日韓姉妹都市交流の今日的意義 -異文化理解とグローバル人材育成の視点-

日韓姉妹都市交流の今日的意義 -異文化理解とグローバル人材育成の視点-

平和外交・安全保障
はじめに

 姉妹都市は、戦後、海外に出かけることの困難な時代に、市民と市民による顔の見える平和と和解のための公的交流のチャンネルとして始まった。
 半世紀以上にわたる姉妹都市交流活動は、草の根レベルでの相互交流を通じて、互いに顔の見える関係を作り上げてきた。市民同士の国際的な信頼関係、連帯感、親近感によって相互理解が深まり、平和と和解に寄与するとともに、政府の行う外交の基礎を固めることに役立ってきた。具体的には、文化・芸術などの個別政策での提携や国際シンポジウムの開催などを通じて、自治体政策の研究開発や対外関係方針によい影響を与えてきた。
 また、姉妹都市交流は、地方自治体に文化的、行政的、経済的効果をもたらす。例えば、先進的な行政、地域運営のノウハウの入手、青少年の国際対応能力の向上、多文化共生社会づくりへの寄与、観光客誘致、外資系企業の誘致などである。そのほか、文化・教育、都市のイメージ向上、都市のアイデンティティの確立など、経済的利益だけでは測れない面もある。地域の人材、文化、資源を生かした交流事業により、そうしたソフト面の地域振興にもつながってきた。
 ところで、現在の日韓関係は戦後最悪と言われ、国民感情も悪化している。しかし、日韓姉妹都市交流等を通じた市民レベル、あるいは地方自治体や民間団体のレベルでの日韓交流の現場に目を移してみると、それとは違った様相が見えてくる。戦後から今日までの75年の日韓関係史をつぶさに追ってきた研究者によれば大局的には日韓関係は良い方向に進んでいるという(伊藤2020)。事実、日韓姉妹都市交流の半世紀を超える歴史を振り返ると、日韓の市民同士の友好関係がよい方向に進んでいることがわかる。
 本稿では、日韓姉妹都市の歩みを振り返りつつ、その今日的意義について考察したい。多文化共生社会の実現という時代的要請に応えるには、日韓姉妹都市交流を異文化理解とグローバル未来人材育成のプラットフォームとして位置づけ、多方面に活用することが有効である。

1.風雪に耐えた日韓姉妹都市交流の足跡

(1)日韓姉妹都市交流の今日までの歩み

 日韓の姉妹都市交流は、日本最初の姉妹都市提携(長崎市と米国セントポール市、1955年)から13年後(1968年)、山口県萩市と韓国慶尚南道蔚山市から始まった。
 日韓国交正常化(1965年)の3年前に、山口県韓国視察団の一員として萩市長が訪韓し、蔚山市長に姉妹都市の申し出をしたことがきっかけだった。両市が地理的に近いことから、将来親善を深め交通の発展にもつながるとの期待からである。しかし、国交正常化前の厳しい現実もあり、姉妹都市が実現したのは国交正常化後、蔚山市が韓国政府の許可を得てからであった。
 その後、70年代に10件、80年代に15件、90年代には47件と増加した。政府の積極的な国際化政策に加え、2000年代に入ると韓流ブームや日韓ワールドカップ共同開催などの友好ムードの高まりから、日韓姉妹都市はさらに増え、現在では151自治体、163件となっている(2020年5月現在)。
 国別では、米国(455)、中国(373)に次いで韓国は第3位となっている。国内地域別に見ると、傾向として韓国に近く交流アクセスのよい九州、中国地方が多い。しかし2000年代以降は韓国人観光客の増加から、北海道や青森県、東京都や神奈川県も多くなっている1)。2000〜02年には、日本の自治省(現総務省)と韓国の行政自治部がワールドカップ共催年を「日韓国民交流年」と定め、共同して「日韓地域交流促進期間事業計画」を発表した。それに伴い、日本政府は「日韓自治体国際文化交流支援事業」を開始、市町村及び交易法人に500万円を上限とする助成金制度を設けて交流を促した。

