家族間の関係が重要
アメリカで行われている機能的家族療法(Functional Family Therapy: FFT)は子供の問題行動解決を目指した家族ベースの取り組みの一つである。米国司法省内の少年司法・非行防止局などの公的機関からも承認を受けている。FFTは11歳から18歳までの青少年を対象に短期間の臨床心理支援プログラムを提供し、家族成員間の衝突や相互非難の減少、および成員間のバランスの取れた協力関係の構築を支援している。また、親にもポジティブ・ペアレンティングや感情の制御を指導しており、家族を基盤として問題行動に走る青少年の心理機能を改善することを目指している。
このFFTについて、分野によっては個人を対象とした心理支援よりも効果的とする研究が存在する。ニューヨーク市立大学のカタジナ・チェリンスカ(Katarzyna Celinska)氏らは、少年司法で有罪判決を受けたことのある青少年をFFTの支援を受ける介入グループと一般的な個人療法やメンタリングを受けるコントロールグループに分け、ふたたび有罪判決や施設収容に至る割合(累犯率)を比較した。
比較が行われたのは薬物、暴行、器物損壊、仮釈放中の違反、更生施設への収容、犯罪行為全般の六つの分野で、それぞれについてFFTによる累犯率の減少を調べた。その結果、2項目で統計的に有意な結果となり、「コントロールグループの被験者に比べ、介入グループの被験者は薬物犯罪(1.9% vs 37.6%)と器物損壊罪(5.6% vs 16.7%)で再度有罪判決を受ける可能性が低かった。」
また、統計的有意を得られなかった領域のうち三つでも「介入グループの被験者の累犯率がより低く、有罪判決全体(37.4% vs 43.8%)、仮釈放中の遵守事項違反への罰則(26.2% vs 31.3%)、そして施設収容(19.6 vs 25.0%)」で低かったという。
一方で、「FFT参加者は暴行罪で有罪判決を受ける割合がわずかにコントロールグループより高」く(15.9% vs 10.4%)、個人を対象とした支援も効果があることを示唆している。
この結果を受け、チェリンスカ氏らは「問題行動は個人の問題ではなく、むしろ家族の中で話し合われるべき課題である」と述べている。
夫婦間衝突への三つの対応
子供の情緒的健康に、家族全体を支援することが効果的であることを示唆する研究もある。ユトレヒト大学(オランダ)のマジャ・デコウィック(Maja Dekovic)氏らは、親が夫婦間衝突(interparental conflict)にどのように対応するかが親子関係の質に影響すると述べている。
デコウィック氏らによれば、夫婦間衝突への対応は3種類考えられ、うち2種類は破壊的(destructive)な戦略、残りが建設的(constructive)な戦略である。
一つ目の戦略は「交戦」(conflict engagement)とされ、「相手を攻撃する、自己コントロールを失う、敵意を表現する」などの振る舞いを含む破壊的戦略である。二つ目の戦略は「撤退」(Withdrawal)とされ、「相手に何も言わず、何も聞かずに衝突を避ける」振る舞いを表す。これも破壊的戦略である。最後の戦略が「問題解決」(problem solving)である。「問題解決」は「相手の立場を理解し、互いに受け入れられる解決策へ至ろうとする」、建設的な戦略とされている。
夫婦関係も課題解決に影響
デコウィック氏らは497の家族へのアンケートをもとに、上記三つの戦略と親子関係の関わりを統計的に分析した。その結果、「『交戦』は母親が報告する子供へのサポート(尊重や受容の度合い)と負の相関があり(相関係数〈注〉は-0.25)、母親、父親、子供が報告する否定的な交流と正の相関関係があった(母0.24、父0.16、子-母0.34、子-父0.25)。」
また、「撤退」は父母、子供ともに「父母からのサポートと負の相関関係にあり(母-0.22、父-0.15、子-母-0.15、子-父-0.22)、否定的な交流と正の相関関係にあった(母0.33、父0.26、子-母0.34、子-父0.29)。」
そして、「『問題解決』は父母、子供ともに両親からのサポートと正の相関関係があると報告した(母0.35、父0.27、子-母0.26、子-父0.30)。」加えて「『問題解決』は子供が報告する父親と子供の否定的な交流と負の相関関係にあった(-0.20)。」
このように、デコウィック氏らによれば両親が夫婦間衝突においてどの戦略をとるかによって、親子関係が影響を受ける。この分析は別々の家族の比較であるため、同一家族における夫婦関係と親子関係の関係には分析が必要であるが、親子関係が良い方が子供にかかる心理的負担は少ないことは自明である。夫婦関係が良い方が子供の情緒的健康に良い影響があると言って差し支えなかろう。
以上のように、家族や夫婦をベースとした取り組みは子供の健全な成長に関係している。子供の問題行動や情動問題を子供だけの課題として扱うのではなく、家族・夫婦も課題解決に関係しているという視点が必要である。
〈注〉相関係数の範囲は1.0(正)から-1.0(負)。絶対値が1に近いほど関係が強い。
参考文献
Celinska, K., Sung, H., Kim, C. and Valdimarsdottir, M. (2019) An outcome evaluation of Functional Family Therapy for court-involved youth. Journal of family therapy, vol.41, no.2, 251-276.
Dekovic, M., Meeus, W. J. and Branje, S. T. (2019) Interparental conflict management strategies and parent-adolescent relationship: disentangling between-person from within-person effects across adolescence. Journal of marriage and family, vol.81, pp.185-203.