いよいよ核兵器禁止条約が発効へ

いよいよ核兵器禁止条約が発効へ

2020年12月7日
米国および同盟国不参加の中の条約発効

 20201024日の国連創設75周年記念日にホンジュラスが核兵器禁止条約を批准して発効に必要な50カ国に達し、2021122日に「核兵器禁止条約」が発効の運びとなった。文字通り核兵器の製造・保有・使用などを全面的に禁止する条約として核兵器廃絶を求める国際世論を反映したもので、2017年に国連総会で採択され、各国が署名・批准を進めてきた。国連創設以来、核軍縮を求める動きが進められてきたが一向に核兵器が無くなる気配はなく、ついに核軍縮推進派がしびれを切らしてオーストリアなどの核軍縮推進国とICAN (核兵器廃絶国際キャンペーン)を中心とするNGOが推進してこの禁止条約が採択された。
 しかし、この条約では核兵器の使用だけでなく使用の脅しをすることも禁止されたため、それでは核兵器を使う脅威に基づく核抑止が機能しなくなるということで米国とその核の傘の下で安全保障を確保する米国の同盟国が反対の立場を取り、交渉にも参加せず、採択後は条約に署名しようとする国を止めようとするキャンペーンを展開した。日本政府もこのキャンペーンに加わった。北朝鮮・中国の核脅威に対して米国の核抑止力によって対応するという立場の日本として米国の抑止力を否定することはできないというわけだろう。

再検討会議の行方

 この禁止条約の交渉が始まった時の外務大臣は広島選出の岸田文雄・前自民党政調会長で、何とか交渉の席に座ることはできないかと考えたが、政府の方針に従わざるを得なかったようだ。岸田大臣は、日本政府として禁止条約賛成派と反対派の橋渡し役を務めるとの方針を打ち出した。これを受けて橋渡しのための知恵を出す賢人会議を開くなどしたが、核兵器に対する基本的立場を異にする両派の橋渡しは容易ではなかった。
 これまで条約に参加した50カ国を見ると世界各地の非同盟の国がほとんどだが、注目すべきは中央アジアのカザフスタンと太平洋のニュージーランドが参加していることだ。カザフスタンは集団安全保障機構を介してロシアと同盟関係にあり、ニュージーランドはANZUS条約を介して米国との同盟関係にある。あるいはあった。拡大抑止との関係で微妙な立場にある両国が参加したことは注目に値する。ニュージーランドは核兵器を拒む独自路線を歩んだことから米国との同盟関係は事実上無くなったと見られている。
 20218月に開かれる核不拡散条約再検討会議では、両派が同調国を増やそうとしのぎを削ることが予想される。日本が目指す禁止条約賛成派と反対派の橋渡しを目指すのであれば、まず、米国以下核兵器国が進めている禁止条約反対キャンペーンから距離を置いて、再検討会議が荒れて成果の乏しい会議に終わらないよう尽力すべきではないだろうか。そのためには日本が提唱して再検討会議の前、そして会議開催中に両派の間の建設的な話し合いの場を設けることが考えられる。NATO加盟国の中でもベルギーのように核兵器禁止条約に肯定的な評価を示し始めている国もあるし、カナダでは条約に前向きの態度を取るべきだとの意見も出ている。こうした国と協力して開催するのもよい。

第一回会議における日本の役割

 次に訪れる機会は20211月の発効から1年以内に開かれる核兵器禁止条約締約国の会議で、第一回目の会議は今後の条約運用の基礎を定める重要な会議となる。日本国内には広島・長崎を中心に核兵器禁止条約参加を求める声があり、連立与党の一つ公明党はこの締約国会議へのオブザーバー参加検討を求めている。日本が即座に、条約に署名できないとしても、オブザーバー参加するか、あるいは場外でさまざまな条約賛成派と反対派の溝を埋める活動ができる。積極的検討を期待したい。

  • 例えば、この条約では核兵器の製造・保有・使用が禁止されているだけでなく、他の国がこうした禁止事項をすることを援助・奨励・勧誘することも禁止している。米国の同盟国として米国の通信施設やレーダー・指揮系統を受け入れている場合、これが「援助」と解されれば条約への参加はできない。解釈でどこまで柔軟性を示せるか話し合う。
  • 条約違反を検証する規定の「弱さ」が指摘されているので、賛成派と反対派で合同作業部会を作り、検証措置強化策定作業を行う。
  • 核兵器使用・核実験の犠牲者の支援そして放射能汚染など環境被害の減殺のための活動を両派協力して行う。
  • 核兵器使用がもたらす人道上のおそるべき結果と、国際人道法の適用について認識を広める。
阿部 信泰 元軍縮担当国連事務次長
著者プロフィール
秋田県生まれ。東京大学法学部中退後、67年外務省入省。米国アマースト大学卒業。軍備管理・科学審議官、在ウィーン国際機関日本政府代表部大使、駐サウジアラビア大使、コフィー・アナン国連事務総長の下で軍縮担当国連事務次長(2003~06年)、駐スイス兼リヒテンシュタイン大使、日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター所長、内閣府・原子力委員会委員等を歴任。その後、ハーバード大学ケネディ・スクール・ベルファー・センターで核不拡散・原子力平和利用問題に関するプロジェクトのシニア・フェロー(2018~19年)。

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