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IPP分析レポート

近年の社会・経済状況と社会保障の課題点

平和政策研究所客員研究員 佐藤 晴彦

はじめに

 近年、わが国では、少子・高齢化の進行、女性の就業形態、非正規社員の増加など社会経済情勢に大きな変化が生じている。また、高齢化に伴い、社会保障関係の給付費は増加の一途をたどっている。社会保障制度には、本来国民の生活を守る目的がある。こうした中で、社会保障制度が国民に十分に機能しているかどうかが問題となっている。
 ここでは、社会保障の内容とそれを取り巻く状況を概観し、家計(家族)(※1)、企業、政府部門ごとに課題点をまとめ、そこから政策の提言を行う。

1.社会保障とは

 社会保障とは、「一生のうちに起こりうる,さまざまな生活上の危機や困難を回避、軽減するための仕組み」をいう(「社会保障制度に関する勧告」,1950(※2)。
 わが国では、1950年勧告のこの定義(最低生活の維持の保障)が指針となり、社会保障が広められたが、1990年代になると、国民皆保険、皆年金の成立や社会福祉の対象者の拡大などによって、社会保障の対象は低所得者から一般国民に拡大し、保障される水準も最低生活の保障にとどまらず、国民が健やかで安心できる生活水準を保障する水準まで引き上げられた(※3)。

2.社会保障を取り巻く現況

 社会保障は、経済の動向ならびに人口の構成、就業者数とその就業状況(働き方等)から大きく影響を受ける。経済が好況であれば、働く労働者の収入が伸び、逆に低迷すれば収入は伸び悩んだり、カットされたりする。その動向は保険料収入にも直接影響を与える。
 この影響をみるために、まず経済の動向を、次に人口の構成、最後に就業形態について見てみよう。

2-1.  経済の動向
 わが国の経済は1955年以降、大型景気に入り本格的な経済成長を成し遂げ、所得、生活水準が向上した。社会保障の対象も、その基盤の上で、それまでの低所得者(生活保護などで対応)(※4)から一般国民(社会保険で対応)(※5)へと移っていった。
 しかし、高度経済成長は1970年代初めに一応終結し(1980年代後半まで成長を続けたがバブルが発生し)、1990年代に入って崩壊、幕を閉じることになった。その後、わが国経済は長期的な低迷状況、2002年以降緩やかな景気回復期(※6)に入った(厚生労働省、2014b)。

2-2.  少子・高齢化
 人口構成の推移をみると(図1、図2)、概して少子・高齢化が進行している。人口の高齢化は、高齢者数が増加し寿命が伸びることによって生じるが、生まれる子供の数が減少傾向にあることも大きく高齢化率(総人口に占める65歳以上高齢者の割合)に貢献している。
 次に「合計特殊出生率(※7)」という指標を用いて、生まれる子供数の状況を見てみよう。

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 「合計特殊出生率」は図1のごとくに長期的に低下傾向にある。詳述すると、戦後の第1次ベビーブームには4.3を超えていた。しかし1950年以降急激に下がり、「ひのえうま」の年を除いて再び上昇した。この上昇の頂点の時期、すなわち第2次べビブーム期に、2.1前後に落ち着いたが、1973年(※8)頃から再び下降傾向となり、2014年に1.42を記録するに至っている。
 一方、夫婦の間に生まれる子供数(完結出生児数)(※9)は、1970年から2002年まで2.2前後で安定的に推移していたが、2005年(2.09)頃から減少傾向が続き2010年には過去最低の1.96を記録した(内閣府,2016)。

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 高齢者については、医療・公衆衛生の水準が向上したこと等により平均寿命が延びている。65歳人口の数が伸び続け(図2)、2013年には3,190万人を記録し、高齢者の割合は4人に1人になっている(※10)。 

