IPP分析レポート

2019年3月8日

米国の対中国戦略と米中関係の展望―米朝関係を踏まえて―

ワシントン・タイムズ コラムニスト ビル・ガーツ
米国の日刊紙ワシントン・タイムズおよびニュースサイト「ワシントン・フリー・ビーコン」の記者、編集者、コラムニスト。国防問題の専門家で、中国のパキスタンへの核技術密売、ロシアのイランに対する核技術供与、米国の中国に対するミサイル技術の売却などのスクープを報道してきた。著書に『Betrayal』(邦訳版『誰がテポドン開発を許したか』文藝春秋社、1999年)、『The China Threat』(2000年)、『iWar』(2017年)など多数。国防総省、ジョンズ・ホプキンス大学、FBIナショナルアカデミー、国防大学、CIAなどで防衛、安全保障、メディアをテーマとする講義を行ってきた。スタンフォード大学フーヴァー研究所メディア・フェロー。

はじめに

 我々は長い間、中国を誤解してきた。私が『The China Threat』(中国の脅威)を出版したのは2000年11月だが、中国に関心を持ち調査し始めた1990年代の終わり頃、国防総省でブリーフィングを受ける機会があった。その時、国防総省の高官が「中国は脅威などではない」と言い切ったので、私はとても驚いた。文民の情報担当者や民間の調査機関ならともかく、軍のハイレベルの情報将校が中国は脅威でないと言ったため、私は米政府に根本的な誤りがあると直感し、実態の把握に乗り出した。
 ちなみに2006年に新華社通信が世界の「反中国」専門家10人のリストを報じた時、私の名前が筆頭に挙げられた。しかし、私は「反中国」ではない。中国共産党と共産党政権に反対しているのであって、中国の人々は大好きだ。そして中国の国民も、現在の政府を好んでいるとは思えない。
 米国の従来の対中政策は和解を基調にした関与政策とビジネス実務を軸に推移してきた。私はそれを「三十年間の大博打」と呼んできたが、中国を核武装した共産党独裁体制としてではなく、普通の国として扱おうという態度だった。米国が日本を含む西側諸国に対してきたような関与政策を続けていけば中国は進化していくという見方だ。ところが、それは完全な失敗であった。三十年間、我々は誤った道を歩いてきたのだ。政府や学者の間でさまざまな議論が交わされてきたが、結局のところ、中国は何も変わらなかった。

