トランプショックとヨーロッパ —「協調と対立」構造の中の米欧関係—

トランプショックとヨーロッパ —「協調と対立」構造の中の米欧関係—

2018年6月27日
平和外交・安全保障
米欧関税戦争か

 EUにとってトランプ政権の米国第一主義の政策は大きな懸念材料だ。NATO防衛費分担問題、鉄鋼・アルミ製品高額関税問題、イラン核合意の破棄、駐イスラエル米国大使館移転などは物議を醸し出している。
 目下米欧間の最大の課題は高関税戦争だ。20183月トランプ大統領は、カナダ・EUに対して安価な鉄鋼・アルミニウム製品にそれぞれ25%、10%の関税を課すことを発表し、6月初めから実際に導入しはじめた。この輸入関税は、鋼板、板用鋼片、コイル、アルミニウム圧延品や鉄管、鉄鋼アルミニウム原料など、米国の製造業、建築業、石油産業で広く使われている製品にも適用される。
 マクロン仏大統領は直ちにこれに対して「違法」だと批判し、欧州委員会のユンケル委員長はブリュッセルで、「世界貿易において、一国が一方的な措置を導入することは全く受け入れられない」と述べた。カナダ、メキシコ、EU2017年の対米鉄鋼・アルミ輸出は合計230億ドルで、米国の鉄鋼・アルミ総輸入高480億ドルの半分近くに上る。
 EUは米輸入関税発表の前にすでに、ハーレー・ダビッドソンのオートバイからリーバイ・ストラウスのジーンズ、バーボンウイスキーに至る米国製品33億ドル相当を報復関税の対象にすると示唆し、EUとカナダは米国の輸入制限に関して、世界貿易機関(WTO)に提訴する意向を示した。

中東問題の摩擦―域外問題の角逐

 トランプ大統領は、5月初旬イラン核合意からの離脱を公表した。イランは2015年に米英仏露中の国連安保理事会常任理事国にドイツを加えた六カ国との間で、経済制裁の一部緩和と引き換えに核開発を制限すること(高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間生産しない、貯蔵濃縮ウラン10トンを300キロに削減、19000基の遠心分離機を10年間、6104期に制限)に同意していた。それはすぐに武力制裁を主張した米国に対抗して、EUが平和的解決への道をイランに対して強く働きかけた成果だった。
 しかしトランプ大統領は、イランの核計画制限は期限付きなので期限後、イランは核保有が可能、弾道ミサイル開発を制止していないこと、査察が不十分、中東でイランが影響力を拡大するなどの不満を持っていた。
 さらにトランプ大統領は、201712月にエルサレムへの大使館移転を定めた1995年の「エルサレム大使館法」に基づく大使館移転を発表、今年5月にそれを実施した。国内にイスラム教徒を抱える欧州各国としてはその措置を容易に肯定することはできない。

意外に脆弱な米欧関係

 米欧関係の象徴ともいえるNATO(北大西洋条約機構)は「もっとも成功した同盟の例」としてよく引用される。しかしその実態は常に関係の調整を必要とする複雑な対立と協調を繰り返してきた歴史であった。かつてベルリンの壁ができた時にそれを静観したケネディに対してブラント西ベルリン市長の激しい怒り、イラク戦争時の米仏対立など米欧の角逐には枚挙にいとまがない。
 米欧関係は文化的歴史的ルーツを共有しつつ、最も理解し合える仲間でありながら、ともすれば緊張関係にすぐにも至るのがむしろ常態だ。最近でも西欧諸国は米国からのリーマンショックの影響を受けて、米国が立ち直った後でもギリシア危機とユーロ危機は長々と続いた。オバマ政権が「アジアへの回帰」と中国戦略に力を入れ始めると、西欧諸国にとってそれは米国から見捨てられたのではないか、という不安を生んだ。2014年にウクライナ危機で欧州外交のスタンスが問われたときEU諸国以上に対露経済制裁の強化を主張する米国を見て、不満を述べつつも、「米国がヨーロッパに戻ってきた」と一喜一憂するのが西欧諸国の対米感覚である。

一極多極併存構造の中の米欧関係の模索 —EU・中国の経済提携

 ここに一見安定しているように見えて、思った以上に脆弱な米欧関係の本質があると思う。協調と対立は米欧同盟の宿痾でもある。それはある意味で人間社会の共同体的な側面を反映している。ヨーロッパは米国との良好な関係をできるだけ維持しながら、他方でそれに従属したままではない立場を常に維持しようとしてきたのである。 
 今日の国際構造を「一極・多極併存型」と考えている。だとすれば、ヨーロッパのそうした模索はある意味で必然であると思う。軍事的に突出した米国のパワーは誰しも認めるところである。やはり「世界の警察官」としての役割は無視しえない。それに対する国際的信頼感も大きい。
 しかしそのほかの分野では今や世界は文字通り多極化の傾向を強めている。それは21世紀初頭以来のロシアの復活と中国の経済・軍事的拡大を前にして明瞭だ。文字通りパワートランジションの時代が来ている。とくに中国の経済・軍事的攻勢に世界は懸念を持ちつつも、対中関係をグローバルな文脈でどのように位置づけていくのか模索している。 
 トランプ政権の高関税政策はEUだけではなく、中国と日本に対してもむけられている。625日の第7EU・中国経済貿易ハイレベル対話では米国の高関税政策への対応がもっぱら話題となった。このハイレベル対話では、一国主義と保護貿易に対抗してWTO(世界貿易機構)を中心とし、ルールを基礎とする多角的貿易体制、「より開放的で包括的な」貿易をEUと中国は称揚した。
 米欧関係はもはや対岸の火事ではない、グローバルなパワートランジションの中で日本の立ち位置を再検討していく時期がすでにおとずれていることをヨーロッパの外交を見ながら筆者は改めて痛感する。

政策オピニオン
渡邊 啓貴 東京外国語大学教授
著者プロフィール
1954年福岡県生まれ。東京外国語大学仏語学科卒。慶應義塾大学大学院博士課程修了、パリ第一大学大学院博士課程修了。パリ高等研究院・リヨン高等師範大学院客員教授、月刊雑誌『外交』編集委員長、駐フランス日本大使館公使などを歴任し、現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究科教授。専門は、フランス政治外交論、欧州国際関係論。主な著書に、『米欧同盟の協調と対立』『シャルル・ドゴール』『現代フランス』『フランス現代史』『ポスト帝国』他多数。