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IPP分析レポート

北東アジア鉱物資源開発の可能性

―日本の鉱物資源供給に関する現状と将来―平和政策研究所客員研究員 高木 哲一

1. 日本の鉱物資源供給の状況

 日本の金属鉱業は、第二次世界大戦以後一旦復活したものの、1970年代のプラザ合意以降、円高、人件費の上昇、鉱山の鉱量枯渇などにより国際競争力を失い徐々に衰退した。高品位な鉱石と高効率な採掘法で生産を継続してきた岐阜県の神岡鉱山(亜鉛、鉛、銅)、北海道の豊羽鉱山(亜鉛、鉛、銅、インジウム、銀)も21世紀初頭に終掘し、現在国内の稼行金属鉱山は鹿児島県の菱刈鉱山など少数の金鉱山のみである。国内産業で大量に消費する鉄・非鉄金属は、ほとんどを輸入に頼っている。
 日本は、1930年代に米英中蘭包囲網により鉄・鉄くずや石油の輸入が困難になり、南方の資源地帯確保を目的の1つにして太平洋戦争に突入した。国家の存立と繁栄に、資源の安定供給が不可欠という事実は、過去も現在も同じである。市場の国際化が進んだ現代において、資源の安定的な輸入が困難になるという状況は想像できない、という意見があるかもしれない。しかし、2009-11年に日本が直面したレアアース危機を思い出して欲しい。レアアース(希土類元素)は、ハイブリッド自動車用モーターなどハイテク機器に必須な13種類の元素群のことで、市場シェアの90%以上を中国が占めている。中国は1990年代初頭からレアアースを戦略物資と位置づけ、市場シェアを拡大してきた。2009年頃から徐々に輸出規制を強化し、2010年9月の尖閣列島漁船衝突事件をきっかけに事実上の対日禁輸措置に踏み切った。レアアース価格は暴騰し、日本では自動車産業を中心に深刻な打撃を受けた。
 この事実は、現代社会においても依然として、資源が国際戦略上の外交カードに使われうることを証明している。現在、日本が輸入する鉱物資源(特にレアメタル)は、元素別に見ると、特定の国や地域に大きく依存しているものが少なくない。たとえば、超硬工具などに用いられるタングステンや難燃剤に用いられるアンチモンは90%が中国で生産されている。リチウムイオン電池に必須なリチウムは40%がチリのアタカマ塩湖1ヵ所で、高張力鋼の生産に必須なニオブは85%がブラジルのアラシャ鉱山1ヵ所で生産されている。これらの事実は、少数の国の政治的・経済的な事情で特定の元素の価格が高騰した場合、あるいは輸出が制限された場合、レアアースと同様な打撃を日本の産業が受けることを意味する。資源輸入先の多角化はリスクの分散に有効であることから、各鉱山会社は積極的に進めようとしているが、上記の鉱物資源の偏在性および資源安の現状により容易には進まないのが現状である。

