米中対立下の台湾の戦略的位置と日本の対応

米中対立下の台湾の戦略的位置と日本の対応

2021年2月18日
はじめに

 去る2021年1月20日、米国ワシントンDCにおいてバイデン新大統領の就任演説が行われたが、その演説の中で取り上げられた人物は、ジミー・カーター(第39代大統領)、エイブラハム・リンカーン(第16代大統領)、キング牧師、カマラ・ハリス副大統領、聖アウグスティヌスの5人だった。バイデンは、同じ民主党の直近の大統領であったオバマには言及しなかった。
 そして昨今の米国社会の状況を踏まえて、団結・一体化を謳うとともに、米国民が愛しその特徴となる共通の愛を注ぐべき対象(価値)として、機会、安全、自由、尊厳、尊敬、名誉、真実などを取り上げた。前述の5人の人物の特徴とこれらの価値を合わせて考えると、バイデンは、差別の撤廃、平等、人権などを重視していることがうかがわれる。
 また国際関係に関しては、「同盟関係を修復し、再び世界に関与する力の見本としてだけでなく、模範の力を示すことによって先導する。平和と進歩、安全保障のための強力で信頼できるパートナーになる」という点にだけ言及した。そして最後の結論部分で、「米国は国内において自由を擁護し、世界におけるかがり火(beacon)になる」と決意を述べた。
 バイデン政権の今後の展開については、スタートしたばかりなので不明であるが、本稿では、これまでの米国の対外・対中戦略を踏まえながら、米中関係の展望と台湾情勢について分析したい。

1.10年後の世界秩序はどうなるか

 米中関係を分析する上で、昨年(2020)末に英国の経済ビジネス研究センターが発表したレポートをもとに、今後の米中経済予測を見ておこう。同センターは2009年から毎年レポート(World Economic League Table)を発表している。
 2019年末のレポートでは、2033年に中国がGDPで米国を凌駕するだろうと予測していたが、今回のレポートでは、5年前倒しとなり2028年となった。その背景としては、コロナ・パンデミックの影響が中国は比較的限定的であったのに対して、米国のコロナ感染死者数が第二次世界大戦の犠牲者を上回るなど、米国におけるコロナ禍の影響の深刻さがあると思われる。
 合わせてこのレポートでは、インド経済の成長について注目した。中国とインドの成長率について、次のように予測している。
 中国:2%(2020年)、5%(2021年)
 インド:3%(2020年)、8%(2021年)
 インド経済が今後も順調な発展を遂げたと仮定すると、インドは2025年に英国を、2027年にドイツを、2030年には日本を追い抜いて、中国・米国に次ぐ世界第3位の経済大国になると予測している。また人口面でも、2027年に中国を追い抜いて、世界一の人口大国になると見ている。
 こうした前提をもとに2028年の世界を次のように描いた。
 経済:1位中国、2位米国、3位日本、4位インド
 人口:1位インド、2位中国
 さらに2030年は(人口の順位は同じだが)、
 経済:1位中国、2位米国、3位インド、4位日本
と予測している。
 今後の世界秩序を展望した時に、今後10年程の間に、人口で現在世界一の中国が経済でも米国を凌駕して世界一になると見られるが、加えてインドが人口面で中国を追い越し、経済面でも世界第3位となるという変化が予測されている。インドの存在感が非常に大きくなる点に同レポートは注目した。そうだとすれば、現在の世界秩序における中国の位置が、インドの急激な成長によって、だいぶ変わってくると思われる。

2.米国の対アジア政策の展開

(1)インド太平洋戦略枠組み

 最近注目された米国の世界戦略に関する文書に、「米国のインド太平洋戦略枠組み」(U.S. Strategic Framework for the Indo-pacific)がある。これは、トランプ政権の初期にまとめられた『米国国家安全保障戦略(National Security Strategy of the United States of America)』(2017年12月)をもとに作成された文書である。
 この文書はもともと2042年12月31日公開予定とされていたが、今年2021年1月5日に国家安全保障担当大統領補佐官Robert C. O’Brienによって急遽「秘密解除」になったとして発表されたものである(実際の文書公開は1月12日)。これは公開予定を21年ほど早めたことになり、異例のできことといえる。公開といっても一部黒塗りされた部分公開であるが、10ページほどの文書の9割以上が公開されている。
 それでは文書の内容はどのようなものだったか。
 国家安全保障戦略をもとに設定されたインド太平洋戦略の枠組みについてであるが、その課題は三つあるとした。
 1)インド太平洋地域で米国の優位を維持し、中国の非自由主義的な影響力拡大を阻止し平和と繁栄を促進すること。
 2)米国および同盟国への北朝鮮の脅威を取り除くこと。
 3)公正で相互主義の貿易を促進しながら米国の全世界での経済的優位を進めること。
 また日本については、日本、韓国、オーストラリアの平和と安全保障についての意志と能力を高めさせるとし、具体的に次のような項目を示した。
 1)オーストラリア、インドと日本が米国の重要な同盟国である。
 2)インド、日本、オーストラリア、米国の四辺形を基礎として構築する。
 3)日米豪3カ国の協力関係の強化。
 4)韓国を同盟国として扱い、(対北朝鮮のみならず)朝鮮半島の外までの貢献を求める。
 5)日本を地域統合および技術的に発達したインド太平洋の安全保障構築の柱にする。
 以上をまとめると、トランプ政権のインド太平洋戦略においては、日本を柱として立てながら、オーストラリア、そしてインドを含めた四角形でもって展開し、韓国にも応分の責任を果たしてもらおうというのである。