3.社会保障支出の増大

 わが国の社会保障の給付費(※11)は増加傾向にある、その原因を見てみよう。わが国は、第1次オイルショック(1973年)によるインフレーションによって、マイナスの経済成長率を記録した。それに対し、社会保障はインフレーションに給付水準を合わせていく仕組みとなっているために、年金給付や医療保険の診療報酬、生活保護水準などが大幅に引き上げられた。このことは、社会保障関係費(※12)をはじめ行政需要が急増したにもかかわらず、経済不況により税収の伸びは鈍化し、国の財政ならびに社会保障の財政をより一層赤字にしていったことを示す。現に、赤字は年々拡大し、1979年度の政府予算では、国債依存度が約40%と過去最高を記録した。

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 次に、社会保障給付費の推移をみてみよう。図3は、社会保障の中の代表的は「年金」「医療」「福祉その他」の給付費の推移を示したものである。この3つの区分の中で、「年金」の伸びが著しいのが分かる。なぜ「年金」の伸びが著しいのだろうか。その理由は人口の高齢化が進み、年金をもらう高齢者が増えてきたからである。このほかにも,長く年金に加入して給付を受ける人が多くなり、1人当たりの年金額が高くなったということも挙げられる。
 「医療」もまたかなりの勢いで増えている。医療の給付費がなぜ増えるのか、それは年金と同様に高齢者が増えているからである。高齢者は、若い人に比べて病気になりやすく、またいったん病気になると回復に時間がかかる。このため、高齢者が増えると医療給付費も増える(※13)。このほか、物価や人件費の上昇、医療の高度化なども医療給付費が増える要因となっている。
 「福祉その他」には、生活保護、社会福祉、雇用保険、児童手当等が含まれる。これらの合計は伸びが低く、今では割合はかなり小さくなっている。この理由は、高齢化に直接影響されるものが少なかったことと、生活保護のウェイトが低くなっていったことにある。
 しかし、近年はこの分野(※14)の伸びは大きくなっている。これは、介護保険ができて(2000年)、介護需要が顕在化し介護関係の給付が増えたこととなどによる。その介護保険の給付費(図3)は、2000年から漸増している。
 このような理由で、社会保障給付費が伸び続けている基本的要因は人口の高齢化にある。そして、少子化は社会保障の支え手を減少させている。

4. 社会保障制度改革の推移

 上(3.)で見たように、社会保障の給付費は、オイルショック後、インフレにより引き上げられ続けた。社会保障給付費や行政需要が急増したにもかかわらず、経済不況によって保険料収入、税収は鈍化し、国の財政は赤字体質に転落していった。
 こうした財政赤字の状況から、1980年代、「財政再建」が財政運営の目標となり、1980年には「増税無き財政再建」のために、歳出の削減・合理化、行政機構や補助金の見直し、国鉄等の3公社の民営化等が進められた(※15)。そして、社会保障支出の削減も行政改革の大きな柱になった。

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 近年では、財源確保のために社会保障と税の一体改革が議論され、2009年には、消費税の全額が「制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付ならびに少子化に対処するための施設に要する費用」に充てられることを含め、税制の抜本的な改革を行うための法律上の措置を2011年度まで講ずることが明記された(※16)。2012年から2013年には、消費税引き上げ分は社会保障に振り向けられる法案が可決・成立した(※17)。
 社会保障制度改革の全体像および進め方を明らかにするために、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案」が2013年国会で成立・施行され、その流れは表1のようになる(厚生労働省、2014a)。
 社会保障制度改革国民会議では、特に「改革推進法により設置され、少子化、医療、介護、年金の各分野の改革の方向性」が提言され、その報告書総論では、「意欲ある人が働き続けることができ、すべての世代が相互に支え合う全世代型の社会保障を目指すことの重要性」が強調された。そして、社会保障改革プログラム法案は国会に提出され、成立、2013年12月13日公布・施行された(表1参照)。
 以下では、代表的な「年金」「医療」「介護保険」改革の推移を見てみよう。

