2024米大統領選の行方を占う ―バイデン・トランプいずれが優位か?第三の候補者は?―

2024米大統領選の行方を占う ―バイデン・トランプいずれが優位か?第三の候補者は?―

2023年12月22日
1.年明け早々から始まる大統領選挙戦

 米国では、2024年の年明け早々から大統領選挙が始まる。1月15日に行われる共和党のアイオワ州党員集会から候補者選びが始まり、3月5日のスーパーチューズディ(各州の予備選・党員集会が集中する日)などを通して州毎に各党が大統領候補に相応しい人物を選ぶ手続きが進められ、7〜8月の党全国大会で正式に党の候補が決まる。そして11月5日が大統領選挙の投開票日だ。党の候補者に選ばれるため、各候補が遊説や政治広告、討論会などで凌ぎを削る真冬の時期から本選挙が実施される11月まで1年近い長丁場の戦いだ。
 その間、各候補者の評価や支持率は大きく変動するのが常であり、また時々の国際情勢や経済情勢なども影響し、事前の予想とは大きく異なる展開となることも過去に度々起きている。近年では2008年の大統領選挙がそうだった。国務長官を務めた民主党のヒラリー・クリントン候補が絶対優位との事前予測を覆し、無名に近かった新人のバラク・オバマ候補が選挙戦開始後急激に支持を伸ばし大統領の座を射止めたことは記憶に新しい。そのため次期大統領の座を勝ち取るのは誰か、現時点で正確な予測を立てることは難しいが、これまでの選挙戦の動向や各候補者のプロフィール、実績、さらに選挙での争点などを分析し、当選可能性の高い候補者を絞り込んでみたい。その前にまず、米大統領選挙のシステムを簡単に押せておこう。

2.米大統領選挙のシステム

 米国の大統領選挙は4年に一度(オリンピック実施の年と同じ)行われる。日程は全国党大会を境に、前半の予備選挙と後半の本選挙の二つの選挙に分かれる。予備選挙は、民主党と共和党が、それぞれ大統領候補を決めるために各州毎に行うもので、大統領選挙が行われる年の1月から6月頃まで実施される。予備選挙の方法には、投票で代議員を選ぶ選挙(primary:狭義の予備選挙)と、話し合いなどによる党員集会(caucus)がある。党員集会は政治への関心が高まるが、地域実力者の意向が反映されやすいとの指摘もある。
 以後予備選挙は全米各地で実施され、6月末には終了する。最近は、3月上旬に南部諸州が一斉に予備選挙を実施する日(スーパーテューズデーと呼ばれる)が大きな山場になっている。この問、名乗りを上げていた候補者が次々と消えてゆき、大統領候補者が絞り込まれてゆく。この予備選挙で両政党とも各州毎に候補者1人が選び出され、最終的には夏場に行われる両党の全国党大会で正式に大統領候補が指名される。全国党大会は、大統領候補と副大統領候補の指名受諾演説のほか、大統領選挙に向けて党の考えを記した綱領の承認等が行われる。


