日米同盟 次の60年に向けて —〝陰〟の直視恐れず関係深化はかれ—

日米同盟 次の60年に向けて —〝陰〟の直視恐れず関係深化はかれ—

2019年12月5日

 ことし2020(令和2)年は日米安全保障条約改定(1960年、昭和35年)から60年にあたる。日米同盟は極東、世界の安全に不可欠な存在に発展した。

日米関係の将来は盤石なのか?

 しかし、顧みれば両国関係は、「世界で最も重要な2国間関係」という言葉とは裏腹に、無知や偏見、摩擦の歴史でもあった。
 昨年2019年は冷戦終結30年、ソ連崩壊30年が本年2020年。節目の時にあって、日米関係の「光と陰」を直視し、次の60年、次の世紀への同盟のあり方を考えるのは意義あることだろう。

無知と〝上から目線〟の米国

 文化、習慣の違いなど抜きがたいパーセプション・ギャップこそが、過去に繰り返されてきた日米の不協和音の原因といっていい。日米関係の裾野が広がり、多くの両国民が関わるようになった時、隠れていた問題が顕在化した。
 同盟に影を落とし続けてきた両国の齟齬―。具体的にみると、米国におけるそれは、日本に対する無知、偏見、自らの価値観を押しつける〝上から目線〟につきた。
 例をあげよう。2019年12月、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席したトランプ米大統領は、在日米軍の駐留経費問題に触れ、「シンゾウ、手伝ってくれ。われわれは日本防衛に大金を払っている」と述べ、日本側をびっくりさせた。安保条約が米国にとって不公平だというのは大統領の持論だが、日本が「思いやり予算」で1500億円(平成31年度予算)にのぼる負担をしていることをまったく理解しない発言だった。
 2014(平成26)年、オバマ大統領(当時)来日の際の宮中晩さん会。政府首脳が、同行してきたスーザン・ライス補佐官(国家安全保障問題担当)に、集団的自衛権行使容認に向けた努力を説明したところ、「今はできないの?」と問い返され、びっくりしたという。安全保障上の障害、それを除去する日本の努力を、大統領補佐官が知らないのでははなはだ心もとない。
 クリントン政権で、女性初の国務長官をつとめたオルブライト女史は回想録で書いている。「日本では(政府首脳と)幅広い知的な会話ができる。しかし、ポケットにはフォークを忍ばせておいた方がいい」―。日本人は退屈だから痛い思いをして居眠りしないように用心しろということらしい。
 その2代後、ブッシュ(子)政権のコンドリーザ・ライス国務長官の対日観にも驚いた。「だれとでも取り換え可能な首相が何人も続いた。訪日がどんどん憂鬱になってきた。日本は停滞、老化し、周辺国からの憎悪に呪縛されているようにみえた。個人的に日本との相性がいいとはいえなかった」(『ライス回顧録』、集英社)―。
 偏見という以外にない。終戦直後ならともかく、わずか5年、10年前だ。こうまで日本を嫌う人たちが相手では同盟の深化など望むべくもない。
 米国の日本への無知、無理解ぶりは枚挙にいとまがないが、紙幅の関係で割愛しておく。

危うい同盟への認識

 一方、日本側がもたらす〝陰〟の部分。同盟関係に対する依然とした認識不足、「米国から評価、称賛されたい」という子供じみた甘えからいまだに抜けきれないことだろう。
集団的自衛権行使容認をめぐる5年前のあの騒ぎは、同盟に対する日本の認識が、いかに危ういかを感じさせた。
 「戦争法」などとセンセーショナルにあおるのは論外としても、安保条約を支持している政党すら猛烈に反対したのだから、米側から「中国との衝突を避けようとしているとき、米国の期待とは異なる大きな問題だ」(米外交評議会の知日派研究員)という懸念と当惑を呼んだのは当然だろう。
 米国から評価されたいという願望は、大使人事に対する反応などが、よくこれを示している。
 駐日アメリカ大使は過去、マンスフィールド元民主党上院院内総務以来、モンデール元副大統領ら大物が送り込まれてきた。日本のメディアは、「日本重視のあらわれ」とはしゃぐが、筆者の米国勤務中、国務省高官が「日本はブランド志向だから」と揶揄するのを聞いたことがある。重要なことは、有名人ではなく適任かどうかだ。日本は大いに恥じるべきだろう。
 2016(平成28)年に、トランプ氏が大統領選に当選したわずか9日後、各国首脳が、人種、性差別発言を繰り返す大統領登場に当惑、様子見の時、安倍首相がいち早くニューヨークを訪問、氏と会談した。それを契機に両首脳の関係は緊密化、2019年5月に大統領が来日した際の異常な厚遇ぶりは記憶にあたらしい。
 各国がどうあるか、を気にせず、個人的な関係を築き、同盟関係に反映させようというのが首相の思惑らしいが、「へつらい」(TIME、2017年2月)という辛辣な評価があるのも事実だ。

第2の「安保再定義」が有益

 同盟の暗部を論じると、「いまさら何を」「同盟関係は十分深化している」「考えすぎ」―などの批判を頂戴するかもしれない。しかし関係が成熟した今だから、議論する必要があろう。
 国民性の基本にかかわるだけに解決の方策を探るのは容易ではないが、試みなければなるまい。政治、安全保障はもとより、金融など世界経済での協力、文化、学術交流など一般の人が広くかかわる分野での相互理解を促進することが第一に求められよう。
 冷戦終結後の1994(平成6)年、日米両国は安保・同盟を再定義、「安保共同宣言」 を発表した。地球的規模での協力、平和維持活動、国際的な人道支援にまで協力を拡大した。安保改定60年にあたって、〝再々定義〟を行ってはというアイデアがあるようだが、この際、装いを一新して、安保条約という名称にとらわれず、さらに連携を広げてはどうだろう。
 古今東西の歴史を見ても未来永劫続いた条約はない。日米安保が朽ち果てるのを避けるために協力関係を磨いていかなければならない。

政策オピニオン
樫山 幸夫 産経新聞アドバイザー・元論説委員長
著者プロフィール
慶応義塾大学卒業後、産経新聞社に入社。社会部、政治部、ワシントン支局長、編集長、正論調査室長、監査役などを歴任。ワシントン支局長時代は、ホワイトハウスや国務省を担当し、クリントン大統領の不倫・偽証疑惑、ブッシュ政権でのイラク戦争や米朝関係などを取材した。

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