トランプ政権の対中国政策

 2017年に就任したトランプ大統領の政策は外交全般で異例尽くめだが、対中政策でも型破りなことを始めた。すなわち経済安全保障と国家安全保障とを連動させたのだ。大統領がビジネスマンだったためでもあるが、米国にとってビジネスこそが大事だという信念に立脚しているようだ。米国は商売仇の国々、中でも中国によって不利な立場に置かれてきたと断言し、貿易戦争で中国に圧力をかけ始めた。
 軍事面では全般的な政策は継続している。しかし私が長年関わってきた情報分野では大きな変化が見られる。トランプ政権は諜報機関を動員し、中国による情報漏洩や機材調達を監視している。2017年12月、トランプ政権は初めての「国家安全保障戦略」(National Security Strategy)を発表し、その中で中国とロシア、とりわけ中国を「安全保障上の主要な課題」であると特定し、中国が米国の軍事力や政治的影響力、経済的利益に反する形で情報を操作し、影響力を拡大していると指摘した。中国が米国の安全や繁栄に不利益な活動をし、経済をいっそう不公正かつ不自由なものにしていると断定し、我々の想定を超える情報管理によって社会統制や支配力強化を行っているとした。
 1990年代のクリントン政権は中国のネット環境整備に熱心であった。「中国がネット環境を整備すれば、より民主的な社会に発展するだろう」と考えたからで、ネット環境を制御するのはゼリーを壁に貼り付けるようなもので、不可能だと言っていた。しかしまさに中国はそれを実行に移し、インターネットを管理している。
 ホワイトハウスが「国家安全保障戦略」を公表してからひと月ほど経ち、国防総省が2018年1月に「国家防衛戦略」(National Defense Strategy)を発表した。これは大統領官邸の全般的戦略に沿って国防総省がまとめた戦略文書だが、その中で中国を「戦略的な競争相手」と指摘した。ペンタゴンは2001年の9.11同時多発テロ事件以降、テロリズムと対テロを主要課題としてきたが、国家による脅威に焦点を移した。そして、中国、ロシア、イラン、北朝鮮、テロリズムが主要かつ優先的な脅威だとした。
 国防総省の戦略文書はさらに、中国は自らの権威主義的モデルに沿って世界を変えようとしており、他の国々の経済・外交・安保上の意思決定に対しても「拒否権」を行使できるような影響力を確保しようと目論んでいると指摘している。例えばインド太平洋地域では、自らの軍事近代化を梃子に影響力を増大させ、他国を食い物にするような経済活動で自国の利益を最大化し、この地域で覇権を確立すべく国力を総動員して長期的態勢を整えようとしている。その文書では明言していないが、中国のアプローチは「ゼロサム」、つまり中国が得をして米国は衰退していくというものであり、これが中国の戦略の軸であることを理解する必要がある。
 国防総省の戦略文書の包括的な狙いは、米中の軍事部門が透明性を維持して攻撃的なものにならないようにすること、戦争より対話をしようというものだ。私は2018年6月にマティス国防長官に随行して中国を訪れた。マティス長官は2日間にわたって中国首脳達と会談した。取材して分かったのは、マティス長官が本気であり、軍の活動や軍事戦略・戦術について熟知していることだ。その長官が中国側に語ったのは、中国の非道な活動を黙認はしないということだった。
 またホワイトハウスは2018年6月に「中国の経済侵略がいかに米国と世界の技術および知的財産を脅かすか」(How China’s Economic Aggression Threatens the Technologies and Intellectual Property of the United States and the World)と題する報告書を公表した。ホワイトハウスの中では、ここに「侵略」の用語を用いるか否か、激論が交わされたようだ。ビジネスや貿易に関わっている人々は反対または消極的だったが、対中国タカ派のピーター・ナバロなどが優勢となり「経済侵略」と表現したことで、中国は非常に憤慨した。しかし私なら「経済戦争」と呼んでいただろう。この報告書は非常に重要なもので、機密指定から外された多くの資料をもとに中国の経済活動を詳細に記述している。

 

ペンス副大統領のハドソン研究所演説

 一方、マイク・ペンス副大統領は2018年10月4日、ハドソン研究所で中国の脅威に関して実に注目すべき演説を行った。この演説はじっくり時間をかけて練られたもので、中国では政府全体が一丸となっていること、一方のトランプ政権は公正、相互主義、そして主権尊重を原則にしており、これを実行するために迅速かつ強力な態勢をとっていると述べた。
 米国は1991年以降、中国に自由な社会が訪れるはずだと期待して経済面でも大きな妥協をしてきた。貿易上の最恵国待遇を与えたり、まだ資本主義ではない中国を世界貿易機構(WTO)に迎えて多くの便宜を与えたりして、中国で自由が拡大することを期待した。しかしペンス副大統領は「その期待は裏切られた」と述べた。
 またペンス副大統領は、今の米国経済のエンジンとなったハイテク企業、例えばグーグル、アップル、フェイスブックなどが中国に協力を余儀なくされている実態についても指摘した。例えばグーグルは中国が市民を抑圧するためのサーチエンジン構築に協力し、インターネット上で中国国民に対する検閲機能を高めることに助力した。またアップルはVPN(仮想プライベート・ネットワーク)を中国国民が利用できないように協力し、ヤフーは中国の反政府分子の検索に協力した。ペンス副大統領は、中国における自由の夢は遠い彼方だと述べた。
 中国の経済戦略の主要な柱の一つである「中国製造2025」では、現在発展中のすべての産業、すなわち量子コンピューティング、通信、人工知能、データマイニングなどの分野を育成し、莫大な投資で市場を独占しようとしている。
 軍事分野でも最先端兵器の開発に投資しているほか、南シナ海で軍事的攻勢を進めているとペンス演説は指摘した。この演説の数週間前に、米国の誘導ミサイル駆逐艦ディケーターが南シナ海で中国の軍艦に衝突されそうになったが、これなども長年起きたことのない事件である。米国は航行の自由作戦を強化して南シナ海は公海であることを示そうとしたが、中国側はこの海域の少なくとも90%は自国の領海だと主張している。さらに台湾に向けて爆撃機を飛ばすなどの威圧策をとり、尖閣諸島では日本との領海紛争を際立たせている。