(2)アーミテージ・ナイ報告書

 さらに日本への期待については、2020年12月に発表されたCSIS(米・戦略国際問題研究所)の「第5次アーミテージ・ナイ報告書」にも言及されている。同報告書は、日本とのイコール・パートナーシップを強調し今後もその強化を図る、日米同盟強化については超党派的コンセンサスがある、日本が厳しい国家安全保障環境に直面しているだけに日本もしっかり対応してほしい、米国自体が一貫性のないリーダーシップに陥ると日本を含むアジア、世界に対する戦略的リーダーの役割を果たせず、かえって中国にチャンスを与えてきた、などと述べている。
 結論として、米国と日本は歴史上これまでにないほど相互に必要としており、世界の中でも日本は、前向きな未来像を実現し、中国の台頭に対応するために必要な、地政学、経済、技術、ガバナンスの四つの戦略的課題の全てにおいて不可欠な国であるとの認識を示した。
 さらに、もう一つの協力の機会として、米国、英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド5カ国による情報共有ネットワークである「ファイブ・アイズ(Five Eyes)」に日本を含めること、そして米国と日本は、「シックス・アイズ」のネットワークに向けて真剣に努力すべきであると提言したのである。
 韓国についても言及しているが、これから克服すべき重大課題として日韓の緊張関係が継続している点を取り上げ、米国にとって日韓関係が順調で協力的でないと困ると指摘した。
 TPPに関しては、CPTPP(アジア太平洋地域における経済連携協定。TPP11とも)は米国が地域の経済空間を取り戻し、日本と協力してルール作りのリーダーシップを強化するための不可欠な手段であるとし、まずは米国がCPTPPに参加し、経済ルールを形成するリーダーとして日本と連携すべきであるとした。
 次に「インド太平洋戦略の枠組み」の中で、台湾の安全保障とも関連する第一列島線に言及した部分についてみてみる。
 中国は台湾統一を強要するためより強い手段をとる可能性があり、中国が米国やその同盟国、友好国に対して武力を行使することを抑止するために次の点を明確にした。
 1)紛争時に中国に第一列島線内の制空・制海権を与えない。
 2)台湾を含めた第一列島線に位置する国や地域を防衛する。
 3)第一列島線外のすべての領域で支配力を維持する。
 つまり、第一列島線内、線上の国々、そして線外の領域を守ることを示したのである。具体的な国として、韓国、台湾、モンゴル、日本などを挙げている。

3.中国の対外戦略

(1)「超限戦」と「三戦」

 次に、中国の対外戦略についてみてみる。
 すでにご存じのように、1999年に喬良・王湘穂1)が著した『超限戦』の中に、中国の総合戦略が描かれている。その中で「あらゆるものが手段となり、あらゆるところに情報が伝わり、あらゆるところが戦場になりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事という全く別の世界の間に横たわっていたすべての境界が打ち破られる」と述べられている。
 「米中冷戦」により米中対立がエスカレートしていった場合、軍事的衝突に至る可能性があるという見方もあるが、私はそれには同意しない。
 中国では「世論戦」「心理戦」「法律戦」を合わせた「三戦」(2003 年中国共産党中央委員会・中央軍事委員会で採択)という戦略の下、「瓦解工作」(組織崩壊活動)、「反心理工作」(心理的攻撃への対抗措置)、「反策反工作」(敵の内部に入り密かに行う寝返り工作への対抗措置)、「軍事司法および法律服務工作」(法律に関する業務)を展開している。
 法律戦の一環として、2020年6月30日に「香港国家安全維持法」が施行されたが、これには次のような流れがあった。
 2019年1月2日に習近平は「台湾同胞に告げる書40周年演説」を行った。40周年とは、1979年1月1日からの40年、つまり米中国交正常化/米台国交断絶から数えた40周年を指し、次のように述べた。
 「古くから台湾は、分かつことができない中国の一部である。祖国統一は全民族の前途に関係する重大な任務である。人民解放軍に金門などに対する砲撃停止を命令する。相互に貿易を広く発展させ、経済の交流を進めるべきだ。祖国統一の神聖な使命を早期に実現させよう。40周年にあたり『一国二制度』で台湾の統一を呼びかけ、中国人は、同じ中国人を戦いの相手にしない。武力の使用を放棄することを約束せず、あらゆる必要な措置を取る選択肢を保有する。これは外部勢力の干渉と極めて少数の『台湾独立』分裂勢力および分裂活動に対するものである」。
 ここで習近平は、香港で実施している一国二制度を台湾にも適用すると述べたのである。しかし、現在の台湾では、「台湾は中国ではない」と主張する台湾独立に賛成する人が8割に達している。いずれにしても、この演説を契機に、香港問題が大きく注目を集めるようになった。
 一方、米国はこの習近平演説の数日前に、トランプ大統領が署名をして「アジア再保障推進法」を発効させた(2018年12月31日)。この法律の主な内容は、次の通り。
・米国は台湾との密接な経済、政治、安全保障関係を支持する。
・米大統領は、中国の脅威に対抗するため、台湾に防衛のための武器を恒常的に売却し、非対称防衛力、可動的で維持可能で、経済的な防衛力の発展を支援すべきである。
・米大統領は、台湾旅行法による米国政府高官の台湾訪問を促進すべき。