 一方、本選挙は11月の「第1月曜日の次の火曜日」に投票が行われる。選挙権があるのは18歳以上の米国民だが、投票をするには、事前に有権者として自分の名前を選挙管理委員会に登録する必要がある。投票は大統領を直接選ぶのではなく、それぞれの候補者を支持する大統領選挙人を選ぶ間接投票の形式がとられている。選挙人の数は州の人口に応じて割り当てられ(最多のカリフォルニア州が55人、アラスカ州等数の少ない州では3人)、各州で勝利を収めた候補がその州の選挙人全員を獲得する勝者総取り方式がとられている(メーン州とネブラスカ州の2州を除く)。そのため人口の多い州で勝利することが戦略上重要となる。全米50州とワシントンD.C.に割り当てられた選挙人の合計は538人で、その過半数の270人を獲得した候補者が当選となる。民主・共和の支持が拮抗している州で人口が多いフロリダ州やオハイオ州が接戦州として常に注目される(4)。
 大統領選挙を勝ち抜くには巨額の資金が必要になる。個人献金や政党からの献金に加え、近年急速に増加しているのが政治活動委員会(po1itica1 action committee)PAC)からの献金である。米国では企業や労組、団体が候補者や政党に直接政治献金を行うことが禁じられている。しかし1974年の連邦選挙運動法の改正で、PACを経由して間接的に政治献金を行うことが認められた。PACは個人(企業の役員や大口個人株主、団体職員等)から資金を集め候補者へ献金するほか、候補者と相談すること無しにPAC自身の判断で特定の候補者を当・落選させるための選挙広報活動が行える(独立支出)。
 大量に資金を集め影響力が大きいものはスーパーPACと呼ばれる。スーパーPACは無制限に資金を集めることが許され、テレビのCMなどを利用して対立候補へのネガティブ・キャンペーン等様々な広報活動を実施している。従来のPACでは個人献金に一人年間5千ドルまでの上限があったが、2010年の最高裁判決で上限なく献金を集めることが可能になり誕生した。連邦下院候補者の選挙資金の40%はPACからの献金といわれている。

3.バイデンVSトランプ:再度の決戦

 結論めいたことを先に述べれば、今年の大統領選挙戦は、現職大統領である民主党のバイデン候補と、4年前そのバイデン氏に敗れた前大統領である共和党のトランプ候補の一騎打になる可能性が高い。両候補とも積極的な支持の下で選出されるのではなく、民主・共和両党とも、この二人に代わり得るだけの魅力ある候補者を擁立できないからだ。
 新鮮味に欠け、いわば手垢のついた高齢候補に対して米国民の期待感や支持も高くない。両候補の好感度はともに40%前後で推移しており、「不人気どうしの戦い」と揶揄されている。しかし消去法的選択でゆけば、いまのところこの両者以外に最終の候補に残る者はいないと見られている。以下、バイデン、トランプ両氏を中心に候補者のプロフィールを見ていこう。

4.共和党

(1)トランプ候補 起訴されたことで支持率アップ

 再び大統領の座を目指すトランプ氏は23年1月28日、東部ニューハンプシャー州の共和党の州集会で「ここから大統領候補として始動する」と出馬宣言した。トランプ氏の経歴やキャラクター、大統領としての治績、さらに202年大統領選挙を巡る騒動などは既に広く知られているため本稿では省略し、大統領選再出馬に関する情報に絞ることにする。
 現在、トランプ氏は議会襲撃や機密文書持ち出し、南部ジョージア州での大統領選転覆疑惑等4つの事件で起訴されている。そのため裁判での自らの弁護に膨大な時間を割かなければならず、並行して選挙戦を戦うには難しい状況に置かれており、さらに支持率の低下を余儀なくされる恐れもある。しかし、これまでのところ起訴された事実そのものはトランプ陣営のハンデにはなっておらず、他の共和党候補者を大きく引き離しリードしている。
 23年9月2日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、共和党有権者の59%がトランプ前大統領を24年大統領選で党の最有力候補だと見ているとの世論調査結果を報じた。この数字は4月の調査から11ポイント増えている。また48%は起訴されたことでトランプ氏に投票する可能性が高まったと回答し、支持する可能性が低くなったと答えた16%を大きく上回っており、起訴されたことで逆に「支持が強まった」と同紙は分析している。トランプ陣営は、被告人として撮影された前大統領の「マグショット」(逮捕時などの顔写真)をプリントしたTシャツなどのグッズ販売を始め、数日で710万ドル(約10億4千万円)の資金を調達した。418万ドルを集めた日もあり、トランプ氏陣営が1日で調達した額として過去最高を記録している。
 起訴されたことが大統領候補としてのイメージダウンにならず、逆に支持率向上さえ見られる点について米保守系メディア「ニュースマックス」のジョン・ギジー記者は、田中角栄との類似性を指摘する。ともに政治的アウトサイダーで、しかも司直の手にかかる身でありながら、逆にそれが一般庶民との距離を埋め、国民の代弁者とのイメージを有権者に与え根強い人気を維持しているというのだ。