4. 社会保障制度の推移と加入者の状況

4-1.  医療保険制度改革
 1980年代には医療保険で、健康保険の大改革、老人保健制度の創設、年金制度の大改革が行われた。医療保険制度改革については、2006年には、以下のような改革が行われた。 
 ①医療費適正化の推進:生活習慣病の患者・予備群の減少や平均在院日数の短縮などの医療費の適正化対策が推進されることになった。
 ② 高齢者の自己負担の引上げ:現役並みの所得がある高齢者の自己負担の3割への引上げ等が行われた(※18)。
 2013年には、2012年に設置された「社会保障制度改革国民会議」を踏まえて、具体的な改革を進めていくための「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」が成立し、以下の項目に検討を加え、必要な措置を講ずるものとした。
 ③ 中短時間労働者への健康保険適用の拡大、
 ④医療保険制度等の財政基盤を安定化させるため、国民健康保険に対する財政基盤の安定化や保険者、運営の在り方などについて検討を行うこととした。

4-2.  介護保険制度改革
 それまでの介護サービスの提供は「老人福祉法」にもとづく「措置制度」によって行われていたが、2000年に介護保険が導入されスタートした。しかし、介護需要が顕在し介護関係の給付が増えつづける結果となった(※19)。
 介護保険が創設されることによって医療保険給付の伸びは緩やかになったが、介護保険給付の需要は増加の一途をたどっている。そのため医療保険給付と介護保険給付の伸び率の合計は、以前よりも増加している。
 この傾向に対し、
 ①2005年に介護予防給付の創設、すなわち、要介護の改善が期待できる高齢者に対し,介護給付に代わって予防給付が行われることになった。
 ② 新たなサービス体系の確立、すなわち地域ケアの推進のための新たなサービス体系がつくられ、サービスの質の向上が図られた。
 ③ 利用者負担の見直しが行われ、食費・居住費などが利用者の自己負担となった。

4-3.  年金制度改革
 1985年の年金制度改革では,高度成長期に大盤振る舞いとなっていた年金給付の水準を,(少子・高齢化による影響を食い止めるために)段階的に引き下げることを決めた。さらに、国民共通の基礎年金を創設して財政基盤を共通化する改革が行われた。
 その後、2004年改革に、マクロ経済スライド(※20)の導入,年金の受給額増加の抑制がなされ、加入者については保険料を2017年以降固定(※21)とし、さらなる負担がかからないようにした。また、同年、基礎年金の国庫負担割合の引上げが行われ、3分の1から2分の1へ引き上げられた。2013年には受給資格期間が10年に短縮される改革が行われた。
 一連の改革は「年金」「医療」「介護保険」給付が増加し続けたため、それを抑制する方向で進められたことが理解できた。

5.取組むべき課題点と改革の方向性

 上述から分かるように、年金、医療、介護保険には、経済の動向、人口構成の変化、就業者数が深く関わっている(※22)。
 これらには、家族の変化(単身世帯の増加など)と働き方の変化(非正規社員の増加など)が大きな影響を与えている。すなわち、家族の状況、働き方が改善されれば、人口構成のバランス、経済は好況を呈し、ひいては年金・医療・介護保険財政に寄与することになる。したがって、家族とその働き方のあり方をめぐって、これまで行われてきた、各改革の望ましい方向性を探っていこう。
 経済における登場人物は、単純化して、家計、企業、政府部門の三者に例えられる。ここでは、後述の政策提言に向けて論じるが、この3分類にして論じる。その方が効率的に進めやすい。なぜなら、市民(被保険者)はいつも、家計(家族)、企業に関わっており、そこから論じた方が身近に感じるからである。また、問題の提起、解決案の提言、法案の作成過程においても、身近な視点から進めることができる。

5-1.  家計(家族)部門
 政策提言は、家計(家族)部門、企業部門、政府部門に分けて進める。
【家族形態の変化】
 上述(2-1.)のように、わが国は、経済的に高度成長を成し遂げ、産業は第1次産業、第2次産業、第3次産業へと重点を移した。その結果、特に1960年から1970年代にかけて、農村から都市への人口移動が激化し、農村における世帯員数は減少した。一方で都市に転入した若者によって、夫婦と子供からなる世帯が増加し、核家族化が進んだ。
 しかし、近年はこの核家族構成が変化し、単身や夫婦だけの家族が増えている。この夫婦のみの世帯や単身の世帯というのは高齢者世帯に多い。1970年代以降高齢者のみの世帯が増え、核家族化や小世帯化がさらに進行した。つまり、高度成長期以前、多くを占めていた3世代大家族から、高齢者の夫婦のみの世帯や高齢者一人暮らし世帯が増え、家族形態は変化している。
 若い世代においては晩婚化(※23)等が影響して独身でいる期間が長く、親元を離れているケースが多くなっているため、単身家族が多くなっている(2005年から2010年にかけて29.5%から32.4%に増え、核家族より増え最も多い家族類型となった)(※24)。

