結婚の支援のあり方について ―意識改革とマリッジサポーターの拡充の提案―

結婚の支援のあり方について ―意識改革とマリッジサポーターの拡充の提案―

2017年2月22日

はじめに

 日本における少子化の問題は我が国の国力を根本から損なう恐れがある深刻な課題である。経済的な成長率の低下に伴う社会の貧困化、税収の低下による公共サービスの低下、同時に進む高齢者人口の増大による逆ピラミッド型の社会構造がもたらす若者たちの不満や不安の増大、国際的競争力の低下、それらは安全保障上の脆弱性をもたらし他国による我が国の権益に対する直接的間接的な侵害を招くことになるだろう。しかし今目の前に対処すべき問題としての高齢社会の医療・介護の問題と比較すると少子化の問題は予想される未来の問題に対して限りある人的物的資源を先行投資する取り組みとなるためか(*1)未だ不徹底な取り組みしかなされておらず、人口減少の傾向に歯止めをかけるに至っていない。現在の人口を保つための合計特殊出生率は2.07であるが、20年以上にわたって1.5を下回る超少子化と呼ばれる非常事態が続いている(*2、図1)。2015年の合計特殊出生率は上昇したと言われるが1.46のレベルであり、少子化が改善したと言う程ではない(*3)。
 少子化の原因としては若者たちの非婚化・晩婚化の問題が挙げられている(*4、*5)。婚姻数は1970年から1974年にかけて年間100万組を超え、婚姻率(人口千人当たりの婚姻件数)は概ね100以上であったが、年々減少傾向にあり、2011年以降は婚姻数は60万組台で推移し、2014年は64万組で2013年に続き過去最低。婚姻率も5.1と過去最低となり1970年代前半と比べると半分の水準となっている(*6、図2)。2010年のデータでは50歳時点で一度も結婚していない「生涯未婚者」は男性で5人に1人、女性で10人に1人(*7、図3)。今後20年ほどするとその値は男性が3人に1人、女性が5人に1人になると予想されている(*8)。結婚はいまやぜいたく品とも呼ばれる時代となっている。
 結婚の問題は個人にとっては夫婦と親子の関係によってもたらされる精神的な幸福の問題であり、社会にとっては人材の再生産の問題、経済の問題、持続可能性の問題である。倫理的な観点からすれば先祖から代々受け継がれてきた命のリレーを結婚しないことで、命のバトンを落としてしまうことであり、個人に与えられた使命を全うできないことにもなる。このように結婚問題は個人と社会の二つの領域に多大な影響を及ぼす。
 本論文においては現代日本における結婚を巡る状況や少子化対策の名の下に行われてきた様々な施策を振り返りながら、人口減少の傾向に歯止めをかけるための新たなる施策を、特に結婚の支援のあり方を中心として探って行く。