(2)デサンティス候補 ミニトランプの限界

 高齢のトランプ氏が再出馬宣言をしたことを受け、若い候補者を求める声にこたえる形で登場したのがフロリダ州知事のロン・デサンティス候補だ。ハーバード大法科大学院を修了し、検事や連邦下院議員などを経て18年の知事選で初当選。その後、リベラルな価値観の広がりに対抗する「文化戦争」を積極的に仕掛けることで知名度を高め、22年知事選では圧勝で再選を果たした。在学中に海軍に入り、イラクに駐留した経験もある。76歳のトランプ氏に比べ44歳と若く、目立ったスキャンダルもない。
 デサンティス候補の主張はトランプ氏に近い。「偉大な米国の復活」というスローガンはトランプ氏の「米国を再び偉大に(Make America Great Again:MAGA)」に似ており、移民問題もトランプ氏と同様、「国境の壁」建設の必要性を訴えている。保守層を基盤とするのも同じだが、トランプ氏との違いを打ち出すため、保守強硬派への肩入れを強める傾向にある。より右寄りの立場を取り、宗教別人口の約4分の1を占め、聖書の記述に忠実なキリスト教福音派の票を、トランプ氏からもぎ取ろうとしているのだ。“ディズニー叩き”もその一つだ。
 地元フロリダ州にはテーマパークのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートがある。同知事はディズニーがアニメ作品の中に、LGBTQ(性的少数者)キャラクターを加えたり、学校でLGBTQに関する教育を制限する「ゲイと言わないで」法案に反対していることを強く批判し、22年にはディズニーワールドへの税優遇を廃止する法律に署名している。
 またデサンティス候補は人口妊娠中絶反対の立場を鮮明にし、22年には妊娠6週目頃とされる胎児の心拍確認後の人工妊娠中絶を原則禁止する法律を成立させている。


 22年11月の中間選挙でトランプ氏が推す上院選の候補が相次いで敗れたことで、共和党内で「本選で民主党に勝てる候補」として一時期デサンティス氏への期待感が高まった。しかし、23年3月の調査ではトランプ氏(47%)がデサンティス氏(46%)を逆転。9月2日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルの調査では、デサンティス知事を共和党の最有力候補としたのは13%で、4月の調査から11ポイントも減少するなど、以前ほどの勢いが失われている。苦戦の背景には、差別化を図ろうとして人工妊娠中絶などで過度に保守的な政策を打ち出し、「反トランプ」の党内穏健派の支持を逃していること、またリベラル派との「文化戦争」を扇動することで、米国社会の分断を一段と深めているとの懸念や批判を招いていることが原因と思われる。
 さらに外交政策に未経験なことも不安材料だ。中国に強硬姿勢をとる一方で、ロシア・ウクライナ戦争を米国の国益とは無関係の「領土紛争」と呼んで軽視したことが物議を醸した。ウクライナ支援の必要性を説く共和党主流派の反論に遭い、数日後には発言を訂正、ロシア批判とウクライナ寄りの立場に大きく軌道修正したが、トランプ候補と同様、孤立主義的な思想の持主ではないかとの懸念が強まった。
 デサンティス氏はトランプ氏が大統領在任中、親密な関係を持っていたプーチン大統領を「戦争犯罪人」と断じ、また英国、イスラエルなど同盟各国を歴訪、各首脳らとの会談を通じ、「西側陣営の結束」の重要性を確認するなどトランプ氏との立場の違いをアピールするが、年齢的に若返っても単なるミニトランプで新鮮味や魅力にも欠けるという評価が定着し、かっての勢いは見られない。