5-2.  企業部門
【就業形態の状況:非正規社員の増加】
 非正規社員の就業状況を見てみよう。非正規雇用の労働者には、雇用が不安定、賃金が低い、能力開発機会が乏しいなどの課題がある(厚生労働省、2014a)。
 1990年代以降わが国の経済は低成長期に陥り、若者を中心に失業などの不安が広がった。企業は国際的な競争にさらされ、アルバイト、パート、契約社員などの非正規の不安定な雇用を増やさざるをえなくなった(※25)。

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 2003年度以降、経済はやや好況を呈し、正規雇用労働者の割合は増加した。雇用形態別雇用者数の推移は、15から64歳に占める正規雇用労働者の割合は、2005から2007にかけてやや高まり、その後横ばいで推移している。
 この傾向を男女比で見ると、2003年から2013年にかけては、女性は各年齢層で正規雇用労働者の割合が増加し、逆に非正規雇用労働者の割合は低下した。男性、特に25から34歳にかけては、正規雇用労働者の割合が低下し、逆に非正規雇用労働者は増加した(図4)。  
 しかし、男性で低下した分と同程度、女性が上昇することで、男女計の正規雇用労働者の割合が横ばいで推移した(厚生労働省、2014b)(※26)。
 2013年、非正規の労働者(※27)数は、男女合わせて、(役員を除く)雇用者全体の3分の1を超えている(※28)。すべての非正規雇用者が問題という訳ではないが、正規雇用を希望しながらそれがかなわず、非正規雇用にとどまる者が19.2%(2013年)存在する。特に25から34歳の若年層で30.3%(2013年)と高い数値を示しているのが問題となっている(※29)。
【女性の結婚後の就業希望】
 結婚・出産・育児期にある女性の多くは、有業を中断したり、就業を希望しながらも働けない状況にある。女性の25歳から44歳層で、就業を希望しながら求職活動をしないでいる最大の理由は出産・育児のためである(※30)。中年以降の介護退職も少なくない。
 ひと昔前まで、若い女性の結婚後の希望は、それまでは就職しても短い期間で結婚退職して、専業主婦になることだった(※31)。これが1973年頃から、女性の社会進出意欲が高まり(夫の収入だけでは家計をやりくりできないこともあり)、結婚退職して専業主婦になるのが夢ではなくて、仕事を続けたいという気持ちをもつ女性が増え続けた。問題は結婚しても仕事を続けたいという気持ちと、結婚したら働けないという状況との間で、結婚に踏み切れない女性が増えてきたことである。こうして、平均初婚年齢が上昇し晩婚化が進んだ。そして、出生率も低水準を示し、そこから抜け出せないでいる(※32)。
 したがって、出産・育児を担いながら就業を継続・両立できる社会的支援制度、および働きやすい雇用環境の拡充、介護退職への対応が求められている。

5-3.  政府部門
【非正規社員の増加と社会保障の適応性】
 このような状況に対して、わが国の社会保険は、常用雇用の世帯主に子供がいる一家を支えるという形態を前提につくられているため,単身世帯や非正規雇用の増加という事態には、社会保障本来の安定装置が適切に機能しなくなっている。
 非正規社員労働者は被用者の社会保険制度に入ることができず、自営業者のためにつくられた制度(国民健康保険や国民年金)に加入することになる。これらの制度には単身者の加入が多くなっている。
 自営業者のための保険制度は、さらに定額とか頭割りの保険料になっていて、所得の多寡にかかわらず一定額の保険料を負担しなくてはならない。そのため、所得の少ない人には重い負担となり、保険料を払わない人も多く出ている。このような状況(※33)(核家族の動向:単身家族や夫婦のみの家族が増加していること、就業形態では非正規社員が増えていること)から、非正規雇用労働者のキャリア形成などを支援する、雇用対策の取り組みだけではなく、非正規雇用者にも対応した、社会保障制度を構築しなければならなくなっている。 
 また、晩婚化については、その理由を順序付けた上で、若者の単身期間の短縮、すなわち結婚までの期間を短縮できる政策を打ち出さなければならなくなっている。