 

中国の対米工作

 米国が中国の問題を浮き彫りにする一方、中国側もやられっ放しではない。それどころか、いくつかの手法でトランプ大統領にダメージを与えようと画策をしている。その一つは選挙への干渉だ。中国は軍事手段を利用できないことを知っている。まだ多くの分野で米国に勝てないことを知っているからだ。それでも中国としては別の大統領が望ましいのは明らかで、非公然作戦を展開するなどして影響力の浸透に腐心している。米国のマスコミはロシアによる米大統領選挙への干渉を追及するのに余念がないが、ペンス副大統領に言わせれば、中国がやっていることに比べればロシアの選挙干渉は取るに足らない。
 ペンス副大統領の演説が行われてからしばらくして、米中両国の外交・軍事の担当者による会合が開かれた。これはもっと前に予定されていたが、トランプ政権が対中経済制裁を発動したことに中国側が抗議し、当初の会議を突然延期していた。米政府は人民解放軍の部隊のみならず、それを指揮する軍高官にも制裁措置を課した。これはロシアによるウクライナのクリミア併合に関連し、ロシアから兵器を購入したいかなる企業をも制裁対象にするという法的根拠に基づいていた。中国がロシアから35機のジェット戦闘機とミサイル防御システムを購入したとして、制裁措置を発動したのだ。
 この会合の数日後、マティス国防長官もポンペオ国務長官も「我々は中国を封じ込めるつもりはない」と発言した。何故ないのか?副大統領自ら中国の反米的活動を明瞭に列挙しており、あろうことか現職の大統領を引きずり降ろそうと画策しているにもかかわらずである。つまりホワイトハウス内部でも対中政策が固まっていないのだ。しばしば米国の政府機構はスーパータンカーに比喩されるが、方向転換しようにも時間がかかる。特に財務省や商務省など、お金に関わる業務の担当者たちは関与政策の現状を変えたがらないものなのだ。
 ところで、中国は人民解放軍の将軍に対する制裁措置に関し、いくつかの報復をしている。その一つと思われるのが、南シナ海における中国艦船による米駆逐艦への異常接近である。「航行の自由作戦」で展開していた米ミサイル駆逐艦ディケーターを海域から排除しようと、中国側の駆逐艦が45ヤードまで接近してきた事件だ。ペンタゴンはこの時の映像をこの種のものとしては初めて公開した。前代未聞のことであり、それ自体が重要なことだったと言える。

 

習近平の「統一戦線工作」

 毛沢東、鄧小平の時代と比べても、習近平は中国の政策をどんどん変えているし、権力を掌握した2012年から共産党だけでなく人民解放軍の粛清も進めてきた。その中には数百人の高級将校や、中国の本当の権力を握る軍事委員会の委員らも含まれている。
 さらに中国政府を党主導に改革しており、実際の権力は党の要人らに握られてきている。ポンペオ国務長官やマティス国防長官が参加した前述の会合では、中国側の参加者は外交官や外務省役人ではなく共産党政治局の人々だった。その結果、軍内部が不安定になっている。しかも周知のとおり、中国ではエリートたちによる見境のない汚職・腐敗が行われているが、彼らの不正追及は家族・親族にも及んでいるのだ。
 習近平主席が進めていることの一つは「統一戦線工作」だ。これは共産党の伝統的な戦術で、共産党を中心に統一戦線を構築しようとするものだ。これには影響力を増進するための公然・非公然の工作が含まれ、力に訴えずじわじわと勢力を固めていく。統一戦線部は擬似諜報機関として機能している。
 もう一つは「中国の夢」プロジェクトだ。「アメリカンドリーム」が民主主義や自由を世界に拡大しようとしたのに対して、「中国の夢」は中国流の権威主義的統治と経済システムを世界化しようとしている。これは法を基礎にした今日の世界システムに対し、真っ向からの脅威となるだろう。
 第19回共産党全国大会で「習近平思想」を憲法に盛り込むことで、習主席は自らを毛沢東や鄧小平の位置に祭り上げ、新たな力を手に入れた。鄧の後の歴代指導者はそこまでの地位には立てなかった。つい最近、中国の国営新聞の数紙が習近平思想を適切に表現しなかったため、編集者らが解雇される事件があった。習思想の扱いには気を付けなければならないのだ。習主席はさらに、地位の任期をなくして共産党最高指導者と中央軍事委員会の終身指導者としての地位を確保した。
 習近平は統一戦線活動を強化し、米国やオーストリアで特に活発に活動しているが、日本も例外ではない。安倍首相の訪中に関して言えば、中国は米中関係が悪化すると近隣の敵対国に接近する傾向があり、今は日本に対してそのようなアプローチをとっている。