(2)外交的葛藤と対立の中でも根付いた「草の根交流」

 日韓関係は、国交正常化以来半世紀余の間、多くの外交的葛藤や対立に揺さぶられ、緊張の連続であった。そのような中にあって、日韓姉妹都市は着実に増えてきたが、厳しい日韓の政治・外交関係の影響は小さくなかった。ここで、これまでの日韓姉妹都市交流の成果と課題について整理しておきたい。

<成果> 厳しい日韓関係下でも活発な交流を行っている事例

 まず、日韓姉妹都市を韓国側から見ると、極めて重要な位置を占めていることがわかる。(広域市および道を含む)韓国の基礎自治体243のうち、日本と姉妹都市提携をしている自治体は122あり、過半数を超えている(2020年5月現在)。昨今の厳しい日韓関係の下でも、毎年200〜300の交流事業が進められている2)。交流事例をいくつか挙げてみる。

佐世保市・坡州市
 コロナ禍の中においても、中高生同士の交流を「オンラインによるホームビジット」事業を継続し、両市の中高生が2020年8月家族や生活文化を紹介する動画を交換して個別交流を行った。コロナ終息後には家族ぐるみの友好へ発展する形になっている。

東京都目黒区・ソウル特別市中浪区・北京市東城区
 2019年7月、ソウル特別市中浪区において3区間の中学生が集いスポーツおよび文化交流が行われた。同じ空間と時間を共有する中で相互理解とともに、スポーツマンシップや礼儀、相手国の歴史や文化を学ぶ貴重な機会となった。また参加したある中学生は「今の日韓関係はよくないが、すべての人が日本を嫌いではないことがわかりみんなに伝えたい」「外国の人と一緒にスポーツをする機会は滅多になく、試合を通していろいろ学ぶことができた」との感想を述べた。

旭川市・水原市
 交流を継続する中から、商工会議所同士が友好協約に調印し、教育機関では旭川大学と水原大学、旭川工業高専と水原ハイテク高校、社会福祉協議会同士がそれぞれ姉妹提携を結び交流を行っている。また青少年スポーツ、ボーイスカウトなどの交流も活発で、若者の未来人材育成の基盤となっている。

<政治・外交問題により影響を受けた事例>

 韓国以外の姉妹都市と比較して日韓に最も特徴的なことは、外交的葛藤・対立が直接影響を及ぼすことである。韓国と日本双方の事例を紹介したい。

韓国の事例
 2005年2月の島根県議会の「竹島の日」条例制定をきっかけに、韓国側からはさまざまな反応があった。当事者である島根県や隣の鳥取県の地方自治体に対し、韓国側の姉妹都市から交流停止の措置があったが、その後再開した。島根県の姉妹都市である慶尚北道からは、交流を全面的に中断するとの発表があった(但し、島根県のHPには現在でも慶尚北道を姉妹都市として記載している)3)。 
 2019年7月の日本政府による輸出規制強化措置について、韓国側から日本の姉妹都市に向けて交流停止などの通知が届いた4)

日本の事例
 韓国では2011年に最初の少女像が設置されて以降、今日まで元徴用工像も含めて数多く設置された。とくに元徴用工像の設置の折には、日本の一部地方自治体では韓国側姉妹都市に対する抗議の意見が市民から寄せられた。しかし、当該地方自治体は、「国の問題と地方は別」という立場から冷静な態度で対応した5)
 以上の事例から分かるように、外交的対立に伴う世論の影響に左右されつつも地方自治体同士の関係は、「政府レベルの(政治・外交上の)葛藤や対立とは別」との立場に立ち、日本の自治体は冷静に対応している。韓国の自治体にしても、「国民情緒」を考慮しての態度表明という面があり、これまで日韓姉妹都市で政治的外交的葛藤を原因に関係が解消されたのは、慶尚北道と島根県の1件のみである。問題化した直後の一時的な中断はあったものの、時間の経過を見ながら再開してきたのが、これまでの日韓姉妹都市交流の歴史である。
 こうした現状について、姉妹都市研究の第一人者である(公財)日本国際交流センター執行理事の毛受敏浩は次のように評価している。
 「長年の姉妹都市交流によって、市民レベルでは顔の見える関係が構築されており、政治的な対立があっても、姉妹都市交流そのものの根底が覆されない土台がすでにできている。50年近い歴史を持つ日韓の姉妹都市交流は幾多の変遷を経て、すでに打たれ強い交流へと成長してきたといえるだろう。・・・国レベルの対立を超えて、草の根レベルの交流は極めてしぶとく、根を張っている」。
 実際、自治体国際化協会のデータを見ると、年度ごとの増減はあるものの、近年の厳しい日韓関係の中にあっても、毎年200〜300の交流事業が全国各地の地方自治体で地道に継続されている。2020年のコロナ禍においてもオンラインによる交流が進められている。