(2)台湾と連動する香港情勢

 2019年香港では、3月に香港の立法会において逃亡犯引渡し条例の改定を行おうとした。ところがこれに反対する市民運動が次々に起こった。
 3月31日に12000人のデモが起き、4月28日に13万人、6月9日には103万人デモとなり、世界29都市にも拡散して同時デモが行われた。6月12日、数千人規模の市民が立法会を包囲して集会を行ったが、警察によって武力鎮圧された。
 こうした状況を受けてキャリー・ラム(林鄭月娥)行政長官は、6月15日、同条例改定審議の無期延期を発表した。この日、パシフィックプレイスで35歳男性が抗議の自殺をした。しかしデモはさらに拡大し、6月16日には200万人の市民がデモに参加した。その後も、大阪G20直前の6月26日、香港返還記念日の7月1日(55万人、警察発表19万人)、7月7日(23万人、警察発表5.6万人)などとデモは継続した。
 香港の立法会における逃亡犯引渡し条例の改定は、中国政府が香港を中国の一部に取り込むべく逃亡犯引渡し条例の改定を香港自身の手でやらせようとした試みであったが、広範な市民運動の抗議を受けて完全に失敗に帰した。そこで中国政府は、自ら乗り出してそれ以上の措置を法律戦としてやったのが、2020年の香港国家安全維持法の制定であった。
 2020年5月18日、第13期全国人民代表大会常務委員会(全人代常務委員会)第18回会議において、「香港が国家安全を維持するための法制度と執行メカニズムの確立に関する決定案」(通称:香港国家安全法)が起草され、5月22日に第13期全人代第3回会議に同法案が提出、5月28日には「香港国家安全法」が修正、採択された。そして6月30日、全国人民代表大会常務委員会において「香港国家安全維持法」を香港特別行政区基本法の付属文書に追加する決定が、全会一致(162票)で可決された。さらに習近平国家主席と林鄭月娥行政長官の公布により、現地時間同日夜11時より施行された(日本時間7月1日午前0時)。
 中国政府が直接やるといっても手続きを踏む必要があることから中国政府は、香港返還時の中英合意に基づいて制定された香港特別行政区基本法(1997年施行)の付属文書に追加するという形をとったのである。
 また中国政府は、少数民族対策の一つとしてウイグルなどにおいて中国同化政策を進めてきた。オーストラリア戦略政策研究所報告によると、ウイグル自治区には380カ所以上の収容所が確認されている。警備低レベル収容所のフェンスが撤去されるなど、人権侵害状況が改善されていると言われていたが、実情はそうではなく、収容者が警備レベルの高い収容所や強制労働の現場へと移送されていたという。例えば、2017年から新疆で少数民族の収容施設「職業技能教育訓練センター」が設置されていたとの報告がある。
 習近平主席は、中央新疆工作座談会(2020年9月25〜26日開催)において、教育を通じて「中華民族の共同体意識を心に深く植え付けさせるべきだ」とし「イスラームの中国化」を改めて求めた。ちなみに数年前から「キリスト教の中国化」も進められていた。具体的には、宗教の経典の中国語訳を作るにあたって、(中国政府の方針に沿うような)勝手な解釈をすることもあった。
 香港国家安全維持法の各方面への影響についてみてみる。
 まず現地日本企業への影響である。2020年9月当時の日本企業へのアンケートによると、56.6%が「影響見通せず」としながらも、9割の企業は現状維持を予定と回答した。またある銀行は「デモの抑制で(却って)経営環境が良くなった」と回答した。
 次に、香港にある台湾の領事館ともいうべき「台北経済文化辨事処」への圧力である。高銘村・代理処長がビザを更新しようとした時、香港政府から「一つの中国」原則の誓約書に署名することを求められた。高・代理処長が拒否するとビザが更新されず、台湾への帰国を余儀なくされた(2020年7月中旬)。
 その後、9月6日、立法会選挙の予定日・延期に市民たちが抗議、周辺にいた市民を含む289人が逮捕された。9月30日には、民主派立法会議員2人が抗議の辞職をした。そして10月1日の「国慶節」に合わせて抗議活動をしようとしたが、「(コロナ感染)防疫」を理由に香港政府が6人以上の集まりを禁じたために、集会はできず、バラバラに歩いていた86人が逮捕された。

4.米国の対中政策

 中国が香港国家安全維持法の制定を進めようとしていた2020年5月29日、トランプ大統領はホワイトハウスにおいて、「武漢ウイルス」への批判やWTO脱退を高らかに宣言して注目を集めたが、それとともに香港国家安全維持法の制定に対する厳しい中国批判をした。
 その後、2カ月の間に4人の米政府高官が対中批判演説を行った。この4人の演説はそれぞれ別個のものではなく、一連のものとして位置づけられるところにポイントがあった。事実、最後に立ったポンぺオ長官はその演説で、「(自分の演説は)オブライエン、レイ、バーに続く最後のものだ」とはっきりと述べたのである。つまり、一連の演説の内容は、トランプ政権、国務省・国防省の対中認識を示しているのである。
①オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官演説(6月24日)
「中国共産党とその世界への野心」2)
②レイFBI長官演説(7月7日)
「中国政府及び中国共産党によって米国にもたらされた経済および安全保障上の脅威」3)
③バー司法長官演説(7月16日)
「中国共産党の全世界的な野望に対する合衆国の対応について」4)
④ポンペオ国務長官演説(7月23日)
「共産主義中国と自由世界の未来」5)
 以下、各演説のポイントを記す。

(1)オブライエン国家安全保障担当補佐官演説

 まずオブライエン補佐官は、これまでの(とくに冷戦崩壊後の)米国の対中認識の誤りを認めた。中国が経済成長して豊かになっていけば、中国共産党は民衆の要求に応えて民主化や自由化を進めるだろうと考えたが、実際はそうではなく誤った認識であり、(ヒトラーの台頭以来の)米外交政策の最大の失敗だったと認め、次のように述べた。
 「我々は中国共産党のイデオロギーに注意を払わなかったということです。中国共産党の指導者が何を語ったかに耳を傾けず、主要文書に書かれたことを読まず、我々は耳を閉ざし、目を閉じていたのです。我々は、中国共産党員は、共産主義者というのは名ばかりなのだと、自分たちが信じたいことを信じてきたのです」。
 そして中国による違法な情報収集を事例を挙げて指摘した。挙句の果てに中国は、ゲイとバイセクシャルの世界最大のSNSのアプリまで買収して、そのような人々の情報まで収集したことを示した。それらの情報を利用して、「(ゲイやバイセクシャルの人々を)標的にし、おだて上げ、甘言をもって取り込み、影響を与え、強要し、さらには脅迫して中国共産党の利益になるような言動をとらせる」というのである。

