1.はじめに
トランプ第2期行政府の外交安保政策を支える安保補佐官にマイク・ウォルツ(50)氏が選ばれており、国防長官にはピート・ヘグセス(44)が抜擢された。二人とも将軍出身ではなく、佐官級将校出身であり、トランプの居住地であるフロリダ州出身で、対中国強硬タカ派である。
ウォルツ安保補佐官指名者は「北朝鮮の脅威は韓国だけの問題ではなく、東アジア全体の脅威だ」とした。また、国務長官内定者のマコ・ルビオ上院議員は「北朝鮮は政府ではなく犯罪集団だ」と指摘した。安保、外交、国防、3本柱のトップ参謀は揃って中国の軍事的·経済的脅威に積極的に対応する共通点がある。
北朝鮮の核・ミサイルに厳しいスタンスであり、北朝鮮を「犯罪集団」、「テロ支援国」と位置づけるなど、「真の反共主義者」である。さらに、「アメリカを急進左派の手から救い出さなければならない」と主張していて、これがトランプ氏に抜擢された主な背景だ。
本稿ではトランプ第2期行政府の韓半島安保戦略と韓国の対策案について考察して見たい。
2.「力による平和」外交安保
ホワイトハウスの安保補佐官に抜擢されたウォルツ氏は、陸軍特殊部隊のグリーンベレーと州防衛軍で27年間服務したベテラン軍人である。大統領の外交安保分野の最高位参謀として核心的な役割を果たすホワイトハウスの安保補佐官に戦場の経験が豊富な特殊部隊出身者を初の安保補佐官に起用するのは、「力による平和」というトランプ大統領の外交安保政策の基調を象徴している。
3.トランプ行政府の在韓米軍撤収はあるか
一部、専門家の間ではトランプ行政府は在韓米軍を撤収させる可能性が高いと、言われている。
しかし、結論から言えば、在韓米軍の撤収はありえないと言える。
韓半島の地政学的位置は大陸勢力を牽制する橋頭堡であり、米国にとっては戦略的要衝地だ。従って、世界最大の米軍基地が韓半島の西側、平澤に位置している。米共和党の政策指針にもアメリカの対中国戦略に韓国が重要だという点を強調している。米国が直面している最大の懸案である対中関係を考えると、韓米同盟と日米同盟は東アジアとインド太平洋の平和・安保を支える二輪の軸(linchpin)になっている。
トランプ当選者が就任すれば、在韓米軍駐留費増額を強要するための交渉手段として米軍撤収を交渉カードとして使うことはできる。しかし、在韓米軍の減縮可能性はあるものの、実際に米軍を全面撤収するということはあり得ないと考えられる。因みに、米国議会は2020年12月、上院と下院で在韓米軍を2万8500人以下に減少することを禁止する国防授権法を過半数以上の賛成多数で通過させた。米議会は国防授権法を通じて、在韓米軍の兵力を最低2万2000人以下に減らすことを禁止したのだ。これより少なく在韓米軍の兵力を削減するためには、米国議会の承認を得なければならない。したがって次期、トランプ政権の在韓米軍完全撤収は事実上、実現し難い。トランプ当選者の思惑は 在韓米軍の撤収や削減が目標ではなく、それを交渉カードに在韓米軍防衛費負担金の大幅増額を得るという意図が隠れている。
過去、米国政府は在韓米軍駐留に必要な費用は2兆ウォンであり、韓国と米国は半分ずつそれぞれ1兆ウォンを負担することで合意した。どころが、2019年当時、トランプ1期政権は1兆389億ウォンの5倍を超える約50億ドル(約6兆ウォン)を韓国政府が在韓米軍防衛費として支払うべきだと要求した。したがって、2019年に韓米防衛費分担金交渉が決裂したことがある。一方、2021年、米国と日本政府は在日米軍駐留を支援するための日本の防衛費分担金を5年間で約92億ドル(1兆500億円)で合意している。
4.在韓米軍の主な役割
在韓米軍の役割は、韓半島の安保だけでなく、米国の東アジアの核心利益を保護するための重要な役割だ。特に、在韓米軍の持続的駐留は、対中牽制の役割が何よりも大きい。