6.政策提言に向けた論点

 政策提言に向けて、これまでの課題点をまとめておこう。

6-1.  家計(家族)部門
【未婚者への企業、家族としての対応】
 5.1で取り上げた、未婚者数の割合はもはやマイノリティではなくなっている。グローバル化の影響で、非正規社員が増加し、正規社員の低所得者層が増加している(5.2参照)。このような経済的状況の中で、家族から自立できない若者や結婚できない独身者が増加している。
 これを、独身者の精神的安定ならびにサポートネットワークの観点からみると、子供(独身者)の経済状況(本人収入や雇用形態)が良ければ、親あるいは家族以外との情緒が安定してネットワークの授受を受けやすい。反対に不安定雇用や低所得者の場合は受けにくい。
 このような状況から、未婚者に対して、①.男性の場合、非正規社員、低所得者層で増えたため、企業の雇用形態の在り方(正規社員の増加、賃金体系の見直し)の検討が必要、政策課題とすべきである。②.家計(家族)部門の観点から、家族間での壁のないスムーズな会話のあり方、他人とのコミュニケーション力については高められなければならない。

6-2.  企業部門
【働き方の提言】
 ○女性 
 5.2で見たように、結婚から育児期にある女性が(フルタイムの継続を願っているのに)、仕事を中断したり、辞めたりするケースがある。このような状況では、
・フレックスタイム制の導入や年次有給休暇が、現実的に取得しやすくする政策、
・労使の自主的な取り組みを促進することによる、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を推進する施策、
・女性が無理なく働ける社会を目指すため、勤務形態の改善に取り組む企業を支援する政策が求められている。
 ○男性
 男性についても、
・勤務体系の在り方として、育児中は短時間労働を可能にする企業内ワークバランスの取り組み、
・長時間労働の是正、
・正規社員だけではなく非正規社員も育児休暇取得を可能にする取り組み
が求められる。
【就業意欲がある高齢者への対応】
 社会保障制度の財政には、60歳以上の就業状況(無業であるか有業であるか)も大きく影響を与えている。2013年に希望者全員が65歳まで働ける制度(※34)が企業に義務づけられた。その結果、希望者全員が働ける企業の割合は3分2程度になっている(2013年6月1日現在)。就業希望者の3分に1が働けないでいる現在、働く意欲のある高年齢者が能力や経験を活かし、働ける社会の実現に向けた取り組みが求められる(厚生労働省、2014a)。
 定年退職した高齢者の約70%が「定年後も働きたい」(2009年調査)と希望している(今日の高齢者は、一概に弱者と捉えるべきではなく、元気な富裕者が多くなっている)。シルバー人材センターの登録数(※35)も長期的には増加傾向にある。
 また、健康な高齢者が増え富裕者も多くなっていることから、高齢者にもしっかり負担してもらい、しっかり働いてもらう、処方箋が必要である。しかし、高齢者といっても個人差が極めて大きいことには注意しなくてはならない。

6-3.  政府部門
6-3-1. 高齢化と経済の低成長期における社会保険料納付の課題点
(1)非正規社員にも対応した制度構築の必要性
 バブル崩壊以降、経済の低迷が続いたにも関わらず社会保障給付は増大し続けた。その間賃金の伸び率や企業の収益率は低い水準にとどまり社会保険料収入に悪影響を及ぼした。サラリーマン等の間では、保険料負担がより重く意識されるようになり、未加入・未納者が増えている。社会保険財政上、既存の方式では、増大する給付を賄うことが困難になっている。
 社会保障は本来、常用雇用の世帯主が子供のいる一家を支えることを目的としてつくられた。しかし、現実は相対的に非正規社員が多くなっている。非正規社員が増えると、上述の理由から、未加入・未納者が増加し、その本来の機能が働かなくなる。そのため、非正規社員をも枠に入れた新たな制度づくりが求められる。
(2)社会保険の給付と負担についての正規・非正規社員等の不公平性
 保険料は、被保険者(※36)本人と被保険者を雇っている企業などの事業主がほぼ1:1で負担することになっている。自営業者のための国民健康保険や国民年金の保険料は、事業主がいないので、被保険者本人だけの負担となる。(失業等をした時のための)雇用保険では事業主の負担割合が大きく、労災保険では全額事業主負担となっている。
 このように、社会保険には正規社員と非正規社員に不公平性が存在する。そのために非正規社員と正規社員・企業側の負担は、数理をもとにした公平な保険料で納付すべきである。
 また、正規社員と企業側を合計した負担額そのものが高すぎる。働く人の生活と社会保険制度維持のために、正規社員・企業側の負担額は軽減していかなければならない。

