『人間の安全保障理事会』の設立を

『人間の安全保障理事会』の設立を

2011年3月31日

 現在、世界では深刻な問題が山積しているが、その原因が長年にわたる人種、宗教、植民地政策など一国内を超えたところにあると考えると、問題解決のために宗教の果たすべき役割は大きいと感じる。世界の精神的指導者はその中軸的役割を果たす必要がある。
 しかし今の国連システムの中では、宗教や宗教指導者が行う活動やイベントは経済社会理事会の傘下にあり、NGOの活動として取り扱われている。大量貧困・環境・社会福祉問題などが世界の多くの人々を苦しめているが、国連はそうした問題解決を期待されている。国連の専門機関が世界各地でそれらの問題に対処するために様々なプロジェクトを行っており、それらのプロジェクトをサポートするNGO活動が不可欠である。すなわち、「人間の安全保障」をテーマにしたアプローチで活動するNGOの存在感が高まりつつある。
 このような世界や国連の現状を踏まえ、「人間の安全保障」をキーワードに、平和構築実現に向けた国連改革案を紹介したい。
 現在、国連は6つの主要機関(事務局、総会、安全保障理事会、経済社会理事会、国際司法裁判所、信託統治理事会)によって構成されている。国際的な諸問題は、主に事務局や国連総会によって取り扱われているが、最重要課題に関しては安全保障理事会が深く関与し、大きな影響力を行使している。また、各々の機関の相互関係は不明確である。
 これらの6つの主要機関のうち、信託統治理事会は、その果たすべき役割をほぼ完了したと考えられる。その信託統治理事会を改編し、「人間の安全保障理事会」(Human Security Council)を代替機関として創設するというのが私の提案である。
 今の経済社会理事会の傘下には30以上の専門機関が置かれ、それらの機関をコーディネートしている。同理事会では経済発展のための取り組みは行ってきたが、人間の尊厳を土台とした医療、保健、教育、食糧、エネルギーなど、生存と生活に対する取り組みが十分に機能していないと指摘されている。
 そこで、同理事会の傘下にある専門機関のうち、総会が設立し、任意の拠出金制度で成り立つ専門機関(世界食糧計画〔WFP〕、国連難民高等弁務官事務所〔UNHCR〕、国連児童基金〔UNICEF〕等)、および諸専門機関が分担所掌しているNGO関連事業を「人間の安全保障」理事会が統括するように改編し、その理事会内で心の問題、宗教的精神的問題、人間の尊厳性などについても扱うようにする。
 改編後の経済社会理事会は、世界銀行や経済協力開発機構(OECD)とともに、環境問題に関連した経済開発により重点を置いた活動に特化するようにする。
 そして、主要機関の構造は総会を頂点とし、信託統治理事会に代わる人間の安全保障事会、経済社会理事会、事務局が緊密に連携し、紛争解決や人間の安全保障に関する事案に取り組むことができるように配置する。そうすることによって、安全保障理事会、特にその常任理事国の強い影響下で運営される現在のシステムから国連全加盟国が参加できる機構になると思われる。
 この人間の安全保障理事会が将来的には、NGOのUniversal Peace Federation(UPF)が提唱する「超宗教議会(Interreligious Council)」の役割を果たす機関になることも期待している。そこで将来「超宗教議会」を担うべき精神的・宗教的指導者に求めたいのは、他宗教や他宗派に対する謙虚で寛容な姿勢である。それぞれの宗教にはそれぞれの神観があり、教義がある。それぞれの宗教教義や概念に対して寛容に対応すべきである。
 その意味で、UPF等がこれまでに世界各地で展開してきた宗教間の対話と調和を促進するイベントなどはとても有意義である。相互交流し、理解を深めることによって、世界のすべての宗教や市民と緊密な信頼関係を築くことができるようになる。

政策オピニオン
溝田 勉 長崎大学名誉教授、元ユニセフ駐日代表
著者プロフィール
1944年生まれ。東京大学および同大学院にて医・教・文総合の健康教育・「人間の安全」専攻、教育学修士。医学博士(昭和大学1999年)。文部省入省後、国連の教育科学文化機関 ( ユネスコ ) や児童基金 ( ユニセフ ) への政府派遣職員として通算15年間、開発途上国を中心に世界各国を回り、1985年から4年間国連本部職員として駐日 ( 在 東京 ) のアジア・オセアニア地域代表責任者を務める。その後、長崎大学医歯薬総合大学院・熱帯医学研究所主任教授等を歴任。現在長崎外国語大学特認教授。専門は国際健康開発政策学、開発経済学。著書『国際保健医療協力への誘い』他。

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