(3)ラワスワミ候補

 べビック・ラワスワミ候補はインド系米国人でバイオテクノロジー関連の起業と投資で成功した実業家。1985年生まれの38歳。共和党で初のミレニアル世代(80年代前半〜90年代半ば生まれ)の大統領候補だ。ラマスワミ氏に政治経験はないが、白人以外の人種的マイノリティーや若者の支持が民主党に劣る共和党にとって、ラマスワミ氏は支持者の「多様化」を期待できる経歴の持ち主でもある。
 もっともラマスワミ氏は女性やマイノリティーの権利拡充を図る民主党を批判。大学の入学選考でマイノリティーを重視する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)の廃止や移民受け入れの厳格化を提唱している。また人種やジェンダーを巡る差別や不平等に強い問題意識を持つ人を指す「目覚めた」という意味の言葉「woke」を逆手に取り、「反Woke(ウオーク)」を合言葉にリベラル派を攻撃、「意識が高いことを気取って、価値観を押しつけている」と批判している。

(4)ニッキー・ヘイリー候補

 インドからの移民2世で州議会議員を経て、保守系の草の根運動「ティーパーティー(茶会運動)」の支援を受けサウスカロライナ州で初の女性知事となった。共和党内では数少ない非白人の女性政治家として、早くから有望な大統領候補とみられていた。2017年からはトランプ政権で国連大使を務め、トランプ大統領を代弁する形で、アメリカ第一主義の立場を強く主張し、保守派などからその手腕が評価された。多くの閣僚や高官がトランプ氏と衝突したり更迭され政権を離れる中、国連大使を離任する際にもトランプ氏との良好な関係を維持した数少ない人物とされる。選挙では、共和党内の反トランプの穏健派や無党派浮動層、大都市圏に居住する女性層の獲得を視野に入れた戦術をとっている。ヘイリー氏は、過去2回のテレビ討論会で評価を高め、アイオワ州では2位のデサンティス氏を追い上げ、ニューハンプシャー州ではデサンティス氏を抜き2位に躍り出た。
 また共和党有力支援者の大富豪チャールズ・コーク氏の政治団体や米金融大手JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者から支持を取り付けたほか、民主党の有力献金者リード・ホフマン氏からトランプ阻止の目的で献金を受けるなどバイデンに勝てる候補との評価を高め、トランプに次ぐ2番手争いで優位を占めつつある。高齢のバイデン候補に対し51歳のヘイリー氏は若く、非白人の女性でマイノリティの支持も期待できるうえ、今後裁判でネガティブな情報が出かねないトランプ候補よりも有利な戦いを展開できる可能性がある。初の女性大統領を目指すが、副大統領候補としてトランプとペアを組むケースも考えられる。
 このほか前ニュージャージー州知事でトランプ前大統領批判の急先鋒であるクリス・クリスティー氏も出馬宣言しているが、支持率は10%未満で本選挙進出は難しい。多数の候補者の出馬は、党員の3〜4割の岩盤支持層を持つトランプ氏に有利に働く。共和党の候補指名レースは、得票トップの候補がその州に割り当てられた代議員を総取りする方式を採用する州が多く、候補者乱立で票が割れれば、小差でもトランプ氏が首位に立てる可能性が高まるからだ。

