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政策提言

「戦略的朝鮮半島政策」確立への提言

―日米韓の連携を軸として―

2016.10.10
 

提言要旨

 

Ⅰ はじめに――なぜ朝鮮半島政策が必要なのか

 わが国の安全保障政策のあり方を強く規定・拘束し、あるいは政策判断を複雑にしている要因の一つに、日本列島の地政的環境がある。日本はユーラシア大陸の東に浮かぶ島国ではあるが、絶海の孤島ではなく、大陸東端の朝鮮半島に近接する微妙な位置にある。古来より朝鮮半島の動向はたびたび日本の政治や社会に影響を与え、またわが国の安全保障政策を強く規定することにもなった。

 明治期の日本は、朝鮮半島の動向が日本の安全保障と密接不可分の関係にあることを的確に認識し、帝国主義的政策で問題はあったものの、安全保障および経済・社会開発の両面において戦略的対朝鮮半島政策が存在していた。

 しかし、戦後においては、植民地統治の影響等に起因する民族感情の悪化や、南北分断の状況から、日本外交における朝鮮半島政策のプライオリティは低かった。また冷戦期においては、アメリカの対日占領政策や東アジア政策、世界戦略に強く規定、拘束され、日本の朝鮮半島政策は日米関係や対米政策のコロラリー的な(必然的に導かれる結果の)色彩を帯びるものとなった。

 そのため、日本としての明確な朝鮮半島政策を構築する環境や意欲に乏しく、ともすれば状況対応的な外交スタイルに陥り、戦後処理型の外交が主となり、戦略的な外交政策や朝鮮半島の地政的な重要性を踏まえた安全保障政策が構築されることは少なかった。

 冷戦後も、日本の朝鮮半島政策がアメリカの世界戦略や日米関係に規定されること、また「歴史認識」や領土、国交正常化問題など未だ戦後処理外交の色彩が強いことは冷戦期と同様である。しかしその一方、対韓政策(河野談話とアジア女性基金、未来志向の日韓関係、朴・安倍会談等)及び対北朝鮮政策(日朝首脳会談)の双方で、日本が積極的に朝鮮半島問題に取り組む動きも出始めている。

 安全保障面では、北朝鮮の脅威の増大に対応し、朝鮮半島有事の事態を念頭に置いたガイドラインや防衛計画大綱の改定、ミサイル防衛システムの整備など、戦後初めて朝鮮半島を視野に収めた安全保障政策が策定されるようになった。ただ、北朝鮮対処に関する日韓の防衛連携については未だ手つかずの状態が続いている。

Ⅱ 戦略的朝鮮半島政策の構築に向けて

1.政策構築に際しての留意点

(1)朝鮮半島が持つ地政的な重要性を改めて認識する

 一衣帯水の地である朝鮮半島の動向は、わが国の生存と独立、発展に密接不可分に関わっている。特に、冷戦後における北朝鮮の核・ミサイル開発に見られるように、軍事技術や輸送手段の急速な発展に伴い、朝鮮半島はこれまで以上に日本の生存に死活的な影響を及ぼす地域になっている。朝鮮半島の平和と安全は即日本の平和と安全の問題でもある。

(2)朝鮮半島を取り巻く国際環境・情勢を適切に把握する

 アメリカの東アジアにおける影響力や存在感の低下に伴い、それを補う「補完役」として、日本の果たすべき役割や使命が増している。東アジア外交の舵取りをこれまでのようにアメリカのみに委ねるのでなく、日米同盟を深化させ強化するためにも、日本としてのイニシアチブが必要な時代に入っている。そのためには、戦前の植民地政策の深い反省のもとに、朝鮮半島に対する明確な認識と将来的なビジョンを描き、それを日米韓で共有することから始めなければならない。

 アメリカが存在感を弱めているのとは対照的に、北東アジアにおける中国の影響力が強まっている。度重なる経済制裁にも拘わらず北朝鮮が崩壊しなかったのは、政治体制や国内事情に加えて、中国が水面下でこの国への支援を続けてきたからでもある。反発と抵抗を受けながらも、中国は北朝鮮を見捨てず、常にその体制存続に動いてきた。それゆえ、北朝鮮問題を考える際には、必ず隣国中国の立場や動きに細心の注意を払う必要がある。