2.「異文化理解」としての日韓交流

異質な他者に対する「寛容」とは
 冷戦後、グローバル化の進展とともに、わが国でも大都市のみならず地方都市においても多くの外国人が住むようになっている。「内なる国際化」が進み、多文化社会の様相を呈するようになった。多文化社会において重要なことは、他者への寛容と理解、その前提として「自己認識」である。自分が属する社会や文化についての理解なくして、他者を包括的に理解することはできないからである。
 ところが、昨今の世界を見ると、異なる思想や文化、行動様式をもつ人々と間での対立が激化し緊張度の高い社会の様相を呈している。米国社会を見るまでもなく排外主義や人種差別などの動きが広がっており、現代世界は異質な他者に対する寛容性の問題に直面している(森本2020)。
 閉塞感の強い社会情勢を反映してか、わが国でもヘイトスピーチのような外国人に対する排外主義的な言動が、多発している。昨今の厳しい日韓関係の影響もあって、「韓国に親しみを感じない」と考える日本人は多く(内閣府「外交に関する世論調査」2019)、メディアでも嫌韓ムードをあおる記事も多く見られる。
 これに対して、元米国防次官補のジョセフ・ナイは「日本の人々は『嫌い』という感情に基づいて行動している場合ではない」「韓国は国内統治に問題が起きるとその憤懣が日本に噴出しやすい国だが、(日韓は)多くの利益と目的を共有するパートナーでもある」ことを認識すべきであると(米シンクタンクCSISグロッサーマン)、冷静な対応を求めている。(「週刊現代」2020.1.11/18合併号)
 日本人がグローバル社会において尊厳ある国家となるには、(相手との違いを認識する)他者への「寛容」が必要であり、とりわけ隣国である韓国との関係をどう位置付けるかということは重要な課題となる。ここに異文化理解としての日韓交流の今日的意義があるように思われる。加えて、ジョセフ・ナイが指摘するように、隣国との相互理解には、国際公共財といての「地域の安全保障」にもつながるという利点があることも認識しておくべきだろう。

多文化社会における韓国との関係
 ところで、「日本は多神教だから寛容な国だ」とよく言われるが、果たしてそうだろうか。過去を振り返って見れば、主流と異なる思想や宗教に迫害を加えた歴史がある。たとえば、戦時中の「非国民」呼ばわりや「村八分」、最近ではコロナ禍で自然発生した「自粛警察」などである。
 国際基督教大学教授の森本によれば、他者への寛容とは、他者を好きになれと求めることでも、他者を理解せよと求めることでもない。人間は自分だけの内面の世界をもつ存在である。そのような内心はともかくも、他者への礼節は守ろうという姿勢が、伝統的な日本的寛容であった。他者に対する寛容とは、「自分の信念は信念として堅持したまま、自分とは根本的に違う価値観をもつ『他者』と、何とかして平和裡に共存する道を模索」しようとすることだという。
 このことについて哲学者の鷲田清一(2008)は「無理に理解しようとしないで、違うという事実を受け入れる、これが、本当の意味での他者理解ではないか」とし、差異を抱えた者同士が同じ地平に生きているという事実を直視すべきだと言っている。
 近隣諸国との関係は、まさに自分の周囲の他者とパラレルの関係にある。「内なる国際化」の時代にあっては、このような寛容論に立って感情的なブレの少ない隣国韓国との関係を築いていく必要がある。自分の周囲にどれだけ他者がいるかによって、このような寛容度が決まるとすれば、近隣諸国との顔の見える交流は、きわめて重要な手段となる。その一つとして、日韓姉妹都市を通じた市民同士の草の根交流は、多文化共生と平和共存に向けた着実な一歩となるに違いない。