1.現代日本の結婚を巡る現状

 1940年代の日本においては結婚の70パーセントはお見合い結婚であった(*9)。世の中全体がそういう雰囲気であり、対象となる若者たちの個々のコミュニケーション能力や人間的魅力よりも家柄や職業や収入などが重視され、本人達の意向はもちろん汲まれていたとしてもそこに親の意向が強く作用し、若者たちもそれを受け入れていた。地域や職場には未婚の若者たちの結婚を世話をしようとするおせっかいおばさんや知人や上司がいた。お見合い結婚よりも恋愛結婚が増えて、その割合が逆転したのは1960年代であった。1955年から1973年は高度経済成長期と呼ばれ、この時期には経済の成長と共に婚姻率は上昇を続ける。高度経済成長期には基本的には親よりも息子は高収入であり、女性よりも男性が高学歴であった。そのような状況では女性が結婚することは基本的に条件がより良い生活を保障されるため、容易に決断することが可能であった(*10)。社会学者の山田昌弘氏は結婚問題を考える時に結婚の人生における意味が男性と女性では大きく異なることを認識すべきだと言う(*11)。男性にとって結婚は人生の一つの通過点であり、イベントに過ぎない。しかし女性にとっては苗字が変わることから始まって、アイデンティティが変わり、生活水準が変わる一種の生まれ変わりなのだと言う。そういう観点からすれば男性よりも女性の方が結婚について慎重になることもうなずけるだろう。
 1973年に中東戦争が勃発し、オイルショックが先進国経済を襲い、その後高度経済成長が終わる(*12)。それと共に婚姻率は低下傾向に転じる。1970年代以降、女性の社会進出や性革命など青年の意識の変化、青少年の経済的余裕の出現、匿名性確保手段の発達により結婚せずに深く、広く、男女交際が可能になり、結婚と恋愛は別のものとして分離された(*13)。その当時若者たちの間に反体制的で、古いものを悪しきものとして切り捨てようとするカウンターカルチャーが世の中を席巻していた。そのため親、教師、政府、大企業などの既存の権威に対して反発することが、正しさや強さや理想の姿として若者たちの目には映っていたのである。当然、結婚の意思決定や恋愛することにも個人の自由意志を絶対的に尊重すべきであり、男女の性的な関係も自由意志によりあらゆる束縛から解放されたものであるべきだと言うフリーセックスの思想ももてはやされた。それが時代の先端であった。経済的には高度経済成長の時代は終わりを告げていたが、日本の社会には様々な可能性と希望が残っていた。
 ところが90年代のバブル崩壊、グローバリゼーションの波を受けた終身雇用制度の崩壊は不安定で先の見えない社会を生み出した。そのことは若者達の意識を萎縮させ、安定を求める姿勢を強め、若者は保守化したと言われている(*14)。すなわち男性は終身雇用を希望し、女性は専業主婦を希望するようになった。また同時期のインターネットや携帯電話、スマホの普及は若者たちのコミュニケーション活動や意識を大きく変化させた。現代の若者たちは結婚は希望しながらも、「恋愛は精神的に重いもの」「面倒なもの」「コスパに合わない」と考えるようになったと言う(*15)。2014年の調査で20代の若者で交際相手がいないのは男性で76%、女性で60%。2015年の少子化対策白書では未婚で恋人がいない20代男女の約4割が「恋人は欲しくない」と回答し、そのうち男女とも45%前後は「恋愛が面倒」だと答えている。また20~30代前半の女性で恋人以外で性交渉のパートナーがいる割合は14%。交際相手以外の性交渉があった独身者では男性の40%、女性の43%であった(*16)。つまり現代の若者においては恋愛とセックスは別と言うのが常識となっている。以前は「恋愛とセックスと結婚は三位一体」でロマンチック・ラブ・イデオロギーと呼ばれ、それらは相互に支え合って結婚を成り立たせていたが現代ではこの三つはそれぞれ別の独立したものとなり、従来の三位一体は完全に崩壊している状況である(*17、*18)。
 これまで日本の現代に至る社会の変化と恋愛や結婚を巡る状況について見てきた。やはり社会全体の経済的状況に結婚は大きく影響を受けるがそれだけではなく、様々な社会の状況や若者の意識の変化が恋愛や結婚に影響を与えている。これまで書いてきたこと以外にも、女性の社会進出と経済的自立、男女共に高学歴化、一人でも不自由なく暮らせる便利な社会、やりたいことやできることが増えてきた、子離れできない親・親離れできない子、などが未婚化や晩婚化をもたらしていると言う(*19、*20)。
 以下にいくつかのデータにより、現在の結婚と恋愛に関する状況をまとめて見る。
 経済的状況とそれが男女交際のあり方・結婚の状況に及ぼす影響は明らかである。男性にとっては「年収200、300万円の壁」が未婚・既婚を分ける(*21)。現在、20~30歳男性(独身)で年収200万円未満は3割弱いるが、同200万円未満男性(20~30代)の既婚率は3%のみ。年収200~300万円での既婚は15%、300~800万円では既婚が30%前後。年収に伴い未婚・既婚率の違いは明らかに認められる。雇用形態では正規・非正規での既婚率は正規35%:非正規14%と倍以上の違いがある。恋人のあり・なしも雇用形態によって影響を受け、20代男性で恋人がいるのは正規では34%、非正規では16%と半分以下、30代男性では正規で21%、非正規では14%となっている(*22)。女性の68%が結婚相手に年収400万円以上を期待しているが、その要件を満たす男性は全体の25.1%(*23)。結婚相談所や結婚情報サービスなどの婚活ビジネス事業者は非正規雇用の男性に対しては門を閉ざしている(*24)。登録しても成婚できる可能性が非常に低いからだ。
 少子化対策白書(平成28年版)によれば未婚者(18~34歳)のうち「いずれ結婚するつもり」と答えた者の割合は2010年、男性86.3%、女性89.4%であり、1987年、男性91.8%、女性92.9%と比較するとやや低下傾向ではあるが、高い水準を維持している(*25)。一方、未婚者(25~34歳)で独身でいる理由を尋ねると、男性は1位は「適当な相手にめぐり会わない」46.2%、2位は「まだ必要性を感じない」31.2%、3位「結婚資金が足りない」30.3%となっている。一方女性は1位は男性と同様に「適当な相手にめぐり会わない」51.3%、2位「自由さや気楽さを失いたくない」31.2%、3位「まだ必要性を感じない」30.4%となっている。つまりいかにして男女が適当な相手と出会うためのマッチングシステムを作り上げることができるかが課題であることが見えてくる。