(3)大きなウェート占める北朝鮮の軍事的脅威の高まり

 朝鮮半島情勢を考察する際、北朝鮮の軍事的脅威の高まりと同時に、北朝鮮の閉鎖独裁体制が抱える脆弱な側面への対応についても検討を怠ってはならない。現在の金正恩体制が直ちに崩壊するとは考え難いが,一枚岩で強圧的に見える現体制もあっけなく崩壊する可能性も否定出来ない。北朝鮮に関しては、暴発と内部崩壊の二つのシナリオを念頭に置く必要がある

(4)基本的価値観を共有する韓国との友好・信頼関係を基本とする

 朝鮮半島政策を考えるにあたっては、韓国の立ち位置の変化を見落としてはいけない。日本としては、自立化を強める韓国が新たなアイデンティティや外交における役割、機能発揮について模索し、希求している様を冷静に受けとめるとともに、日米との連携一体化という冷戦当時の行動原理が今や唯一絶対的な尺度ではなくなりつつあるこの国の現実を踏まえた上で、より強固な同盟関係構築の在り方を探る必要がある。 

2.朝鮮半島政策のフレームワーク

(1)日米同盟を基軸とした対応

 北東アジアに対するアメリカの関与を導くための核となるのが、日米の同盟関係である。アジア太平洋地域においてアメリカは、二国間の同盟体制からなるハブアンドスポークスの枠組みを重視しているが、そのなかでもコアの役目を担っているのが日米安保体制である。北朝鮮の核ミサイル脅威への対処など日米共通の問題のみならず、拉致問題等日本固有の課題解決のための朝鮮半島政策を展開する際も、アメリカとの緊密な調整と連携の下で取り組むことが肝要である。

(2)朝鮮半島に対する中国の影響拡大の阻止

 北朝鮮問題は実は中国に関わる問題でもあり、朝鮮半島政策は対中政策でもある。中国にとって北朝鮮の存在は、民主化勢力の北進を防ぐ緩衝地帯としての価値を持っている。また、北朝鮮の後見役としての立ち位置が中国の国際政治における存在感や発言力を高めることにもなっている。ゆえに中国は現在、朝鮮半島における現状の維持、即ち南北分断の状況を基本的に支持している。

 しかし、中長期的には北朝鮮だけでなく韓国も自らの側に取り込み、中国主導で南北の統一、再編成を目指すことも考えられる。今後金正恩体制が流動化するような場合、直接北朝鮮に介入して親中直轄の政権樹立に動くケースも想定に入れておかねばならない。

 中朝関係が緊密化する場合も、逆にぎくしゃくする場合のいずれのケースにおいても、中国が朝鮮半島に対する自らの影響力拡大に動く危険性があり、そうなれば中国の覇権は一挙に日本海にまで及ぶことになる。わが国としては、朝鮮半島に対する中国の影響力拡大や南下膨張を阻止し、また中国の影響圏に組み込まれる形での統一という事態の回避に動く必要がある。

(3)戦略的視点と長期的ビジョンの確立

 わが国にとって死活的に重要な地域である朝鮮半島に係る政策立案にあたっては、日本外交にしばしば見られた状況対応あるいは現状追随の外交から脱却し、より「戦略的」でかつ「長期的」な視点に立脚した政策を築き上げるべきである。

 「戦略的」とは、国との友好や親善、あるいは対立関係の和解それ自体を外交の目的するものではなく、あくまで日本の国益を精査し、自由、民主主義、法の支配といった原則に基づき、国際社会からも尊敬を得ることのできる政策でなければならないという意味である。「長期的」とは、日本外交の周期性がもたらす過剰介入と孤立閉鎖という振幅の大きい両極端の政策に陥らないということである。近年、嫌韓意識の強まりから、韓国無視や無関与の政策を唱える風潮も生まれているが、一時の感情に流されたこうした排他排除的な政策こそ最も慎むべき選択である。

(4)朝鮮半島統一も視野に

 戦後日本は、朝鮮半島における南北分断の状況をいわば所与不変の前提として外交を進めてきた。しかし戦略的な視点に立ち、中長期的な観点から朝鮮半島政策を構築するとなれば、朝鮮半島の統一問題を除外することは出来ない。

 これまで南北双方は、朝鮮半島の統一に関し種々の提案及び対案を示してきたが、段階を踏まない統一(連邦制)を主張する北朝鮮と段階的な統一(連合制)を主張する韓国との認識の開きは大きく、議論は交わることがなかった。しかし、年々経済力で韓国に水をあけられるなど劣勢に追い込まれた北朝鮮は、統一に関するそれまでの立場を徐々に緩め、韓国に歩み寄る姿勢を見せている。

