当たりにすることができた。それは私たちが必要だった希望を示す画期的出来事だった。結局のところ、百歩の道も一歩からだ。この進展をもたらした功績は、韓国と米国のリーダーと外交官たちに与えられるものだ。彼らは既成概念に抗して、平和と安全保障を求めて金正恩に会おうとしたのだから。私もその努力の一端に関与でき光栄だった。米国の関与は強い力を背景にしたものだと言われるが、実際に米軍の即応態勢と能力が外交官たちを強い立場に置き、仮に事態が悪化しても自分たちと味方を守る態勢があったのだ。こうした軍隊組織の持つ補助的役割は保全されるべきだと信じる。
 改めて北朝鮮との外交努力を再開するには、北朝鮮による完全かつ検証可能で非可逆的な非核化という問題と、国際社会が長い間禁止してきた技術分野や大量破壊兵器の問題から着手しなければならないだろう。加えて、韓国、日本、さらに以遠に到達可能な弾道ミサイルの排除の問題を扱うべきだ。これらの問題は、実質交渉に影を落とすであろう総力戦と威嚇という亡霊を消し去るためにも不可避なのだ。
 こうした措置が、私達の同盟国による対北攻撃の前触れ、北朝鮮に武装解除させる手段ではないことを平壌に保証するには、何らかの信頼醸成の措置が必要だろう。それを策定するのはワシントン、ソウル、東京などだが、そうした措置が両側のボタンの掛け違いを正して、長期的平和を促す重要な一歩となるはずだ。そのために適切な経済的インセンティブ、例えば制裁措置の緩和などが必要かもしれない。時間の経過とともに非核化が進んでいけば、明白で重要な利益がもたらされ、長年の懸案事項を解決する途が見えてくるだろう。

対北朝鮮戦略は米韓日の強力なパートナーシップと信頼醸成から

 成功の確率も、短期的にどれだけ進展できるかも定かではない。しかし当然ながら、試してみなければ成功の可能性はゼロなのだ。関係諸国がこの重要な作業を一緒に続けることを願いたい。それは朝鮮半島と東アジアの安全と安定のみならず、この変則的な歴史の悲劇の犠牲者と言うべき、非武装地帯の両側の人々にも切実なものだ。こうした未来の実現は、米国、大韓民国、そして日本の間の強力なパートナーシップから始まる。公式の条約だけでなく、もっと重要なのは私たちの間で共有されている価値観、相互の国益、共通の歴史、統合に向かう経済、そして深い家族の絆に根差して築かれている関係なのだ。
 同時に、核心的な目標や原則に根差した道を指し示し、導いてくれる卓越したリーダーシップ、例えばロナルド・レーガン大統領とその時代の指導者たちのような方々が必要なのだ。そして彼らの外交努力を補強し、ライバルや敵対者が「紛争」を口にもできない強力な軍隊と、それ以上に力強い世界的連合体が必要なのだ。冷戦に勝利したように、これら重要な要素を駆使して米国とインド太平洋の同盟諸国は、原則を尊重し信念を保ち、全ての人々の自由を推進する断固たる決意を持って、この世紀の闘いに平和的に勝利するだろう。

(本稿は、2022年2月14日に開催された第4回Think Tank 2022 Forum(主催:Universal Peace Federation)における基調講演を翻訳してまとめたものである。)

政策オピニオン
マーク・エスパー 前米国国防長官
著者プロフィール
1964年ペンシルベニア州ユニオンタウン生まれ。1986年米陸軍士官学校を卒業。1990-91年に湾岸戦争に従軍。その後、ヘリテージ財団、チャック・ヘーゲル上院議員上級政策アドバイザー、国防総省次官補代理、大手軍事会社レイセオン政府関係担当副社長などを歴任。2017年から陸軍長官を務め、2019年にトランプ政権で国防長官に就任した。1995年にハーバード大学ケネディ行政大学院で修士号、2008年にジョージ・ワシントン大学で博士号を取得。
防衛と外交の視点から、不透明さを増す東アジア情勢について概観する。その上で、朝鮮半島の平和的統一というビジョンを視野に入れつつ、米韓日の戦略的パートナーシップの意義について述べてみたい。

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