 

対中国政策の失敗

 米国のこれまでの対中政策を設計したのはヘンリー・キッシンジャーだ。彼は1970年代に毛沢東や鄧小平、周恩来らとの人脈を作り、当時のソ連から中国を引き離す(と思われる)政策を実行してきた。もっとも、毛沢東とスターリンの間には1950年代からすでに共産主義の正当性をめぐる亀裂が生じており、どちらが正真正銘の共産主義者かという競争をしていた。中国共産党はコミンテルンの一部として1920年代に発足したので、その遺伝子はレーニンからのものと言える。
 ともあれキッシンジャーは関与政策をとったが、ソ連崩壊後にこの対中政策を再評価しようとする者はいなかった。親中政策はまるで自動パイロットのように続けられた。
 有力な外交専門誌フォーリン・アフェアーズにオバマ政権時代の二人の高官による論文が載っていた。執筆者の一人、カート・キャンベル元国務次官補(東アジア・太平洋担当)は特に中国に詳しく、オバマ政権で中国政策に関わっていた。この二人は、中国政策に携わってきた関係者を手厳しく批判している。彼らによれば、対中タカ派は圧力行使で中国が変わると考えた。中国関与派も勘違いしていたし、実業家も対中貿易を進めれば中国は穏健になると読み違えた。米国では右も左も、過去30年間の中国政策について深い反省を余儀なくされている。

 

中国の「ハイテク全体主義」と非対称戦略

 中国では全面的監視体制が驚くほど徹底されている。私はこれを「ハイテク全体主義」と呼んでいる。歩行者の顔認証技術はもとより、歩き方から個人を特定できるとも言われる。また「社会的クレジットシステム」とも言うべき新手のハイテク全体主義の適用例もある。すべての中国人が同システムで得られる評価点を身分証明証に記録され、仮にある人が政府に批判的だと認定されれば、航空券や汽車チケットを購入するのが難しくなり、旅行もできない。これは新手の国民管理メカニズムだ。
 軍事関連では対衛星兵器システムの開発を進めている。中国が実行している軍備拡張は米国の過去のやり方とは異なり、非対称的な能力を確保して相手の弱点に焦点を合わせるというものである。彼らは我々について研究し、核兵器の技術やデザインも盗んだ。しかし宇宙空間こそ彼らの重要な投資分野になっている。
 2007年に中国は初めて対衛星ミサイルを発射した。衛星を爆破したため、数万個の破片が宇宙空間に数百年にわたって浮遊し続けることになった。この結果、宇宙ステーションの位置を変えなければならなくなるなど、世界に衝撃を与えた。特に米国は、軍事分野の指揮系統や情報収集、民生分野でも銀行業務などを含め、宇宙空間に大きく依存している。中国は数十基のミサイルで米国の宇宙システムを無力化できるのだ。
 これは日本や韓国をはじめアジアの同盟諸国にも重大な影響をもたらすもので、中国もそうした能力を保持していることを隠していない。隠しているのは、どのようなタイプのものをどの程度保有しているかだ。その深刻さを物語るように、米国の核戦力を統括する戦略司令部の将軍が議会証言で、さほど遠くない将来に中国軍が宇宙のすべての軌道を飛んでいる衛星を打ち落とす能力を持ちかねないと警告した。すなわち、大半の衛星が飛行する低空軌道、中空軌道、そして情報衛星や衛星管理のための高空軌道の衛星群すべてを攻撃できるというのだ。
 中国は米国に対抗する非対称戦略の一つとしてサイバー分野の開発を続けている。中国が最も重大な国家的サイバー脅威であることは間違いない。ロシアはソ連時代からの遺産で、サイバー諜報やサイバー攻撃の高度な能力を保有している。平時において軍が実施しているのはサイバー哨戒といって、攻撃してくるシステムの中に入り込んで哨戒をする。中国とロシアが我々の送電網管理システムに入り込んでいることが、米政府によって確認されている。米政府は16の重要なインフラ、例えば水、運送、金融などを指定しているが、それらのすべてが電力に依存しているため、送電網が無力化されてしまえば重大な影響を及ぼす。中国はそれを実行する態勢を整えつつある。米国もそれに対応する用意はしているようだ。
 中国は20年間を費やして、世界的なサイバー諜報とサイバー哨戒の能力を高めてきた。担当しているのは国家安全保障省、人民解放軍第二部と第三部などだ。数年前にサイバー攻撃を担当する「61378部隊」に属する5名が、米国の権益にサイバー攻撃をしたとして告発された。米政府が発見した「潜伏スパイ」は送電網や金融ネットワークに潜伏させるタイプのソフトウェアで、1年に1回ほど中国と通信していることが発覚した。このソフトウェアは危機の際、または将来的な紛争の際に稼働するものだ。

