新中華帝国を画策する習近平政権と日本の対応 ―軍と一体化した反日姿勢とその野望―

新中華帝国を画策する習近平政権と日本の対応 ―軍と一体化した反日姿勢とその野望―

2013年11月28日

 21世紀最大の国際的課題は中華人民共和国への対応である。「21世紀最大の懸念」ともいわれている。脅威とは「意図」と「能力」の積算である。

提言の概要

1.「新中華帝国」の構築を狙う中国の「脅威」を直視せよ

 21世紀最大の国際的課題は中華人民共和国への対応である。「21世紀最大の懸念」ともいわれている。脅威とは「意図」と「能力」の積算である。能力は軍事力、外交力、経済力、文化力などの総合力であるが、中心は軍事力である。意図とは狙いであり、ここに脅威の本質がある。中国の意図と思想は、以下の3点に集約される。

「失地回復」:「清朝の領土」を回復し、新中華帝国の構築を狙う

 19世紀に西欧列強によって奪われ失われた領土を奪取し、新中華秩序を構築する。それが中国の狙いである。彼らが回復すべき正当な領土とは「清朝の領土」であり、それは中国史上最大の版図を誇った時代の領土である。2009年9月に開催された中国共産党第17期第4回中央全体会議(「4中全会」)は、中国が鄧小平時代から進めてきた「韜光養晦(とうこうようかい)」戦術(意図を隠して実力を磨き、時を待つ戦術)を終了させた。現在の中国は、それを実行に移している。まず狙っているのはネパール、シャム(タイ)、ビルマ(ミャンマー)、 フィリピンなどであり、さらに朝鮮半島、尖閣・沖縄(旧琉球王朝)に触手を伸ばそうとしている。

「中華思想」:アジア中全てを中国のものとみる国境概念なき独特の領土観

 中華思想(華夷秩序)は,黄河の中流域(中原)で発生した極端な選民思想である。元々は儒教的な王道政治の理想を実現した漢民族を誇り、中国が世界の中心であり、その文化・思想が最も価値のあるものであると自負する考え方であった。中国史における外国からの政治的危機に際して、しばしば熾烈な排外思想として表面化した。
 中国には「中華思想」に基づく伝統的な領土観がある。中国の領土観 「天下は王土にあらざるものなし」つまり、世界中が全て中国のものということである。この領土観には、ここまでが中国という国境の概念がない。現在の中国は、全盛期に征服した全ての領土まで「中国の神聖にして不可 分な領土」と主張している。 これは、まさに膨張主義、覇権主義に他ならない。中華思想を背景にする中国の国家戦略の核心の一つは、アジア唯一の盟主になることである。

「共産主義」:「失地回復」「中華思想」を強化、対外的覇権主義と弾圧の主要因

 市場経済を導入しているものの、中国は今も社会主義・共産主義国である。統治の仕組みが共産党一党独裁であるため、共産主義は看板として掲げているだけだという認識は間違っている。
 中国共産党規約、要綱はマルクス・レーニン主義を次のように位置づけている。「マルクス・レーニン主義は、人類社会の歴史の発展法則を明らかにし、その基本原理は正しいものであり、強大な生命力がある」(『人民日報』日本語版HPより)。中国における共産主義思想の影響は最も根本的なものである。すでに述べた「失地回復」、「中華思想」を強化し、現在行われている対外的覇権主義行動やチベット、ウィグルでの弾圧や各種の内部混乱の主要な原因となっている。

2.先制攻撃を含む「積極的防衛戦略」をとる中国、習近平政権に対備せよ

敵を欺き奇策を用いる「孫子の兵法」

 中国人民解放軍の戦略思想の中核をなすのは「孫子の兵法」である。2006年に軍事科学院が編纂した「孫子兵法軍官読本」を訓練教材として正式に採用している。2010年に出版された「瓦解戦」(解放軍出版社)には、孫子の兵法、始計編第一「兵とは詭道なり」を「用兵の鍵」として、「謀略と奇策をよく用いて敵軍を瓦解させる」とある。
 一方、西側の兵法は、軍による敵重要点への兵力集中を主眼とする「クラウゼビッツ兵学」を基本としており、それでは対応できない。このままでは「孫子の兵法」の中国によって足下をさらわれかねず、これが脅威の増大の一因となっている。