(2)レイFBI長官演説

 「今や、FBIが10時間ごとに新しい対中対抗諜報捜査をスタートさせるという事態に直面しています。FBIでは全米でおよそ5000件の諜報活動捜査が進行中であり、そのうち半数が中国関連です」。

(3)バー司法長官演説

 中国は、自分たちの体制の方が西欧民主主義体制よりも優れていると考え、今後はそれにとって代わると信じている。
 「習近平については、その権力の集中は毛沢東以後には見られなかったレベルですが、今では大っぴらに中国は世界の主役を担おうとしているのであり、社会主義は資本主義より優れているので、アメリカン・ドリームに中国がとってかわると述べています。中国は今や、その力を隠すことなく、時を待ってはいないのです」。
 そのうえで中国は、スパイ行為を繰り返したことを指摘した。
 「中国の共産主義政府は、広範囲の略奪方法を完備し、しばしば違法な手段、例えば通貨操作、関税、製造割り当て、国家主導の戦略的投資、さらに買収、知的財産の盗取および強制移転、国家補助金、ダンピング、サイバー攻撃、そして産業スパイを用いてきました。合衆国の連邦レベルの産業スパイ事案での起訴の80%は、中国国家への利益を目指したもので、およそ企業秘密の盗取全体の60%は中国関連です」。
 その結果、米国の医薬品分野にまで深刻な影響が及んでいる。
 「今では中国は医薬品有効成分(APIs)の最大の製造国となっています。ある健康維持局(防疫関係局)は、中国が医薬品有効成分の米国への移出を制限もしくは規制しようとすれば、米国内および軍部の使用する薬品の深刻な不足がもたらされる」。
 最後に、米中のウィン・ウィンの関係とは、両国がウィンするのではなく、2回中国が勝つという意味だと結論付けた。

(4)ポンペオ国務長官演説

 ポンペオ長官は、米中国交正常化を開いたニクソン大統領に縁のある、ニクソン大統領記念図書館(カリフォルニア州)で記念演説を行った。まず同長官は、ニクソン大統領が「世界は、中国が変わらない限り安全ではありえない。それゆえ、我々の目的は、我々に可能な限り、影響を与えなければならないということである。我々の目標は、変化を誘発させることである」と述べた対中基本認識は正しかったと評価した。
 ところが米国は、中国が送り込んだ情報宣伝要員によって食い物にされてしまった。そこで対中強硬策を採るだけではなく、「それでは我々の望みを実現させることになりません。我々は、中国の国民と関わり、力づけなければなりません。躍動的な自由を愛する国民を、中国共産党と完全に区別するのです」と訴えたのである。
 最後に、次のように呼びかけた。
 「もし、今行動を起こさないなら、最後には中国共産党が、その実現のために大いなる努力を必要としてきた我々の自由を侵食し、法に基づく秩序を腐敗させるでしょう。今、膝を屈してしまえば、我々の子どもの子どもたちが、中国共産党の慈悲の下で暮らすことになるでしょう。もし自由主義世界が変わらないとすれば、共産主義中国が我々を変えることになるでしょう」。
 このように米中対立は、単なる米中貿易摩擦のレベルの問題ではなく、しっかりとした対中認識に基づく対中戦略の一環であったのである。

5.米国の対台湾政策の展開

 前述のような対中認識のもと、米国にとっての台湾の位置づけが重要になった。そこで米国は、まず台湾旅行法を制定して(2018年3月16日)、米台双方の高官が自由に訪問できる基盤を作った。しかし実際には、米高官の台湾往来について自主規制があったので、2021年1月9日、トランプ政権は、台湾への高官往来の自主規制の撤廃を発表した。
 これまでの米国の台湾政策の基礎には、「台湾関係法」(1979年)と「台湾に対する米国の6つの保証」(1982 年 7 月 14 日、「八一七コミュニケ」発表 1 カ月前、レーガン米大統領から蔣經國・台湾総統へ伝えられた米国の台湾政策の方針)の二つがある。

(1)台湾に対する米国の6つの保証

 ①台湾への武器供与の終了期日を定めない。
 ②台湾への武器売却に関し、中国と事前協議を行なわない。
 ③中国と台湾の仲介を行わない。
 ④台湾関係法の改正に同意しない。
 ⑤台湾の主権に関する立場を変えない。
 ⑥中国との対話を行うよう台湾に圧力をかけない。

(2)台湾旅行法

 主な内容は次の通り。
・西太平洋の政治、経済、安全保障における平和と安定は米国および世界が懸念している。
・台湾海峡問題の解決のためのいかなる非平和的手段も米国の重大な関心事である
・1980年代後半からの台湾の民主化=地域の人々の目標
・米国と台湾との相互関係は、米国の自粛による高官の人的往来不十分のために損なわれてきた。
 ①米政府高官の台湾訪問、カウンターパートとの交流を認める 
 ②台湾政府高官の米国を訪問、国務省及び国防省を含む、米高官との会談を認める。
 ③台湾が米国に設立した機関の業務を認める

(3)2018年以降の国防授権法(2017年12月12日成立)

 1259条 合衆国と台湾との間の防衛協力を強化するため、台湾関係法と6つの保証に立脚して、台湾の自衛力の改善に協力する。また議会は、合衆国と台湾の長期的な協力関係強化、防衛性の武器の供与の恒常化、「Red Flag」演習などの軍事演習への台湾軍の招請、軍高官および政府高官の交換プログラムの実施、米軍における台湾軍人の実務的訓練への参加の支援、西太平洋における台湾海軍との図上訓練含む双方向の海軍演習の実施、合衆国海軍と台湾海軍の相互寄港の実施。
 1259条A 台湾への武器供与およびメンテナンス供与の正常化。

