ICT活用で遅れをとる日本の大学
高等教育の国際化は、これまで自国学生の海外派遣や外国人留学生の受入れのように国境を跨ぐ学生の流動性を量的に拡大する、いわゆる「外なる国際化」で進展してきた。しかし、2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、越境を伴う物理的な学生の移動による国際教育は事実上休止している。このようなコロナ禍の下で、ICTを活用した様々な国際教育の試行が広がっている。しかし、世界的に見れば、ICTによる国際教育はパンデミック以前から実践されていた教育手法であり、コロナ禍への緊急対応のために開発されたものではない。コロナ禍により、ICTによる国際教育の意義や価値が再認識され、活用が進んでいるのであり、ポストコロナでも新たな国際教育の様相として普及することが期待されている。
6月に政府の教育再生実行会議が発表した「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について(第十二次提言)」でも、COIL1(オンライン国際協働学習)プログラムの開発・実施など、遠隔・オンライン教育の利点を生かした取組みを積極的に進めていくことが教育の国際化において重要としている。しかしながら、キャンパスでの対面授業中心だった日本の大学は、社会人を含め多様な学生に対して遠隔教育を行ってきた英国、米国、豪州の大学に比べるとICTの活用で大きく遅れをとっている。その原因の一つとしては、ICTによる教育実践に関する専門知識とスキルを備えたスタッフの不足が指摘されてきた。同様に、国際教育においてもジョブ型雇用の欧米の大学では専門職のスタッフが中心だが、メンバーシップ型雇用でゼネラリスト中心の日本の大学では専門的知識とスキルを持つスタッフの不足が課題とされてきた。
国際教育におけるDX
ポストコロナにおいては、パンデミックで急速に広がったICTを活用した取り組みを、一過性のものとして終わらせず、国際教育におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)と位置づけ新たな価値を生み出す契機として捉えるべきである。学生の国際流動性向上に過度に集中していたこれまでの国際化では、国際移動が可能な限られた学生を対象とせざるを得なかった。ICTを活用して諸外国の大学と協働教育・学習を行ったり、大学間で相互に科目を開放し国を越えてオンラインで履修したりすることが容易になれば、環境に配慮しつつ低コストでより多くの学生を対象に包摂的な国際教育が可能となる。これまでも、国内の学習環境にいるすべての学生を対象に、正課と非正課のカリキュラムに国際的及び異文化的な側面を組み込む「内なる国際化」の重要性は指摘されてきたが、その推進にICTを活用した国際教育は大いに寄与できる。
外なる国際化と内なる国際化の融合
まずは、ICTによる国際教育に積極的に取り組むことでノウハウを蓄積するとともに、教育効果・学習成果の把握と検証を進めることが欠かせない。質を伴ったICTによる国際教育を提供できるかが、今後、日本の大学の世界的な評価や国際連携に影響するであろう。そして、ポストコロナでは、渡航による対面での教育交流とICTによる学習活動を効果的に組み合わせるブレンディッド・ラーニングによって、より高い学習成果を得ることを目指す国際教育が普及するであろう。これは外なる国際化と内なる国際化の融合を意味し、高等教育における国際化をより包括的、普遍的なものへと導くことになる。
1 Collaborative Online International Learningの略。ICTツールを活用し、自大学の授業と外国の大学の授業をマッチングさせ、協働学習を行う教育実践の手法。