2.これまでの少子化対策と結婚支援の取り組み

 これまでの我が国の少子化対策の流れを振り返ってみよう(*26)。
 1990(平成2)年の合計特殊出生率「1.57ショック」を契機に政府は出生率の低下と子供の数が減少傾向にあることを問題として認識し、「仕事と子育ての両立支援」など子供を生み育てやすい環境づくりに向けての対策の検討を始めた。そして1994(平成6)年、今後10年間に取り組むべき基本的方向と重点施策を定めた「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン)が策定され、またエンゼルプランを実施するため、保育の量的拡大や低年齢児保育、延長保育等の多様な保育の充実、地域子育て支援センターの整備等を図るための「緊急保育対策等5か年事業」も同時に策定された。
 1999年、新エンゼルプラン。これまでは保育関係に限定された施策であったが、雇用・母子保健・相談・教育等の事業も追加した。
 2002年、少子化対策プラスワン(*27)。「仕事と子育ての両立支援」に加えて「男性を含めた働き方の見直し」「地域における子育て支援」「社会保障における次世代支援」「子どもの社会性の向上や自立の促進」という5つの柱を立てた。
 2003年、次世代育成支援対策推進法。地方公共団体および企業における10年間の集中的・計画的な取り組みの促進。同じ年に少子化対策基本法。2004年少子化対策大綱。子供が健康に育つ社会、子供を生み、育てることに喜びを感じることのできる社会への転換を図るために、子育て家庭が安心と喜びをもって子育てに当たることができるように社会全体で応援することとした。少子化の流れを変えるための施策を国を挙げて取り組むべき極めて重要なものと位置付けた。
 2006年、新しい少子化対策について。「家族の日」・「家族の週間」の制定などによる家族・地域のきずなの再生や社会全体の意識改革を図るための国民運動の推進。親が働いているかいないかにかかわらず、全ての子育て家庭を支援する。子供の成長に応じて子育て支援のニーズが変化することに着目して、妊娠・出産から高校・大学生期に至るまでの年齢進行ごとの子育て支援策。
 2007年、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略。「働き方の見直しによる仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現」とその社会的基盤となる「包括的な次世代育成支援の枠組みの構築」。
 2013年、待機児童解消加速化プラン。都市部を中心に深刻な問題となっている待機児童の解消の取り組みを加速化。22万人分の保育の受け皿拡大。「少子化危機突破のための緊急対策」内閣府特命担当大臣の下で「少子化危機突破タスクフォース」が立てられ、これまでの「子育て支援」「働き方改革」に加えて「結婚・妊娠・出産支援」を新しい対策の柱とし、この三つを三本の矢とし、地域の実情に応じた結婚・妊娠・出産・育児の切れ目のない支援の重要性が強調された。
 2014年、放課後子ども総合プラン。保育所を利用する共働き家庭等においては児童の小学校就学後もその安全・安心な放課後等の居場所の確保という課題(=「小1の壁」)があり、放課後の居場所の整備が進められることとなった。「まち・ひと・しごと創生総合戦略」地方創生の取り組み;(1)東京一極集中の是正、(2)若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、(3)地方の特性に即した地域課題の解決。
 2015年3月、新しい少子化社会対策大綱、新たに結婚の支援を加えた5つの重点課題;「子育て支援策の一層の充実」「若い年齢での結婚・出産の希望の実現」「多子世帯への一層の配慮」「男女の働き方改革」「地域の実情に即した取り組み強化」。長期的視点に立ってきめ細やかな少子化対策を総合的に推進。