3.日韓姉妹都市交流の今日的意義

 姉妹都市交流の今日的意義は、次の通りである。
 第一に国際公共財として、地域社会相互の国際交流の土台(プラットフォーム)であること。地方自治体が、姉妹都市という公的なプラットフォームを提供することで、市民や市民団体、諸団体が海外のカウンターパートとさまざまな交流を安心して安全に行うことができる。
 第二に、グローバル未来人材育成のプラットフォームでもあること。姉妹都市交流のさまざまな分野を通して、とくに若い世代人たちが、異文化に触れてグローバルな世界に目を開くことは、地域における未来人材育成の基盤になりうるということである。
 こうした視点を踏まえつつ、日韓姉妹都市交流の今日的意義について考えてみたい。

(1)異文化としての「韓国」を通し「日本」を客観視する

 これまで日本では、西洋社会との文化比較が優先され当然視されてきた。しかし、隣国・韓国の社会や文化との比較は、日本を客観視(自己認識)する上で特別な視点をもたらしてくれるという(伊藤2020)。
 日本と韓国は同じく中華文明の影響を受け、また相互に交流を深めてきた。このことから、日本と韓国は文化的に近い関係にあると考えている人が多く、韓国を異文化の対象として好奇心を持って見つめることが少なかったように思われる。しかし、半島社会と列島社会ではおかれた地政学的・歴史的な条件の違いが大きく、東アジア文明の伝統を共有しながらも、日本と韓国社会では背後に文化的に大きな差が潜んでいる。
 一例を挙げれば、小倉紀蔵(2020)は、韓国人である李御寧の比較文化論には、日本人には見られない思考様式が見られるという。日本の知識人は、「『日本と西洋』『日本と中国』という軸のみで比較」することが多く、「『西洋と東洋』『東アジアとそれ以外の東洋』『中国と韓国と日本』『韓国と日本』というように、射程を大から小へと自由自在に調節しながら語ることができる知性がいない」というのだ。
 また、かつて土居健郎は、西洋社会には見られない日本独特の概念として「甘えの構造」を唱えた。李御寧によれば韓国にも「オリグァン」や「ウンソク」といった「甘え」に相当する概念があって、日本以上に人々の間に「甘え」が見られるという。一方、「日本語は主語を抜いて話せる言語なので、日本人は自己主張が弱い」という日本特殊論があるが、韓国語も日本語と同じ構造で、主語を抜き語尾まで来ないと結論がわからない。しかし、韓国人は自己主張が強い。この点を知らずに議論を展開することが多い。
 日本と韓国は、文化的に近い面もある反面、思考様式や生活様式など大きく異なっている部分も多い。韓国を「異文化」の国として認識し、交流することは、グローバルな競争社会において生き残るための有益な資源となるに違いない。とくに若い人々が、思考様式の異なる韓国人と交流することは、わが国におけるグローバル未来人材の育成に大きく資するものとなろう。