5.民主党

(1)バイデン候補

 バイデン大統領は23年4月25日、次期大統領選に向けて再選出馬を正式に表明した。就任時には「1期限り」とも言われたが、22年11月の中間選挙で民主党が善戦し党内の求心力が高まった。後継者や有力な対抗馬は見当たらず、民主党の大統領候補はバイデンでほぼ決まりといえる。バイデン候補は急進左派を除けば党内に幅広い支持があり、共和党右派の過激な主張を嫌う無党派層も取り込めるとの計算が働いている。バイデン氏はトランプ氏のような強力な岩盤支持層を持たないが、反面、敵対者も少ないのが強みといえる。
 その一方、バイデン氏には三つの弱点がある。第一は高齢であること、第二は副大統領の評価が芳しくないこと、そしてトランプと同様に疑惑問題を抱えていることだ。まず年齢だが、就任時から「史上最高齢の米大統領」で、2期目末まで務めれば86歳になる。NBCニュースが4月に実施した世論調査によると、70%が「バイデン氏は再選出馬すべきではない」と回答。このうち半数が年齢を主な理由に挙げる。AP通信の8月末の世論調査では成人の77%がもう1期4年を務めるには「高齢すぎる」と回答した。それでも民主党内で本命視されるのは、前回と同じトランプ氏との対決を想定し「勝てる候補」と見込んでいるからに他ならない。本人は、衰えへの懸念があることは承知の上で「仕事ぶりを見てほしい」と自信満々だが、大統領在職中の失言や記憶違い、また扱けたり倒れたりすることが度々あり健康への不安や懸念は強い。政権の内幕を描いた本(「The Last Politician」」によれば、大統領は時折周囲に「疲れたと感じている」と漏らしているという。
 次に大統領選挙でコンビを組む副大統領だが、現職のハリス副大統領については政権発足当初からその能力に疑問が呈されている。民主党内では「世論での不人気や政策実行力の不足」を理由として、ハリス交代論が燻っている。だがバイデン氏は大統領選にはハリス氏と共に挑戦すると繰り返しており、いまのところ他の候補に入れ替える考えはないと見られる。高齢のバイデン氏の身体に何か起きた場合、事実上の大統領としてバイデン氏に代わり米国を率いるのは副大統領になるわけで、ハリス氏をランニングメイトとして良いものか?選挙戦での集票力でもマイナスに働くと思われる。
 第三に疑惑問題がある。トランプ氏と同様、バイデン氏も複数の疑惑を抱えている。副大統領時などに機密文書を持ち出した疑惑で特別検察官の捜査を受けているほか、共和党はバイデン氏が副大統領だった時、次男ハンター氏が父親の影響力を利用し、役員を務めていたウクライナの天然ガス企業などから多額の報酬を受け取り、バイデン氏自身も利益を得ていた、またバイデン氏はハンター氏が役員を務めるウクライナ企業への捜査を止めさせるためウクライナ側に検事総長の解任を求めた、さらにハンター氏の税務処理の不正などを巡る捜査で、米司法当局がバイデン氏に配慮して手心を加えたなどと主張している。昨年9月、マッカーシー下院議長(当時)は、バイデン氏がハンター氏の事業に不正に関わり政治的な影響力を行使した可能性が強まったとして、弾劾訴追に向けた調査を開始するよう下院委員会に指示、12月には調査開始を正式決定する決議案が下院で採択された。調査の手法が変わるわけではないが、「弾劾審査」の呼び名によって「疑わしさ」の印象を強め、バイデン氏のイメージダウンに繋げる戦略だ。
 また次男ハンター氏を巡る疑惑やスキャンダルもある。ハンター氏は薬物を使用していないと虚偽の申告をしたうえで銃を不法に購入した罪や、海外事業で得た収入に対する税逃れなどの罪でこれまで二度起訴されている。米国の現職大統領の子供が起訴されたのは初めて。再選を目指すバイデン氏には痛手となっている。なお民主党の指名争いには、ディーン・フィリップス下院議員や作家のマリアン・ウィリアムソン氏も名乗りを上げたが、いずれも支持率は一桁に留まり指名獲得の可能性は低い

(2)ポストバイデン候補

 「バイデン氏が出馬する場合、自らは大統領戦に出ない」と公言しているが、ポストバイデンの最有力候補がカリフォルニア州のニューサム知事だ。2028年大統領選に狙いを定めているともいわれるが、仮にバイデン氏が出馬を辞退するような事態になれば、急遽24年の選挙に打って出る可能性は十分にある。