 2015年10月、一億総活躍社会実現に向けた取り組みとして、「新・三本の矢」の一つとして「夢をつぐむ子育て支援」の目標として希望出生率1.8を掲げている。希望出生率1.8とは若い世代における、結婚、子どもの数に関する希望がかなうとした場合に想定される出生率である。希望どおりに結婚できない状況や希望通りの人数の子どもを持つことができない状況を改善するために「若者の雇用安定・待遇改善」「結婚、妊娠、子育ての切れ目のない支援」「地域の実情に即した働き方改革の推進」「多様な保育サービスの充実」「三世代同居・近居がしやすい環境づくり」「希望する教育を受けられるようにするための経済的支援」「子育てが困難な状況にある家族・子ども等への配慮・対策の強化」などの支援を挙げている。
 2016年4月に「結婚応援のための全国フォーラム」が内閣府と東京都の主催で開催された(*28)。先進的な結婚支援の取り組みの紹介では福井県での地域の企業を巻き込み、職場のつながりを生かした結婚支援の事例が紹介されたり、愛媛県での地域の多数の中小企業が緩やかに連携してイベント実施を行う取り組みが紹介されたりした。有識者からの意見では、結婚希望者が相手に求める条件と実情との乖離からミスマッチが起きやすく、解消するための対応が推奨されたり、各地方公共団体において独身者に関するデータを含め地域の実情を把握した上で結婚支援に取り組むことの重要性が訴えられた。
 2013年(平成25)年度および2014年(平成26)年度補正予算において地域少子化対策強化交付金が予算措置された(*29)。茨城県では本交付金を用いて各地域において結婚支援を行うボランティアの「マリッジサポーター」にお見合いのセッティング等を委嘱し、全県的に結婚支援を実施している。愛媛県ではシステムに蓄積されたユーザの行動履歴を分析し、その結果を基に、マッチングシステムにおいてマッチングの可能性がより高い相手を紹介するとともに、参加することでマッチングの可能性が高まる出会いイベントを紹介する機能を新たに構築し、より良くお見合いにたどり着く実績を上げている。
 大きな流れとしては1990年代から約20年前後は「子育て支援」と「子育てと仕事の両立支援」を中心とした政策であったが、2013年以降に「結婚支援」も加えた対策となってきている。しかし少子化の原因の7-9割は未婚化・晩婚化によるもの(*30、*31)だとすれば、これまでの少子化対策は長い期間に渡って根本的な対策にはなっていなかった可能性がある。そのような反省に基づいて今後結婚支援の取り組みにより重点を置くべきであろう。
 一方、民間のレベルでの結婚支援サービスは現状では「結婚情報サービス会社」「ネットお見合い」「結婚相談所」「仲人」などがある(*32)。しかし結婚情報サービスや結婚相談所でも非正規社員の男性の登録は断られるなどの厳しい現実がある(*33)。また2007年以降に婚活ブームが見られた。その年、雑誌で山田氏が結婚を目標として積極的に活動することを就職活動に見立てて結婚活動と呼び、それを縮めて婚活とネーミングし(*34)、翌年には白河桃子氏と共著で『婚活時代』を出版している。山田氏・白河氏の意図としては「妻子を養って豊かな生活を送る事ができる男性の激減」と言う現状があり、「結婚するためには積極的に活動しなければ結婚できない現実を広めたい(待っていても理想的な相手は現れない)」と言うものであった。そしてそのためには「まず自分磨き(男性はコミュニケーション能力、女性は経済力)」「男は仕事、女は家事という固定的性別役割分業意識からの解放」「つきあった後も相手と将来の結婚生活をめざし、お互いの希望を調整すること」などを提唱したのであった。婚活ブームはロマンチック・ラブ・イデオロギーの解体を促し、男女ともに「結婚情報サービスに登録しているなんて恥ずかしい」、「お見合いしたいなんて、自分からは言えない」といった空気を一掃し、恋愛至上主義の流れを変えた(*35)。しかし著者らの意図とは別に「婚活=合コン、結婚情報サービス産業の勧め」、「婚活=高収入男性を早くゲットする勧め」等の誤解が生じ、社会現象化したことを嘆いている(*36)。

