中国の北朝鮮政策と日本

中国の北朝鮮政策と日本

2022年2月28日
はじめに

 冷戦後の中国の対北朝鮮政策は2001年以降に形成された。比較的安定していた中朝関係はトランプ政権以降、大きく変化している。米中対立によって、北東アジアそのものが秩序の転換期を迎えている。

1.中国の北朝鮮政策の柱:四つの視点

 中国の対北朝鮮政策には四つの視点·柱がある。その第一は「朝鮮半島の平和と安定」である。これは朝鮮半島で戦争を起こさせないことだけでなく、北朝鮮の体制崩壊を防ぐことも意味する。平和と安定という意味で、北朝鮮は中国にとって重要な緩衝地帯である。
 対北朝鮮政策の第二の視点は「米中関係」に資することである。中国は米中関係を踏まえた上で北朝鮮政策を打ち出す。
 第三は「中朝両国の経済関係の促進」である。北朝鮮は中国に経済的に依存していると一般的に思われているかもしれないが、実際は中国が北朝鮮に経済的に依存している側面もある。東北三省は中国の経済成長から取り残された地域であり、経済破綻さえ起こっている。東北三省の経済を振興させる上で、中朝の経済発展が重要であるという認識を中国国内では持ってきた。
 第四は「朝鮮半島の非核化」である。これは北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化を意味する。つまり、北朝鮮が核を持つかどうかよりも北の核開発が進むことで、対抗して韓国が核を持つ、あるいは日本も核を持つという核のドミノ現象が北東アジアで起こることを、中国は最も警戒している。

2.中朝関係の経緯

2001年から2006年

 冷戦後の中朝関係を概観したい。
 冷戦後から2001年頃まで、中国の対北朝鮮政策は定まっていなかった。対北朝鮮政策の四つの柱が定まったのは2001年から2006年までの期間である。同時にこの期間は中国にとってベストシナリオを実現することができた。
 まず、この期間の朝鮮半島は比較的安定していた。北朝鮮の核開発問題への対応を巡って、良好な米中関係を維持することができた。また中朝間の貿易も急速に発展した。北朝鮮の核問題は六者会合の中で管理することができた。
 中朝の経済関係については、温家宝首相が新たな方針を発表した。中国が無償援助を提供する一方的な関係から、相互に利益を享受する協力関係を構築していくことが中朝の新たなスローガンとなった。これに伴って、北朝鮮における中国の経済開発も進んだ。
 このベストシナリオは2006年に北朝鮮が核実験を実施したことなどを受けて崩れてしまった。

2006年から2017年

 2006年から2017年までの期間は2006年以前と同様に、中朝関係が良好な米中関係に資するものとなっていた。トランプ政権以前の米国は北朝鮮と直接交渉をせず、多国間の枠組みで対話することを基本スタンスとした。つまり、北朝鮮に不穏な動きがあれば、米国は中国へアプローチし、中国が北朝鮮へ圧力をかけるというプロセスであった。米国の要請をふまえて、中国が北への石油供給を数日間停止するなどを実行したこともあった。
 一方で、中朝関係は金正恩が実権を握って親中派の叔父·張成沢を処刑して以降、険悪化していた。とくに2016年から2017年にかけて、中朝関係は最も悪化した。トランプ政権は発足後、最大限の圧力や鼻血作戦など北朝鮮への軍事行動も辞さない態度を示していた。朝鮮半島の一触即発という状況は、中国が対北朝鮮政策で最も重視する「朝鮮半島の平和と安定」とはかけ離れていた。中国から北朝鮮へ圧力をかけても、北朝鮮は聞く耳を持たなかった。
 そんな中、北京大学教授が「朝鮮半島が有事になった場合に、中国はどんな政策を取るべきか」という趣旨の論文を海外で発表した。その論文には「北朝鮮の核は米国が管理してもいい」「有事になった場合、中国も北朝鮮との国境を超える」など、極めて具体的なシナリオが書かれていた。

2018年から2021年

 2018年には状況が一変した。トランプ政権が従来の米国政権と異なり北朝鮮と直接交渉するという政策転換を図ったことで、中国も従来の北朝鮮政策を変更せざるを得なくなった。米国の直接交渉に対抗して、中国も北朝鮮との首脳会談やシャトル外交を実施した。
 金正恩政権誕生以来険悪だった中朝関係はシャトル外交によって修復された。中国国内では「中朝の伝統的友好」という表現も復活するようになった。
 2021年にバイデン政権が発足して以降、米中対立は一層激しくなっているが、その副産物として中朝が接近している。

3.北朝鮮核開発に対する米中の政策

中国:二つの停止と二つのプロセス

 北朝鮮の核開発に関する中国の政策は「二つの停止、二つのプロセス」である。二つの停止とは、北の核開発の停止と、米国と韓国の軍事演習の停止を意味する。二つのプロセスとは、非核化のプロセスと平和構築のプロセスを同時進行させることを意味する。
 これは中国の公の政策で、2001年以降に形成された北朝鮮政策の四つの柱(朝鮮半島の平和と安定、米中関係、中朝両国の経済関係の促進、朝鮮半島の非核化)を踏まえて作られた政策だといえよう。

