開放的性格を帯びた国々を中心とする海洋諸国家との多国間連携の強化

過去における覇権国家興亡の歴史を読みとると、そこにいくつかの歴史的法則を指摘することができる(注)。それらを踏まえると、 21世紀のインド太平洋地域において新たなグローバル文明を主導する国家は、①世界文明を築くことのできる海洋国家である、②権力の集中がさほど強くなく、自由で開放的な政治システムを持つ、③世界各地に展開し、コミュニケーションを維持する力を持つ、④武力による威圧的活動よりも、相互利益の通商交易に通じている、⑤諸外国から支持受容される普遍的なシステムを生み出す力をもつ等の特徴を有する国家でなければならない。

近世以降の覇権闘争のアクターはすべて国家であったが、主権国家を軸とする今日の国際体制は、国際秩序のパラダイムとしてはすでにその頂点の時期を過ぎたといえる。新たなヘゲモニーを握るのは特定の主権国家ではなく、自由と民主主義を掲げ、武力よりも公益を重視する、開放的性格を帯びた国々の同盟を想定することができる。

米国の影響力は相対的に低下しており、同盟国である日本の果たすべき役割は増大しつつある。しかし、日本一国で米国の肩代わりをすることは不可能である。

それをカバーするのが、海洋諸国家との多国間連携である。日米安保を軸(ハブ)とし、多くの海洋国家との連携協力の枠組みをスポークとして整備することで、海洋の自由と海洋秩序の安定を実現する。クアッド(日米豪印戦略対話)がそれにあたるが、その枠組みに、自由思想が自国の生存と経済活動を支えている国々を加え、国際秩序の維持を図るために互いに連携協力を図ることによって、米国の影響力後退を補うという形で新たな文明を発展させていく道がある。

(注)詳細は、平和政策研究所(2017)「環太平洋文明の発展と海洋国家日本の構想―海洋国家連合と新経済秩序の構築ー」を参照。