3.今後に向けた二つの提案;意識改革・マリッジサポーターの拡充

 これまで見てきたように未婚化や非婚化、晩婚化の大きな原因の一つは経済的な問題である。しかしまた経済的な問題は解決したとしても結婚にたどり着くのが困難な若者達もいる。そのような若者達を視野に入れながら、比較的大きな財源を必要としない範囲での今後の結婚支援のあり方について二つの提案をする。一つは意識改革の取り組みであり、もう一つはマリッジサポーターの拡充である。
 意識改革は若い男女共に必要であるが、特に経済的な面での希望と現実のギャップに関する意識改革が必要である。例えば2004年の調査では東京の未婚女性の結婚相手の男性に対する希望の収入は400万円以上が66%であるが、実際の東京の未婚男性で年収400万円以上の者は23%に過ぎない。同じ調査で青森における未婚女性は53.4%が400万円以上を男性に希望し、一方青森の男性で年収400万円以上の者は2.6%に過ぎない(*37)。女性やその親は経済的に厳しい状況にある現実とは懸け離れた希望を結婚相手の男性に対して抱いており、いつかそのような男性が目の前に現れることを夢に見て待っている状況である。逆に男性は自分が経済的に大きく成功することを夢見たり、収入の低い自分を好きになってくれる女性の出現を待ち続けている(*38)。しかしそのような希望が実現する者は少なく生涯未婚の男女が増え続けている現状である。もし結婚し、幸せな家庭を築くことを希望するのであれば、そのような現実と遊離した期待を修正し、現実的なものとしなければならない。国を挙げて取り組むべきなのはこのような現実から遊離した希望を修正するための「結婚講座」を開催し、若い男女とその親達の意識改革を推し進めることである。現状では多くの者達は夫婦が共働きをしながら家庭生活を維持することを考えなければならないだろう。また低収入の若者達を比較的収入面での余裕がある親世代が援助する形の三世代同居・近居を検討すべきである。三世代同居・近居は経済的側面のみならず若い夫婦の子育て支援や精神的な支援にもなる。「結婚講座」ではファイナンシャルプランナー等による経済的なアドバイスも入れるべきである(*39)。また結婚のあり方はもう一度問い直されなければならないだろう。過去の結婚観・夫婦のあり方・親子のあり方は魅力を失い、多くの問題を生み出しているからだ。夫婦の三分の一が離婚し(*40)、結婚していても五分の一が家庭内別居(*41)と言われ、親が親としての役割を果たしていない機能不全家族によって子供の虐待や愛着障害などの心理的障害を抱える事例が増大している(*42、*43、*44)。脳科学や医学、心理学的・社会学的知見に基づいた結婚講座によって男女の違い、愛と性の問題、夫婦や親子のコミュニケーションのあり方を教えることは、将来の家族の機能不全や離婚を予防すると共に若者たちの結婚への意欲を高めることだろう(*45、*46、*47、*48、*49、*50、*51、*52、*53、*54)。
 意識改革のポイントとして経済的な現状認識の問題を挙げたが、もう一つ必要な意識改革は「恋愛結婚」についての考え方である。先に恋愛・セックス・結婚が三位一体となったロマンチック・ラブ・イデオロギーが崩壊していると言う指摘について触れたが、恋愛結婚についての考え方を改めるべきであると言う指摘は少なくない(*55、*56、*57)。実際18歳から34歳未満の若者たちの調査(2011)では結婚することの利点は「愛情を感じている人と暮らせる」(4位)よりも「子どもや家族を持てる」(1位)、「精神的安らぎの場が得られる」(2位)、「親や周囲の期待に応えられる」(3位)の方が高いのである(*58)。