米国:北朝鮮政策の幅は広い

 シカゴグローバル問題評議会(Chicago Council on Global  Affairs)が2021年に実施した世論調査を紹介したい。米国民の64%が「もし北朝鮮が韓国へ侵攻すれば、アメリカは韓国を防衛すべき」といっている。また、76%は「もし北朝鮮が核開発計画の放棄に同意すれば、北朝鮮と正式な平和協定を結んでもよい」というが、24%は「北朝鮮が核を放棄しなくても、北朝鮮と正式な平和協定を結んでもよい」と考えている。さらに35%は「北朝鮮に核を放棄させるための米による軍事行動を支持する」という。
 以上から、米国の北朝鮮政策の幅は広い。米国政府が北への軍事行動を取ったとしても、あるいは核放棄が伴わない平和協定締結へ向かったとしても、どちらにしても米国民の支持をそれなりに得ることができる。
 では、バイデン政権の対北朝鮮政策はどうかといえば、現状では有効な政策を打ち出せていない。オバマ政権は戦略的忍耐という政策だったが、北の核ミサイル開発はむしろ進んでしまった。トランプ政権は北との直接交渉を展開したが、具体的な成果にまでは至らなかった。バイデン政権の北朝鮮政策が定まらない中、米中対立が激化することによって、中朝のイデオロギー結束は強化している。

4.昨今の中国の北朝鮮政策:表層と深層

表層:中朝のイデオロギー結束を強調

 トランプ政権以降、中朝関係は大きく変化している。トランプ政権と北朝鮮の対立により朝鮮半島がいよいよ戦争になるかもしれないというとき、中国国内では「北朝鮮は戦略的負担である」という議論がさかんだった。しかし、バイデン政権になってからは「北朝鮮は戦略的緩衝地帯である」という議論が再び主流になっている。
 昨今、中国国内では中朝のイデオロギー上の結束が強調されている。2020年は朝鮮戦争勃発から70周年だったが、中国では『長津湖』という映画が制作された。これはプロパガンダ映画ではあったが、莫大な興行収益を得た。2022年はその続編のような映画が出ており、同じく莫大な興行収益を得ていると言われている。
 長津湖の戦いは国連軍と中国軍が初めて衝突した戦いで、国連軍は撤退を余儀なくされた。中国でも忘れ去られていた戦いをあえて映画化することで、中朝の友好関係を強調している。
 最近の中国では、歴史に関するプロパガンダ映画が好評である。習近平体制が発信する新しい歴史観を、歴史を知らない若者たちは前向きに受け入れているようだ。

深層:北朝鮮への経済依存に変化の兆し

 コロナ禍になって中朝間の貿易は止まっていたが、最近は復活の傾向も見られる。表層では中朝のイデオロギー上の結束を強調する中国だが、北朝鮮政策の柱の一つ「中朝両国の経済関係の促進」に変化の兆しもみられる。
 東北三省の衰退は中国にとって深刻な問題だ。2020年の東北三省のGDP成長率は1.1%で、人口流出も著しい。最近では黒龍江省の鶴崗市が財政破綻した。次は黒龍江省そのものが危ないともいわれている。
 中国では以前から、東北三省と北朝鮮の関係強化を目指してきた。北朝鮮の港を利用することで、東北三省が輸出志向の成長を目指す経済戦略である。2013年に一帯一路政策が打ち出されてからは、中国と国境を隣接する国々との経済関係を強化するという動きに拍車がかかった。北東アジアでは、北朝鮮や韓国だけでなく、場合によっては日本も含めた経済連携の推進を目指していた。
 しかし2020年から、二つの循環のなかで国内大循環がより重視されるようになった。つまり、外資に依存して経済を発展させるモデルから、国内投資によって東北三省の経済振興を目指すというものである。
 たとえば、東北三省の経済特区論などが案として上がっている。改革開放当初、深センは経済特区に指定されたことで、外資を誘致して経済発展を遂げることができた。同じようなことを中国国内で実施していく考えである。たとえば、江蘇省が遼寧省へ、浙江省が吉林省へ、国内投資を活性化させることで、経済振興を目指すというものである。
 ただし、外資による経済発展を諦めたわけではない。外資にくわえて国内投資も活性化させることで、東北三省の経済振興を目指している。

まとめ

 中国は2001年から2006年までの期間に、対北朝鮮政策の四つの柱を形成した。しかし、トランプ政権が発足した2017年以降、四つの柱は大きく変化している。米中関係が悪化する一方で、その副産物として中朝関係が接近している。表層では中朝はますます接近しているように見えるが、深層の部分では中国の北朝鮮離れという現象も確認できる。
 米中対立が加速するほど、国際社会は北朝鮮への圧力をかけにくくなる。それが最近の頻発するミサイル実験という結果に現れている。
 北東アジアは秩序の転換期を迎えている。現状で表層に出てきている構図は日米と中朝の対立、あるいは日米と中朝露の対立である。日本にとってのベストシナリオは日米中と北朝鮮が対立する構図だと考えられるが、現状はこのシナリオから遠ざかる一方である。
 日本としては、北朝鮮問題で独自の役割を果たせるような外交を展開すべきである。そこに現状の対立構造を打破する道があるかもしれない。
 また、3月に行われる韓国大統領選挙の結果が北東アジアの構図にどんな変化をもたらすのか、今後注目する必要がある。

(2022年2月4日に開催されたILC特別懇談会における発題内容を整理して掲載)

政策オピニオン
青山 瑠妙 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
著者プロフィール
1999年慶応義塾大学大学院法学研究科後期博士課程終了。法学博士。2005~2006年スタンフォード大学客員研究員。2016~2017年ジョージ·ワシントン大学客員研究員。現在、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授、早稲田大学現代中国研究所所長。専門は現代中国外交。主な著書に『現代中国の外交』『中国のアジア外交』、共著に『中国外交の世界戦略』『超大国·中国のゆくえ2』ほか。
冷戦後の中国の対北朝鮮政策は2001年以降に形成された。比較的安定していた中朝関係はトランプ政権以降、大きく変化している。米中対立によって、北東アジアは秩序の転換期を迎えている。

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