6-3-2. 社会保障財源確保のための改革
(1)人口構成の変化と加入者の重い負担問題
 人口構成が変化し、少子・高齢化がさらに進むと、社会保険給付費がさらに厖大化し、減少する現役世代(労使による負担)ではそれを賄えなくなる。そうなると、社会保障制度を維持することは困難となるばかりか、国民生活の安定を図る目的の社会保障が国民生活を圧迫することになる。こうしたことから、少子・高齢化に対応した社会保障制度の改革が急務である。
(2)社会保障財源確保のための改革
【持続可能な改革の必要性】
 わが国の社会保障は、社会保険中心で成り立っている。収入は保険料が中心である。社会保障の総費用に占める保険料の割合は約半分、公費負担の割合は約3分の1、残りがその他という構成になっている。公費といっても、国の一般会計の歳入のうち、税収でまかなわれているのは5割程度で、4割強は国債でまかなわれているのが現状である。
 先進主要国の状況をみると、イギリスやアメリカは保険料負担の割合が低く、税金の割合が高い。ドイツやフランスは保険料負担の割合が高くなっている。
 わが国は、上述のように、社会保険が中心だが、その財源としては保険料だけでなく、税金が投入された。バブル期以降は、国庫負担を抑え、保険料負担の割合が高まってきた。
 このままの財政方式では、社会保障の費用は後の世代に先送りされ、いずれ負担増に耐えきれなくなり、社会保障を維持することが困難になる。社会保障が持続可能なものとなるために安定的に財源を確保すべき時が来ている。

結論

 以上の論点を踏まえ、本研究では以下の2つを提言する。

1.  社会保険給付費の税負担拡大化
 社会保険(年金、医療、介護保険)に係わる給付費負担の在り方について、(部分的に、負担の重点を社会保険方式から税方式に変え)税負担割合を拡大すべきである(※37)。
 本文で見たように、3つの社会保険財政は逼迫しており破綻寸前である。これまでの改革の方向性は、いずれも費用負担の軽減策であった。すなわち、医療保険では医療費適正化、高齢者の自己負担の引上げ、国民健康保険に対する財政基盤の安定化などが行われた。
 介護保険では、地域ケアのための新サービス体系をつくり、高齢者の健康維持が目指された。また介護保険の負担が見直され、食費・居住費についても利用者の自己負担となった。
 年金制度改革では、年金給付の水準を段階的に引き下げることを決めた。2004年改革に、マクロ経済スライドの導入、保険料は2017年以降固定化とし、基礎年金の国庫負担割合が2分の1へ引き上げられた。
 このような現況(破綻寸前の状況)、未納者が多いという観点から、基礎年金部分全額を、医療保険では後期高齢者の公費負担割合のように50%を、介護保険では例えば介護度4~5の被保険者については50%を税で賄うべきである。

