親子間アタッチメントが子供の性行動に与える影響

親子間アタッチメントが子供の性行動に与える影響

親子関係への注目

 欧米では思春期の子供の性との関わり方が問題となっている。特に思春期初期の性行動は、多数の相手と関係を持つことや、性感染症、予期せぬ妊娠などにつながることが分かっており、公衆衛生上の大きな関心事となっている。思春期の子供がそうした危険な性行動に従事してしまう主な要因の一つとして、親子関係の影響が注目されている。
 ヴァージニア工科大学(アメリカ)のレイチェル・カーン(Rachel Kahn)氏らは、親子間の不安定なアタッチメントがリスクの高い性行動を誘発する可能性を指摘している。カーン氏らによれば、親子間のアタッチメントが不安定な場合、子供の中に「将来価値の割引(delay discounting)」という心理がはたらきやすい。「将来価値の割引」とは、後に手に入る大きな利益よりも、すぐに手に入る小さな利益を優先してしまう心理を意味する。カーン氏らは、不安定なアタッチメントがこのメカニズムを介して、衝動的な性行動につながると考えた。
 それを確かめるため、カーン氏らはアメリカで親子間のアタッチメントと子供の性行動に関する質問票調査を行った。調査の対象は220人の子供(12〜18歳)とその親である。質問票のアタッチメントに関する部分には、「親は自分を受け入れてくれると思うか」「自分は家ではあまり関心を持たれていないと思うか」などの質問が含まれた。一方、性行動に関する部分では、「性行為時に避妊具を使うか否か」や「性行動を始めたのはいつか」といったことが聞かれた。そして、結果を分析したところ、親子間のアタッチメントが不安定なことは、子供の「将来価値の割引」と統計的に有意であり(p<.05)、危険な性行動への関与も高いことが分かった(p<.01、構造方程式モデリングを使用)。

感情的な側面の研究

 そのような衝動的な性行動を行う子供は、性的関係に補完的な役割を求めている可能性を示唆する研究もある。ランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学(フランス)のキャサリン・ポター(Catherine Potard)氏らは、子供のアタッチメント・スタイルと性行動に対する態度の関係を調べた。
 子供のアタッチメント・スタイルは、安定型と回避型、アンビバレント型に分けられる。このうち、回避型とアンビバレント型は不安定なアタッチメントである。回避型の子供の親は、子供が不安を感じた時に慰めを求めると、それを嫌がってかえって遠ざかる傾向がある。また、アンビバレント型の子供の親は態度が一貫しておらず、慰めてくれるのか否かが分からない。(遠藤ほか、2016)
 それゆえ、子供は親子関係で得られなかった安心感や、自己肯定感を性的関係の中で補完しようとする可能性がある。
 ポター氏らはフランスのトゥール(Tours)で中学校に通う第7学年(12〜13歳)と第9学年(14〜15歳)の子供を対象に質問票による調査をした。アタッチメントと性行動に関する質問をしており、性行動については①「交際」、②「愛情の重視」、③「性的関係が主目的」の三つのカテゴリで評価した。①「交際」はパートナー関係を求める程度と関係が性的なものになる程度(抱擁、接吻、性行為)を、②「愛情の重視」は関係には愛情が必要と考える程度を、③「性的関係が主目的」はできるだけ早く性行為を持つことへの指向を測っている。各項目は6段階で点数化され、アタッチメント評価の点数とともに分散分析にかけられた。

埋め合わせのための行動

 その結果、まず母親とのアタッチメントが不安定な子供は、性との関わり方に特徴があることが分かった。母親に対してアンビバレントなアタッチメントを形成している子供は、「交際」の得点が安定型の子供より高く(p<.01)、パートナー関係に入る割合が多かった。ポター氏らによれば、これは「安心感を得るために性的関係を利用するアタッチメント戦略の過覚醒」であり、「性行為を関係性の質を表すバロメーターと考えている」ことの表れであるという。
 また、母親に対して回避型の子供は「愛情の重視」の得点が低く(p<.05)、パートナー関係に感情的な投入をすることを厭う傾向が見られた。ポター氏らは、回避型の子供は性的関係を遠ざけるか、「性から感情的な交流を排除して関係を持とうとする」か、いずれかの行動をとりやすいと述べている。
 一方、父親とのアタッチメントに関しては、女子の回避型において他と異なる傾向がみられた。父親に対して回避型の女子は「交際」の得点が他より高く(p<.05)、性行動への関わりが高かった。ポター氏らは、父親がアタッチメント欲求に対して一貫した対応をしない場合、「娘は補償的な男性像を求めて、より活発に性的活動を行いうる」と述べている。
 この父親と娘の関係は一つの懸念を呼び起こす。というのも、子供の両親へのアタッチメントは連動することも多く、父親と共に母親に対しても不安定なアタッチメントを形成する可能性が高いからである。つまり、両親に対して回避型のアタッチメントを形成してしまい、感情的交流を重視しないで性的に活発な行動をとってしまう可能性があるということである。これは、予期せぬ妊娠や性感染症のリスクを増すことになる。
 このように、不安定なアタッチメントは将来の心身の健康より、現在の感情的空虚さを埋めることを優先するきっかけとなる可能性がある。
 親との間に不安定なアタッチメントを形成することは、特に思春期に入った子供の性との不健全な関わりに関係している可能性が高い。ポター氏らも、子供が性的活動を始める前に、愛情を通じて、親子の安定した信頼基盤を発達させる必要性を説いている。子供が適切な時期に適切な関係を築けるようにするためにも、親子関係は重要といえる。

 

【参考文献】

遠藤利彦・佐久間路子・徳田治子・野田淳子(2011)『乳幼児のこころ—子育ち・子育ての発達心理学』有斐閣

Kahn, R. E., Holmes, C., Farley, J. P. and Kim-spoon, J. (2015) Delay discounting mediates parent-adolescent relationship quality and risky sexual behavior for low self-control adolescents. Journal of youth and adolescence, 44(9), pp.1674-1687.

Potard,C., Courtois, R., Reveillere, C., Brechon, G. and Courtois, A. (2017). The relationship between parental attachment and sexuality in early adolescence. International journal of adolescence and youth, 22(1), pp.47-56.

政策コラム
子供が不安を訴えた時、親がしっかりと慰めることで安定したアタッチメントが形成される。不安定なアタッチメントが思春期の危険な性行動につながる恐れがある。 編集部

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