家庭と地域の未来を拓く

ソーシャル・キャピタル形成への家庭の影響

EN-ICHI編集部

2025年6月11日

地域コミュニティの活性化や福祉の充実のために、ソーシャル・キャピタルへの注目が集まっています。家庭で温かい養育を受けることは、個人のソーシャル・キャピタルの根源となっている可能性があります。

現代では、家族機能の低下や地縁の弱体化を背景に、地域コミュニティの活性化や、地域福祉の充実のためにソーシャル・キャピタル(以下、SC)が重要であるという認識が高まっています。従来のSC研究では、社会的背景の異なる人々のつながりである、橋渡し型(bridging)SCが注目を集めてきました。しかし、親密で地理的に近く、同質な社会的背景を持つ人々の繋がりである結束型(bonding)SCも、人々の助け合いを促す点で欠かすことができません。人間関係に関わる能力の発達研究からは、家庭での良質な養育が結束型の形成、蓄積の土台となることが示唆されています。

まず、SCの定義を確認しておきましょう。SCの定義は論者によって様々ですが、概ね、信頼・互酬性の規範・ネットワークが含まれています(稲葉2021)。いくつかの分類方法があり、最もよく使われるのが結束型と橋渡し型に分類する方法です。結束型は、家族や地域コミュニティに代表されるような何らかの社会的背景を共有する、親密で頻繁に会う関係性や集団を指します。一方、橋渡し型はNPOに代表されるような多様な背景を持つ人々の関係性や集団を指します。

結束型と橋渡し型にはそれぞれの特性があります。結束型は家族・地域など、地理的に近い関係であることもあり、物の貸し借りや日常的手助けなどの道具的サポートや、助言・情緒的支援などの心理的サポートの相互提供に長けています。そうしたサポートを通じてストレスを低減し、生活満足度を高めることにもつながります。加えて、密な関係であるために集団内で規範を共有しやすく、互酬的関係を維持しやすくなります(小藪2021)。 対して、橋渡し型は、自分と社会的属性の異なる人々との関係であるため、普段は接しない知識や情報に触れる機会を得やすくなります。また、情報やアイデアの伝播・拡散に向いており、広い範囲に共有できます。複数の集団を含むより広いアイデンティティ形成に資するとされます(稲葉2021)。

出所:小藪(2021)・稲葉(2021)をもとに筆者作成

多くのSC研究において、結束型はその課題が注目されてきました。結束型の課題とは、人間関係の「狭さ」にあるといいます(小藪2021)。ある集団において結束型の性格が強すぎる場合、自集団びいきや排他的態度、あるいはセクショナリズムに陥ってしまうと考えられてきました。また、内部に対しても、規範の順守を求めるあまり、同調圧力的に個人の自由を制限するようになることが問題だとされてきました。

こうした結束型の課題に対する認識を背景に、橋渡し型が期待を集めてきました。橋渡し型は生活圏の異なる人々の関係であるため、広い範囲に交流を持つことができるとされます。そうした要素が親しくはなくとも、見知らぬ他人ではない関係を広げることにより、社会的分断を防ぐことが期待されてきました。

しかし、結束型を欠いて橋渡し型ばかりを増やしても、問題が生じることが指摘されています。橋渡し型は親密性・対面性・接触頻度が相対的に低い「弱い紐帯」です(小藪2021)。そのため、日常的に身近な相手と道具的サポートや心理的サポートを提供し合うことは難しくなります。加えて、弱い紐帯であるため、人間関係を形成・維持しなければならないという圧力が低く、自分と気の合う相手とだけ付き合い、考えが異なったり地道な地域づきあいが必要な相手とは付き合わないという人間関係の選択が行われやすくなります。その結果、社会の人間関係が「希薄化」する可能性もあります。SCが豊かな社会を構築するには、橋渡し型のみならず結束型も十分に形成される必要があるといえます。

では、結束型SCの形成はどのように促進することができるのでしょうか。結束型の形成を促す一つの方法は、家族における子供の養育の質を高めることです。先述のように、結束型の関係は、道具的サポートや心理的サポートを提供し合うネットワークと捉えることもできます。道具的サポートや心理的サポートはソーシャルサポートと呼ばれ、個人が持つソーシャルサポートを受けられるネットワークの多寡は、幼少期からの心理社会的発達の積み重ねがもたらす成果だという知見があります(スルーフほか2022)。すなわち、家庭における良質な養育が子供の健全な心理社会的発達を促し、ソーシャルサポートを提供し合うネットワーク形成を支えるということです。稲葉(2011)も、家族における幼少期の体験が個人のネットワーク形成能力を高めると述べています。

