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【海外子育てコラム_スイス vol.2】妊娠・出産体験談―合理的で温かなケアが支える“家庭での産後”
スイスで4人の子どもを出産したあいさん(仮名)。日本とはまったく異なる妊娠・出産のスタイルに、初めは戸惑いもあったといいますが、振り返ってみると「合理的で、無理のないシステムだった」と話します。
最初は戸惑ったスイスでの出産
―あいさんの妊娠期や出産時の状況について教えてください。
妊娠中は近所の産婦人科医のところに通い、総合病院で出産しました。スイスでは、このスタイルが一般的ですね。出産時に初めて行く病院で、はじめましての方々に赤ちゃんを取り上げてもらいました。私は参加しませんでしたが、母親学級や両親学級も提供されています。
―出産はスムーズだったのでしょうか?
私の場合は第一子から第四子まですべて自然分娩で、びっくりするくらいの安産でした。第一子は陣痛からわずか2時間で誕生。第二子に至っては間に合わずに病院の受付近くの小部屋で出産してしまいました。三人目・四人目も到着から30分以内に生まれたので、われながら「超安産体質」だったなと感じています。
―外国での出産に不安や戸惑いはありませんでしたか?
さすがに初めてスイスで出産したときは、日本との違いに戸惑いを覚えました。一番大きな違いは、出産後すぐに退院することでした。日本では通常分娩で5日前後、帝王切開では7日前後の入院が一般的ですが、スイスでは自然分娩なら2日で退院。場合によってはその日のうちに帰宅することもあるんです。
正直なところ、「え? もう帰っていいの?」って思いました。でも、助産師さんが家に来てくれるので不安はなかったですね。

※上記写真はイメージです
産後の「訪問助産師」制度
―助産師さんが家に来てくれるんですか?
そうなんです。この「訪問助産師」制度こそが、スイスの出産ケアの大きな特徴だと思います。出産後の一定期間、助産師が我が家に来てくれて、母子の健康チェックや授乳指導、産後の心身のケアまで行ってくださるんです。訪問は最大10回まで保険でカバーされていて、その後も必要に応じて延長できます(追加費用あり)。病院を早期に退院しても、十分なサポートが受けられるんです。
―訪問してくれる助産師さんは選べるんですか?
妊娠後期になると助産師のリストが配られて、本人が希望の助産師を選べる制度になっています。家庭でケアしてもらえるのは、とても助かりますね。自宅なら赤ちゃんのペースにも合わせやすく、上の子たちの世話をしながら過ごせるのも安心材料でした。
産休・育休は短め、でも柔軟な働き方でカバー
―産休制度についてはどうですか?
産休制度は日本の方が充実していますね。スイスでは母親の産休・育休は3か月ほどで、父親の育休も、私たちの頃はたったの2日間しかありませんでした。
ただ、スイスでは有給休暇が充実していて、柔軟な働き方も進んでいます。私の主人も週2日は在宅勤務を取り入れていて、育児や通院、突発的な子どもの体調不良などにも対応できるようにしています。子どもが熱を出したときも、夫が病院に連れて行ってくれたりしました。家庭の事情に合わせて仕事を調整できる文化があるのはありがたいですね。
退院後はなるべく散歩へ?!離乳食は3種類?!
―他にもスイスならでは、ということはありますか?
ありますね。例えば、スイスでは赤ちゃんを外に連れ出すのが良いとされています。産後すぐでも、赤ちゃんを外気に触れさせることで、免疫力や皮膚の強さを育むという考え方が浸透しているんです。私も退院後は「なるべく散歩へ」と助産師に勧められました。日本の「産後は体を休めるべき」という文化とは対照的だと感じました。
ちなみに、離乳食については、日本に帰るとそのバリエーションと味の繊細さに驚きました。スイスのスーパーで売っている離乳食は、月齢ごとに3種類ずつくらいしかなくて、3種類だと1日3食で終わっちゃうから、毎日同じになるなって(笑)。
周りの友人を見ていると、とにかくいろんな食材をミキサーにかけてぐちゃぐちゃにして与えています。スペイン人のお母さんは生後6か月の子の口の中にエビを放り込んだり、ドイツ人の家庭はわざと固いパンを食べさせたり、出身国によっても離乳食の作り方や食べさせるものが違っていて、日本のように細かいガイドラインはありません。

※上記写真はイメージです
家族、地域で子供たちを見守る
―保育や子育てのサポートについてはどうですか?
食事や生活面のサポートも家族や地域で担うのがスイス流です。保育園はありますが、とても高額です。うちの近くの保育園は、週2で預けたら月約20万円。4人預けたら月に80万円。「そんなの無理!」ってなりますよね(笑)。幼稚園(4歳で入園)からは無料ですけど。
実際に共働き家庭でも、子供が多いと「働くより、家で子どもを見るほうがコストを抑えられる」と考える家庭も少なくありません。
―必ずしも、すぐに職場復帰するという感じではないんですね。
そうですね。スイスでは出産後すぐに社会復帰するというより、家族単位、地域単位で子どもを見守る体制が色濃く残っています。地域には子育て支援センターがあり、助産師が常駐していて、子育てについての相談ができるようになっています。助産師、隣人、家族。みんなで子どもを育てる“共育”の精神が、合理性と温かさを両立させています。
「自分のペースで子どもを育てていい」って言われるのが、何よりも心強いですね。スイスはそういう空気がある国だと思います。

スイスの風景(あいさん提供)
【海外子育てコラム_スイス】
vol.1 国際色豊かな社会―「違い」を受け入れ、共に生きる
vol.2 妊娠・出産体験談―合理的で温かなケアが支える“家庭での産後”
vol.3 「自立心」「自己主張」「創造性」を育む教育
vol.4 「多文化」と「自然」を生きる日々
vol.5 しっかり決める「家庭のルール」
vol.6 暮らしの中で「働くこと」を見つめ直す