2.  家族省の設立提言
 社会保障は国民の生命にかかわること、身近な生活を保障する目的がある。したがって、国民生活における課題に対しては、早急な施策が求められる。家庭にまつわる案件と法律の作成を容易に進めるために、諸事案は体系的に構築され、1つ1つの事案には、重要度の順位が付されているべきである。そのようにして初めて、法案通過、可決は効率的に運ばれうる。それを可能にするためには「家族省」が設立されるべきである。
 「家族省」が設置されれば、被保険者(加入者)側に立った課題の解決案(※38)は家族省側から、課題に対する処置は年金・医療・介護保険者側から進められ、両側は被保険者をめぐって相互作用し、課題解決が体系的・総合的に検討されることになる。
 ちなみに、フランスの家族省を参考にすると、家族政策の例としての子育て支援は、政府が多様な国民のニーズを家族会議を通してすくい上げ、必要な政策はただちに実行している。行政機関相互の連携および行政機関と議会との連携がうまくいっている(神尾、2007)、という。

(平和政策研究所客員研究員 佐藤晴彦)

 

<参考文献>
・植村尚史(2015)『これからはじまる社会保障 第4版』日本加除出版株式会社、1-120頁.
・魚住 明代(2007)「ドイツの新しい家族政策特集:子育て支援策をめぐる諸外国の現状」『海外社会保障研究』 Autumn 2007 No. 160.
・神尾 真知子(2007)「フランスの子育て支援― 家族政策と選択の自由 ―」『海外社会保障研究 』Autumn 2007No. 160.
・厚生労働省(2014a)『平成26年版 厚生労働白書』日経印刷株式会社、44-57,250-260、294-298、318-344頁.
・厚生労働省(2014b)『平成26年版 労働経済白書- 人材力の最大発揮に向けて-』日経印刷株式会社、3-28頁.
・内閣府(2016)『平成28年度少子化社会対策白書』日経印刷株式会社、2-29頁。
・独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2011)「海外ではワーク・ライフ・バランスをどう支援しているか―フランス・ドイツ・スウェーデン・イギリス・アメリカの支援策比較」『フォーカス』.