出所:崎谷ほか(2016)表4より抜粋

具体的には、家庭における養育によって獲得されるソーシャルスキルが家庭外の集団への適応に影響します。ソーシャルスキルとは「対人場面において、個人が相手の反応を解読し、それに応じて対人目標と対人反応を決定し、感情を統制したうえで対人反応を実行するまでの循環的な過程」です(相川2009)。わかりやすく言えば、人間関係を構築し円滑に維持するための話し方や、振る舞い方です。問題解決や関係形成、関係の維持に関わる能力から構成されていると考えられます(詳しい内容は表を参照)。命婦(2020)によれば、幼児が家庭内で日常的に展開される三者以上のコミュニケーションに参加している場合、主体的にソーシャルスキルを獲得します。また、幼児期にソーシャルスキルが不足していると、ポジティブな仲間関係を形成しにくく、その後の仲間関係や学校適応にも悪影響がみられます(命婦2020)。ソーシャルスキルが、仲間関係という結束型のネットワーク形成に影響しているのです。

ソーシャルスキル研究からは、親子関係や被養育体験の違いによって、ソーシャルスキルの獲得状況が異なることが示されています。大鷹ほか(2009)は、中学生と大学生を対象に、アンケート調査と統計分析を用いて、親の養育態度とソーシャルスキルの関係を調べました。

その結果、中学生、大学生ともに親の養育態度が「厳格・拒否的」である場合、子供のソーシャルスキル得点に負の影響がありました(大鷹ほか2009)。「拒否・厳格」な養育態度とは、言われたとおりにしないとひどく叱られる、自分に相談なく色々なことを決めてしまう、「忙しいから」と相手にされない、といった親の都合優先かつ感情的な養育を指します。親がこのような養育態度をとる場合、子供の人間関係に関するイメージ(内的作業モデル。他者は助けてくれるか、自分は助けられる価値があるかなどに関する信念。)に負の影響を与え、それを介してソーシャルスキル得点にも負の影響がありました。

崎谷ほか(2016)も、小学生を対象に親の養育態度と子供のソーシャルスキルの関連を分析しました。大鷹ほか(2009)と同様、アンケート調査と統計分析(重回帰分析)を行いました。その結果、小学生のソーシャルスキルは、母親の「支援的」養育に有意な影響を受けていました(崎谷ほか2016)。「支援的」養育とは、気持ちを大事にしてくれる、失敗を元気づけてくれる、自分の考えを分かろうとしてくれるなど、子供の気持ち・考えを尊重する態度とされます。反対に、指図ばかりする、1人でやるようにいうなどの関わりは「指示的」養育とされました。崎谷らは、母親・父親ともに「指示的」養育の得点が高くても低くても、「支援的」養育の得点が高ければ子供のソーシャルスキル得点が高くなることも示しました(同上)。

これらの研究からは、家庭における親の養育によって、子供のソーシャルスキルが左右されることが示唆されます。その際、支援的で温かい養育態度が子供のソーシャルスキルを高めることがわかります。

家庭での支援的な養育がソーシャルスキルの獲得に関わるのは、子供の自己受容と他者受容の発達を促すからだと考えられます。自己受容と他者受容は、発達課題としてのアイデンティティ形成の要素であり、アイデンティティは人間関係の発達と関わりが深くあります。杉村(1998)は、アイデンティティは、他者の期待や欲求、関心を認識したり表現したりし、そこで生じた自己と他者の不一致を相互調整によって解決していくことで形成されるとしています。

そして、自己受容とは、ありのままの自分を、善悪を別にして客観的に受け容れようとする態度・姿勢です(春日2015)。自己受容が十分な人は、自分自身に半信半疑にならない、人と比較して優劣を気にしないなどの性質をもちます。また、他者受容とは、自分と異なる考えを持つ他者を受け容れることができる態度・姿勢です(上村2007)。他者受容が十分な人は、親しい他人に批判されても耳を傾けることができる、自分にとって重要なことを成し遂げようとするときでも他者の感情に配慮することができるなどの性質をもちます。

自己受容と他者受容はともに十分に発達することがのぞましいといえます。上村(2007)は、自己受容、他者受容が共に高い者は自己実現や社会的適応に対し、成熟した傾向的特徴がみられることをしめしました。これに対して、自己受容が高く、他者受容が低い者は、自己実現に積極的である反面、他者との共存に対しては不適応的な傾向的特徴があること、また自己受容が低く、他者受容が高い者は、自己実現に消極的で、他者への一方的な依存や過剰適応的な傾向がみられることを示しました(上村2007)。

アイデンティティ形成の過程で自己受容と他者受容がともに発達することにより、自立しつつも良好な関係性を保てる能力が培われ、ソーシャルスキルとして表出するのでしょう。

自己受容と他者受容の高さにも、子供の親子関係に対する認知が関わっていることを示す研究があります。藤川・大本(2015)は、高校生を対象に質問紙調査を行い、高校生の自己受容および他者受容と、親との会話頻度・親から共感されているという感覚・親から理解されているという感覚の関連を調べました。その結果、親との会話頻度や親から残念な気持ちを共感されていると感じること、親から理解されていると感じることは、高校生の自己受容・他者受容と正の関連がありました。

