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フィンランドに学ぶ「在宅育児支援」
先進国はおしなべて、ライフスタイルの変化に伴う出生率の低下に悩み、子育て支援のあり方などで試行錯誤を繰り返しています。模範的事例と見なされる北欧諸国も同様ですが、特に「在宅育児支援(Cash-for-Childcare、以下CFC)」は、わが国にとっても非常に参考になる政策です。
フィンランドでは50%が「在宅育児支援(CFC)」を利用
CFCは1995年にフィンランドで始まり、他の北欧諸国にも広まった制度です。育児休業が終わり、公的保育サービスの利用が始まるまでの隙間を埋める経済支援となっています。
竹田(2018)によると、2014年時点で最も利用率が高いのはフィンランド(50%)で、デンマークやスウェーデンではあまり利用されていません。両国では1年ほどの育休後、すぐに保育サービスの利用が始まるため、CFCのニーズが低いと考えられます。

出所:フィンランド、ノルウェー、スウェーデンはNordic Statistics database(2023)、日本は文科省「幼児教育の現状」(令和2年、幼児教育の実践の質向上に関する検討会資料)を元に筆者作成。
逆にフィンランドでは、約1年の育児休業が終わった後も保育利用率は1歳児で30%台、3歳児以降も80%台にとどまります。同国のCFC利用率の高さには、在宅育児を選ぶ家庭の多さが反映されていると思われます。
翻って日本の保育サービス利用状況を見ると、スウェーデンとフィンランドの中間に位置しています。わが国でも在宅で子育てをする層に、CFCの一定のニーズがある可能性があります。
在宅育児支援は「選択肢」の一つ
CFCの導入をめぐっては、イデオロギー対立が影を落とすことがあります。その典型がスウェーデンで、保守勢力が「家族回帰」、リベラル勢力が「男女平等」をそれぞれ指向し、CFCは前者の代表的施策とされました。その結果、政権交代によって導入と廃止が繰り返される不安定な制度となってしまいました。
仮にわが国で導入を検討する場合には、イデオロギーで政策が左右される事態は避け、あくまでも、家庭ごとの多様なニーズにこたえる「選択肢」として示したほうが良いと思われます。
「第16回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所、2021)で日本における第1子出産前後の女性の就労状況(2015〜19年)を見ると、「妊娠前から無職」(17.4%)、「出産で退職」(23.6%)です。合わせると41.0%となり、家事・育児に専念する層が一定の割合を占めます。
退職理由でも「両立が難しい」など仕方なく退職した人もいる一方で、「家事・育児により時間を割くため」という積極的な動機も2〜3割存在します(厚労省委託調査)。これら在宅育児を望む層にはCFCが有効な支援となり得ます。
また、CFCは在宅育児家庭への「選択肢」となることに加え、公平性を担保する意義もあります。保育所等を利用する家庭は、子ども手当など直接給付の他にも、保育サービスへの補助という形で間接給付も受け取っています。その額は、首都圏・2歳児で約15万円(板橋区)ですが、在宅育児の家庭には、この恩恵は及んでいません。CFCにはこの格差を埋める機能が期待できます。
日本の子育て支援はすでに北欧並み
各国の子育て支援を比較すると、制度上、日本は既に北欧と遜色ないレベルの充実度に達しています。ユニセフの『先進国の子育て支援の現状(原題:Where Do Rich Countries Stand on Childcare?)』(2021)では、日本は総合で41か国中、21位と中位に位置づけられており、「育休制度」については1位です。「保育参加率」は31位と低いですが、3歳以降の保育園・幼稚園等への就園率は9割以上で北欧諸国とほぼ同レベルです。
意識や価値観でも、よく指摘されるほどの差異はなさそうです。購読新聞で北欧最大の発行部数を誇る「ヘルシンキ・サノマット」紙(フィンランド)には、しばしば、自国男性の育児参加への意識の低さを嘆く記事が掲載され、アンケートには「妻の方が子育てが得意」「父親の役割は稼ぎ手」など、性別役割分担的なコメントが並びます。
フィンランドの育休取得の日数比をみても、母親9割、父親1割で、ここ10年横ばいです。一方で日本の父親の育休取得率は2012年の1.89%から2022年には17.13%に大きく上昇しました。
制度、価値観ともに、日本社会の状況は徐々に改善しています。国内には北欧を理想とする声も一部にありますが、過度に理想化するのではなく、日本の国情にあわせてCFC等の施策を選択的に取り入れるのが適切だと思われます。
CFCは少子化対策にはならない
ちなみにCFCなどの経済支援や保育環境の改善は、あくまでも子供のいる家庭に対する支援が主眼であり、少子化の原因である「非婚・晩婚化」の解決にはつながりません。
それは、子育て支援策に早くから取り組んできた北欧諸国の現状にも表れています。北欧4カ国の2010年と2023年の合計特殊出生率を比較すると、4カ国とも大幅に落ち込んでいます。

出所:World Bank Open Data(Fertility rate)を元に筆者作成
その意味で岸田政権が打ち出した「異次元の少子化対策」も主には子育て支援であり、少子化対策としての効果はあまり期待できないと考えられます。
(『EN-ICHI FORUM』2023年8月号記事に加筆修正して掲載)
参考文献
- 国立社会保障・人口問題研究所(2021)「現代日本の結婚と出産 -第16回出生動向基本調査 (独身者調査ならびに夫婦調査)報告書-」、https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_ReportALL.pdf (2025年6月6日アクセス)。
- 竹田昌次(2018)「北欧福祉国家における家庭保育手当(the Cash-for-Childcare)をめぐって−北欧福祉国家型家族モデルを分析視角として—」. 『立命館経済学』第56巻第6号.pp329-345。
- UNICEF(2021) ”Where do rich countries stand on childcare?” https://www.unicef.org/innocenti/media/5431/file/UNICEF-Where-Do-Rich-Countries-Stand-on-Childcare-2021.pdf (Accecced on 6th June 2025).