2. 資源ナショナリズムの台頭

 1980-90年代、鉱物資源の価格は世界的に安定しており、経済力によって鉱物資源を自由に輸入できる時代が続いた。しかし、2004年頃からベースメタル(銅・鉛・亜鉛)やレアメタルの価格が上昇を開始し、鉱物資源の供給不安が広がった。「レアメタルショック」の到来である。これは、BRICS諸国、とりわけ中国の鉱物資源消費量の急激な増大に起因するところが大きい。鉱物資源価格は2008年前後のリーマンショックで一時下落するが、その後また上昇を続けている。現在は資源安と言われているが、2004年以前の価格と比較すると相当な高値が維持されている鉱種が多い。
 このような背景から、鉱物資源が国家戦略の重要な柱になることを認識した資源保有国は、鉱物資源に関して保護主義的な政策(いわゆる資源ナショナリズム)をとる傾向が徐々に強まってきた。たとえば、インドネシアは2009年に鉱業法を改正し、同国企業への51%以上の資本譲渡を義務づけ、2014年には原鉱石の輸出を事実上禁止した。そのほか、ベトナム、南アフリカ共和国などで高付加価値化の義務づけ、メキシコ、ザンビア、中国などでも鉱業に関する増税、輸出税の賦課などが開始されている。
 日本は2012年に、中国のレアアース等の輸出規制に対してWTO協定に基づく協議を要請したが、この協議は中国に対するのみならず、世界的な鉱物資源に関する保護主義的な流れに対して警鐘を鳴らす意味も込められていた。この協議(=提訴)に対し、2014年に日本は勝訴したことになっている。しかし、レアアース価格は2011年8月をピークに暴落、2014年には世界中の100件を超えるレアアース資源開発計画は豪州のMt. Weld鉱山を除き全て頓挫しており、レアアース生産は中国一極集中に逆戻りした後であった。中国は、環境保護のための鉱山開発の制限などを理由に、いつでもレアアースの輸出規制を発動可能であり、外交カードはそのまま温存されている。WTO協定は、自由貿易体制の維持に一役買ってはいるが、資源の安定供給を託すには非力であると言わざるを得ない。
 このような状況の対策の一つは、資源保有国に工場ごと進出し、現地で資源を確保・消費することである。事実、レアアースを使用した高性能磁石メーカーは、レアアース危機後に、こぞって日本から中国に工場を進出させた。しかし、生産拠点の移転は、技術・人材の流出や国内の技術基盤の喪失など国益に反することも多い。資源保有国とのWin-Winの関係を築くには、ある程度の技術移転はやむを得ない面もあるが、加工貿易を経済の重要な柱とする日本にとって、国内の製造業、特にハイテク製造業の基盤はできる限り維持しなければならない。
 資源ナショナリズムへのもう1つの対策は、可能な限り資源開発の初期段階から日本企業が関わり、資源保有国の経済や人材育成に貢献することである。1つの鉱山を開くには、資源の概査・精査、道路・鉄道などのインフラ整備、環境影響調査などの準備段階から、粉砕・選鉱・製錬プラントの導入、鉱床の開削・試掘まで、多数のプロセスや許認可を経なければならず、商業生産に至るまで8~15年の時間が必要である。この間、鉱量や品位の不足、環境対策や鉱石の選鉱・製錬の困難さ、などの理由で開発を断念せざるを得ないなど、多くのリスクと向き合うことになる。また、資源開発に携わる各種専門家を長期間に渡って養成・供給し、雇用し続けなければならない。これらのリスクを日本企業が資源保有国と共有し、言わば「共に汗し涙する」関係をもって開発に臨むことにより、その対価として、資源の安定供給を確保する道を開いていくのである。
 既に開発・生産している鉱山の鉱石を経済力にものを言わせて購入するだけの、「札束で頬を張る」方法で資源を確保することは、これからは難しくなっていくと考えなければならない。上記のリスクは、国内の鉱山会社が1社で負担するには重すぎるため、国がリスクの一部を負担するために、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が設置されている。また、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、国際協力機構(JICA)、産業技術総合研究所(AIST)などの政府系法人、大学なども海外での資源開発を支援している。これら官民の組織が総力を挙げて資源ナショナリズムに対応していくことが求められている。

3. 北東アジア鉱物資源開発の必要性

 20世紀後半、先進国のGDPは飛躍的に増大し、それに伴って大量の鉱物資源が世界的に消費されてきた。資源保有国では、開発しやすい地表近くの高品位な鉱床を大規模に開発し、安価な鉱物資源を工業国に供給してきた。その結果、資源の枯渇問題が徐々に顕在化している。南米・北米の太平洋側に鉱床が集中する銅・鉛・亜鉛・モリブデンなどは、既に高品位鉱の枯渇や平均品位の低下が指摘されている。南米の銅資源の場合、1985-2000年には平均品位がCu=1%を超えているものが多かったが、現在は0.5%前後まで低下している。現在の資源安の状況では、採算の取りやすい相対的に品位の高い部分から採掘を進めざるを得ず、平均品位のさらなる低下は不可避である。今後、地表近くの開発しやすい鉱山は徐々に終掘となり、新しい鉱山開発は、鉱体が地下深くにあり探査・開発が難しいタイプのもの(潜頭型鉱床)が主流になってくると予想される。おそらく、21世紀中頃を待たずに資源価格は一転上昇し、日本への安定供給が危ぶまれる事態も予想される。
 このような状況の中で、大きな鉱物資源ポテンシャルが残されている地域の1つが北東アジアである。具体的には、北朝鮮からロシア沿海州にかけての地域で、将来的には中国東北部や極東ロシア全体まで含むと考えても良い。これらの地域は、第二次世界大戦以降、日本を含む西側諸国を主体とした資源開発が政治経済的に困難であった地域であり、道路や電力などのインフラ整備が全般的に遅れているため、多くの鉱物資源が十分に開発されずに埋蔵されていると予想される。また、日本や韓国にとって距離的に近い位置にあり、輸送コストの面でも有利である。したがって、近い将来に朝鮮半島の統一や日ロの関係改善がなされ、西側諸国からの投資環境が整えば、この地域は鉱物資源の有望な供給地となり得る。
 北朝鮮の場合、朝鮮半島の統一がなされたとしても、かつての東ドイツと同様に、西側の経済圏に組み込む前に一定の経済水準にまで引き上げるための復興策が必要である。その牽引役の筆頭が鉱業である。なぜならば、鉱業はその地域の大地そのものが価値の源泉であり、生産が富と直結しているからである。日本と韓国は、鉱物資源開発の技術や経験が豊富であり、巨大な消費地でもあることから、まず鉱業を軸にした施策を両国が協力して実施することが最も効果的な経済復興となるであろう。北朝鮮領域は、第二次世界大戦前から今日まで詳細な地質調査が実施され、その豊富な鉱物資源の概要が明らかになっている。また、現在もいくつかの鉱山が稼行中である。これらを基にして、鉱山の再開発とインフラ整備を進めれば、比較的短期間に鉱業を軸とした輸出産業が形成可能である。
 一方、ロシア沿海州は事情がかなり異なる。同地域も旧ソ連時代の地質調査により鉱物資源の概要は明らかになっており、ロシアは十分な開発技術を保有している。しかし対日輸出について、石油や天然ガスなど燃料資源は順調に伸びているが、鉱物資源は貴金属などが中心で活発ではない。この原因は、燃料資源はパイプラインでシベリアなど遠隔地から比較的低コストで輸送できるのに対し、鉱物資源は一般に陸送コストが高く、消費地の近くで生産しなければ採算が合わないことにあると推測される。極東ロシアには大きな工業地帯がないため、日本に輸出できるほど開発が進んだ鉱物資源はホウ素など僅かな鉱種しかない。ロシア沿海州の鉱物資源は日本や韓国に供給することを前提にしない限り本格的開発は困難なのである。ロシア政府は、極東ロシアにおける西側諸国との関係の緊密化にはまだ消極的である。むしろ、同地域が日本の経済圏に入ることを警戒しており、最近は日本からの中古車輸入を一部規制する動きも見られる。ロシア沿海州ひいては極東ロシアが日本に対する鉱物資源の供給地となるためには、日ロ関係の改善とロシア政府の資源政策の転換が不可欠である。