 金正恩政権の誕生後、南北の関係は対立的側面が強まり、現在、統一に向けた動きが具体化する状況にはない。しかし、将来に向けた統一の枠組みが「一国二政府の連邦制」という方向性を帯びていることから、北朝鮮と韓国の現有政府が共存する緩やかな連邦制度の構築に向けた協力を進めるべきである。

(5)総合的な政策体系の構築

 戦略的な朝鮮半島政策であるためには、特定の国力発揮のみに依存した偏った政策であってはならず、政治、経済、軍事の各手段を包含した総合的な政策体系でなければならない。具体的な政策遂行にあたっては、関係省庁の縦割り行政の弊に陥り、ただ個々の政策を重ねあわせたものでは日本の影響力発揮は望めない。各政策に連環性があり、指向性の高い朝鮮半島政策となすには、首相はじめ政治指導者の強いリーダーシップが不可欠となる。

Ⅲ 戦略的朝鮮半島政策への提言

1.日韓政治:交流強化から和解、さらに相互信頼の関係へ

 現在、日米韓のトライアングルの中で、最も脆弱性の高いのが日本と韓国の間の信頼と協力関係である。現在、日韓関係は改善への兆しが生まれている。このような環境を一時的なものに終わらせず、日韓両国の恒常的な安定と緊密化を実現するための一連の施策が必要である。具体的には、①政治、行政、経済の各界各レベルにおいて対話と交流の促進に努める。②政治分野では、先細りになっている両国国会議員間のネットワークを強化活性化する。③行政分野では、両国官僚の人材交流に着手する。④学術文化では、日韓古代史や中世史から共同研究を始める、などである。相互信頼と共助の同盟関係へと高めていくことが日本の朝鮮半島政策にとって最も重要な課題である。

2.日米韓同盟の強靱化

 最近の北朝鮮の核実験と弾道ミサイル発射によって、日米韓の協調と連携が再び強まりを見せている。この動きを加速させ、日米韓の三国が北東アジアの平和と安定を支える同盟へと発展させるための施策として以下の提言を行う。

(1)日韓戦略対話メカニズムの創設:日韓2+2

 戦略的パートーナーシップの構築を進めるための枠組みとして、現在2+2(外務・防衛閣僚協議)が存在する。2+2は日米間に設けられている日米安全保障協議委員会(SCC: Security Consultative Committee)以外にも、日豪、日英、日仏、さらに日本とインドネシアの間で立ち上げられている。この2+2の枠組みによる協議を通して、各国との間では、物品役務相互提供協定(ACSA)や防衛装備品技術移転協定の締結、共同訓練枠組み等が整備されている。北朝鮮問題や中国への対応など、日本と韓国の間ほど政治、外交、安全保障等各般の分野における情報や意見の交換が必要になっている二国間関係はない。朝鮮半島政策を構築するには、日本と韓国の間にも早急に2+2を設置すべきである。

(2)日米韓戦略対話メカニズムの創設:トライアングル2+2+2

 中国の脅威の高まりを背景に、アジア太平洋地域では既に、日米豪などトライアングルな戦略対話の枠組み整備が進んでいる。米韓、日韓の二国間対話だけでは、日米韓三国の迅速な同盟内調整には不十分である。アメリカの影響力後退が懸念されるなか、朝鮮半島に対するアメリカの関心を高め、その積極的な関与を促すためには日本がイニシアチブを発揮しアメリカに働きかける必要がある。また日本が米韓の橋渡し役となり、あるいは日韓が連携してアメリカの目を北東アジアに向けさせるためにも、日米豪の枠組みをモデルとして、日米韓のトライアングルな戦略対話枠組みの整備が急がれる。

(3)日米韓首脳会談の定例化

 戦略対話枠組みの整備は、閣僚レベルの日米韓三国の情報交換や意見調整には有効であるが、同盟内の政策決定の迅速性と整合性の確保を図るには、戦略対話枠組みの整備に加えて、首脳相互が定期的そして頻繁に会合を重ねる体制整備が必要である。日米及び日韓首脳会談を定例化するともに、三国の首脳が一堂に会し、直接意見を交換して同盟政策の決定に導くための会合を定例化すべきである。