慶応大学のデビッド・ノッター氏は日本の明治・大正時代の恋愛結婚が欧米発の恋愛結婚とは異なるものだと指摘している(*59、*60)。そして「性的欲求を含めた個人の恋愛感情より『幸福な家庭』の形成を目標とする」との意味から「友愛結婚」と呼んだ。山田氏は「『この人でなければイヤ』と『誰でもよい』の間で、恋人や結婚相手を見つけなければならない時代になってきた」(*61)としながら、アメリカでの恋愛が「一番好きな人を選ぶ」ことから「気の合う人とコミュニケーションを楽しむ」ことに変化してきたことを参考にすることを提案している。そういう意味では現代では「恋愛結婚」から「友愛結婚」を目指すべきかもしれない。心理学者のエーリッヒ・フロムは愛はそこに落ちるような感情の問題ではなく、技術の問題であり、人格的な成長を伴った能力の問題であるとしている(*62)。友愛結婚から始めてより愛情を育てていくことを考えていくべきではないだろうか。
 もう一つ提案したいのはマリッジサポーターの拡充である。既述したように茨城県では県内の各地域において結婚支援を行うボランティアの「マリッジサポーター」にお見合いのセッティング等を委嘱し、全県的に結婚支援を実施している(*63)。マリッジサポーターは「おせっかいさん」と言われることもある(*64)が、以前の日本では地域や親戚、職場におせっかいを焼くマリッジサポーターが数多くいたのである。そして多くの若者たちはそのようなサポーターの勧めに従ってお見合いをし、結婚していた。しかし戦後、個人の意思や価値観を尊重する世の中となり、そのようなおせっかいを焼く人々は急速に減少した。岩澤・三田(2005)によれば70年代以降の初婚率の低下の原因は約5割が見合い結婚の減少によるものであり、約4割が職縁結婚の減少によるもの(*65)とされている。現在、未婚者のうち、約90%の人が「いずれ結婚するつもり」という希望を持ちながら独身でいる最大の理由は「適当な相手にめぐり会わない」ことを挙げている。つまり「新たなマッチングシステム」が必要とされている(*66)。そのような「新たなマッチングシステム」の選択肢の一つとしてマリッジサポーターの導入によるお見合い結婚を推進したい。
 若者たちの恋愛に関する国際意識調査(*67)では日本の若者は欧州の若者たちと比較すると「交際すると相手との結婚を考える」割合は42.7%であり、フランス26.4%、スウェーデン32.9%、イギリス24.8%と比較して明らかに恋愛と結婚が強く結びついている状況が伺え、若者達の保守的な考え方が現れている。しかし一方で日本では「気になる相手には自分から積極的にアプローチをする」(20.0%)より「相手からアプローチがあれば考える」(34.9%)割合が高く、受け身の姿勢が強い。そういう意味ではやはり日本において若者達の周囲の「おせっかいさん」が少なからず必要とされている。
 サポートが必要とされる若者達はいかなる者たちであろうか?まずはコミュニケーション下手・恋愛下手な若者たちである(*68、*69)。様々な能力や資質を持ちながらもコミュニケーションが不足しているために結婚に至らない者たちをマリッジサポーターによってアドバイスやフォローしてもらうことで結婚に導いてもらいたい。また年収の低い男性についても女性やその親にそれ以外の条件や個人の資質などに目を向けさせることによって結婚に導くことも可能であろう。