さらに、高校生の性別と父親・母親の組合せによって異なる特徴がみられました。親との会話について、父親との会話頻度は、男女とも自己受容・他者受容と関連がみられ、母親との会話では男女とも他者受容とのみ関連がみられました。ここで、「ときどき話をする」と答えたグループの自己・他者受容平均点が、「あまり話をしない」「全く話をしない」と答えたグループと同等以上に低く、会話量が十分に豊富である必要が示されました。

親からの共感について、父親から共感されているという感覚は子供の自己受容と他者受容は性別に関わらず高くなることが分かりました。一方、母親からの共感も自己受容・他者受容に正の関連がありましたが、女子ではとくに自己受容に強い影響があることが分かりました。男女ともに「残念な気持ちを親に話さない」と答えた者は、「全然わかってくれない」と答えた者と同様、平均値が低く出ました。

親からの理解については、男女で異なる特徴がみられました。男子は、父親、母親ともに理解されている感覚が高いグループの自己受容得点の平均値が有意に高く出ました。しかし、理解されている感覚が低いグループの他者受容の平均値が有意に低く、「理解されていない」と感じることが他者受容に負の影響を与えるとされました。一方、女子は、自己受容、他者受容の両方とも、父親、母親共に理解されていると感じる者ほど高くなることが分かりました。特に、母親からの理解は男子よりも女子において、他者受容の形成に与える影響が強いと考えられました。

出所:筆者作成

以上のことから、親から共感されたり、理解されたりする受容的なサポートが高校生期の自己受容・他者受容の形成に良い影響を与えることが示唆されました。

家庭での良好な養育を通じて自己受容・他者受容が発達し、安定したアイデンティティの形成に至ります。それを通じて関係形成能力や関係維持能力といったソーシャルスキルが発揮され、個人を取り巻くサポートネットワークという、個人レベルの結束型SCが形成されると考えられます。サポートネットワークでもある結束型SCは、個人の生きやすさに関わります。また、個人レベルでSCが豊富な人が増える時、地域レベルのSCも高まります(上野2011)。

橋渡し型SCが注目される昨今ですが、結束型SCもバランスよく形成を促していく必要があるといえるでしょう。その際、家族における被養育体験を良好なものにしていくことが、社会全体のSC向上に資するといえます。


(『EN-ICHI FORUM』2024年8月号記事に加筆修正して掲載)

参考文献

  • 相川充(2009)『新版 人づきあいの技術―ソーシャルスキルの心理学』サイエンス社。
  • 稲葉陽二(2011)『ソーシャル・キャピタル入門―孤立から絆へ』中央公論新社。
  • 稲葉陽二(2021)「ソーシャル・キャピタルとは何か―定義と有用性」稲葉陽二編著『ソーシャル・キャピタルからみた人間関係―社会関係資本の光と影』日本評論社、pp.8-22。
  • 上野眞也(2011)「ソーシャルキャピタルにおけるコミュニティ効果」『熊本大学政策研究』、2、pp.23-33。
  • 上村有平(2007)「青年期後期における自己受容と他者受容の関連: 個人志向性・社会志向性を指標として」『発達心理学研究』、18(2)、pp.132-138。
  • 大鷹円美、菅原正和、熊谷賢(2009)「母子関係と子どものソーシャルスキル発達の阻害要因」『岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要』、8、pp.119-129。
  • 春日由美(2015)「自己受容とその測定に関する一研究」『南九州大学人間発達研究 』、5、pp.19-25。
  • 小藪明生(2021)「ソーシャル・キャピタルの『豊かさ』とは―強い紐帯と弱い紐帯のバランス、信頼の範囲」稲葉陽二編著『ソーシャル・キャピタルからみた人間関係―社会関係資本の光と影』日本評論社、pp.42-63。
  • 崎谷香菜美、小林陽子、長津美代子(2016)「家族および地域社会が小学生のソーシャルスキルに与える影響」『群馬大学教育学部紀要. 芸術・技術・体育・生活科学編』、51、pp.123-133。
  • 杉村和美(1998)「青年期におけるアイデンティティの形成 : 関係性の観点からのとらえ直し」『発達心理学研究』、9(1)、pp.45-55。
  • スルーフ,アラン.L、イーグランド, バイロン、カールソン, エリザベス.A、コリンズ, アンドリュー.W著、数井美みゆき・工藤晋平監訳(2022)『人間の発達とアタッチメント』(原著は2005年)誠信書房。
  • 藤川順子、大本久美子(2015)「高校生の自己受容・他者受容と親との関わりの関連」『大阪教育大学紀要 第IV部門 教育科学』、64(1)、pp.81-92。
  • 命婦恭子(2020)「幼児期におけるソーシャルスキルの発達と適応」『西南女学院大学紀要』、24、pp.119-126。

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