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2020年2月13日

夫婦関係の満足度向上を目指す人間関係教育

月刊 EN-ICHI FORUM(圓一フォーラム)2020年1月号
欧米では、夫婦がより幸福な結婚生活を送れるようにすることを目的とした人間関係教育という取り組みがある。まだ課題は多いが、夫婦関係の満足度に肯定的な影響を与えることが可能である。 編集部

人間関係教育の概要

 人間関係教育(Relationship Education)とは、夫婦関係への満足度を維持・増進し、夫婦が幸福な結婚生活を送れるようにするための介入的取り組みである。対象は主に婚姻関係にある夫婦だが、結婚を考えている未婚のカップルも含む。
 全ての人間関係教育は良好な夫婦関係の構築・維持を目標とするが、参加する夫婦の状態やプログラムの手法によって内容が若干異なる。オーストラリア家族研究所(オーストラリア社会福祉省内の機関)のジョアンヌ・コマーフォード(Joanne Commerford)氏らの整理を参考にすれば、人間関係教育の分類には二つの軸がある。
 第一の軸はプログラム参加前の夫婦の満足度である。元々夫婦の満足度が高い場合、プログラムでは夫婦関係の健全性を維持・増進し、夫婦間の葛藤(distress)を予防することが目指される。こうしたプログラムは「夫婦関係の充実と増進プログラム(Couple enrichment and enhancement programs)」と呼ばれる。一方、元々の満足度が低い場合、プログラムの目的は夫婦間の葛藤を軽減・解消し、夫婦関係を改善することになる。これらのプログラムは「防止プログラム(Prevention programs)」に大別され、葛藤の強弱によってもう一段階細かく分類される。
 そして、第二の軸は満足度向上のための手法の違いである。コマーフォード氏らによれば、人間関係教育において広く採用されている実証的証拠に基づいた手法は二つある。一つ目の手法は「評価とフィードバック(Assessment and feedback)」と呼ばれる調査表を用いた(inventory-based)手法である。調査表には「関係への現実的な期待を共有しているか、コミュニケーションと対立の解決のために有効なスキルを持っているか、有効なストレス管理ができているか」など、夫婦関係の現状と展望を評価するための指標が記載されている。二つ目の手法は「カリキュラムベースの知識とスキルのトレーニング(Curriculum-based knowledge and skill training)」である。コマーフォード氏らによれば、二番目の手法は「人間関係に関する重要なスキルのトレーニング」に集中し、「知識の習得に重きを置いている」。
 このように、人間関係教育は夫婦の事前満足度とプログラムの手法によるバリエーションをもちつつ、良好な夫婦関係の維持・構築という共通目的を追求している。
(Commerford & Hunter, 2016)

代表的な研究

 人間関係教育には課題も多いが、夫婦の満足度向上に対する部分的な効果は確認されている。クイーンズランド大学(オーストラリア)のキム・ハルフォード(Kim Halford)氏らの研究によれば、人間関係教育により事前満足度が低い夫婦の、プログラム終了後の満足度が向上した。
 ハルフォード氏らは182組の夫婦を条件の異なる3つのグループに分けて調査を行った。第一のグループはRELATEと呼ばれるインターネットベースの「評価とフィードバック」手法のプログラムを提供された(RELATEグループ)。このグループは調査表を記入・提出した後、夫婦間で話し合いを持ち、電話面談によって自分たちの夫婦関係に関する振り返りを行った。第二のグループはRELATEによる「評価とフィードバック」に加えて、CoupleCareと呼ばれる「カリキュラムベースの知識とスキルのトレーニング」を追加で行った(RCCグループ)。第三のグループは比較のために読書教材のみを提供され、最後に電話面談で内容の確認が行われる(コントロール・グループ)。
 ハルフォード氏らは、これら三つのグループについて、「RELATE関係満足度指標(RELATE relationship satisfaction scale)」(以下、RELATE指標)を用いて夫婦の満足度を測定した。RELATE指標は6つの項目から成る、国際的に用いられる関係満足度調査のための自書式調査表である。各項目1(とても不満)から5(とても満足)の5段階で表され、30点満点で夫婦関係への満足度を表す。氏らは、RELATE指標から得られたスコアをマルチレベル・モデル分析という統計分析にかけ、プログラムの満足度への影響を測定した。

プログラムの効果

 分析の結果、他のグループと比較してRCCグループのRELATE指標の向上割合が大きかった。事前満足度を考慮に入れない場合、「コントロール・グループとRELATEグループの関係への満足度には差がなく、RCCグループの満足度には極小から中程度の増加があった(効果量d=0.45、信頼区間は0.18~0.69)」という(注1)。また、事前満足度が低かった夫婦の場合、「RCCグループはコントロール・グループと比べてより満足度が上昇し、中程度から高いレベルの効果があった(効果量d=0.62、信頼区間は0.09~1.16)」という。そして、「RCCグループの夫婦全体の(平均)増加量は4・55ポイントで、大きな効果があった(効果量d=1.08、信頼区間は0.80~1.36)」とまとめられた。
 このように、ハルフォード氏らによれば、「カリキュラムベースのトレーニング」まで行った場合、事前満足度の低い夫婦の満足度を向上させる効果があった。また、事前満足度が低い夫婦においては「プログラム終了後6か月、および12か月後の追跡調査までコントロール・グループより高い満足度が得られた」という。ただし、それ以降は信頼できる水準でコントロール・グループとの違いは確認できなくなり、効果が短期的であったことが示されている。
(Halford et al., 2017)

 以上のように、人間関係教育は条件が整えば夫婦が自分たちの関係に感じる満足度を高める効果がある。ただし、普遍的かつ長期的満足度の向上は課題となっており、さらなる知見の蓄積が待たれている。

 

(注1)効果量dはCohen’s dのこと。絶対値が大きいほど、RELATE指標における各グループの平均値の差が持つ効果が大きくなる

 

参考文献

Commerford, J. & Hunter, C. (2016) Marriage and relationship education: recent research findings. Family matter, 97, pp.55-66.

Halford, W. K., Rahimullah, R. H., Wilson, K. L. & Occhipinti, S. (2017) Four year effects of couple relationship education on low and high satisfaction couples: a randomized clinical trial. Journal of consulting and clinical psychology, vol.85, no.5, pp.495-507.