(4)日米韓同盟の常設機構設置

 北朝鮮や中国が、日米韓三国の微妙な思惑の違いや足並みの乱れを突き、各個撃破の分断政策を講じれば、北朝鮮を利し、あるいは中朝の接近一体化を招き、さらには韓国の中国傾斜や三国枠組みからの離反といった事態を招く可能性もある。そのような事態を防ぐには、常時日米韓三国の緊密な連携や政策調整が必要である。また複雑に入り組んだ各国の利害を調整するためには、将来的には事務局の設置など組織の常設機構化が求められる。そのうえで、現在安保協力の関係強化が進んでいる日米豪、日米印の三か国関係に日米韓の枠組みを連接させ、重層的な安保協力の体制整備をめざすべきである。

3.朝鮮半島有事と危機対処

(1)日韓防衛協力の充実  

 北朝鮮が攻勢的な姿勢を強めつつある今日、朝鮮半島有事をも念頭に、平時から協力関係を深めていく必要がある(ハードランディングシナリオ)。人については、各級司令部への要員の相互派遣や交換連絡幹部の常駐、情報については、戦術、戦略レベルの情報の収集・交換・分析における相互協力関係の構築、物については、ACSA(物品役務相互提供協定)の締結など後方支援体制の整備が不可欠である。

 また、北朝鮮のミサイル脅威に迅速に対処するうえでGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の早期締結が必要であり、韓国がTHHAD(終末高高度防衛ミサイル)を導入するにあたっては、ミサイル防衛システムの日韓連携も視野に入れるべきである。日本へのTHHAD(終末高高度防衛ミサイル)も検討すべきであろう。

 今後は、朝鮮半島有事の際の調整要領等の習熟を目的とする日韓及び日米韓共同訓練の実施を検討すべきである。さらに、朝鮮半島有事の際の邦人救出体制や北朝鮮崩壊の際に発生が予想される難民対策の在り方を日韓の間で協議する必要があり、両国関係当局者会合の早期開催が求められる。

(2)北東アジア海洋同盟の創設

 アメリカの影響力は相対的に低下しており、シーパワーの同盟国である日本の果たすべき役割は増大しつつある。しかし、日本一国でアメリカの肩代わりをすることは不可能であり、それをカバーするのが海洋諸国家との多国間連携である。日米安保を軸(ハブ)とし、多くの海洋国家との連携協力の枠組みをスポークとして整備し、海洋の自由と海洋秩序の安定を実現する海洋同盟を形成する(海洋同盟構想)。

 海洋同盟のメンバーは、ASEAN加盟国や台湾、オーストラリア、ニュージーランド、南太平洋の島嶼諸国、さらにインド洋のインド、スリランカ等海洋の自由使用が自国の生存と経済活動を支えている国々がその対象となる。海洋の自由使用、領土の不可侵と領有権問題の平和的解決、海賊・テロ・密輸対処、それに遭難に対する海難救助や津波地震等の震災害への迅速な対処をめざす海洋ネットワークの構築をともにめざす。さらに、シーパワーとしての韓国を参加させて、北東アジア海洋同盟を築く。

(3)敵基地攻撃能力確保の本格的検討:専守防衛原則の修正  

 北朝鮮は、すでに複数のミサイルを同時に発射する能力を保持している。日本に向けて多数の中長距離ミサイルを同時に発射された場合、ミサイル防衛システムだけですべてのミサイル攻撃を防ぐのは事実上不可能である。隙間のない安全保障体制を構築するためには、わが国を取り巻く現実の厳しい国際情勢を冷静に受けとめ、これまで手つかずとされてきた専守防衛の原則についても検討を加え、巡航ミサイルや対地攻撃力のある戦闘機の整備など、敵基地攻撃能力の保有についても本格的に検討すべきである。ただし、それは日韓防衛協力の充実と、日韓の信頼関係が醸成されていることが前提となる。

4.重層的地域協力のコアとしての日米韓連携

(1)北東アジア地域協力機構の立ち上げ

 首脳会談の定例化や常設機構創設などの機能強化が図られた段階で、日米韓同盟の枠組みをベースとして、北東アジア地域協力のための枠組み作りに着手するとともに、同枠組みとASEANやSAARC(南アジア地域協力連合)、さらにはEU等他の地域協力機構との連携を図り、地域主義ネットワークの構築へと繋げていくべきである。さらには、台湾を加えての東アジア地域協力の枠組み整備も検討に値しよう。