 恋愛結婚と比較した場合のお見合い結婚のメリットを改めて考えるとどのような点が挙げられるであろうか?まず一番目に挙げられるのは「話が早い」と言う点である(*70)。お互いにあらかじめ相手の条件・データを知っている。そしてお互いが初めから結婚を前提として付き合うと言う気持ちがあるので、結婚に結びつくかどうか分からない恋愛と比較するとその交際のあり方は格段に効率が良い。また恋愛と比較してお見合いはお互いに目的がはっきりしており、相手が気に入らずに断る場合も断りやすく、心理的なダメージもお互いに少ない。またお見合い結婚は本人同士や親もお互いの条件を納得した上での結婚であるため、後ろ盾のある結婚である(*71)。そのため安定性が高く、離婚も少ない(*72)。そして現代においては恋愛結婚とお見合い結婚の差は消失しつつあることも認識すべきだろう(*73)。昔のお見合い結婚は親が決めた相手と一回しか会わずに結婚したような場合も多かったが、現代のお見合い結婚では出会いがお見合いであってもその後の交際期間を経て恋愛感情が芽生えなければ、結婚成立には至らない。逆に恋愛結婚でも先に恋愛感情から入るとしても実際に結婚に至るかどうかは経済や親の同意と言った条件によるので、その点はお見合い結婚と大差はないとも言える。昔は「お見合いは恋愛結婚できない人がするもの」と言うイメージであったが最近はより良い相手を探そうとする人、可能性を広げようとしてお見合いをする人も少なくないという(*74)。
 マリッジサポーターは地域や親族、職場などの未婚の若者達の周囲の者たちにボランティア的に協力を依頼するものである。マリッジサポーターはプライベートな領域とパブリックな領域の中間に位置するような立場で未婚者一人一人の個別性に注目しながらオーダーメイドのサポートをすることになる。マリッジサポーターには現在の若者たちの置かれている状況や先述した意識改革の必要性、男女のコミュニケーション能力の高め方などを学ぶためのマリッジサポーター講座を受講してもらうのが良いだろう。特に職場の上司が部下などのマリッジサポーターとなる場合にはパワハラにならないような細心の注意が必要である。例え上司から勧められた相手を断ったとしてもそれが職場内での人事評価と結びつくことは決してないことを約束するなどの配慮が必ずなされなければならない。
 果たしてこのようなマリッジサポーターにボランティア的に協力してくれる者がどれだけいるであろうか?潜在的にはそのようなサポーターの協力者はいると考えている。その例として高齢者の認知症の方々に対するサポーター、「認知症サポーター」について取り上げて見よう。この制度は高齢社会で必ず問題になる認知症について勉強し、地域においてそのような高齢者をサポートしていく者を増やそうとするものであり、あくまでもボランティアとして様々な職種や立場の人々に呼びかけているものである。現在、認知症サポーターとなった者は800万人を越えており、当初の目標を越えて急速に広がりつつある(*75、H28.9.30現在)。このような広がりは元々地域の人々が高齢者の認知症の方々の問題を身近な問題として感じていたと言う下地があったためと考えられている。それを考えれば、同様に我が国の深刻な少子化の問題を我が事のように感じ、心配している国民は間違いなく相当数いるはずであり、そのサポートをしたいと切実に願っているサイレント・マジョリティーを掴み、動かすのは思った程には困難ではないだろう。しかし認知症サポーターと比較するとマリッジサポーターの方が格段に責任が重いと言う反論もあるだろう。なぜならば認知症サポーターは地域の認知症の高齢者が困っている時に一時的な援助をするだけで済むが、マリッジサポーターは若者達が結婚した後も何かその夫婦の間でのトラブルが起きた時に、間接的な形であれ、責任を感じる立場に立つからだ。そういう意味ではマリッジサポーターを更にサポートするシステムも検討すべきであろう。