 

対中国政策の変化

 米政府はつい最近までこうした作戦の規模を明らかにしなかったが、すでに述べたように、急速に態度を変え始めた。オバマ政権はこのような状態を日常的なものとして見過ごし、中国を国際社会の責任ある当事者にしようとしてきた。しかし中国には、米国を中心とした国際的な法治システムに甘んじる考えはないのだ。
 それと比べてトランプ政権は中国に巨額の関税を課すなどの圧力を行使している。2000億ドル相当の貿易関税をかけ、さらに2600億ドル分の関税が待機状態だ。これは2019年1月から行使される予定だったが、アルゼンチンでの首脳会議で米政府は中国に妥協的姿勢を示し、多少の息抜きを与えた。制裁は中国にとって厳しいものとなっている。米政府は中国に対する制裁の核心である関税圧力を弱めるつもりはなく、もっと詳細な告発内容を公表して中国の諜報関係者や経済スパイなどの氏名を公開している。
 2018年12月1日には華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟・最高財務責任者(CFO)が複数のパスポートを所持していたことを理由に逮捕された。米国政府がここまでの措置に出たのは過去5~6年で初めてだが、米国政府は中国軍部につながりを持つ通信業界の巨人である華為に懸念を抱き続けてきた。今回の事件がその理由と全体像を明らかにするきっかけになるかもしれない。歴代の米政権がトランプ政権ほど華為の脅威に対処できなかったのは、国家安全保障局(NSA)が徹底的に浸食されていたからだが、エドワード・スノーデンが暴露した文書が示したように、華為が世界中で販売した機器の中に「潜伏スパイ」ソフトを流し込み、中国側による情報収集の実態を掴んだ可能性がある。

 