6.第三の候補者

(1)ロバート・ケネディ候補

 ジョン・F・ケネディ元大統領の甥で、暗殺されたロバート・F・ケネディ元司法長官の2男ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が出馬表明している。当初民主党からの出馬を模索したが支持が広まらず、無所属での立候補となった。ケネディ候補はハーバード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスを経て、バージニア大学法科大学院で法務博士号を取得。29歳で連邦ワシントン地区の検事補に抜擢され、将来は伯父の後を継いで正統派大統領候補になるのではと見られていた。ところがその直後、ヘロイン保持で逮捕され、2年間の保護観察および刑罰としての地域奉仕を命じられた。その後、環境問題を扱う弁護士として活躍中だ。
 ケネディ候補の叔父テッド・ケネディ上院議員が1979年に大統領選に出馬して以来、ケネディ家から大統領候補が出るのは44年ぶりだが、かってほどのケネディ旋風は吹いていない。コロナ災禍に際しケネディ候補が反ワクチン運動を展開したことが影響している。写真共有アプリのインスタグラムは2021年、ワクチンに関する偽情報を繰り返し共有したとして同氏のアカウントを削除した経緯もある。話題にはなっても、有力な大統領候補とは言えない。バイデン・トランプ氏との三つ巴の戦いになった場合、リベラル票をケネディ候補と取り合うため、バイデン氏には不利に働こう。

(2)コーネル・ウェスト候補

 アフリカ系米国人の哲学者、政治思想家で進歩派活動家としても著名なコーネル・ウェスト氏は23年6月、大統領選に第3党から立候補すると発表した。ツイッターに投稿したビデオで「この殺伐とした時代に、私は真実と正義のために、『人民党』の候補者として米大統領選に出馬する形を取ることにした」と語った。このほか 民主党のマンチン議員も第三党での出馬を検討中という。