(2)地域社会の共通課題に協力することの相乗効果

 日本と韓国は、少子高齢化とそれに伴う地方衰退の厳しい現実、多文化社会への移行に伴う問題、環境汚染、若者をめぐる社会状況など、多くの共通する社会的課題を抱えている。政治外交問題では相手の主張に同意できなくても、地域社会における共通の課題を解決し、よりよい社会を実現するという互いの意思を確認することで、(違いを乗り越えて同じベルトルに立った)共感を得ることは可能である(小林2020)。
 とりわけ、地方自治体やその住民が直面する諸課題を解決するには、多層なネットワークによるパートナーシップを活用して知恵を総合化し、政策として実現する必要がある(SDGsゴール17)。その課題を共有する日本と韓国がともに手を取り合って協力することは有効な方法である6)
 地方議員や市民団体などの地方自治体レベルでの韓国との交流が、地方選出の国会議員を通じて間接的に外交に影響を与えることの可能性を過小評価すべきではない。相手国との交流を通じて得られた市民の知識と経験が、ひいては日韓の対立を抑える「安全弁」の役割を果たすことを期待したい。
 日本と韓国は社会構造が似ている反面、文化や思考法には大きな差異があることから、互いの発想や良い点を取り入れることができれば相乗効果を生みやすいからである(鞠2020)。また、労働力の需給バランスが相補関係にあり日韓は、「合わせ鏡」のような関係にあり、そのこともプラスに作用するに違いない(安2020)7)

(3)若者の草の根交流による未来の平和への基盤づくり

 近年の日韓関係は、歴史認識問題等を中心に折り合いのつかない状況が「常態化」しており、それが人々の対韓感情にまで及んでいる。マスコミやネット上には嫌韓・反韓感情をあおる内容が多く見られ、韓国をネガティブに見る人が少なくない。
 言論NPOなどが毎年行っている「日韓共同世論調査」(2020年度)によれば、46.3%の人が「(韓国に対して)よくない印象」をもつと回答しており、「よい印象」25.9%の倍近くある。世代別では高齢世代ほど、韓国に対する「よくない印象」を持つ傾向がみられるという。
 一方、若い世代では、K-POP、韓国ドラマ、コスメなどのサブカルチャー、あるいは大衆文化への関心が高く「これらが日韓をつないでくれる」と期待する向きもある。しかし、小針進らの調査によると、韓国ドラマの視聴時間などサブカルチャーへの愛好度の増加と韓国への好意度との関連性はあまり見られないという(塚本2020)。ICTの高度に発達した現代のネット社会だからこそ、顔の見える市民同士、若者同士の交流の重要性が高まっていると言える。
 東京都目黒区は、姉妹都市である韓国ソウル特別市中浪区と中国北京市東城区との青少年交流(スポーツ、文化探訪など)を実施している。ここで、その交流実践を通して見えてくる、子どもたち(中学生)の率直な感想を紹介したい(目黒区・目黒区教育委員会「三区間交流事業実施報告書」2019年7月より)。
 「今の日本と韓国の国同士の関係はよくないけれど、全ての人が日本をきらいではないこと(がわかった)。これらのことをしっかりと持ち帰って皆に伝えたい」。
 「言葉は違っていてもバスケットという共通の好きなものがあるだけで仲間になれることを知りました。相手の違いを認めともに笑うことで初めて会った仲間との絆が生まれることを知り、体験することができました」。
 「今回の交流に参加できたことを誇りに思います。外国の人と一緒にスポーツをする機会は滅多にないと思います。試合をして学んだことや、韓国へ行って学んだ、人としての行動・マナーなどを自分だけに留めず、友達や部活の仲間に伝え、今後のバスケ人生に生かしていきたいと思いました」。
 子どもたちを引率した選手団長(校長)は、こうした経験から「同じ空間と時間を共有する中で、会話を通してお互いを知り、理解し、認め合うことができた。直接対話での会話の重要性、必要性を改めて感じた」と述懐している。
 また、日韓学生交流プログラムに参加したある国立大学の学生は、次のような感想を述べている。「日本ではマスメディアにより反日感情が強いと報道されているため、現地での日本人に対する対応について不安がありました。ところが、実際は日本という国に対してそのような感情を持っているだけであって(日本)人に対しては温かったです」。
 この学生の言葉は、仮想空間での「幻想」「思い込み」が猖獗する現代社会においてこそ、実体的な交流が相互理解と協力に向かう重要な営みであることを物語っている。それは「同じ空間と時間を共有する」ところから生まれる交流の力でもある。いみじくも「友達や仲間に伝えたい」と共通に語る子どもたちの心の声は、実感としての友好的感情であり、未来における日韓関係改善への心情的な基礎となると思われる。

