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過去最低の出生率続く韓国少子化対策の検証-若者の結婚離れは止められるのか

一藤木 充誠ソウル在住ジャーナリスト

2025年6月8日

「世界一の少子化」に悩む韓国の出生率が昨年0.72人となり、8年連続で過去最低を更新した。国を挙げた対策にもかかわらず、一向に歯止めの掛からない少子化問題の現状をまとめた。

韓国統計庁が2024年2月末に発表した2023年の韓国の合計特殊出生率(満15歳~49歳の女性1人が生涯に産む子供の数)は、前年比0.06下がって0.72だった。OECD(経済協力開発機構)加盟国中最低で、2015年以降減少が続いている。

特に新型コロナウイルスがパンデミックとなった2020年以降は、婚姻数減少などの影響も重なったとみられている。2024年は出生率が0.6台にまで落ち込むとの予想も出ている。

速いペースで進む少子化は近年の高齢化と相まって、国全体の人口構造をアンバランスな形にさせるのは必至だ。同庁の推計によると、約四半世紀後の50年には満15歳未満の人口は全体の1割にも達せず、一方の満65歳以上は4割を超えるとみられている。

一部で「22世紀に地球上で最も早く消滅する国」と指摘されるほど深刻な韓国の少子化問題だが、尹錫悦政権は発足以降、さまざまな対策を打ち出している。その大枠を5大核心分野として学童保育の充実、仕事と育児の両立、住居、養育費、健康と定め、分野ごとに国民が実感しやすい政策に落とし込む計画を打ち出した。

このうち婚期を遅らせたり、結婚しても子供を産もうとしない主な原因の一つになっている住宅費高騰への対策として、新婚世帯向けのマンション分譲などを27年までに計43万戸供給し、新婚世帯向け低金利住宅ローンの対象に関しては世帯所得の上限を引き上げることにした。

また学童保育の充実に向け、家庭訪問型の学童保育を27年までに約3倍増やして23万世帯以上を支援したり、保育園の時間制保育を延長し、働く女性の経歴断絶などを防ぐ方針も打ち出した。

さらに養育費と関連し、0歳児と満1歳児を持つ父母に「父母給与」としてそれぞれ1カ月70万ウォン(約7万8000円)、35万ウォン(約3万9000円)を支給し、次年度はそれぞれ100万ウォン、50万ウォンに増額。仕事と育児の両立に向けては、雇用保険を活用して子供が小学2年生時まで使えた勤労時間短縮制度を6年生時にまで拡大し、父母1人当たり最大36カ月使用できる育児休暇の期間拡大も行うことにした。

政権内では、少子化対策予算を国内総生産(GDP)比で現在の1.5%水準から5%水準の100兆ウォン(約11兆円)程度まで引き上げて集中投資するショック療法が検討されたり、与党「国民の力」内でも男性が満30歳以前に自分の妻との間に子供3人以上をもうけた場合に兵役を免除する案、各種支援金をトータルして出生後満18歳まで毎月100万ウォン(約11万円)の児童手当を支給する案なども検討された。

また尹政権は、法外な課外教育費、良質な雇用の不足、首都圏を中心に高騰する不動産価格などが多層的に影響を与え、その結果として少子化が進んでいる現状から、これらに関係する多くの省庁に対応策を検討させてきた。

しかし、いずれも根本的な解決には至らず、特に結婚や出産をためらう若者たちの心境を変えるには不十分なようだ。

政府系シンクタンクの韓国青少年政策研究院はこのほど、全国の小中高校生7700人余りを対象に実施した意識調査の結果を公表したが、そこには結婚・出産を忌避する人が急増している実態が浮かび上がった。

それによると、まず「結婚は必ずしなければならないか」の問いに「はい」と答えたのは全体の3割弱にとどまり、「いいえ」が7割を超えた。12年の調査では7割が「はい」と答えていたというから、この10年間で「結婚は必須」という価値観が急激に減退したことが分かる。

また「結婚したら出産すべきか」の問いに「はい」と答えたのは2割弱だった。韓国では長く儒教文化の影響もあって「男女とも適齢期に結婚して子供を産み家庭を築く」ことが当然視されてきたが、「結婚=出産」という図式は成り立たなくなり始めている。子供を産む代わりに犬や猫などペットを飼う風潮も広がり始めているようだ。

こうした青少年の認識を変えることは、政府主導の対策では一朝一夕にはできない。

結婚・出産に対する認識以外にも少子化に影響を与えていると言われるのがジェンダー間の葛藤問題だ。

若い女性を中心に男女平等を主張するフェミニストたちは、男女間の賃金格差や男性による女性へのセクハラ、出産・育児に配慮しない職場文化など女性に対する性差別が男性中心社会に対する反発を招き、ジェンダー間の葛藤の原因になっていると主張している。

一方、反フェミニズム派の主張は、急進的フェミニズムが男女間に相互嫌悪をもたらし、恋愛や結婚を忌避させているというものだ。

こうしたジェンダー間の葛藤が他の原因と相まって韓国の少子化を加速させているようだ。韓国政府も「ジェンダー間の葛藤の解消が少子化解消につながる可能性がある」(金賢淑・女性家族相)との認識を示している。

ただ、この問題も家父長制が長く続いた影響や、その後の女性の著しい社会進出と地位向上などで、簡単に解消に向かうかは不透明だ。

韓国大手紙・中央日報は少子化問題と関連し、社説で次のように指摘している。

「国家の運命を左右する少子化問題の解決には、(中略)子供を産んだらカネをあげるという一次元的対策ではなく、子供を産んで育てられる環境を作ってあげるグランド・プランが必要。(中略)子供を負担に思うのではなく、祝福と実感できる実質的で持続可能な政策を取るべきだ。そうすれば国が生き残れる」

韓国は国家存亡の岐路に立たされていると言っても過言ではない。

(初出は『EN-ICHI FORUM』2024年5月号)

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