(4)米台関係の深化

 米国の台湾に対する取り扱いを見てみよう。「インド太平洋戦略の枠組み」と連動して、2019年6月に、国防省が「インド太平洋戦略レポート」が出された。そこには、次のように記され、台湾を米国の友好国の一つに位置付けている。
 「インド太平洋における民主国として、シンガポール、台湾、ニュージーランドおよびモンゴルは信頼できる、有力な、そして本来的な米国の友好国である。これら4つの国は、米国の世界的な使命の実践に貢献し、世界における自由で開かれた秩序の維持に積極的に協力している」。
 2020年8月10日、アザール米厚生長官が訪台して蔡英文総統と会談し、新型コロナウイルス対策への協力を約束し「台湾を強く支持する」と表明した。その後、9月18日にはクラック米国務次官が李登輝元総統の葬儀参列を名目に訪台し、同様に蔡英文総統と会談して米台FTA交渉へ一歩を進めたのである。
 今年1月バイデン政権がスタートして、今後どのような姿勢で台湾外交に臨むかは、いまだ未知数であるが、その兆候ともいうべき動きがあった。
 2020年7月、蔡政権はワシントンの台北駐米経済文化代表処の代表として蕭美琴を人事した。蕭美琴代表は、蔡英文総統の側近中の側近ともいうべき人物だ。彼女は、Twitterの肩書を「台湾駐米大使」としたが、これに対して(米台は外交関係がないのに駐米大使を名乗ったことに対して)米政府は抗議しなかった。その後、トム・ティファニー(Tom Tiffany)米下院議員が、台湾との正式な外交関係回復を訴え、「一つの中国」政策の終結を求める決議案を提出するなどの動きも出てきた(9月16日)。
 そしてバイデン新大統領の就任式に、蕭美琴駐米大使が正式に招待されたのである。これは1979年1月に米台外交関係が断絶されて以来、初めてのことであった。このようにトランプ政権のときから、厳しい対中認識の反射効果ということだけではなく、インド太平洋戦略の中に台湾がしっかりと位置づけられ法整備が進められてきたわけだが、バイデン政権においても同様の対台湾政策が展開されるのではないかと考えられる。
 ちなみに、米議会での台湾関係の法律の採決において、上下両院においてほぼ全会一致で決議されているので、民主党も対台湾認識について共通認識を持っていることがうかがわれる。

6.台湾の対外姿勢と国内情勢

(1)蔡英文総統の姿勢

 2021年1月4日の年初演説で蔡英文総統は、次のように述べた。
 「グローバル戦略という角度から見れば、台湾の地位はますます重要になっています。台湾海峡両岸の安定は、もはや当事者だけの問題ではありません。それはインド太平洋地域の安定を左右するものであり、世界が関心を寄せる問題になっています。とりわけこの1年は、台湾周辺で対岸の軍用機や軍艦の出没が頻発しました。これは両岸関係に衝撃を与えただけでなく、インド太平洋地域の平和と安定という現状をも脅かすものでした」。
 事実、2020年12月初旬までの約1年間に、中国軍用機が1,700回以上台湾の防空識別圏内に侵入し、台湾側のスクランブル出動が3,500回に達した。その結果、それを担当する台中・台南防空部隊の負担が増大している(戦闘機のメンテナンス、予算、パイロットの負担)。
 少しさかのぼって、蔡英文総統の双十節での演説から、その対外姿勢を見てみたい。
 「我々は中国が台頭し、拡張しつつあることを目にしています。中国は権威主義体制で民族主義と経済力を結びつけ、自由民主の価値と世界秩序に挑戦しています。だからこそ、インド太平洋戦略の一角に位置する台湾は民主の価値を守る最初の防衛ラインとなるのです。我々は引き続き理念の近い国々と手を取り合い、より多くの実質的な提携の機会を探っていきます」(2019年10月10日双十節)。
 「これからも防衛戦力の近代化と「非対称戦力」の強化を継続します。……インド太平洋地域の民主主義、平和、繁栄はいずれも大きな問題に直面しているのです。私たちは、この変化による試練を、歴史の転機に変えようとしています。主権を堅持し、民主主義の価値を守るという私たちの原則に変化はありません。……20年後の台湾人が2020年を振り返ったとき、あの年、私たちが時代の転機をつかみ、変化の中で勇敢に前進し、課題を克服し、足枷から脱したからこそ、彼らが真に自分の意思で未来を選択する機会を持てるようになったと思えるように」(2020年10月10日双十節)。
 蔡英文総統は、2020年1月に再選されて以降、台湾は米国と協力して中国に対抗していくことを明言している。蔡英文総統の「20年後の・・・」という発言を聞きながら、彼女の英米の大学で修士号や博士号を取得した経歴から、かつてチャーチルが1940年6月に行った千年後の英国を取り上げた名演説を想起させつつ(中国支配の強まる香港後の)自由台湾を称えたのではないかと想像した。

(2)最近の米台間の軍事交流

 トランプ政権は、政権期間中に8回の武器売却を行い、2020年55.8億ドル、2021年52億ドルとなっている。これは米国の対外武器購入額中、世界最大である。
 軍人の往来では、2020年11月22日、米インド太平洋軍のマイケル・スチュードマン海軍少将(情報担当)が訪台した。
 台湾は、現在潜水艦を重視しており、とくに南シナ海から台湾海峡にかけての海域を中国海軍から守るために、国産潜水艦の建造に力を入れている。2020年11月24日、国産潜水艦の起工式を行った。米国の全面的支援のもと、2019年から24年で建造し、25年に浸水する予定という。ちなみに米国は原潜しか作っていない。台湾が製造しようとしている潜水艦は通常型だが、高性能の通常型潜水艦製造能力では日本が秀でているので、事実上日本の技術支援を得ているのである。
 また防空戦闘機「経国号」を、台湾海峡防衛のために澎湖島に配備している。島嶼への配備は、錆の発生などの問題があり短期的に交替したいところだが、交替できずに延長しているという課題がある。加えて、徴兵制が廃止されたこともありモラルの高い軍人の十分な確保も課題となっている。