<注>
1 貨幣で計れる概念は家計、計れないものがある場合は家族として取り扱う。
2 社会保障の定義は、「社会保障制度に関する勧告」(社会保障審議会,1950)によって、社会保障制度の目的として,第1に病気やケガ,出産,老齢,障害,失業といった生活上困窮を引きおこす事態に対して,保険的方法(=社会保険)か,直接公の負担による方法(=社会扶助)を用いた経済保障で対応することをあげています。目的の第2は,現に生活に困窮している者に対して,国家扶助によって最低限度の生活を保障することです。第3の目的は,これらとあわせて,公衆衛生および社会福祉の向上を図ることです。「社会福祉」については,「身体障害者,児童,その他援護育成を要する者が,自立してその能力を発揮できるよう,必要な生活指導,更生補導,その他の援護育成を行うこと」と定義されている。
3 社会保障制度審議会が1996年に行った「社会保障体制の再構築に関する勧告」では,社会保障の理念は,「広く,国民に健やかで安心できる生活を保障すること」であるとし,社会保障制度は「みんなでつくり,みんなで支え合っていくものとして,21世紀の社会連帯のあかしとしなければならない」と述べた。
4 生活困窮に陥っている人びとに対する生活保護(財源は税金)。
5 自ら保険料を支払うことによって疾病や老齢等のリスクに備えるという社会保険。
6 なお、2008~2009年、2012年を除く(厚生労働省、2014b、第1-(1)-1図参照)。
7 1人の女性が一生のうちに産む平均的な子供数を表す指標をいう。
8 第1次オイルショックの年
9 結婚持続期間が15から19年の夫婦の平均出生子供数。
10 わが国の高齢化は,他の先進諸国に比べて進行のスピードが極めて速いという特徴がある。
11 社会保険制度(:公的年金、公的医療保険、公的介護保険のほか、雇用保険や労働者災害補償保険を含む)、家族手当制度、公務員に対する特別制度、公衆衛生サービス、公的扶助、社会福祉制度などをさす。
12 日本政府の一般会計の社会保障関連財政支出を意味する用語。社会保障関係費には、社会保険費、生活保護費、社会福祉費、保健衛生対策費、失業対策費がある。
13 70歳以上の高齢者はそれ以下の年齢の人の平均に比べ,5倍の医療費がかかっているといわれています。また,一般の人の医療保険の自己負担率が3割であるのに対し,75歳以上の高齢者は1割,70歳から74歳は2割(いずれも現役勤労者並に所得の高い人は3割)というように 自己負担が少なくなっている。
14 介護を含めて考えると、伸びが大きい。本稿では図3で介護保険を別の波線グラフで示した。
15 第2次臨時行政調査会が設置され進められた。
16 税制改正法附則第104条。
17 2012年には、消費税率の引上げなどを定めた税制抜本改革法、社会保障制度改革国民会議の設置等を定めた社会保障制度改革推進法、子ども・子育て支援関連の3法案年金関連の2法案等が可決成立した。税制抜本改革法によって、消費税8%の引上げ(2014年)による消費税増収分は、すべて社会保障財源化され、また10%に引き上げられた場合は、「社会保障の安定化」に4%程度、「社会保障の充実に」1%程度向けられることとなった。
18 ○その他、安心・信頼できる医療の確保:質の高い医療サービスが適切に提供される医療提供体制の確立と,疾病の予防を重視した保健医療体系への転換のために,さまざまな施策が決められ、
   ○新たな高齢者医療制度の創設:75歳以上を対象とした後期高齢者医療制度が創設され、保険財政の基盤の安定を図るための都道府県単位を軸とする保険者の再編・統合が推進されることになった。
19 それまで医療制度から支払われていた費用の一部が介護保険制度に移ったことと,医療制度改革で患者の自己負担が増えたことから、 医療給付費の伸びについては1990年代後半から2000年代前半にかけて,ゆるやかになった。
20 マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みである。
21 保険料負担については、厚生年金保険料は2017年までに段階的に18.3%まで引き上げられた後は将来にわたるまで固定、国民年金は2017年度以降、2004年度価格16,900円で固定するということが決められた。
22 「2.社会保障を取り巻く現況」を参照。
23 非正規労働などによる低収入、理想のタイプにめぐり会わないなどによって晩婚化が進んだ。
24 男女共同参画統計研究会『男女共同参画統計データブック 日本の女性と男性-2005』ぎょうせい,75-81頁。
25 社会保険料の負担は,企業にとっては,雇用のコストとなる。コストが高ければ,製品の価格が高くなり,売れ行きは悪くなる。そのため,企業はコストを削減するために正規の雇用を減らし,パートや派遣など非正規の労働を増やすようになる。
26 厚生労働省(2014b)『平成26年版 労働経済白書- 人材力の最大発揮に向けて-』9-16頁参照
27 比較的短期間での契約を結ぶ雇用形態。パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員、請負労働者、嘱託等をさし、正規雇用以外の労働者をいう。
28 1984の全雇用労働者に占める非正規雇用労働者の割合は、15%に過ぎなかったが、2015年には35%程度まで上昇した(厚生労働省,2014b)。
29 厚生労働省(2014a)『平成26年版 厚生労働白書』318-322頁参照。
30 上述のように、出産育児のために仕事をしないでいる女性の割合は25~34歳にかけて大きい(労働力が低下しつつある)。
31 「玉の輿」に乗ること、或いはそれに準じた主婦業が女性の憧れであった。
32 合計特殊出生率は2014年で1.42である。
33 「5-1-1.家族形態の変化と非正規社員の増加」「5-1-2.非正規社員の増加と社会保障の適応性」参照。
34 「高年齢者等の雇用の安定などに関する法律の1部を改正する法律」(2013年4月1日)。
35 1986年(昭和61年)10月1日に施行された『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律』により指定された団体で、シルバー人材センターとは高齢者が働くことを通して社会参加をし、自らの生きがいの充実と健康の推進を図るとともに、活力ある地域社会づくりに貢献することを目的とするもので「永年の経験や技能を活かして働きたい」「生きがいの充実をはかりたい」「いくらかの収入を得たい」「社会の役に立ちたい」といった希望を出している。
36 加入者のこと。
37 6-3-1(2)で挙げたように、公的年金の場合、労・使(の労働者側)による保険料と自営業者の保険料には不平等が存在する。これを基礎年金部分を税方式かした場合、その部分、平等化される。
38 家族・企業といつも関わりそこから考案した提言、例えば6.1で挙げた家族間・友人間でのコミュニケーション能力の向上施策などが挙げられる。

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