海洋学における男女共同参画の推進

海洋学における男女共同参画の推進

2020年6月26日
少ない日本の女性リーダー

 男女共同参画基本法の制定からすでに20年が経った。職業生活における女性の活躍の推進に関する法律(いわゆる女性活躍推進法)の制定からでも5年となる。その中で201912月に世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数中の日本の順位は、153ヵ国中121位であり、前年の110位よりも下がった。その要因には、議員、管理職、大学教授などの女性リーダーの少なさがある。一方で世界での女性の活躍が加速していることを知ることにもなった。かつては男の世界であった海洋の仕事も女性の進出が進む。
 201968日の「世界海の日」のテーマは、“Gender and the Ocean”であった。同年929日の「世界海事デー」でもそれに連動してジェンダーに関する活動がいくつも企画された。2030年までに達成を目指す国連持続可能な開発目標の目標14「豊かな海を守ろう」にも目標5「ジェンダー平等」は不可欠な要素である。わが国の海洋分野でも産官学のさまざまな分野で女性活躍の取組みが推進されている。先進的な例であるが、海上保安庁では、女性船長、女性海上保安部長の任用が進み、昨年はマタニティー服が導入されて、女性の立場に立つ改革を印象付けた。海に囲まれたわが国ゆえに海洋に関わる就労者は少なくないし、需要もある。乗船を伴う仕事にも女性の就労は珍しくなくなった。しかし、未だ少数であり、リーダーシップの育成も足りない。本稿では、将来を担う大学生、それを育成する大学教員や研究者の女性の割合を見ながら、海洋分野の女性活躍を考える。

海洋系の大学や研究機関での女性比率

 大学での海洋学に関連する講座のほとんどは理学・工学にある。2018年度の女子学生の割合は、理学27.8%、工学15.0%であるが、男女の大学進学率が半々となる昨今としては目立って低い。海洋分野についての統計値はないので、東京海洋大学を例にとろう。女子学生の割合は、2019年には3学部で3045%と意外に多い。これは食品生産科学科の65%を含むためだが、それに加えて、自然科学、海洋環境問題、海洋資源問題、防災、沿岸の人間生活に至るまで、海洋への関心が高まり、しかも横断的に広がっている状況が、海洋大学への女子の進学を促したのであろう。また、同大の海洋工学部における女性比率17.5%、船員資格の取得を目指す乗船実習科のそれは11.9%であり、工学分野や船員も将来の女性比率が変わると思われる。
 海洋分野の横断的広がりは、海洋系の大学・学部の改組、カリキュラム改編の一因となっている。先行する東京海洋大学、高知大学、岩手大学などに続き、2022年度には、東海大学の海洋学部の改編、神戸大学の海洋政策科学部(仮称)の設置がある。理系・文系の枠を超えた受け皿の変化は女子学生の選択肢をさらに増やすことになるだろう。
 こうした中でも大学教員の女性比率はなかなか増えない。採用時の女性優先などでの大学の努力は続くが、教授職は特に難しい。理工系全体でさえ2016年度の国立大学全体で女性教授は一桁の2.4%であった。女子学生の低比率や博士課程進学者の減少はあるが、今後も女性教員の微増は続くだろう。変化のためには現役教員がロールモデルとなる相乗効果が求められる。
 男女共同参画白書によれば研究者全体の女性比率は、2018年に16.6%で、国際比較ではここでも29位と低迷する。男女共同参画基本法や科学技術基本法で女性研究者の数値目標が掲げられてきたが達成は難しかった。(国研)海洋開発研究機構の女性比率をみると、2016年に定年制では研究職が9.2%、技術職は8.8%1割以下、若い人が多い任期制では研究職が13.4%、技術職が17.5%2割以下である。大学教員と合わせても海洋科学の研究者や技術開発者の女性比率はまだ少ない。なお、就業の安定は男女に関わらず必要であることは言うまでもない。

海外の海洋研究者の女性比率

 国際海洋学会誌Oceanographyは、2015年の特集号「海洋学の女性:10年後」(Women in Oceanography: A Decade later)で、世界の海洋学研究者の男女共同参画の現状について論考している。その結論には、2005年の特集「海洋学の女性」(Special Issue: Women in Oceanography)発行から10年経ったにもかかわらず進捗は小さく、男女共同参画に資する環境整備を加速し、リーダーシップをとる立場の女性を増やす努力をすべきとある。欧米の海洋分野での女性の活躍が、わが国より遥かに目覚ましい中でのあえて厳しい結論である。例えば、アメリカの海洋学の女子学生の割合は、2016年に学士56.7%、修士60.9%、博士49.3%であり、ほぼ半数になるまま2006年から変わらない。一方、海洋学の研究者の女性比率は、アメリカの代表的な海洋研究6施設の平均で、教授は20%、それ以外は30%超である。この高い比率は、19世紀後半にウッズホール海洋生物学研究所が女性教育協会の支援を受けて積極的に女子学生や女性研究者を受け入れたことによる。今では、その動きが、世界にも広まったと考えられる。

おわりに

 海洋関連分野における女性比率の上昇は世界共通の努力目標である。活躍の場が増えた現代社会、そして国際社会でリーダーシップをとるロールモデルを軸に女性が活躍する今後を期待したい。

窪川 かおる 帝京大学SIRC客員教授
著者プロフィール
東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒、同大学院理工学研究科修了(物理及応用物理学専攻)。博士(理学)。東京大学海洋研究所助手、同大海洋研究所先端海洋システム研究センター教授、東京大学大学院理学系研究科・海洋アライアンス海洋促進研究センター特任教授等を経て、現在、帝京大学SIRC客員教授。専門は海洋生物学。共・著書に『海のプロフェッショナル』、『ナメクジウオ-頭索動物の生物学』、『海洋生物学(翻訳)』など。

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