北朝鮮問題

 それでは北朝鮮問題に移り、トランプ大統領の北朝鮮政策の根本に迫ってみたい。オバマ前大統領は、就任直後の会談でトランプ新大統領に「あなたの最大の課題は北朝鮮問題だ」と警告した。トランプは選挙戦の最中から金正恩委員長と会う用意があることを示唆したり、中国が北朝鮮をコントロールしていて、米国は韓国を北朝鮮から防衛する努力をしているといった指摘をしていた。またクリントン元大統領が北朝鮮に対して弱気だったと述べている。おそらくそれは本当だろう。また就任式の数日前のツイッターでは、中国は米国に対する一方的な貿易によって莫大なお金を稼ぎながら、北朝鮮に関して協力しようとしないと発信した。
 北朝鮮は2017年に繰り返し弾道ミサイル発射や核実験を実施したが、その技術は明らかに格段の進歩を見せており、トランプ大統領はこの問題にますます真剣に取り組まざるを得なくなっている。2017年には、金正男氏がマレーシアのクアラルンプールで北朝鮮のエージェントに暗殺された。拙著『iWar』はこの暗殺事件が起きる数カ月前に出版されたが、その中で私は、関係諸国が金正男のような金ファミリーの人間を活用すれば、金正恩政権を転覆させる可能性が出てくるのではないかと提案した。私に言わせれば、あれは中国の失策だ。中国の情報機関が金正男をマカオに住ませて保護していたのに、敵はその保護網を破って神経剤を使い、殺害した。これなども北朝鮮の能力の一端を示したものだろう。

 

「戦略的忍耐」放棄と「最大限の圧力」

 2017年4月6日~7日の米中サミットは、いろいろな意味で重要であった。トランプ大統領は、自身が所有するフロリダの別荘で会談をしている最中に、10基以上のトマホーク巡航ミサイルをシリアのミサイル基地に向けて発射することを命令した。これは中国指導部に対する強い警告であった。すなわちトランプ大統領が予測不能の人物であり、彼は世界で戦争をしたくはないが、必要に応じて軍事力を行使することを躊躇しないと示唆したのだ。このサミットでトランプは習近平に、中国が北朝鮮問題に対処すべきであり、さもなければ我々が対応すると迫ったのだ。
 オバマ前大統領の「戦略的忍耐」政策(つまり何もしないことなのだが)を放棄したトランプ大統領は、北朝鮮に対して軍事的手段以外のすべてを駆使して「最大限の圧力」をかける方針を示した。トランプ大統領は北朝鮮が核弾頭を装着して米国に届くような長距離ミサイルを開発することには断固反対すると述べたが、それによって自らを制約してしまった面もある。我々はそれを許さないと断言し、中国が同調することを期待したのだろう。しかし中国の北朝鮮政策は非常に曖昧なところがある。
 そしてトランプ大統領は制裁を基本とした新たな圧力の手段を検討するよう情報機関などに指示した。制裁措置としては金融面での圧力だが、特にカギになるのは北朝鮮が米国の金融システムで取引することを犯罪とし、米国の金融機関による北朝鮮関連との一切の金融取引を禁止するという措置だった。これは非常に強いインパクトがある。しかし北朝鮮もしたたかで、あらゆる抜け道を探してフロント企業・団体を使い、あるいはイランのような「ならず者国家」を経由して、米国の金融機関と取引する方法を模索し続けている。
 米国政府は非常に明瞭な戦略的メッセージを送るため、周辺海域で航空母艦を巡航させたり、戦闘訓練を行ったりしている。さらにメディアを通じて暗殺計画があることや、韓国に核兵器を再導入することをほのめかしたりもした。もちろん、そんなことは起きていないし、米当局者も否定している。おそらく一流の情報操作の一つだろう。
 私も2017年5月、特殊作戦部隊が北朝鮮の核・ミサイル施設に対する作戦を検討しているという記事を書いた。レイモンド・トーマス陸軍大将は連邦議会の公聴会で、これは北朝鮮に送る高度な情報手段であり、彼らが対話のテーブルに着かなければ攻撃も辞さないというシグナルを送ったものだと証言した。
 トランプ大統領は7月、中国の第一四半期における北朝鮮との貿易は40%も増加したとツィッターで発表した。つまりトランプ大統領は何とか中国を北朝鮮問題に関与させようと圧力をかけていたのだ。
 8月になるとトランプ大統領は、「北朝鮮はかつて見たことのないほどの炎と怒りを目の当たりにするだろう」と威嚇した。ここには正にトランプ大統領一流の工夫が顕れているが、北朝鮮の常套句である「ソウル市を火の海にしてしまう」といったレトリックを逆手にとった言葉だ。実際、北朝鮮はニューヨークへの核攻撃シミュレーションのようなビデオを作って脅しをかけてきた。
 9月には北朝鮮が核実験を実施した。おそらく一種の熱核兵器のテストだったと見られる。このときは北朝鮮が熱核実験を通じて電磁パルス(EMP)攻撃も可能だと言及し、注目を集めた。核爆発によって発生する電磁パルスは数千キロ圏内の電子機器を使用不能にしてしまうと言われる。これは米国が1960年代に大気圏で実験をしたときに発見された現象で、ホノルルの街灯の一部が影響を受けて消灯してしまったり、損害を被ったものもあった。北朝鮮はこのEMP開発をしていると主張しているのだ。ワシントンの軍縮交渉の関係者にはEMPの脅威を軽視する人もいるが、米国戦略司令部のジョン・ハイテン司令官は議会証言で、EMPは実際的な脅威になりうると証言している。
 その一方で、北朝鮮が宇宙や大気圏外でEMPを使用すれば大規模な報復攻撃を受けることは間違いなく、米潜水艦から発射される弾道ミサイルや巡航ミサイルを含む攻撃が行われるだろう。