最後に

 「まさかの時の友こそ真の友」ということわざがある。このたびのコロナ禍でも、日本と台湾、韓国との間で防護服やマスクなどが相互に贈呈された。「まさかの時」に誰に何をしようかと考えたとき、姉妹都市などの交流のある(情の通った人々の住む)ところをまず心配し何かをしたい気持ちになるのではないだろうか。それこそが、国際公共財としての姉妹都市の草の根の力である。
 国レベルの日韓関係がぎくしゃくする背景には、日韓の政治家や経済人のかつてのような太い絆・パイプが細くなっていることがあると言われて久しい(眞田2020)。外交ルートによる努力とは別に、草の根レベルで形成された相互理解と相互信頼に基づく都市と都市、市民と市民の公的なチャンネルを土台とした交流が活発化することによって、外交がより円滑に進むための基盤を形成し得ると思われる。
 地方自治体や市民としては、外交レベルでの対立状況を見ながらも、過剰に反応せずこれまでの市民レベルの交流を継続することが望ましい。人が一人で生活できないのと同様、国も単独では生きていけない。「向こう三軒両隣」、すなわち隣国との間の相互理解と協力が地域社会を安定させ、市民の生活を守りかつ豊かにすることに資するからである。
 姉妹都市は、グローバル未来人材育成のプラットフォームとしての役割が期待されるだけに、今後日韓の青少年を中心として心情的な紐帯をむしろ深めてくれる基盤となりうるだろう。それはまた姉妹都市が、歴史的に和解と平和を動機として始まったその「原点」にも通ずるものである。

 

(注)

1)都道府県及び市町村の日韓姉妹都市提携数(2020年5月現在)。
 10カ所:北海道
 9カ所:東京都、鳥取県
 7カ所:神奈川県、山口県、福岡県、佐賀県
 6カ所:青森県、滋賀県、鹿児島県、長崎県
 0カ所:岩手県、福島県、栃木県、群馬県、長野県、三重県、徳島県、沖縄県

2)日韓姉妹都市交流の最近の事例をテーマごとに示す。
<教育>
・グローバル・リーダー育成のフォーラムに青年を派遣(北海道・済州島)
・韓国の大学への短期語学留学(広島市・大邱広域市)
・中高生同士の「オンラインによるホームビジット」事業:ZOOMを利用した個別交流(佐世保市・坡州市)
<文化理解と交流>
・埋蔵文化に関する国際シンポジウム開催(長崎県・釜山広域市)
・青少年対象の歴史ツアー(長崎県・釜山広域市)
<スポーツ交流>
・マラソン大会への参加(金沢市・全州市)
<経済活性化・地方創生>
・経済団体の相互訪問(倉吉市・羅州市)
・釜山観光展への出展(下関市・釜山広域市)
・お祭りへの済州島観光ブース設置(青森県・済州島)
・陶磁器祭りの相互訪問(津南町・驪州市)
<行政職員の研修と交流>
・大田広域市の職員の行政レクチャー(札幌市・大田広域市)
・職員相互交流(掛川市・江原道横城郡)
<その他>
・海ごみ交流事業(長崎県・釜山広域市)

3)「竹島の日」条例制定(2005年)の影響:2005年2月に島根県議会が「竹島の日」条例を制定したことが発火点となり、韓国では一斉に日本糾弾の嵐が吹き始めた。そして島根県の姉妹都市である慶尚北道からは、交流を全面的に中断するとの発表があり、島根県に派遣していた職員の即時召喚と慶尚北道に派遣されていた島根県職員の出勤停止措置がとられた(現在、慶尚北道のHPには姉妹都市として島根県が削除されているが、島根県は依然慶尚北道を姉妹都市として記している)。
 そのほか、松江市(韓国・普州市)、大田市(韓国・大田広域市)、安来市(韓国・密陽市)、鳥取県(韓国・江原道)などで、韓国側から交流の停止などの措置が講じられたものの、その後は交流が再開した。

