IPP政策バンクとは

IPP政策バンクとは

冷戦終結から30年が経過した今日、世界は新たな危機の時代を迎えている。米中間の新冷戦やコロナ禍、ロシアによるウクライナ戦争などは、様々な既存の秩序を根底から揺るがすほどの衝撃を与えた。また人間の諸活動は自然環境の条件に不可逆的な変化をもたらし、国境を超えて肥大化する資本主義は富める者と貧しき者の間の格差をますます拡大させている。このような課題は国家の次元を超えてグローバルに共有されるものとなり、地球存続の危機を認識した国際社会は、人類が歩調を合わせて取り組むことのできる指針への合意を模索している。

ポスト冷戦時代の到来は西洋主導型の近代、あるいは「大きな物語」の終焉を意味し、人間生活の価値観の多様化をもたらした。AI技術を含む情報通信技術(ICT)の進歩によって、近年それはさらなる加速を見せている。自由、平等、法の支配、人権などの普遍的価値を脅かす問題は依然として存在しており、日々絶え間なく報じられる国家・民族・宗教間の対立や地球環境問題、生命倫理をめぐる状況などを見れば、その深刻さは明らかである。

日本を取り巻く東アジアの安全保障環境も緊迫の度合いを高めており、台湾海峡および朝鮮半島は大国の利害が衝突する戦略的ホットスポットとなっている。国内においては急激な少子高齢化の進展とともに、家族機能の低下による家族病理、孤立・孤独問題などが顕在化し、地域社会のサステナビリティが問われている。日本は個人から家庭、地域社会、国家、世界の次元に至るまで、様々な問題に直面しており、具体的行動を起こさなければならない分岐点に立っている。

このような国際環境・国内環境のもとで、日本は基本的国益を守り、世界の平和と繁栄に資する道を見出してゆかなければならない。IPP政策バンクは、そのための2030年を見据えた中長期的な国家目標と基本戦略を提案している。「政策提言」は、それを実現するための政策集となっている。

IPP政策バンクは、次のような特徴を持つ。

①文明史をも踏まえた歴史的視野から国内外の情勢を考察し、日本を取り巻く危機の本質に迫る。

②対症療法ではない根本解決の方策を探り、それを踏まえた総合的な戦略を策定する。

③グローバル、リージョナル、ナショナル、ローカルな諸課題の相互関連性に留意しつつ、それぞれの解決に向けて一貫性のある目標を提示する。

④保守、リベラルのイデオロギー的な対立から脱却し、課題解決に向けて両者の問題意識を包摂しうる国家目標の確立を目指す。

IPPではこれまで、「文明と宗教」「グローバルイシュー・平和構築」「平和外交・安全保障戦略」「持続可能な地域社会づくり」「家庭基盤充実」の各分野で政策研究会を開催し、国内外の専門家の分析や提言を踏まえて政策研究に取り組んできた。IPP政策バンクは、その過程で現在までに蓄積された知見をもとにとりまとめた政策集である。完成したものではなく、今後、さらなる研究を積み重ねつつ、情勢変化や最新の分析を反映した改訂と政策の補充を継続的に行う予定である。

基本構図

IPP政策バンクは、第1章で国内外の情勢について検討し、第2章で国家の目標と基本戦略を提示している。

第1章「文明の転換期における日本の課題」では、まず日本を取り巻く国際環境として、ポスト冷戦期の終焉と国際秩序の流動化、米中の覇権競争、東アジア情勢の不安定化、第4次産業革命による社会変革、地球環境問題と循環型社会への転換などについて論じている。続いて国内の重要課題として、少子高齢化と人口減少、失われた30年と国家的活力の喪失、孤独・孤立問題と取り残される社会的弱者、家族機能低下による家族病理の深刻化、自然災害の頻発とインフラ老朽化などの問題をとりあげている。最後に、現代世界の文明史的な位置づけについて検討し、新たなグローバル文明の形成期において日本が進むべき方向性を考察している。

第2章「2030年を見据えた国家の目標と基本戦略」では、それらの課題を踏まえ2030年に向けて日本が国家として目指すべき目標と基本戦略を4つの分野ごとに提言している。目標1「地球規模課題解決へ向けた積極的貢献」では気候変動・環境問題、日本型開発協力、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に向けた社会経済基盤づくり、「人権」と「共生」理念が調和した国際社会の実現などをとりあげている。目標2「平和維持のための外交・安保体制の構築」は日米安保体制、対中国基本戦略、朝鮮半島政策、緊急事態に備えた法整備、資源・エネルギーの確保などに関する目標である。目標3「地域から創る活力ある持続可能な日本社会」は分権・分散・地域自立型社会の構築、地域社会・コミュニティ再生による共助社会の実現、移民政策、ウェルビーイングを高めるSociety5.0の実現、次世代産業の育成などに関する目標を示した。目標4「未来に向けた人づくりと家族機能の充実」では、包括的家族政策による家族支援、子育てフレンドリーな社会の実現、人間性を育む「人格教育」と学校改革、未来創造のための高度専門人材の育成と大学による地域活性化などをとりあげている。

IPP政策バンクの「政策提言」は、これら4つの国家目標と基本戦略を念頭に、それを実現するための政策集となっている。

参考文献