因みに、トランプ大統領は第1期在任中、金正恩の親書を受け取り、快く米朝首脳会談の席に座った。その背景には、中国を包囲・牽制しようとする米国の外交路線に北朝鮮が前向きに協力すると約束した可能性がうかがえる。つまり、米国の外交戦略である中国包囲・牽制路線に北朝鮮が米国の味方になるという条件付きでCVID(完全核廃棄)政策の見直しを求める駆け引きをした可能性があったと推定される。レーガン大統領が軍備競争を通じて旧ソ連を崩壊させたように、第2期目のトランプ大統領は、中国の分離独立、解体を目指し、中国に対する封じ込め外交路線を強化する可能性が高い。中国は石油と食糧を海外から輸入しており、19カ国と国境線を境にして周辺国に包囲されている。しかし、米国は世界80カ国と同盟・協調関係であり、最大の産油国であり大手食糧輸出国である。米韓同盟と日米同盟は韓半島の安保を保つ二本柱であり東アジア平和を維持する礎である事を再認識する。
5.韓国の対策案
韓国はトランプ氏の在韓米軍撤退言及が交渉を有利に導くために投げかけた言葉だという点を認識すべきだ。一方的な撤退に言及せず、駐留費増額50億ドルを交渉しようということだろう。最大の要求交渉で相手の譲歩を引き出すトランプ氏は、「取引の技術(Art of the Deal)」という名著を作った自分を「交渉の名手」だと考えている。
韓国もトランプ氏を相手にできる交渉の名手にならなければならない。トランプ氏は尹錫悦大統領との電話で、韓国の造船工業能力を高く評価しており、アメリカ海軍艦艇の修理整備を期待すると述べた。さらに、韓国の原子力発電建設受注を付け加えることになれば、ギブ・アンド・テイクのビッグディールとなり、韓米はお互いにウィンウィンできる契機になるものとみられる。
6.北核問題解決の選択肢
近年、米国のシンクタンクや専門家の間では“韓国が核武装を決定したら米国は前向きで支持すべき”と言うオピニオンが出回っている。
米朝は30年間、対話→対話決裂→緊張→挑発→対話再会→対話決裂の悪循環を繰り返しながら北朝鮮は時間稼ぎで結局、核武装した。
北朝鮮の核保有は日本をはじめ韓国、台湾の核武装に名分を与える。日、韓、台湾の核武装こそ、中国が最も怖がる最悪のシナリオだ。韓国は、北朝鮮が万が一核攻撃したら核反撃を浴びて共倒れすると言う「恐怖の均衡」を備えるべきだ。宋鍾奐教授(元駐米公使、駐パキスタン大使)は恐怖の均衡を整えるために、3つの政策を提言している。
まず、米国は北朝鮮が核廃棄・核凍結に応じなければ戦術核を再配置すると、事前に発表する。
第二に、NATO式の戦術核兵器共有:ドイツ・ベルギーなど5カ国同盟国の米軍基地に戦術核弾頭を配置して核弾頭は、米国が管理して、有事の際はNATO当該国の戦闘機が投下するシステムを備える。
第三に、米国の了解の下、韓国の条件付核開発を協議する。即ち、北朝鮮が核廃棄した場合は韓国も核開発を中止する条件付きだ。
因みに、NPT(核拡散禁止条約)10条には“緊迫な核脅威に直面している国はNPT脱退が出来る”と記されている。従って、北朝鮮の核脅威に直面している韓国と日本は核開発の名分が発生する。
7.まとめ
過去の戦略は、戦って勝利することに目的があったが、核時代の戦略は、戦争の抑止(deterrence)に焦点が合わせられた。戦わずして勝利することが核時代の戦略目標になった。レーガン大統領の核戦略は戦わずして勝利した代表的な事例である。
米国際政治学者キシンジャー博士は、『核兵器と外交政策』(1957年)著書で「国家が核武装するのは“暗黙の不可侵条約”を締結することと同じ」と主張した。
恐怖のバランスによる韓半島平和が定着すると、東アジアの安全と平和を保障してくれるに違いないと考えられる。
(2024年11月14日)