福祉支援提供者間における信頼の役割

福祉支援提供者間における信頼の役割

2020年7月14日
家庭基盤充実
組織内における信頼

 世界の研究者の間では、福祉支援を提供する組織が支援の効果を向上させようとするとき、組織のメンバー同士の、あるいはメンバーから組織への信頼(Trust)が土台となるという見解が広がっている。このうち、メンバーから組織への信頼に関して、韓国・龍仁大学のチョン・スンヨン(Jeon Sun Young)氏は次のように述べている。「組織への信頼とは、(組織のメンバーが)組織に降りかかるリスクを、他のメンバーまたは組織自身の方針や意図に関する肯定的な期待に基づいて、前向きに引き受ける心理的状態を指す。」言い換えれば、組織が業務上自分にとって良いやり方で行動する、または少なくとも不利益になる行動をしないと想定できるため、時間や労力を投入しようと思える心理状態であると言える。

信頼とイノベーション

 チョン氏によると、組織のイノベーションには「情報システムの利用」(utilization of information system)と「教育・トレーニング」(education and training)が関係しているが、これらは組織への信頼が高い状態でこそ、効果を発揮するという。ここで、「情報システムの利用」とは組織メンバー間の情報共有や円滑なコミュニケーションを表し、必ずしもICTを意味しない。「教育・トレーニング」にはOJTや研修、担当した業務へのフィードバックが相当する。
 チョン氏は、組織への信頼と「情報システムの利用」、「教育・トレーニング」の関係の実証を試みた。まず、情報システムと教育・トレーニングが組織のイノベーションと関係しているかを確認した。ソウルの社会福祉部門に勤める400人の職員を対象にアンケート調査を行い、321人から得た回答を点数化して回帰分析にかけた。すると、この二つの要素が「組織のイノベーションにともに統計的に有意な正の影響を持っていた。」(情報システムの利用(β=0.225, p=0.01)、教育・トレーニング(β=0.202, p=0.01)。ともにβの符号が正であるため、正の関係がある。〈注〉)
 次に、組織への信頼が情報システムの利用と教育・トレーニングの効果に影響を持っているかが調べられた。組織への信頼と情報システムの利用、教育・トレーニングそれぞれの交互作用効果(moderating effect:ある要素による変化が別の要素の影響を受けること)を調べると、これも両方とも統計的に有意であった(情報システムの利用がβ=0.164、p=0.006で、教育とトレーニングがβ=0.249、p=0.000)。
 つまり、「情報システムの利用」「教育・トレーニング」はともに組織のイノベーションに正の影響力を持つが、影響力の大きさはメンバーから組織への信頼の程度に左右されることを示された。信頼は福祉支援の効果にもつながると言える。

信頼形成の要素

 多職種連携において信頼形成の要素を提示した研究も存在する。ワシントン大学(アメリカ)のシーン・ミクレス(Sean Mikles)氏らは、ICTによる子供の発達情報共有システムを構築するにあたり、職種間の信頼度がどのように形成されるかを調べた。
 ミクレス氏らは、子供の発達支援に関わる様々な職種の人々に調査に参加してもらい、対面ないしは電話でインタビューを行った。調査の参加者は、小児科医やソーシャルワーカー、家庭訪問にたずさわる看護師、チャイルドプロテクションチームの職員、親、保育士等の早期教育者など46人である。親たちは多くがワシントン大学のコミュニケーション調査参加者プールから、子供の発達の遅れや障害に基づいて選ばれた。インタビューは1〜2時間で、子供の発達障害の発見・治療のために行われた活動に関する質問や、子供の発達に関する情報を蓄えるためにオンラインデータシステムを用いることへの感想が聞かれた。
 インタビューからは、参加者が他の専門職に抱く信頼は、大きく三つの観点について相手から得るイメージが関係していることが分かった。一つ目の観点は相手の「有能さ」(competency)である。「有能さ」の評価には協働領域の技能、プライバシー保護の技能、専門職の業務環境や識字などの一般的な技能が含まれていた。二つ目の観点は「博愛」(benevolence)である。参加者は相手の専門職が主に子供に対して親身になっているかを重視していた。そして、三つ目は「誠実さ」(integrity)である。「誠実さ」には、相手が専門職なら子供の発達障害などを見極める際に安易な決めつけをしないか、親なら本気で子供の最善を願っているかに関するなど印象が含まれていた。

信頼形成の課題

 このように、職種間の信頼形成のための要素は複雑であるため、職業上の背景の違いから相手を正確に理解できず、信頼形成が妨げられる場合も多い。例えば、ミクレス氏らによれば、「有能さ」の一つの要素である業務環境について、日常的に現場で子供と接しているコミュニティの代表は小児科医の知見を信頼しにくい。コミュニティ側からすると、小児科医が子供に接する時間は「極めて短く、子供はいつも医者の仕事場にいるわけではない」ため、信用できないということになりやすいという。また、あるセラピストがチャイルドプロテクションチームからの情報を「彼らはいつも大量の仕事に圧倒されている」と評価するケースもあった。そのようなすれ違いが前述した信頼形成の要素ごとに存在し、複雑に絡み合っているという。
 ミクレス氏らは、「専門家集団の間で信頼の形成に失敗すると、専門の境界を守るためや他の専門職による判断に対する否定的な認識から、情報共有を拒否する」ことが起こりやすいと述べる。職種間の相互理解を深める仕組みが必要だと言えよう。
 以上のように、ソーシャルワークの分野において、組織内部や関係者間で信頼を適切に形成することは重要である。しかし、特に多職種連携において、知識体系や考え方の違う専門職間では誤解が生じやすく、信頼形成はそれほど容易ではない。本稿では紹介できなかったが、多職種がともに行う研修などによって違いを把握し、他の専門職に対する理解を深めることが重要となるだろう。

注 βは標準化係数。Pは有意水準を表す。

 

参考文献

Jeon, S. Y. (2019) The effect of information system utilization and education and training on organizational innovation in public social welfare officers: Focused on the moderating effect of organizational trust. Asian social work and policy review, 14(1), pp.45-52.

Mikles, S. P., Haldar, S., Lin, S. Y., Kientz, J. A. and Turner, A. M. (2018) Trust and sharing in an interprofessional environment: A thematic analysis from child development support work in the community. AMIA annual symposium proceeding, pp.1415-1424.

コラム
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少子高齢化の進展や深刻な児童虐待の発生にともない、福祉支援の向上が重要な検討事項となっている。世界の研究動向によれば、組織内部や多職種連携の場で上手く信頼を形成することが効果的な支援提供に必要なことがわかってきている。 編集部