4. 環日本海経済圏の可能性

 日本列島、朝鮮半島、ロシア沿海州からなる環日本海地域は、工業力、経済力、資源ポテンシャルを兼ね備えた力強い経済圏になる可能性を持っている。これらの地域に共通する特徴として、良港の存在が挙げられる。ロシアのボストチヌイ、ナホトカ、北朝鮮の興南、元山、韓国の浦項、蔚山などは工業港として充実した機能を持つ。日本は、主な金属製練所が佐賀関、直島、彦島、竹原、播磨など瀬戸内地域に所在する。いずれも港湾設備を備えており、海外鉱を受け入れている。これらの港湾を大型船で連結すれば低コストの物流が可能となる。物流コストが下がれば、非鉄金属のみならず、珪石・珪砂、窯業原料など単価の安い非金属資源の輸出入も同時に進めることができる。現在、既にロシア、韓国から石炭やろう石などが日本に輸入されており実績やノウハウが積まれている。次に挙げられる特徴が鉄道である。シベリア鉄道から北朝鮮を経由して釜山に至る鉄道は既に敷設されており、連結するのみとなっている。この鉄道が開通すれば、人と物の往来が盛んになり、経済的な一体感が生まれる。さらに高速鉄道に改良すれば、釜山からウラジオストクまで1日圏内に入る。環日本海経済圏の形成が順調に進めば、日韓トンネル建設の機運も高まるであろう。
 楽観的な見通しばかりを述べてきたが、現実はそれほど簡単ではない。ロシア、中国、ベトナムなどの国々は、これまで、西側諸国に投資させて一旦は資源の権益を与え、適当な時期に様々な手段(許認可権の行使、国営化など)で権益を取り戻す、ということを常套手段としてきた。環日本海経済圏においても、同様な事が起こる可能性がある。また、北朝鮮の人々は70年に及ぶ社会主義体制の下で徹底した思想教育を受けており、いかに韓国を仲介として欧米流の資本主義を導入しても、容易には馴染めないと予想される。また根深い反日感情があり、日本人の入境は簡単ではないかもしれない。相互の信頼関係を醸成するにはかなりの時間がかかることを、特に日本側は覚悟しなければならない。

5. 第二のレアアース危機に備えて

 前述のように国内の金属鉱業は大きく衰退し、金属鉱業事業団(現JOGMEC)による日本国内の広域調査は平成15年に終了した。しかし、まだ相当量の鉱量を残している休廃止鉱山も少なくない。山口県東部のタングステン、島根県東部のモリブデン、北上山地や北海道の金・銀などの鉱床はまだ一定のポテンシャルを残しており、将来の探査・開発に向けた基礎データを収集しておく必要がある。また、レアメタルについては、海外からの供給がストライキや国家間の紛争・対立などで一時的に途絶えるリスクに備えて、現在JOGMECと民間で計60日分が備蓄されている。資源安と言われるこの時に、備蓄の量や対象鉱種を増やす、備蓄の一環として海外のレアメタル鉱山を買収する、ことなども検討すべきである。冒頭で述べたように、国家の存立と繁栄に資源の安定供給は不可欠であり、第二のレアアース危機に備えて中長期的な国家戦略を策定する時が来ている。

(2017年5月13日)

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