 

米朝首脳会談

 私は2018年3月7日付けのコラムで、ペンタゴンが本気で朝鮮半島における戦争の準備態勢を強化しており、関係者によれば、これまで月1回行っていた図上演習を毎週あるいは2週間に1回の頻度で行ったり、北朝鮮に対する特殊な戦闘機を準備したりしていると書いた。明らかに中国も北朝鮮もトランプ大統領が本気だということを了解しているはずだ。コマンド部隊の使用など、何らかの先制攻撃も検討されているが、妥当な軍事オプションはなく、政府が何かをしなければならないという真剣な態度に変化してきている。
 2018年3月には習近平と金正恩の最初の会談が行われたが、これは驚きをもって受け止められた。習近平の見方は、中国がアジアのリーダーである以上、誰かが金正恩委員長に話をするとすれば、それは自分でなければならないというものだ。
 国連で北朝鮮が核開発を継続しているとの報告があると、北朝鮮はただちに微笑攻勢に出た。これなども相変わらずの常套手段であり、これまでも挑発や威嚇の時期から和解に向けた微笑攻勢に転じてきた。北朝鮮は5月に豊渓里(プンゲリ)にあった核実験場施設を破壊するという大げさなプロパガンダに出たが、この間に韓国の文在寅大統領が北朝鮮とさまざまなやり取りをすることで、米国の「最大限の圧力」政策を阻害してしまったことは間違いない。
 そして6月にはシンガポールで歴史的な米朝首脳会談が行われた。多くの人がこの会談の意義やメリットについて語っているが、これはトランプ大統領がビジネスマンとして不動産取引を行ってきた長年の経験から、自らの交渉技術が卓越していることへの固い信念に基づいて行ったものだ。自分なら何かを引き出せるから、会ってもいいだろうとの勘が働いた。
 米朝首脳会談は北朝鮮の根本的な変化を意味したが、金正恩はトランプと対談することで途方もない国際的評価を勝ち得た。そして朝鮮半島の現状、つまり米軍が支える韓国と核武装した北朝鮮という構図を大きく変える可能性を示したものだ。トランプ大統領は核兵器を保有する北朝鮮が長距離ミサイルまで手にする間際に来ている段階で、重大な一歩を踏み出したわけで、今後どのような展開になるのか注目したい。
 なお、2018年8月22日付けコラムで中国軍に関するペンタゴンの年次報告を基にした内容について書いた。この年次報告では、中国が実際に北朝鮮に軍事侵略をする可能性に言及しており、朝鮮半島危機の際に中国が人民解放軍の投入も含めた対応をすることが示唆されている。具体的な対応オプションとしては、国境の確保、難民流入の阻止、軍事介入などが指摘されている。もし中国が北部戦線、例えば瀋陽の軍管区から攻撃すれば、そこには現在、三つの部隊が展開しており、兵員総数は約17万人に上る。陸海空軍に加え、警察部隊も常駐している。朝鮮半島において生物・化学・放射能兵器・核兵器などによる攻撃が行われた場合、人民解放軍は即時対応部隊が特殊機材や特別に訓練された兵員を投入できる態勢にあるという。

 

