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停滞する欧州経済とワークライフバランス重視するドイツ

辰本 雅哉在仏ジャーナリスト

2025年6月5日

ドイツでは競争が激化し、労働時間が不規則になる中、ワークライフバランスを重視する動きがある。少子化対策を含め、家族との質の高い時間と仕事のバランスをとるために、働く者も企業の側にも意識改革が求められている。

ドイツでは毎年、雇用法の規定が審議され、翌年に改正、更新される。2024年に審議される新しい規定は、休暇(病気休暇と育児休暇)、熟練労働者の移民、重度障害者の雇用、内部告発者保護などが取り上げられる予定だ。

2024年1月から、ドイツの最低賃金は1時間あたり12.41ユーロ(2025年から時給12.82ユーロ)に引きあげられた。ドイツでは、従業員にとって煩雑だった病欠の届け出を簡素化するため、2023年12月から電話で病気休暇の診断書を取得できるようにする規定が導入された。これらの措置は、従業員が休暇を取ることを容易にする政府の方針が影響している。今日、ドイツの家族が直面している現代的な課題としては、ワークライフバランスの促進、都市部における経済的プレッシャー、リモートワークが仕事とプライベートの境を曖昧にしている、高齢化社会における介護のジレンマなどが挙げられる。

主な課題は、財政的または技術的な圧力の影響をほとんど受けずに、グローバル化に直面しながら伝統的な慣習を維持することだ。ドイツの家族は、環境の持続可能性と気候変動に関連する課題に直面している。中でもワークライフバランスや介護のジレンマだけでなく、より広範囲の現代的問題に直面している。

実際、ドイツの家族構成は事実婚や単身親、同性カップルの家族等の増加により、伝統的な核家族モデルが大きく変化し、より広範な世界的傾向と、国内の独特の文化的変化が反映され、家族構成では、強い家族の絆、責任の共有、家事や子育てに対する共同の取り組みが重視され、家族間の相互支援、子供の教育と課外活動の重要性などが挙げられてきた。

家族モデルの多様性に応えていく必要に迫られた政府は、ドイツの核家族が旅行、スポーツ、文化イベントへの参加など、一緒に活動に参加して関係を強化し、一体感を育むことが期待される中、特にワークライフバランスを見直す動きが顕著となっている。

従業員が仕事と、家族、余暇、個人の成長など生活のその他の重要な側面との間で時間とエネルギーを配分する努力をサポートする概念が浮上し、ドイツの核家族では、家族との質の高い時間と仕事と生活のバランスを重視し、家族での食事、週末の外出、学校の休校中に会社の休暇を取ることなどが、より重視されるようになった。

さらに子育てにおいて、典型的なドイツの家庭では、両親が交代で家にいて新生児の面倒を見、国の育児休暇制度を利用して、幼い頃から育児に参加できるようにすることが奨励されている。

少子化が進むドイツで、今やワークライフバランスは最重要テーマであり、家族の食事や集まりは親子兄弟、親戚、友人知人が絆を深め、コミュニケーションをとる重要な瞬間となっている。そのため、食事の場を持つことを妨げる働き方は根本的に改める必要があり、特に男性、雇用者側の意識改革が急激に進められている。

一方、ドイツ企業は厳しい国際競争に晒され、仕事量は確実に増え、複雑化している。また新しいテクノロジーを習得するためのトレーニングの時間的プレッシャーも加わっているのが現実だ。コロナ禍で拡大したリモートワークが私生活に侵入し、ワークライフバランスを壊している。さらに都市部ではインフレによる生活費の高騰も、高齢者介護のプレッシャーに加わっている。

ドイツは昨年来、少子高齢化対策を念頭に、まずは子供を増やす対策に本腰を入れている。より多くの時間を家族で一緒に過ごすために、在宅勤務やパートタイム勤務などの柔軟な勤務形態を模索し、より良いワークライフバランスを求める家族が増えている。さらに移民家族の伝統やお祝いに対するより包括的なアプローチが生まれている。

家族は、家事の管理や親戚との連絡にデジタルツールを積極的に活用するようになり、テクノロジーを邪魔物としてではなく、家族生活を充実させる手段として受け入れるようになった。また、高齢の親族の介護、責任の共有、近所や友人との資源の共有に取り組む家族にとって、コミュニティ支援ネットワークは非常に貴重なものとなっている。

教育体制としては、働く親の忙しいスケジュールに適応する柔軟な学校教育や課外活動プログラムの導入が進んでいる。そのため、親が仕事に時間を費やしている間に校外学習、週末のワークショップ、休日のキャンプなどが増え、子供たちが充実した活動に参加することができるようになり、家族を持つことのポジティブ面が確保されている。

改善されたとはいえ、現在もドイツでは男性と女性の家事分担は不平等感がある。現代の男性は前の世代よりも家事を多くこなしているが、ドイツ経済研究所の推定によると、女性は平均して1日約10時間を家族の世話に費やし、男性は3時間という数字もある。

ドイツのリサ・パウス家族問題大臣は最近、両親手当(子供が生まれてから1年間、両親に支払われる)の上限を発表し、働く女性たちの激しい怒りを巻き起こした。育児手当の受給資格のある家族のうち、支給されないのは課税対象となる年間所得が15万ユーロ以上の家族のみであると説明し、人々の不安を和らげるのに多くの時間を費やした。

ヨーロッパの現状を見ると、経済成長の停滞はドイツだけの問題ではなく、「経済発展が生活の豊かさ、労働の短縮をもたらす」という経済発展の理論は、前提から崩れている。欧州中央銀行によると、ユーロ圏の住民は米国の労働者よりも平均して大幅に労働時間が短く、新型コロナ後の労働時間の減少幅は米国の労働者よりも大きい。

つまり、ワークライフバランスの促進に逆行する「もっと働くべき」というプレッシャーはヨーロッパ全体を覆っている。結果的にヨーロッパがワークライフバランスを確保するためには日本同様、「生産性を向上させることしか選択肢はない」と英フィナンシャルタイムズ紙は指摘している。

(『EN-ICHI FORUM』2024年8月号記事に加筆修正して掲載)

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