(3)台湾の国内情勢の展望

 最近の台湾の内政状況を振り返ってみたい。
 2016年の総統選挙で蔡英文(民進党)が勝利したが、18年の高雄市長選挙では韓国瑜が市長に当選して「韓国瑜ブーム」が起きて国民党が巻き返した。その後、2020年の総統選挙では、蔡英文が史上最高得票817万票を獲得して再選され、同日行われた国会議員選挙でも民進党が勝利した。
 次の統一地方選挙は2022年だが、現在の予測では民進党は負ける可能性が高いと言われている。その理由として、地方選挙は政党より個人の影響が強いこと、蔡英文には若者の支持が強いが地方選挙では帰郷投票(注:選挙日が11月で若者が帰郷しにくい時期にあたっているため)をしないことなどが挙げられている。加えて、中央の支持率が高くても地方選挙のプラスにならないが、地方のマイナスは中央のマイナスになる傾向があること、コロナ禍での支援策が大手企業中心で中小企業に不満があることなども指摘されている。
 こうなると、2022年の地方選挙では、民進党は2018年選挙より負けるかもしらず、その流れを受けて、次の総統選挙(2024年)も国民党優位となる可能性も否定できない。
 元々国民党優位の基隆市、桃園市、新竹市の市長選挙では民進党候補が負けると予想されている(現在は、各市長とも民進党系)。一方、民進党が強い屏東市、台南市、嘉義市は、民進党の内部で分裂含みとなる可能性もあり、そうなると国民党が漁夫の利を得ることにもなりかねない。
 台湾全国レベルの政党支持率でみると、緑グループ(民進党系)が40%台で多く、無党派は2割程度だ。一方、藍グループ(国民党系)は30%だが、一本化しておらず、民進党、時代力量、基進党などに分かれている。
 人物で見ると、国民党候補として侯友宜(元警察官僚)がいるが、大陸派とみられておらず、幅広い支持が集まるかもしれない。そのほか、江啓臣(国民党党首)、朱立倫(第7代国民党主席)、連勝文(連戦・元副総統の息子)、馬英九(第6代総統)などがいる。
 民進党候補では、現在の頼清徳・副総統よりも桃園市長の鄭文燦が注目されている。それは鄭文燦の主張が、党派を超えて受け入れやすいためである。

7.台湾に対する日本の姿勢

 菅義偉首相は、安倍政権下の官房長官時代に、台湾のTPP参加に関して何度か言及したことがあった。もちろん官房長官としての発言なので、菅首相個人の意見かどうかはわからないが。
 「(蔡英文総統の当選について祝意を表した後、台湾は)基本的価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナー、大切な友人だ。日台間の交流のさらなる進化を図っていきたい。…台湾がTPPに参加すれば地域の安定と繁栄に大きく寄与する。今後、台湾と有意義な議論をしていきたい」(2016年1月18日記者会見)。
 「(6月23日の日本経済新聞インタビューで林全行政院長がTPP11への参加意欲を表明したことについて)歓迎したい。台湾をはじめ関心のある地域や国に必要な情報を提供したい」(2017年6月26日記者会見)。
 参考までに、やや古くなるが、自民党が野党のとき、菅首相(当時衆議院議員)が安倍氏と福田氏とともに安全保障の会議に出席するために訪台したことがあった。そのとき次のように語った。
 「台湾と日本の関係は、『アジア太平洋地域の安全と台湾海峡の平和』にとってとても重要です。言うまでもなく、中国の軍事力が東アジアの安全に取って最大の脅威となっています。今も1000〜1200基の短距離弾道ミサイルが台湾に向けられ、近年では東シナ海や南シナ海で海洋への権益確保のために示威行為を繰り返しています。この共通の脅威に対して、周辺諸国は協力して臨まなければなりません。特に、自由、民主主義など価値観を同じくする、台湾、日本、米国などの緊密な連携が、軍事力を膨張させる中国へ対応するには非常に重要です。
 日本と台湾は自由、民主主義などの価値観を同じくしています。これからさらに、日本と台湾が、隣人としてより親しく関係を深めることが、両者の発展にのみならず、アジア太平洋地域の安全、安定、平和にとって必要不可欠です。私も、本日ご列席の皆様とともに日本と台湾の友好に力を尽くすことをお誓い申し上げ、お祝いのスピーチといたします」(2011年9月7日台北での発言)。

最後に

 安倍政権は、「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱して、自由と民主主義、法の支配を維持すること、日米同盟を基軸とすること、価値観を共有する国々と協力などを謳いつつ、グローバルな外交を展開した。
 現在の世界構造は、「米中対立」あるいは「米中冷戦」と言われるが、そこにおいてはかつて冷戦時代の「ソ連封じ込め」に代わる「中国封じ込め」政策はありえないと考える。なぜなら、冷戦時代の世界は西側世界と東側世界(ソ連圏)に分断され、人的交流、経済交流もほぼ無かったため「封じ込め」が可能でソ連圏の崩壊を導くことができた。ところが現在の世界において、中国は世界と人的交流、経済交流を行っているために、完全にデカップリングすることが容易でないためである。
 今後日本は、中国の「超限戦」に対抗して、米国など価値観を共有する国々とともに自由と民主主義、法の支配を守るより主体的な決意が必要であろう。とくに東アジアの安全保障、米中対立の要に位置する台湾の戦略的位置を再認識して、今後日本としては、日台交流基本法などの整備が必要ではないかと思う。

(2021年1月21日に開催された政策研究会における発題内容を整理して掲載)

 

【注】

1)喬良・王湘穂
 喬良は、中国人民解放軍国防大学教授、空軍少将。王湘穂は、退役空軍大佐、北京航空・宇宙航空大学教授、戦略問題研究センター長(但し、執筆当時の肩書)。