「力を通じた平和」

 トランプ大統領が北朝鮮に対して軍事力を行使する可能性については、米国が直接行動をとるとすれば、米国が直接の被害を受けるような場合にのみ対応すべきだろう。私は孤立主義者ではないが、あらゆることに関与すべきだと考える類の国際主義者でもない。トランプはそれらの中間的な立場に立っている。多くの人が「米国第一主義」は孤立主義だと批判するが、私はそうは思わない。グローバルな調和や協力といったことよりも、米国の利害を重視する立場ではないか。
 レーガンやルーズベルトのように、トランプ大統領は力を通じた平和を追求している。平和を維持するには軍隊を強力にして、挑戦を受けることがないようにしておくべきだと考えているのだ。トランプ大統領はその方向を目指しているが、それは困難を伴うものでもある。米国の核兵器は老朽化しているが、中国の兵器システムは近代化が進んでいる。ロシアの兵器も近代化されている。米国は1980代以降、新たな核兵器を製造してこなかった。インフラや技術の近代化を担える技術者も少なくなっており、実際には難しい課題である。
 トランプは自らの意図や計画を隠したがる。選挙戦の最中にも、軍隊が自らの作戦行動を事前に明らかにするべきではないと発言した。典型的な例は、IS(イスラム国)がイラク北部の都市モスルを占領した際、イラク軍とペンタゴンは奪還攻勢について数カ月にもわって公然と協議を続けていた。選挙期間中のトランプはそうしたやり方を強く批判し、軍隊はその意図や作戦を明らかにするべきではないと主張した。
 トランプはオバマ政権で削減された数兆ドルの軍事費を取り戻そうとしている。多くの兵器はレーガン政権の軍備強化の時に作られたもので、しかも軍事システムは多くが海外での作戦行動、特に対テロ作戦や反乱抑止に向けられてきた。その結果、今では大量の兵器が使用不能な状態になってしまった。
 そして現在、米国の戦略は対テロ作戦から国家主体の戦争行為に対処する方向にシフトしている。ペンタゴンの武器調達の態勢を再建するのは本当に容易ではない。トランプの言葉によれば、米国は我々が望むように世界を変えられるわけではないが、展開する世界の事態に対し、米国以外の国には真似のできないインパクトをもたらすことができる。今後は米国の利益を重視しながら、海外での負担を徐々に縮小していくことになるだろう。

 

おわりに

 中国に関する問題は、ほとんどの約束が破られてきたという事実だ。サイバー上で経済スパイをしないという約束も、南シナ海の島々を軍事化しないという約束も破棄された。北朝鮮を経済的に支援しないという約束も履行されず、援助を継続した。尖閣諸島でもじわじわと圧力を加え続けている。歴代の米政権はこの問題では確固とした姿勢をとっており、仮にこの島々をめぐって日中が交戦状態になれば、米国は日米安保条約に基づき中国と戦争状態になることを明らかにしてきた。
 こうした問題にどう対処するべきか。私の結論は、中国の脅威について明確な認識を持ち、中国の真実を断固として明らかにすることだ。第二に、中国で真の民主的な改革を促すことだ。中国国民は共産党の支配下で生きたいと思っていない。私が6月に中国を訪れた際、「情報砂漠」とでも言うべき状況を経験した。グーグル、フェイスブック、ツイッターなどのSNSは若者に不可欠だが、それらの情報を得られないのだ。ただ私のブログが中国内で多くのフォロワーを得ているように、人々は様々な抜け道を活用している。一方で当局も、しらみつぶしにVPN(仮想プライベート・ネットワーク)をブロックしている。
 結論として、トランプ政権による対中政策の見通しは悪くないといえる。トランプ大統領が中国に適用している政策は、ロナルド・レーガン元大統領がソ連に適用したものに類似していて、力を通じた平和を指向志向している。力強さを維持し、公正かつ現実的な関係を保持していけば、米国と世界にとって、はるかに良好なメリットを産みだすだろう。

(本稿は、2018年12月11日に共催した国際会議「ILC-Japan 2018」および同12日に開催した「メディア有識者懇談会」における講演を翻訳・整理してまとめたものである。)