7.バイデンVSトランプ  主な争点

 有力候補がバイデンとトランプという既視感(デジャブ)の強さに加え、両者とも高齢で、ともに身内や自身が刑事責任を追及されるという前代未聞の大統領選挙となる気配が濃厚だ。そうした中で繰り広げられる選挙戦では、バイデン氏が自らの4年間の実績をアピールするのに対し、トランプ氏がそれを否定し異なる路線を提唱する展開となろう。
 まずバイデン氏の経済政策を見ると、大統領任期の前半、5年間で総額1兆ドル(約130兆円)規模のインフラ投資法、10年間で歳出総額4370億ドル(約56兆8000億円)の気候変動・医療対策法、527億ドル(約6兆8500億円)規模の半導体投資法を次々と成立させ、国主導で経済の活性化や産業構造の転換を目指す「大きな政府」の路線を明確にした。共和党から「社会主義的だ」との批判も出たが、橋や道路の整備工事、薬価や血糖値を下げるインスリン価格の引き下げ、半導体工場の新設など多くの国民に恩恵を実感できる政策だった。そして景気はコロナ禍から順調に回復。「1200万人以上の新規雇用を生み出した」とバイデン氏は胸を張る。
 だが景気は回復したものの、米国は歴史的な高インフレに見舞われ市民生活を圧迫、なかでもバイデン氏が重視する中・低所得層は好景気を実感できずにいる。それが40%前後というバイデン氏に対する低い支持率となって表れている。22年半ばをピークにインフレ率は低下基調に向かってはいるが、なお高水準で推移している。トランプ氏は「米国の家庭は半世紀ぶりのインフレで壊滅的打撃を受けた」とバイデン氏を激しく批判。バイデン政権は「失敗」だとし、「共に再び米国を偉大にしよう」(MAGA)と自身への支持を呼び掛けている。バイデン氏にとっては、好調な経済を維持するだけでなく、インフレを抑えることによって国民が豊かな生活実感を得られるかどうかが勝利の鍵となろう。
 外交政策では、まずウクライナ支援の在り方が問われよう。総じて米国民のウクライナ戦争への関心は低く、特に共和党支持者の多くはウクライナ戦争への関与や支援に否定的だ。ウクライナに好感を持っているかとの質問に対し「持っている」と答えたトランプ氏支持者は僅か42%。米国は引き続きウクライナに武器を送るべきと考えている人も40%に満たない。共和党候補のトランプ氏やデサンティス氏は、ともにウクライナ支援反対派だ。トランプ氏は、自分が大統領になったら24時間以内に戦争を終わらせると豪語する。バイデン氏がウクライナ支援や中露対処で強い指導力を発揮するためには、米国で強まる孤立主義を抑える必要がある。
 いま一つ、昨年秋に起きたガザ紛争に対する姿勢が大統領選の大きな争点となってきた。バイデン政権のイスラエル寄り政策には、アラブ世界やアラブ系米国民だけでなく、米国の若年層からも反感を買い、11月の世論調査ではバイデン候補への支持率が40%台から30%台に急落、大統領選挙でも集票力低下を招く恐れが出てきた。バイデン政権はロシアのウクライナ侵略を阻止出来ず、ガザ紛争の解決でも指導力を発揮できないことから、米国の影響力後退が取り沙汰されている。オバマ政権以降、米国は二つの戦争への同時対処能力を放棄しており、欧州・中東の対処に手一杯だと、アジアで中国を押さえることも難しくなる。バイデン氏が対露・中東政策のハンドリングを誤れば、自身の再選に赤信号が灯るだけでなく、世界情勢にも大きな影響を及ぼすことになろう。
 社会問題に目を移すと、米国内で問題となっている移民政策でバイデン政権は失点を招いた。バイデン大統領は就任当初トランプ政権の移民排斥政策を厳しく批判し、前政権が進めていたメキシコ国境での壁建設の中止を命じた。ところが移民規制を緩めたため大量の不法移民が流入、2022年10月〜23年9月にメキシコ国境で拘束された越境者数は247万人超と過去最多を記録、受け入れに寛容なニューヨーク市などは移民増大に伴う財政負担重圧に悲鳴を上げている。そのため昨年10月バイデン政権は一転して国境の「壁」建設の再開を認める決定を下し、トランプ時代の政策に立ち戻るという失態を演じた。トランプ氏は、返り咲けば初日に不法移民の子供への市民権付与を制限する大統領令に署名する方針を表明しており、国民の支持を集めることになりそうだ。
 もう一つの大きな社会問題は、価値観を巡る分裂の深刻化だ。民主・共和の政争がさらなる分裂の拡大を招いている。民主党が人種・性的マイノリティーや女性重視の路線を強めてきたのに対し、共和党は都市部の白人カトリック信者と南部の白人の福音派プロテスタントの両方から支持を得るため、同性愛や人工妊娠中絶に反対する価値観を前面に出した『文化戦争』を挑んでいるためだ。
 分裂と対立が強まるなか、22年の中間選挙では民主党劣勢の予想を覆し、共和党の躍進を阻止することができた。その背景には、Z世代(1990年代後半から2010年代前半に生まれた若者達)の存在が関わっていた。彼らの多くが人工妊娠中絶の権利などを求めて民主党に積極的に投票し、予想を覆す結果をもたらしたのだ。次期大統領選挙でも、人工妊娠中絶の問題はLGBTと並び大きな争点になることは間違いない。バイデン氏がZ代の心を捕まえ、リベラルの声を結集できるかどうかが再選の扉を開く一つのポイントとなろう。ただZ世代はバイデン氏のイスラエル寄り政策を強く批判しており、これまでのような集票が期待出来ないことが懸念材料だ。