まとめ

 日本における少子化の問題を考えるために、現代日本における結婚を巡る状況とそれに対して行われてきた対策を振り返った。そして最後にこれまで行われてきた対策を補う形での新たな取り組みについて二つ提案した。二つの提案とは「意識改革に向けた取り組み(結婚講座など)」と「マリッジサポーターの拡充」である。「意識改革に向けた取り組み」としては現状のような厳しい経済状況下での結婚を考えるための知恵と医学的・心理学的・社会学的知見を踏まえた新しい結婚観やコミュニケーションのあり方を提示することが必要だと考える。また「マリッジサポーターの拡充」は以前我が国においてあまねく行われていたお見合い結婚を新しい形で蘇らせ、若者達の未婚化・晩婚化・非婚化の状況を改善するための施策である。いずれの施策も我が国の少子化問題に本気で取り組もうとした時に必然的に向き合わなければならないものと考えている。ここまで深刻化した少子化の問題に対してどれだけ真剣に取り組み、対処したのか、後代から非難されることがないように、今を生きる我々が責任感を持ち大きな決断をすべき時ではないだろうか?

(図1)出生数及び合計特殊出生率の年次推移(『平成28年版少子化社会対策白書』p2)
(図2)婚姻件数及び婚姻率の年次推移(『平成28年版少子化社会対策白書』p5)
(図3)50歳時の未婚割合(生涯未婚率)の推移(『平成28年版少子化社会対策白書』p7)

 

<参考文献>

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*37『「婚活」現象の社会学』p23-25
*38『「婚活」現象の社会学』p23-26
*39『たりないお金 20代、30代のための人生設計入門』竹川美奈子(ダイヤモンド社)
*40『離婚の心理学』p1-12
*41 NHKあさイチ、2014年5月26日放送アンケート
*42『機能不全家族』西尾和美(講談社+α文庫)
*43『離婚で壊れる子どもたち』棚瀬一代(光文社新書)
*44『愛着障害』岡田尊司(光文社新書)
*45『共感する女脳、システム化する男脳』サイモン・バロン=コーエン(NHK出版)
*46『なぜ女は昇進を拒むのか』スーザン・ピンカー(早川書房)
*47『ベスト・パートナーになるために』ジョン・グレイ(三笠書房)
*48『愛するということ』エーリッヒ・フロム(紀伊国屋書店)
*49『人はどのように愛するのか』R・ドライカース(一光社)
*50『愛すること、生きること』M・スコット・ペック(創元社)
*51『ポジティブ・サイコロジー』クリストファー・ピーターソン(春秋社)
*52『現代の結婚・離婚』日本家族心理学会編集(金子書房)
*53『ケアの本質』ミルトン・メイヤロフ(ゆみる出版)
*54『「人格教育」のすすめ』トニー・ディヴァイン、ジュンホ・ソク、アンドリュー・ウィルソン編(コスモトゥーワン)
*55『恋愛しない若者たち』p317-319
*56『結婚の社会学』p154-156
*57『「婚活」現象の社会学』p157-159
*58『恋愛しない若者たち』p264-265
*59『純潔の近代』デビッド・ノッター(慶應義塾大学出版会)p81~108
*60『恋愛しない若者たち』p205-206
*61『結婚の社会学』p156
*62『愛するということ』p5-19
*63『平成28年版少子化社会対策白書』p78
*64『平成28年版少子化社会対策白書』p75
*65『「婚活」現象の社会学』p83-84
*66『「婚活」現象の社会学』p84
*67『平成28年版少子化社会対策白書』p99-100
*68『「婚活」現象の社会学』p71-72
*69『必勝婚活メソッド』p15
*70『必勝婚活メソッド』p14-15
*71『「婚活」現象の社会学』p76
*72『大学で大人気の先生が語る恋愛と結婚の人間学』p81
*73『「婚活」現象の社会学』p79-80、p72-73
*74『必勝婚活メソッド』p14、p30
*75『認知症サポーターキャラバン』ホームページから

政策レポート
石井 洋 平和政策研究所客員研究員

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