2)オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官演説のポイント
 中国が豊かになり強くなれば、中国共産党は中国人の増大する民主化への切望に対応して自由化するだろうと、我々は信じていた。これは米国人の典型的な考え方で、我々の本質的な楽観主義から生まれたもので、またソ連の共産主義に勝利した経験から発するものでした。しかし不幸なことに、それはあまりにもナイーブなものだった。
 我々は、これ以上過ちを犯すわけにはいかないのです。この見込み違いは、1930年代以来の米外交政策における最大の失敗となりました。
 我々は中国共産党のイデオロギーに注意を払わなかったということです。中国共産党の指導者が何を語ったかに耳を傾けず、主要文書に書かれたことを読まず、我々は耳を閉ざし、目を閉じていたのです。我々は、中国共産党員は、共産主義者というのは名ばかりなのだと、自分たちが信じたいことを信じてきたのです。
 はっきりさせたいことは、中国共産党はマルクス・レーニン主義の組織だということです。…共産主義の下では、個人は単に集団化された国家目標の達成のための手段にすぎません。それゆえ、個人は容易に国家目標のための犠牲に供されるのです。個人は、マルクス・レーニン主義の下では固有の価値を認められていないのです。
 中国共産党の路線に反する見解を表明した市民のブロガー、記者、弁護士あるいは活動家や宗教家は、誰でも投獄されるのです。
 TikTokは、中国が所有するメディア・プラットフォームで、米国には4000万人のユーザーがおり、おそらく皆さんのお子さんや若い同僚も使っているのではないかと思いますが、中国共産党の政策を批判するアカウントは、常に消されるか削除されています。
 中国共産党があなた方のデータを購入できないときには、盗み取ります。2014年には、中国共産党はアンセム保険のコンピュータに侵入して、8000万人の米国人のデリケートなデータを盗み取りました。2015年には、中国共産党は米国人事管理局にハッキングをかけ、機密取り扱い事項の、2000万人の連邦政府のために働く米国人のデリケートなデータを入手しようとしました。2017年には、エキファックス社(米国三大信用情報会社の1つ)がハッキングされ、1億4500万人の米国人の氏名、生年月日、社会保障番号、クレジット評価が盗まれました。
 2019年には、中国共産党はマリオット社をハッキングし、3億8300万人の顧客のパスポートナンバーを含む情報を収集しました。さらに2016年には、米政府が国家安全保障上の理由で強制売却を命じる前に、中国企業がグラインダー(ゲイとバイセクシャル男性のための世界最大のSNSアプリ)を買い取り、利用者のHIV判定を含むデータを入手しました。これらは、我々が知っている事項のほんの一部なのです。
 中国共産党は、これらのデータをどのように使うのでしょうか? 中国国内においても、これらのデータは同じように使われていますが、すなわち標的にし、おだて上げ、甘言をもって取り込み、影響を与え、強要し、さらには脅迫して中国共産党の利益になるような言動をとらせるのです。
 我々の同盟国とともに、我々は、中国共産党がわが国民や政府を操作しようとし、わが国経済に打撃を与え、我が国の主権を損なおうとする行為に対して、対抗します。中華人民共和国に対して、米国が消極的で、手玉にとられた時代は終わったのです。
 トランプ大統領のリーダーシップの下で、我々は思想の多様性を鼓舞し、言論への監視や自己検閲の慫慂に対して対抗し、米国の個人データを守り、そして何よりも、すべての女性および男性は神の名において自由であり、生命および幸福追求の権利を与えられていることを継続的に宣言していくつもりです。

3)レイFBI長官演説のポイント
 今や、FBIが10時間ごとに新しい対中対抗諜報捜査をスタートさせるという事態に直面しています。FBIでは全米でおよそ5000件の諜報活動捜査が進行中であり、そのうち半数が中国関連です。中国は米国の健康管理機構、製薬会社、そしてCOVID-19についての重要な研究を行っている研究機関から情報を盗取しようとしています。
 中国、そして中国共産党は、我が国を経済的に、また技術的指導権において凌駕するための一世代をかけた(30年にわたる)戦いを挑んでいます。…中国は国家の総力を挙げて、何としてでも世界唯一の超大国になろうとしているのです。
 中国は、サイバー技術から関係者への賄賂の使用に至る、広範囲にわたる洗練された手法を用いるということです。…しかし、技術革新に必死に取り組むのではなく、悲しむべきことに、中国はしばしば米国の知的財産を盗取して、その技術で米国企業と競争することで、事実上、二度にわたって米国企業を被害者にしているのです。彼らの標的は、軍用装備品から風力発電機、コメやトウモロコシの種まであらゆる研究なのです。