先制攻撃も含む「積極的防御戦略」、「接近阻止/領域拒否」戦略

 中国は、毛沢東が創始した「積極的防衛戦略」を基本としている。全土をあげて戦う戦略レベルでは、「後発制人」(=攻撃を受けてから反撃する、広大な土地を利用し引き込んで殲滅する戦略)を原則とするが、戦闘地域、戦争目的が限定されている局地戦争のようなレベルにおいては、先制攻撃を含む積極的な攻勢を是としている。
 しかも中国は今、局地戦の勝利にむかって突き進んでいる。80年代、世界規模の戦争は長期にわたって生起しないとの認識から、最高実力者・鄧小平は国土の外側で敵を迎え撃つ「積極防衛戦略」を打ち出し、領土・領海を巡る紛争など局地戦への対処に重点を置くよう転換した。中でも注目されるのが弾道ミサイルであり、米空母や主要艦艇を標的とした対艦ミサイルや弾道ミサイル防衛をかいくぐる終末誘導機動弾道ミサイル(DF21D)の開発である。それが米海軍と海上自衛隊にとって大きな脅威となっている。
 米海軍と海上自衛隊の接近を阻止し、局地領域への進入を拒否する、これが「接近阻止/領域拒否」(A2/AD)戦略である。それは台湾統一、さらにアジアに新中華秩序を構築することを目的としている。

「誇りに満ちた中国」をめざし対外的進出を図る可能性が高い習近平政権

 今後2期10年、2025年ぐらいまでは対日強硬派の習近平政権を相手にしなければならない。第18回共産党大会を経て、習近平新体制は2012年11月15日の1中全会を以て出帆した。習政権は胡錦涛路線を継承しつつも、徐々に路線を変えるだろう。習氏は当日の記者会見において、ついに一度も「平和」という言葉を使わなかった。その内容は、愛国主義を前面に押し出した強硬路線へと対外政策を転換する可能性を示唆していた。
 習総書記は軍との関わりが強く、軍政治委員出身だった鄧小平氏以来の軍を完全に牛耳る指導者となる可能性がある。習近平総書記は中国全土が汚職まみれになり、社会の尊厳を損なっていることを熟知しているに違いない。また、今の中国は金融システムに時限爆弾を抱えている。リーマンショック後の09年から10年にかけて、高成長を維持する為、金融機関から大量に貸し出された資金が国有企業の浪費や地方政府のインフレ投資を促し、バブル化している。バブル崩壊の危機が迫っているのである。
 習近平体制に政治改革を望むことはできない。共産党による統治の正当性を信じ切っている習氏は、党の支配を揺るがしかねない選挙の積極的拡大や、政権交代が可能な複数政党制の容認に踏み切るとは考えにくい。
 中国は今、試練に直面している。国民の不満が年間15万件以上の暴動事件となって表われている。しかし、民衆に武器を向ける天安門事件のような事態を再発させることはできない。習氏の「誇りに満ちた中国」の行く先、それは外国に出る可能性が高い。昨秋11月16日に北京で開かれた軍の会議で、軍服姿の習近平軍事委員会主席は「軍事闘争の準備が最も重要との位置づけを堅持し、国家主権と安全保障、発展の利益を断固として守らなければならない」と強調した。

3.日本は間接及び直接侵略を阻止すべく法的整備に着手せよ

 直接侵略(武力攻撃を受ける状態)されてもその攻撃に耐え(抗堪)ながら排撃し、被害を最小限にする為の国家として国民を守る体制を持っていなければならない。それが排撃力、抗堪・回復力であり、さらに報復力を持つことである。攻撃してくる相手に対して報復する事ができる能力をもって初めて、真の防衛力を持っているといえる。日本はこの報復力に関しては基本的に在日米軍に依存している。それ故日本の防衛力は、在日米軍の存在があって初めて完結するのである。
 しかし、アメリカのアジア戦略に関する議論で、日本や韓国からの撤退に関するものもあると言われる。グアム、オーストラリア、ハワイなどに米軍を配備して対応するという、第一列島線放棄説が出始めている。そのとき、わが国は中国の支配圏に完全に入ることを知らねばならない。今の日本はその瀬戸際にある。

