「武漢ウィルス」後の日本そして世界 ―どんな社会を創りたいか―

「武漢ウィルス」後の日本そして世界 ―どんな社会を創りたいか―

2020年5月13日
1.国内の流れ

1)武漢ウィルスにより、在宅勤務が試行

 在宅勤務は一部情報企業で導入されていた。地方都市で在宅勤務に必要な情報インフラを整備して、大都会からUターン、Iターンの受け皿を成功させた所もあった。緊急事態発令後、在宅勤務が急に拡大普及した。それと併行して、既に兼業や副業を認める動きもあるので、在宅勤務と兼業・副業とがセットで普及していく可能性がある。
 東京の大学に勤務する教員や歌手などが地方都市に住む例を幾つか知っているが、ビジネスパーソンでもこれが当たり前の時代が到来するだろう。そうなると、地方創生とか過疎対策という問題が違う視点から見えてくる。例えば、能登半島のある町は、日本海を挟んで立山連峰が美しく、冬の味覚や男性的に荒れ狂う海岸縁の風景に見せられる地の利を生かして、「ビジネス創生村」を試行するかも知れない。情報インフラの整備や、子ども達の教育環境、最新医療サービスなど住環境整備の他に売り物は、「やる気に満ちた」ビジネスパーソンや研究者などを異業種から集めて、その人たちの交流が知的興奮と想像力をかき立てる仕組みの提供にある。ビジネスパーソンたちは本業に必要な本社オフィスへは毎週一回程度、本社のある大都会へは日帰りできる航空機を使う。異業種交流な起業機会をもたらす。ビジネス創生村では、毎年新しい会社が生まれる。これが地方創生の原動力になる。

2)過疎村をユートピアにできるか?

 AI,ドローン、自動走行車、遠隔健康管理、バーチャルに友人・肉親との交流ができるテレビ会議やその上を行く三次元テレビ交信、愛玩ロボット、野菜工場など種々の技術を組み合わせて、過疎村で安心して一人暮らしできるユートピアにする工夫を提案したい。孤独にさせないことや本来なら近くにいる人間が行うお世話、手助けの多くを心の交流ができるロボットで補完する。その実験村・実証村を希望する自治体から選抜して行う。

3)制度疲労を起こした官僚制度

 折角国内で武漢ウィルス感染の初期に投与すれば効果があると多くの事例があり、かつ  インフルエンザ治療薬として認可されているアビガンの使用に消極的な厚生労働省は、国民の大不評を買っている。これに対して、アビガン以上に後遺症が懸念されるアメリカ発のレムデシビルが、アメリカで承認されるや即刻我が国でも緊急承認された。
 官僚が不信の対象であるのは、これに限らない。元文部科学省のトップクラスが「出会い系バーで貧困調査をした」というスキャンダルがあたかも悪事ではなかったようにまかり通っていることや、中学で使用される教科書の検定で「新しい歴史教科書」が不条理に検定不合格となったことが、文部科学省の腐敗を鮮明にしたとの印象を強く与えた。
 これらは官僚が日本の仕組みの改善すなわち規制緩和を阻害している二つの事例でしかないが、他にも官僚制度の制度疲労の例が多数ある。奇しくも武漢ウィルス問題と、同時発生した教科書検定問題が規制緩和の必要性を再度国民に示し、質していくきっかけとなることを祈る。

2.世界の流れ

1)グローバル路線の行方

 人類には世界の自由貿易を縮小して、それが世界戦争に繋がった苦い経験がある。他方、多くの人々が世界を行き来すると、感染症をまき散らす。では、人の行き来を制限し、物やお金の行き来はなるべく自由であって良いのか。
 もう一つは中国の情報企業が世界の情報通信支配を目指しており、世界中の情報が共産党独裁政権に盗まれて悪用される懸念が顕在化している。そもそも共産党独裁政権は自国民を強制支配するばかりか、少数民族(そもそも中国とは異なる国を形成していた)に対して人間の尊厳を無視して虐待・洗脳していることへ漸く欧米日の国民が気付き、問題は武漢ウィルスに限らないこと、共産党独裁政治そのものの存在に異議を唱える兆しが顕在化してきた。この流れを、単純にグローバル路線から反グローバル路線へというだけでは大事なポイントを表現できない。新しい造語が必要であろう。

2)科学の知見を生かした世論形成へ

 二酸化炭素による地球温暖化、原子力発電所は地震に弱く、福島では拡散した放射能が多くの死者を出した、等々は非科学的な盲信である。プロパガンダが非科学的な盲信を拡散した。
 現代の地球温暖化が地球の歴史のなかで、どのような位置を占めており、温暖化のメカ二ズムには二酸化炭素説以外にもいくつもあることにフタをしてきた。他方、福島原子力発電所事故のあと、なぜ放射線医師たちの発言を封じたのか。
 筆者はエネルギー分野では或程度の知見を持っているが、経済や法律などには素人である。おそらく経済や法律に知見のある人たちには、我が国はおろか世界中が、人類が積み上げてきた専門的知見を無視していることを苦々しく思っているであろう。
 複数の専門分野を横断した判断ができることが重要であるものの、その大前提はそれぞれの分野からプロパガンダを排除することである。
 AIが膨大な知識量を処理できることから、プロパガンダの排除と複数分野の横断から、丁度因数分解あるいは要因分析を高度化した手法で、人間が客観的に判断を下すための素材を提供してくれる社会が到来することを、心から念じたい。

3.おわりに

 折角人類が構築してきたあらゆる分野での知見、AI技術等々を駆使して、よこしまな心が欲する不幸な未来を排除する方向へと文明が進んで欲しいと思う。

新田 義孝 四日市大学名誉教授
著者プロフィール
1944年生まれ。慶應義塾大学工学部卒。同大学院工学研究科修了。その後,(財)電力中央研究所理事待遇などを経て,98年四日市大学教授,現在,同大名誉教授。工学博士。専攻は,地球環境論,資源エネルギー論。日本マクロエンジニアリング学会会長を歴任。主な著書に『小説 四日市大学環境情報学部Dr.新田ゼミ』『21世紀改造』『持続可能な地球をつくるマクロエンジニアリング-トリレンマへの挑戦』他。

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