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【海外子育てコラム_スイス vol.6】暮らしの中で「働くこと」を見つめ直す

EN-ICHI編集部

2025年9月1日

スイスで4人の子供を育てるあいさん(仮名)。“働きながら育てる”のではなく、“育てながら働く”。働くことと子供と向き合うことの両方を大切に過ごしているようです。

あいさんはスイスでもいろんなお仕事を経験されてきたんですね。

はい、スイスに来てもう14年になりますが、その間、レストランで働いたり、デパートの事務をしたり、日本語を教えたり、いろんな仕事をしてきました。日本との違いはいろいろ感じてきましたけど、「仕事と子育てのバランス」はとくに考えさせられるテーマでした。

― 最初はどのような形でお仕事を始められたんですか?

2011年に結婚を機にスイスへ来たのですが、そのときは語学が全くできなかったんです。でも、「生活費も必要だし、語学も働きながら覚えた方が早いかな」と思って、自分から動きました。到着した翌日には、現地の日本レストランで面接を受けて働き始めました。

※上記写真はイメージです

― すごい行動力ですね。そこからお子さんの出産でいったん仕事を離れたんですね。

そうなんです。出産を機に一度職場を離れましたが、すぐに在宅で日本語を教えるオンライン講師の仕事を始めました。育児と仕事をどう両立させるか、自分なりに模索しながら柔軟に働き方を変えていったんです。

― ご家庭での在宅ワーク、大変ではありませんでしたか?

正直、大変でした。家で仕事をしながら子供を見るのは本当に大変。でも、スイスの保育園は費用がとても高くて、預けるとむしろマイナスになってしまうんです。

※上記写真はイメージです

― 保育園はどのくらいの費用がかかるんですか?

週2日預けて、20万円程かかります。子供が複数いればそれだけ費用もかさむので、うちみたいに4人子供がいる家庭にとっては、保育園に預けるのは現実的じゃないですよね。保育料が高いこともあって、スイスでは小さい子は親が家で育てるのが結構主流なんじゃないかと思います。

― その後、専業主婦になったんですね?

第二子が生まれたあたりからは、完全に仕事を休んで子育てに専念するようになりました。日本では「専業主婦」は減っていると聞きますが、スイスでは長期的に家にいるお母さんもまだ多い気がします。幼稚園や小学校の給食もないところが多いので、子供のお昼ご飯も誰かが用意しないといけないですし。給食も最近増えてきているみたいですけどね、一昔前の日本みたいな感じじゃないですかね。

―今はまた少しお仕事を再開されているとか?

はい。今は義兄がやっているビジネスの輸入業務を在宅で手伝っています。末っ子が幼稚園に通い始めたこともあり、今後はもう少し働く時間を増やしていく予定です。

― 専業主婦から仕事を再開するのは大変ではなかったですか?

そういう感覚はあまりないですね。スイスでは、家庭を優先する働き方が自然に理解されているように感じます。日本だとブランクがあることがマイナスに見られがちですが、こちらでは「家庭を優先していた」というのが自然に受け入れられている気がします。自分のペースで働ける環境があるのは本当にありがたいですね。

― ご主人の働き方にも柔軟さがあるとお聞きしました。

夫は会計監査の仕事をしているんですが、週2日は在宅で働いています。子供の体調不良や通院にも柔軟に対応できるし、買い物や学校の付き添いも協力してくれるので、本当に助かっています。夫は当然のこととして一緒に子育てをしてくれますね。

― スイス全体の働き方の余裕も関係していそうですね。

はい。残業もほとんどなくて、夕方4時や5時には父親が子供を公園で遊ばせている姿をよく見かけます。有給休暇も法的に年5週間以上取ることが義務付けられていて、企業側も取得を勧めてくれます。働き方自体に余裕があるというのが、スイスらしい育児支援のかたちかもしれないです。

※上記写真はイメージです

― そういう環境だと、夫婦で協力もしやすいでしょうね。

そうですね。週3勤務の父親と週2勤務の母親が交代で子供を見る、みたいな家庭も珍しくありません。夫婦で働き方を調整して、家族の時間を作る家庭も多いです。働きながら家族と過ごすことが「特別」じゃなくて、「前提」としてあるんです。

― 一方で、スイスの子育て環境で課題と感じることはありますか?

はい、あります。先ほども言いましたが、学校では昼食を家で取るのが前提になっていて、給食制度はまだまだ発展途上です。だから、昼間に家にいる大人がどうしても必要になる。保育園や学童の費用も高いので、共働きを希望しても現実的に難しい家庭もあります。

また、「女性は家にいるべき」という価値観が比較的強い感じはしますね。でも、何より大切なのは「選べること」だと思います。自分たちのライフステージに合わせて働き方を選べる。しかもその選択が周囲から批判されない。そこには安心感があります。

スイスの風景(あいさん提供)

【海外子育てコラム_スイス】
vol.1 国際色豊かな社会―「違い」を受け入れ、共に生きる
vol.2 妊娠・出産体験談―合理的で温かなケアが支える“家庭での産後”
vol.3 「自立心」「自己主張」「創造性」を育む教育
vol.4 「多文化」と「自然」を生きる日々
vol.5 しっかり決める「家庭のルール」
vol.6 暮らしの中で「働くこと」を見つめ直す

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