スパイ防止法を制定せよ

 真の抑止力を持つためには、まず間接侵略(スパイ工作)を阻止する体制が不可欠である。間接侵略を阻止するとは、スパイ工作を阻止することである。しかし、わが国にスパイ行為そのものを犯罪要件とする法律がない。

緊急事態基本法の制定と限定的な集団的自衛権行使の容認を急げ

 まず、(1)スパイ防止法の制定、さらに(2)緊急事態基本法の制定が必要である。東日本大震災での教訓を経て、緊急時における現行法の限界が明確になった。さらに領域内外における日米の統合行動を充実させること、すなわち(3)集団的自衛権の行使である。集団的自衛権の行使、それも現状を踏まえて限定的に行使できるようにしなければならない。全ては憲法の改正で完結するということが前提である。

4.独裁国家の隷下には断固入らないという国民の思想武装を図れ

 沖縄の反基地闘争に参加した者の中に、在日米軍がいなくなったら沖縄は中国の影響を強く受け、「中華圏」に組み込まれることになるだろうが、それでも構わないという意見がある。琉球王朝時代は中国王朝の朝貢国だった。しかし清が琉球に攻め入って虐殺などをしたことはない。だから、米軍が出て行っても大丈夫なのだという。
 王朝時代の領域概念はある意味漠然、曖昧なものであった。それゆえ周辺朝貢国に対して従順である限りにおいて穏やかな管理が行われていた。しかし、「近代主権国家」となった中国は王朝ではない。領土、領海、領域、領空を明確にしてどこまで主権が及ぶかを厳格に定める。当然周辺地域、国家との軋轢がうまれる。さらに中国は共産党一党独裁であり、独裁的権力がどこまで及ぶかを明確にしようとする。米軍が去って中国圏に組み込まれるとはそういうことである。
 共産帝国主義国家の隷下には断固入らないという信念、わが国の主権と領土を断固として守るという信念を確立して国民は団結しなければならない。それが国民思想武装の意味である。

5.自由で開かれた海洋秩序構築を目指し、日韓防衛協力を推進せよ

 自由で開かれた国際秩序、海洋秩序の構築を目指すことはアジア、世界の平和と繁栄にとって不可欠である。わが国はアジアの海洋大国である。今後、同盟国アメリカをはじめとする全ての海洋国家と一層協力・連携して自由で開かれた海洋秩序を構築することに貢献しなければならない。それは、中国を国際ルールに関与させようとするわが国の強い意志の表明となるのである。
 しかし、東シナ海が今中国の手に落ちようとしている。東シナ海を守るには、日米と米韓の連携だけでは不十分である。日韓の防衛協力がなければ自由な東シナ海を守ることはできない。日韓の間には領土問題や歴史認識の問題があるが、優先順位がどこにあるかしっかりと見極めるべきである。

6.アジア諸国との連携を強化し、中国の南進を押し止めよ

 中国の南進政策が全開中だ。東南アジア諸国連合(ASEAN)への国家を挙げた中国の進出ぶりが顕著である。この地域に対する中国の狙いは、とりあえず資源調達とその流通ルートの確保にある。無論、碁のようにアジアの覇権確立のための長期的布石という側面もあるが、まずは資源確保の目的が優先されている。資源そのものを狙った行動で目に余るのは、軍事力を背景にした南シナ海における中国の威圧的行動である。
 力の真空地帯が出来ると直ちに中国が動くという煮え湯を飲まされたベトナムとフィリピンを支えることが出来るのは、米国だけでなく日本もしかりだ。安全保障と経済面の双方で日本はこれらのASEANの海洋国家を支えていかなければ、将来は日本そのものが中国の直接的脅威にさらされる羽目に陥ることにもなりかねない。こうした中国の思惑を早期に打破しておかなければ、南シナ海だけでなく、東シナ海や日本海すら、いずれ「中国の海」になりかねない。

政策レポート
外交・安全保障研究部会

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