子供政策における「子供の最善の利益」とは何か

子供政策における「子供の最善の利益」とは何か

児童の権利条約の子供観

 昨年(2021年)12月、「こども家庭庁」創設を含む「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」が閣議決定された。これに合わせて、自民党内(「『こども・若者』輝く未来実現会議」)で「こども基本法案(仮称)」の議論が始まった。1月25日の会合では、児童の権利、独立した専門機関の設置を巡って、党内議論が紛糾した。
 「こどもまんなか社会」を掲げる子供政策の議論で常に争点になるのは、1989年に制定された児童の権利条約が規定する子供の権利、即ち子供の最善の利益とは何かという問題である。
 条約の意義は一般的に、子供を「保護の対象」から、子供が保護を受ける「権利の主体」に位置付けたことにあると言われている。
 ただ、条約の審議過程をみると最終段階においても、ドイツ政府が条約案の持つ児童解放主義的な傾向に強い危惧を表明している。また同条約を主導してきたアメリカは、「子供の自律権(オートノミー)」と子供を育てる親の権利と責任は相いれないといった理由で、今も批准していない。
 子供を「保護の対象」と捉えるか、「権利行使の主体」と捉えるか。条約が認める子供の自律権の問題は今日も大きな論点の一つとなっている。

子供は保護される対象

 そこで、児童の権利条約の趣旨、そして子供観について改めて確認しておきたい。
 条約は前文と本文54条とで構成され、本文には「生存」「発達」「保護」「参加」という諸権利を実現する具体的な事項を規定している。
 まず前文で最初に「家族が、社会の基礎的な集団として、……特に児童の成長及び福祉のための自然的環境」とし、「社会においてその責任を十分に引き受けることができるよう必要な保護及び援助が与えられるべきである」と、家族の役割・責任及び家族保護の必要性を明記している。
 その上で、「児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきである」と子供の家庭環境の重要性を謳っている。
 また、子供は未熟であるため、「特別な保護及び世話を必要とする」存在であると明記している。これらの子供観は、1959年の「児童権利宣言」を引き継いだものである。
 条約制定の後、乳幼児期における母子の愛着関係の重要性が国際的に認識されるようになったことから、2009年の国連総会において「児童の代替的養護に関する国連指針」が採択された。ここでは家庭及び家庭支援の重要性とともに、家庭養育が難しい場合も、施設ではなく家庭的環境を基本とすべきとの指針が明示された。
 こうした「児童の権利条約」の精神、その後の国連指針を受けて、2016年改正児童福祉法に「子供の権利」「子供の最善の利益」「家庭養育優先原則」が盛り込まれた経緯がある。 
 このように児童の権利条約や児童福祉法は保護される対象である子供の権利として家庭養育の重要性を規定している。

子供の「自律権」を巡って

 一方、児童の権利条約の第12〜16条では子供の「自律権」(オートノミー)を規定している。意見表明(第12条)、表現の自由(第13条)、思想、良心及び宗教の自由(第14条)、結社及び集会の自由(第15条)、私生活等に対する不法な干渉からの保護(第16条)を認め、子供の自由権的権利を明文化した点で画期的と言われている。
 ただ、子供がこれらの権利を大人と同等に自由に行使できるという意味ではない。条約には「児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮される」(第12条)、「父母及び場合により法定保護者が児童に対し発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務を尊重する」(第14条)といった条文を規定し、権利を行使するに当たり、一定の制限を規定しているのである。
 子供の自由権を歪曲、拡大解釈し、例えば「日の丸・君が代を拒否する権利」「校則を決める権利」「学校に行かない権利」といった、子供による際限のない権利の主張を認めているわけではない。

子供政策の基本的方向性

 長崎大学の池谷和子准教授は、「『権利』という言葉には注意が必要である」「『子供の権利』と言ったとたん、家庭を飛び越え、その権利内容を決めるのは国家である。そして、権利内容を絶対的なものとして一律にすべての家庭に押し付けることになってしまうのである」と、「子供のため=子供の権利」と捉えることに強い懸念を示している(産経新聞2022年2月24日付「正論」)。
 子供政策の議論では「家庭の重要性や父母の役割」を強調する主張に対して、「子供の問題を家庭や父母に責任を押し付けている」「親権が強すぎるために子供が守られない」などと、子供の最善の利益を侵害しているのが家庭であるかのような主張が一部見られる。
 だが条約には、「父母等の責任、権利及び義務の尊重」(第5条)、「家族の再統合に対する配慮」(第10条)、「児童の養育及び発達についての父母の責任と国の援助」(第18条)など、家庭の役割、父母等の責任と義務が明記されている。
 条約全体の趣旨を踏まえると、子供は特別な保護を必要とする存在であり、一貫して子供の健やかな養育環境である家庭と父母の役割を重要視していると言える。
 少年法の専門家・森田明東洋大学名誉教授は児童の権利条約採択について、「家族的parenthoodの大幅な後退と没落をも意味していた」(『児童の権利条約—その内容・課題と対応—』)と記している。つまり、アメリカなど欧米諸国の家庭崩壊の深刻な現状が条約制定の背景にあったということである。
 今日、日本も同様に家庭の崩壊、親の養育困難に直面している。それが少子化の危機にも繋がっている。家庭の危機を直視し、子供の健やかな養育環境を保障するために、子供政策には家庭重視の視点が不可欠である。それが子供の最善の利益に資する子供政策の意義と言えよう。

政策レポート

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