子供の体験活動が発達に与える影響

子供の体験活動が発達に与える影響

2021年12月23日
自尊感情や外向性などが高い傾向に

 9月に公表されたのは文科省の「令和2年度 青少年の体験活動に関する調査研究結果報告」である。子供の成長と環境の影響について文科省と厚生労働省が共同で行っている「21世紀出生児縦断調査」(2001年〈平成13年〉に出生した子供を18歳まで年1回の頻度で調査。サンプル数は各年2万4千人〜4万7千人)のデータを用いて、家庭環境や父母の収入、親子の関わり、子供の体験などを、時系列を踏まえて分析した。
 小学生の頃の自然体験、社会体験、文化的体験や読書、手伝いなどを多く行った子供は、高校生の時に自尊感情や外向性(自分のことを活発だと思う)、精神的な回復力(新しいことに興味を持つ、自分の感情を調整する、将来に対して前向き)といった項目の得点が高い傾向にある。異年齢の子供と遊んだり、自然の中や空き地などで遊んだ経験によっても、同様の傾向が見られた。
 このうち、自然体験では主に自尊感情や外向性、社会体験では向学校的な意識(勉強、授業が楽しい)、文化的体験は全ての意識に良い影響が見られた。例えば、12歳(小学6年生)の頃に自然体験と17歳(高校2年生)の自尊感情を見ると、体験が多い子供は自尊感情が29.4ポイント、少ない子供は27.9ポイントだった。
 また、読書量が多いほど、新奇性追求(新しいことに興味を持つなど)、感情調整(自分の感情を調整するなど)、肯定的な未来志向(将来に対して前向きなど)といった精神的な回復力や、向学校的な意識に良い影響が見られた。7歳(小学1年生)の頃の読書冊数が多い子供は、14歳(中学2年生)の頃の「向学校的な意識(楽しいと思える授業がたくさんある)」の割合が74.1%、少ない子供は66.8%だった。
 手伝いも、自尊感情や外向性を高め、精神的な回復力、向学校的な意識などに良い影響が見られた。

家庭環境に関わらず良い影響

 また、今回の研究では、貧困など家庭環境の影響についても分析している。体験が充実している子供の家庭は収入が高いなどの傾向があるが、収入の水準が相対的に低い家庭でも小学生の時に自然体験活動に恵まれていると、家庭環境に関わらず得点が高くなった。
 こうした分析から報告書は、「全ての子供たちが置かれている環境に左右されることなく、体験の機会を十分に得られるように、家庭ではお手伝いや読書の習慣を身に付けるようにする、地域では放課後などに地域の大人と遊びを通じて交流する機会を設ける、学校では社会に開かれた教育課程の実現を目指して地域と連携しつつ体験活動の充実を図るなど」、地域・学校・家庭が協働して「多様な体験を土台とした子どもの成長を支える環境づくり」を進めていくことが、よりよい社会創りにつながると指摘している。
 子供の頃の体験活動と将来の社会性等との関係については、他の調査でも同様の結果が出ている。例えば、「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が今年4月に公表した調査では、子供の頃に生活習慣が確立していた人ほど、大人になって自尊感情や規範意識が高い傾向にあった。家庭に経済的なゆとりがなくても、生活習慣や親のしつけが確立している場合は同様の結果となった。

家族機能の立て直しと愛着形成の支援

 ただ、子供たちの体験の機会は以前より減少している。国立青少年教育振興機構の調査では、学校行事によって体験活動の機会があるものの、学校外の活動に参加する機会は少なくなっている。「地域の子ども・若者の交流活動」や「寄付・募金活動」「環境・自然保護に関する活動」の経験があるという高校生は1割前後にとどまる(『高校生の社会参加に関する意識調査報告書』2021年)。
 さらに、家庭が担ってきた役割、子供の成長発達のための機能が低下していることもあげられる。金子勇・北海道大学名誉教授は「家族機能」について次のように述べている。家族は経済機能だけでなく、「高齢者や子ども、病人や弱者の保護機能」、「子どもを育てあげる社会化機能」、「宗教機能」などを担っている。このうち子どもの社会化機能は、家族の中で言葉を覚え、規則を知り、多くの知識を身につけて、社会的な存在になることである。日本ではこの数十年間で小家族化が進み、こうした家族機能を縮小させてきたと金子氏は指摘する(本誌2018年7月号)。
 また、森口佑介・京都大学准教授によると、子供が将来の実行機能(自制心)や向社会的行動(思いやり)を発達させる上で中核になるのは「アタッチメント(愛着)」、つまり養育者とのやりとりを通じて形成される情愛的な絆だという。アタッチメントから、実行機能や向社会的行動、他者への信頼に発達する(『子どもの発達格差』PHP新書)。
 こうしたことから考えると、「多様な体験を土台とした子どもの成長を支える環境づくり」には、前提として家族機能の立て直しや親子の関係性向上の支援が必要であろう。その上で、体験活動を継続し子育てを支える地域コミュニティの環境整備が求められる。
 ただ、特に都市部における子育て環境は、子供の自尊感情や外向性などを育む上で、また子育て世帯が希望する子供の数を産み育てる上でも、現状は望ましい環境とは言えない。
 それでも一方では、コロナ禍をきっかけに、若者や子育て世代に家庭を重視する意識が高まっている。また、地方への移住指向も生まれている。子供の成長を支える豊かな子育て環境づくりを進めるという意味で、東京一極集中から若者の地方回帰を後押しする政策も重要であろう。

政策レポート

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