4)対韓輸出規制強化措置の影響:2019年7月、日本政府は韓国に対して半導体やディスプレイの素材となる品目に対して輸出規制を行うとともに、ホワイト国リストから韓国を外すなどの措置を取った。このことを契機に韓国内から強い抗議の声が上がり、さまざまな対抗措置がとられ、日韓関係は厳しい局面に陥った。同年8月初めには、全国の基礎自治体135が結束し「日本輸出規制共同対応地方政府連合」を結成し、姉妹都市交流活動中断などを含む対応行動計画を発表した。
 釜山広域市(福岡市)、釜山広域市影島区(対馬市)、慶尚南道(岡山県)などから、長年続いてきた青少年のスポーツ交流や文化公演交流、地方公務員の研修交流などの中止の通知が届いた。しかし慶尚南道議会のある議員は「中央政府の間で関係悪化があったとしても、地方政府はコミュニケーションをとりながら未来志向的に行きつつ、国際交流を継続する必要がある」との見解も示しつつも「国民情緒が悪化する中で、さらに公費を使っての行事であることを考慮してキャンセルした」とのやむを得ない内情を吐露した。

5)韓国における少女像・徴用工像設置の影響:韓国では、挺対協(現・正義連)が主導して1992年1月からソウルの日本大使館前で「水曜集会」を継続して開いてきたが、2011年12月の1000回を記念して、そこに慰安婦を象徴する「少女像」を設置したのを嚆矢に、現在では韓国全土に130体ほどが設置されている。釜山広域市の日本国総領事館前には2016年12月に少女像が設置された。その後、元徴用工に関する訴訟と前後して、2017年8月にはソウル・龍山駅前広場と仁川広域市・富平公園に元徴用工像が設置され、日本社会は(少女像の時以上に)像設置に対して敏感に反応した。
 例えば、埼玉県秩父市(韓国・江陵市)、福岡市(韓国・釜山広域市)では、市民から「姉妹交流を止めるべき」「強く抗議せよ」などの強硬な意見が寄せられた。しかし大半の地方自治体は「国同士と地方の関係は別」「像設置と姉妹都市交流は別問題であり、歴史的教訓を記憶するための市民の努力に口をはさむことは交流発展の助けにならない」などと冷静な態度で対応して姉妹都市交流は継続している。

6)共通課題解決に向けた日韓の地方自治体交流:日本と似た環境下にある韓国の現状を鑑み、姉妹都市の枠組みを利用した共通課題の解決に向けた取り組み(神奈川県の行政職員相互派遣、藤枝市の農業指導交流など)とともに、西日本では日韓8自治体の首長による「日韓海峡沿岸県市道交流知事会議」を開催して、雇用問題や若者流出対策などを話し合っている。また少子高齢化に直面する日韓の地方自治体の首長などがあつまり「少子高齢化に挑む自治体の役割」をテーマにフォーラムも開催されている環境分野では、「ローカルアジェンダ21ネット」を中心に地方自治体、NGO、有識者などが集まって協力を進めようとしている。

7)韓国の若者の日本企業への就業者数の増加:韓国政府機関である大韓貿易投資振興公社(KOTRA)によると,2018年の海外就業者5783人のうち,1828人が日本への就業者で,最も多かった。コロナ禍の2020年5月時点でも,希望就職先を日本とする人の登録者が最も多い(運営サイト「WORLD JOB+」)。その希望者に基本希望の理由を尋ねると,言語や文化的距離の近さを挙げる人が多いという。一方,日本側の事情を見ても,第4次産業革命の進行する中にあってグローバル競争に勝ち抜くために政府は,「未来投資戦略2018」を立て,「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れる」ことを表明した。日本には高齢化による労働力の減少という背景があり,ICT分野での有資格者の多い韓国人材への期待も高い。こうしたローカルな現場においては,ウィンウィンの関係が十分可能なのである。

 

■参考文献

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政策レポート

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