はじめに
田中角栄の「日本列島改造論」は、国土を中心として20世紀の発展に寄与したと言える。
田中角栄は看板政策「日本列島改造論」で、次のように説く。「住みよい国土で将来に不安なく、豊かに暮して」いくために「都市と農村、表日本と裏日本の格差は必ずなくすことができる」と。まさに時代を先読みした総合戦略であった。
田中角栄生誕100年(2018年)。時代は大きく動いて変わった。「国土」を「離島」に置き換えてみよう。7,000近くに及ぶ日本離島列島(有人離島417、無人離島6,430)を陸・海・空の地球儀空間から捉え直す大きな発想転換が急務となったことを痛感する。
離島の現実
21世紀は、「国土」に替わって、本土を取り巻く「離島」に目を向けたら、何が見えてくるか。まず、陸・海・空の地球儀空間で最近の出来事からふり返ってみよう。
陸と海から、
①北海道、松前小島(無人島)に北朝鮮船員の窃盗、不法侵入。
②北朝鮮からのいか漁業船が日本海で相次ぐ難破。今年に入って急激に増加。
③対馬をはじめ、韓国と向き合って、全国で最も多い594の離島を抱える長崎県本土と五島列島を結ぶ定期3航路が全て破産で突然休止(2018年10月2日)(その後、五島産業汽船(株)が新会社を設立して「長崎港―鯛ノ浦港」間の航路を再開、同10月19日)。九州商船も運行予定あり。
④沖縄県本島を取り巻く37島(有人国境離島39島からここ数年で2島が無人島になった)の高齢化・人口減少とともに、0~14歳児の人口減少傾向は何を意味しているのか。
尖閣諸島に近い竹富町9つの小離島群も0~14歳児の人口低下は続いており、このままでは近い将来沖縄県のいくつかの小離島で0~14歳児人口がゼロ化への道を歩む恐れが現実的となってきた。
⑤太平洋に目を向けると、東京都小笠原村の沖ノ鳥島(都庁から1、733Km)・南鳥島(同1,861Km)が海上保安庁、海上警備隊の努力でかろうじて無人島を守り、大陸棚、排他的経済水域(EEZ)を有し、海洋面積の確保に貢献している。
⑥南シナ海では、中国艦船が台湾海峡を通過したり、海上保安庁の監視船とのニアミスが続いている。
次に、空から見てみよう。
安全保障に関する通信衛星、早期警戒衛星など宇宙が戦略になることを想定して、2018年10月米アラバマで、米空軍宇宙コマンドが主催した机上の機密訓練に日本を含む7カ国が参加した。
陸海空の作戦と装備は、情報通信技術の競争でもある。そこで、昨年末の「中期防衛大綱」では、サイバー空間を充実し、AIを活用した宇宙防衛の強化に取り組むことを打ち出した。
まさに、陸・海・空(宇宙)の融合的な理念と処方箋の必要性が現実となっている。内閣府・総務省・防衛省・国土交通省(海上保安庁)1)・外務省・内閣衛星情報センター・宇宙航空研究開発機構(JAXA)が一体となり取り組もうとしている。
以上のような離島を取り巻く陸・海の新しい状況変化と、日本の全土を覆う空・宇宙の新しい状況発生という事態を語る時、忘れてはならないことがある。それは離島に住む人々の人命及び生活である。
離島情報ネットワークの統合システムの構築を
そこで、この小論の後半では、第一の離島の有人国境離島の無人島化から話を進めたい。「無人島」がそこに存在して生活手段を持たなくなると、ただの「岩」になる。直ちに、EEZ、大陸棚がなくなって、日本の海洋面積が減少する。国土だけの日本の広さは、世界の61番目だが、現在の海洋面積を入れると、世界の第6位となることはよく知られている。
海には豊富な地下資源、自由な航路が保障されている。この国富は海だけにとどまらない。沖縄を取り巻く海洋には米軍訓練空域・水域が展開して、米軍の重要な演習場となっている(図3参照)。
ここは中国のインド太平洋に向かって展開を急ぐ「一帯一路」戦略と向き合っていることになる。今後は広く太平洋を監視する必要性が出てきた。2018年12月末に改定された「防衛計画の大綱(防衛大綱)」に海上自衛隊の戦闘機F35Bの運用を目指して多用途運用護衛艦の導入を決定した。これは明らかに中国の潜水艦警戒を念頭に置いたものである。
このことで、何がわかるか。全国に張り巡らされた各離島の情報のネットワークを活用する統合的な「多次元防衛」システムが構築されなければならないことを意味している。
人づくり政策の核として「島嶼型ネットワーク高等学校」の創設が急務
すでに沖縄の離島では、ほぼ光ファイバーによる海底ケーブルの敷設が出来上がった。離島間を結び、さらに全国どこからでもどこにでも、情報交換することができる情報通信基盤の整備が進んでいる。
この海底ケーブルを使って、高校の無い離島20島をネットワークで結び1つの高等学校(本部は琉球大学教育学部を予定)とする「沖縄県島嶼地域ネットワーク高等学校(仮称)」構想の実現のための検討委員会がこの4月に発足する(内閣府沖縄担当部局)。
離島こそ「Society 5.0」の社会像を展開するフロンティア
「沖縄県島嶼地域ネットワーク高等学校」の創設の意義と課題については、現在、沖縄の離島の自治体及び関係者(内閣府及び沖縄県、地元の当事者)が準備を進め、実現への第一歩を踏み出した。
文科省の「Society5.0」に向けた人材育成についても触れなければならない。
離島の人材育成に呼応するかの如く、文科省ではSociety5.0の社会像と、求められる人材像について、議論が深まっている2)。
「Society5.0は、人口知能(AI)、ビッグデータ、Internet of Things(IoT)、ロボティクス等の先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられ、社会の在り方そのものが『非連続的』と言えるほど劇的に変わる事を示唆する」(同懇談会)。
まさに「離島」の地域振興は、“遠い”、“不便”、“時間がかかる”、“遅れている”からと言ってハードな援助に目を奪われた発想から脱却できるかどうかが問われている。
ここは“逆転の発想”に立って、離島こそSociety5.0の社会像を地で行くにふさわしい空間であることを自覚して、中でも教育に貢献できることの画期的なチャンスが訪れたことを知るべきだ。世界に通用する「学び」の時代が離島から到来する。高等学校のカリキュラムが根本的に変わる、3年後の2022年4月に乗り遅れてはならない。
要約すると、第一に離島地域の保全及び地域に係る地域社会の維持の方策3)は、各離島群の「空間軸」と10年後以降を見据えた0歳児の「時間軸」をふまえて教育の“人づくり”を土台に進められている4)。
第二に日本列島を陸・海・空(宇宙)を情報技術・ネットワークで結ぶ統合的運用がなされる国土防衛の国づくりが要請される。
この2つが両輪となり、安倍内閣がリーダーシップを取り、各省庁が一つとなり総合的かつ横断的な施策・運営が望まれる。
「離島列島ネットワーク庁」の創設が待たれるゆえんだ。
注)
1)国土交通省,海洋基本法 平成十九年法律第三十三号。
2)文部科学省,Society5.0に向けた人材育成に係わる大臣懇談会:新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォース「Society5.0に向けた人材育成~社会が変わる,学びが変わる~」,平成30年6月5日。
3)有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法 内閣官房平成二八年 法律第三十三号。
4)沖縄では内閣府沖縄担当部局が中心となって平成31年度沖縄振興予算の一環として,沖縄離島活性化推進事業・沖縄子供の貧困緊急対策事業・沖縄の人材育成事業が行われている。