4)バー司法長官演説のポイント
 鄧小平の経済における改革開放政策は、中国の顕著な発展を促しましたが、彼の有名なフレーズは「力を隠して時を待つ(韜光養晦)」です。これこそまさに中国が実施してきたことです。中国の経済力は、1980年には世界GDPの2%でしたが、今日はほぼ20%にまで拡大しました。また、購買力平価では、中国の経済はすでに米国を上回っているという論者もいます。
 習近平については、その権力の集中は毛沢東以後には見られなかったレベルですが、今では大っぴらに中国は世界の主役を担おうとしているのであり、社会主義は資本主義より優れているので、アメリカン・ドリームに中国がとってかわると述べています。中国は今や、その力を隠すことなく、時を待ってはいないのです。
 中華人民共和国は、今や経済的な電撃戦を戦っています、すなわち、攻撃的で、調和のとれた、全政府的な、あるいは全社会的な作戦をもって、世界経済の最高支配権を掌握し、世界の卓越した技術大国として、合衆国を超えようとしているのです。
 競技場を自分たちの優位な状況に傾けるため、中国の共産主義政府は、広範囲の略奪方法を完備し、しばしば違法な手段、例えば通貨操作、関税、製造割り当て、国家主導の戦略的投資、さらに買収、知的財産の盗取および強制移転、国家補助金、ダンピング、サイバー攻撃、そして産業スパイを用いてきました。合衆国の連邦レベルの産業スパイ事案での起訴の80%は、中国国家への利益を目指したもので、およそ企業秘密の盗取全体の60%は中国関連です。
 中華人民共和国は、AIその他の先端分野でも合衆国を凌駕しようとしています。
 医療品の世界市場における中国の優位は、マスクと防護服に留まりませんでした。中国は米国の医療機器の最大の供給元であり、その一方で中国国内の米国の医療品会社は差別されています。中国政府は、外国企業に対しては大規模な定期査察の対象としており、中国の病院には中国製品を買うよう指導して、米国企業が中国に工場を設置するように圧力を加えたので、その結果、これらの企業は知的財産の窃取に対して脆弱になっています。ある専門家が指摘しているように、米国の医療品製造会社は、事実上「自ら競争相手を育ててあげている」のです。
 米国は、その他の重要分野、特に薬品製造においても、中国からの供給、あるいはサプライチェーンに依存しています。米国は、薬品開発においては、今のところ世界のリーダーの地位にとどまっていますが、今では中国は医薬品有効成分(APIs)の最大の製造国となっています。ある健康維持局(防疫関係局)は、「中国が医薬品有効成分の米国への移出を制限もしくは規制するとすれば」「米国内および軍部の使用する薬品の深刻な不足がもたられる」と述べているのです。
 今では、中国語でウィン・ウィンというのは中国が二度勝つという意味だ。
 その他の米国産業と同様に、ハリウッドが中国と協力することで得る利益は、ハリウッドから吸い上げられる利益より小さくなり、最後には中国製の作品にとってかわられるでしょう。…実際、2019年には、中国でもっとも売れた映画10本のうち8本は中国製でした。

5)ポンペオ国務長官演説のポイント
 1967年の国際情勢についてのかの有名な論文において、ニクソンは、将来の戦略について「長期的に見れば、中国を友好国の外に永遠に遠ざけておくことはわれわれには不可能である。……世界は、中国が変わらない限り安全ではありえない。それゆえ、我々の目的は、我々に可能な限り、影響を与えなければならないということである。我々の目標は、変化を誘発させることである。」と説明しました。
 我々は、中国市民に手を広げて受け入れたのですが、中国共産党は、我々の自由で開かれた社会を食い物にしたのです。中国は、情報宣伝要員を記者会見に、研究センターに、高等学校に、大学に、さらにはPTAの会議にまで送り込んだのです。
 レーガン大統領は、ソビエト連邦に対抗するのに「信ぜよ、されど確認せよ」という原則をもっていたという。中華人民共和国に対抗するには、私は「信じるな、されど確認せよ」でなければならない。
 また、我々は人民解放軍が、通常の軍隊ではないことも知っています。その目的は、中国共産党のエリートによる完全支配の実現と中華帝国の拡大であって、中国国民の保護ではありません。
 また、わが国の国防省は、東シナ海や南シナ海一帯および台湾海峡における航行の自由作戦を強化しています。さらに我が国は宇宙軍を創設して、この最後のフロンティアにおける中国による侵害を防ごうとしています。
 今週、私はヒューストンの中国領事館の閉鎖を発表しました。というのは、そこが中国によるスパイと知的財産窃取の拠点になっていたからです。
 しかし、我々はただ強硬策をとるだけではありません。それでは我々の望みを実現させることになりません。我々は、中国の国民と関わり、力づけなければなりません。躍動的な自由を愛する国民を、中国共産党と完全に区別するのです。
 つまり、対個人外交を始めます。(拍手喝采)私は、中国人の才能ある勤勉な男性や女性がいれば、そこへ出向いて会います。中国共産党が、彼らの誇るべき町、香港への支配強化によって、海外への移民を求める香港住民の叫び声を聴いてください。
 確かに違いがあるのです。ソビエト連邦とは違って、中国は世界経済にしっかり統合されています。しかし、北京政府は、我々が中国に依存している以上に、我々に依存しています。
 もし、今行動を起こさないなら、最後には中国共産党が、その実現のために大いなる努力を必要としてきた我々の自由を侵食し、法に基づく秩序を腐敗させるでしょう。今、膝を屈してしまえば、我々の子どもの子どもたちが、中国共産党の慈悲の下で暮らすことになるでしょう。
 もし自由主義世界が変わらないとすれば、共産主義中国が我々を変えることになるでしょう。…我が国は、すべての人類は取り除くことのできない一定の権利をもっているという前提の上に建国されたのです。そしてこの権利を確実なものにすることが我が国政府の責務です。これが単純で、強力な真実なのです。これこそが、我々を、中国国内の人も含む、世界の人々にとっての自由のかがり火とさせているのです。

政策オピニオン
浅野 和生 平成国際大学教授
著者プロフィール
1982年慶應義塾大学経済学部卒業。88年同大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。現在、平成国際大学法学部教授。(一社)日米台関係研究所理事も務める。専門は、日台関係、英国政治史。主な著書に『君は台湾のたくましさを知っているか』(以上単著)、『日米同盟と台湾』『アジア太平洋における台湾の位置』『続・運命共同体としての日本と台湾;アジアを覆う中国の影』『東アジア新冷戦と台湾』『激変するアジア政治地図と日台の絆』『馬英九政権の台湾と東アジア』『中華民国の台湾化と中国』他、近著に『日台運命共同体―日台関係の戦後史』。
バイデン政権もトランプ政権の対中政策の基本を概ね引き継ぐと思われるが、日本としては日米同盟を基軸としつつも、これまで以上により主体的な立場に立った対中・対台湾政策が求められている。

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