 朝鮮半島の長期的な安定を確保するためには、北朝鮮による核ミサイル開発を断念させることが重要な課題であるが、金王朝を崩壊させること自体が政策の目的となってはならない。北朝鮮に対する強硬政策だけでは、追い込まれた北の暴発を惹起する危険性があり、また北朝鮮の中国傾斜を加速させるだけに終わろう。

 日米韓に求められる朝鮮半島政策は、北朝鮮を中国ではなく日米韓の影響圏の中に引き寄せ、取り込み、平和的にその体制を変革させるためのアプローチであるべきだ。こうしたアプローチが功を奏し、北朝鮮が核を放棄することが確実となった場合、体制保障、経済再建のための包括的な支援を提供する主体となるのも日米韓であり、支援の円滑な実施を可能にするためには、三国の緊密な連携と調整を図るための場の設置が不可欠である。

(2)北東アジア信頼醸成メカニズムの創設に向けて

 日米韓同盟の地域協力機構としての整備と機能発揮が進んだ段階で、日米韓の同盟ネットワークを母体に、当事国の北朝鮮及び中国とロシア他を加え、6カ国協議に代わる恒常的な地域安保協力機構を新たに立ち上げることも視野に入れるべきである。北朝鮮に即時の体制変更や核の完全放棄を迫るよりも、まずは北朝鮮にIAEAの査察を受け入れさせ、その代わりに周辺諸国が北朝鮮の安全を保障し、その孤立感を和らげることが肝要であり、そのための関係諸国間の信頼醸成構築及び政策協議の場として安保協力機構は必要である。

 北朝鮮に対する中国の影響力の減殺、牽制に務める一方、中国を協議の場に取り込み、北東アジアの平和と安定の維持に一定の責任を負わせ、その行動に制約を課すことも必要である。

5.南北の平和的統一への寄与

 金正恩政権の最大の関心事は、金王朝の体制存続である。そのため短期間に朝鮮半島の完全民主化や急速な武装解除、非核化をめざすことは、北朝鮮を逃げ場のない状況に追い込むことになり、却って朝鮮半島や北東アジア地域を不安定化させる危険が高い。朝鮮半島における南北の統一は、当面は現在の二国家が併存し、その上に連邦政府を設ける緩やかな統一方式にならざるを得ないのではないか。この緩やかな連邦制の実現に向けて、日米韓の連携の下、日本は朝鮮半島の南北統一に向けた動きに早い段階から参画すべきである。

 朝鮮半島の統一は、日本の地位の低下を加速させるだけとの悲観的な見方もあるが、韓国主導の統一がもたらす朝鮮半島の政治的安定と民主化は、社会主義勢力の伸張を防ぎ、北東アジアの緊張を緩和する。さらに拉致問題の完全解決、南北統一による新市場の獲得機会等わが国の国益にとって大きな意義をもつ事業である。

Ⅳ 結語――脱亜入欧から「入朝入亜」へ

 福沢諭吉が「脱亜論」を著してから1世紀半の時が経過し、時代は大きく変った。いまや世界に占めるアジア太平洋地域の重要性は各段に高まった。それと同時に、日本が位置する北東アジアの国際情勢は緊張の度を強めている。

 そのような情勢のなか、日本の外交はアジアに大きく回帰する必要があり、日本外交の視座を再び朝鮮半島に据え置く時期が来たといえる。そして、覇権主義の横溢や抑圧と独裁の体制がアジアに広まることを防ぎ、また朝鮮半島に真の平和と発展を実現するには、ともに自由と民主主義を掲げ、唇歯輔車の関係にある韓国との連携を深め、積極的に朝鮮半島問題に関与すべきである。

 それは単に和解や交流促進の域に留まるものではなく、南北の双方を視野に収めた包括的かつ戦略的な朝鮮半島政策の構築に向けた熱き取り組みでなければならない。朝鮮半島の緊張緩和は北東アジア地域及び世界の平和と安定に寄与するばかりでなく、日本の国益にとっても大きな意義を持つ。

 朝鮮半島問題への日本の貢献は、積極的平和国家としての日本の存在感をアジア諸国及び世界にアピールし、平和的な戦略大国の評価を勝ち得る契機ともなろう。「脱亜入欧」から「入朝入亜」へ。アメリカの影響力の後退と強まる中国の覇権主義を前にして、日本には地政的視座と戦略的発想に立ったアジア外交の展開が求められている。その嚆矢となるのが戦略的な朝鮮半島政策であり、21世紀日本のアジア外交の成否は、まさに一衣帯水の地である朝鮮半島に対する取り組みの如何に関わっているのである。

 

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