8.総括

 強烈な敵反対勢力はいないが熱烈な支持者もおらず判断力の衰え目立つバイデンVS何をするか何を言い出すかわからず、手段を選ばぬ一国主義者のトランプ。今回の大統領選挙がこの二人の戦いとなった場合は、究極の消極的選択を迫る選挙、しかも接戦僅差の争いが予想され、現時点で最終の勝者を予測することは難しい。ただこれまでの動向に即して言えば、昨年秋まではバイデン氏やや有利であった。しかしウクライナが反転攻勢に失敗し勝利の目処が立たなくなったこと、さらにガザ紛争の勃発がより大きく影響し、現在ではバイデン氏からトランプ氏やや有利へと情勢が変化しつつある。
 まずバイデン氏がやや有利であった理由だが、確かに共和党支持者の中ではトランプ候補の存在感が抜き出ている。だが米国全体で見た場合、現職を押しのけるほどの集票力があるかは疑問だ。特に選挙で重要な「勢い」を見ると、トランプ人気は依然高いが4年前程の勢いは感じられない。一方、バイデン政権の支持率は40%前後で推移してきたが、民主党支持者に限れば86%もの支持がある(共和党支持者では僅か2%の支持)。次男の疑惑スキャンダルは民主党支持者にとっては決定的ダメージになっていないようだ。


 米国における民主・共和両党の分断対立は激しく根強い。民主党支持者の多くは「トランプ復活阻止」を絶対目標に掲げている。仮に共和党の候補者がトランプ以外の人物になる場合、民主党支持者の投票意欲はさほど盛り上がらないだろう。だが本選挙がバイデン・トランプ両氏の2度目の対決になった場合、民主党支持者は反トランプで団結結集し、バイデン候補の集票力が一挙に高まることが予想される。バイデン氏にとって願ってもない展開だ。バイデン候補が大統領に相応しいとは思わずとも、トランプ候補を落とすためならバイデン候補に一票を投じる。バイデン支持というよりも“トランプ憎し”のエネルギーがバイデン氏を押し上げる構図だ。
 このバイデン氏やや有利の状況が中東政策の躓きで崩れていった。一般に大統領選挙では現職が有利だ。歴史的に見て現職大統領が再選で敗れるのは、カーター大統領のように“弱い指導者‘のレッテルを貼られるか、ブッシュ(父)大統領のように経済を悪化させた場合だ。バイデン大統領はどうか。経済を見ると、いま米国では物価高騰が問題になっているが、景気そのものは好調だ。だが外交では、アフガニスタンからの米軍撤退時の混乱に加え、ウクライナ戦争やガザ紛争の解決で指導力を発揮できず、米国の影響力低下や弱い大統領のイメージを作り出し、自らの再選を危うくしている。
 政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」が纏めた各種世論調査の平均では、仮に2人の争いとなった場合、全米での支持率はトランプ氏が45.4%、バイデン氏が44.9%とトランプ氏僅かに優勢で、政治献金の額もトランプ氏(5670万ドル)がバイデン氏(4470万ドル)を上回っている(23年11月時点)。最後にバイデン再選の条件を纏めれば

①共和党候補者がトランプ氏になること
②景気回復と物価上昇の抑制で、国民に生活の豊かさ感を与えられること
③ウクライナ支援やガザ紛争解決で国民の支持を勝ち取る外交手腕を発揮すること
④Z世代の支持を得てリベラル票を掘り起こすこと
⑤失言や老化現象を表面化させず、また副大統領候補を見直すこと

 この5つの条件の多くをバイデン氏が達成すれば、かろうじてトランプ氏の追撃をかわし再選に途が開けるが、そうでなければ厳しい結果に終わろう。但し、いずれの候補者が当選しても、深刻化する米国の分断対立は解消出来ず、米国民は投票日の直前まで魅力ある第三の候補者の登場を待ち望んでいる。

(2023年12月20日、平和政策研究所上席研究員 西川佳秀)

国際情勢マンスリーレポート
2024年は米大統領選挙年であるが、トランプとバイデンの争いと見られるも、さまざまな不確定要素も多くその推移に注目が集まっている。世界各地での紛争が起きている中だけに、米国の行方は極めて重要である。

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