世界中を震撼させるロシアの新兵器開発とその狙い

世界中を震撼させるロシアの新兵器開発とその狙い

2020年2月20日
原子力推進式巡航ミサイル実験中に事故

 2019811日付の共同通信記事によると、ロシア北部アルハンゲリスク州ニョノクサ近郊のロシア海軍の海上実験場で8日爆発事故が発生し、実験作業にあたっていた原子力企業職員5人が死亡。ロシア国防省は8日、ジェットエンジンが爆発し6人が死傷したと発表したが、近隣のセベロドビンスク市は8日に一時的な放射線量の上昇が記録されたと発表。この事実を受けて米国の専門家は、ロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイルの実験中での事故との見方を示した。
 もしその推測が的確であれば、プーチン大統領が201831日に行った年次報告において世界中に提示した、新技術による兵器開発に示された6つの新型戦略兵器のうちの一つ「ブレヴェスニク」であったとの推測ができる。
 こうした原子力推進の巡航ミサイルが空中で事故を起こして放射能を空中にばらまく事態となると、世界中の核汚染が懸念されることとなり、海中で事故を起こした原子力潜水艦とは全く異なる様相を呈する危険があることをまず指摘しておきたい。海水の中では核汚染は閉じ込められるが、空気中ではチェルノブイリ原発事故のように核被害に遭うことはすでに巷間知られているところである。

グローバル大国を目指すロシアの理想と現実

 さて、ロシアの中長期的国家戦略目標は、総合的な国力は米国・中国には劣るものの、政治・軍事的に独立した真の主権国家の立場を維持し、柔軟かつ臨機応変な外交・安全保障政策を展開することにより、グローバルな大国としての地位を獲得するとしている。しかしながら、2018年度のGDP1位米国、2位中国、3位日本、という状況の中、ロシアは12位であり、経済力は二流である。
 さはさりながら米ソが対峙していた1980年代のロシアは軍事大国として一目を置かれていたわけであり、その名誉を維持することにかけては多くのロシア国民の賛同を得ている。さらにロシアは、先端技術による兵器開発、すなわち、量はともかく質的側面では世界に先駆けようとの意図を明白に示しており、それが31日のプーチン大統領年次報告演説であったことが窺われる。かかる方針はロシア国民も歓迎している。
 加えて、ロシアは国土面積で世界一であるが、人口は1位中国、2位インド、3位米国に比較してロシアは9位と、国土面積と人口のバランスが極めて歪になっている。それは東へ東へと国土を拡大してきたロマノフ王朝の野望が、ここにきて国土防衛のための経費の拡大を余儀なくさせ現在では負の遺産となっているとも考えられる。16世紀後半、ミハイル・ロマノフは、東へ東へと領土を拡大し続け19世紀初頭、アレクサンドル1世のときにウラジオストクに到達したわけだが、今日そのロマノフの野望はロシアの人口が伸びず、逆に防衛面で必然的に大きくなっているという「大きな負の遺産」となっている。

強いロシアに向けた最先端兵器の開発

 いずれにせよ2018年の大統領選挙でプーチンは得票率76%という圧倒的な支持を獲得している。ロシア国民は、より良い生活への変化を期待しがたいが、同時に強いロシアを夢見るロシア人の願いを含むものではなかったのではないかと考える。
 かくしてプーチンの大国ロシアへの夢は、こうして軍事技術優位を獲得することに焦点が絞られてきている。冒頭にも示したように、プーチンは「ブレヴェスニク」のほか、原子力推進海洋多目的兵器(核魚雷)「ポセイドン」、極超音速滑空弾頭装着ミサイル「アバンガルド」、MiG31に搭載され一般的な巡航ミサイル(時速900km)よりはるかに速いマッハ10(時速約12000Km) の極超音速ミサイル「キンジャル」、核弾頭を15個搭載する新型弾道ミサイル「サルマト」、わずか0.5秒で標的を破壊することができるという戦闘用レーザー砲「ペレスベート」、さらに少々古いがロシアと印の共同開発されている固体燃料ブースターと液体推進剤を利用したラムジェット・エンジン搭載の「ブラモス」などなど、航空工学を履修した筆者にとっては垂涎の的である技術開発に邁進しているロシアの技術力に、敬服しているところである。

岡本 智博 中曽根康弘世界平和研究所顧問
著者プロフィール
1943年生まれ。都立日比谷高校を経て防衛大学校(11期)卒業後航空自衛隊入隊。77年幹部学校指揮幕僚課程終了後、航空幕僚監部、航空総隊司令部等を経て、86年から3年間在ソ連邦防衛駐在官として勤務。97年航空開発実験団司令官、統合幕僚会議事務局長を経て2001年退官。元空将。その後、中曽根康弘平和研究所研究員を務めた。

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