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家族の関係性に着目する「家族システム論」
個人を対象とした心理療法に対して、システムとしての家族に着目した有力な心理支援の方法があります。その基盤となる「家族システム論」について紹介します。
家族システム全体の機能不全
家族システム論は、自然科学における一般システム理論の影響を受けて提起され、精神医学および臨床心理学におけるシステム論的家族療法を生み出しました。そこでは心理障害はシステムとしての家族という観点から捉えられ、その支援を考えようとします。家族療法は有力な心理支援の方法として1980年代までにはその地位が確立し、家族療法やカップルセラピーは心理援助職の一つのジャンルを形成しています(コーリィ他,1998)。米国で家族療法が発達したのは離婚率の増加などの家族の変容によるところが大きかったとされ(遊佐,1984)、今後は日本においても専門家が増える可能性があるでしょう。
システムとは、あるまとまりをもった全体であると説明されます。日本語には「系」という言葉があり、例えばSolar Systemは太陽系と訳されます。太陽とその周囲を8つの惑星などが公転する惑星系という意味です。そして太陽系は銀河系の一部ですが、それ自体が独立した全体でもあります。このようにシステムには階層性があります。あるいは人体を例にとれば、人体は神経系、循環器系、消化器系などといった各器官系から構成されています。すなわち、それぞれの系は互いに人体の一部を形成しながら、相対的に独立した構造と機能を構成しています。これが系=システムです。
現在の臨床心理学に含まれる心理障害の主要な理論には、精神分析や行動療法その他の複数の病因モデルがありますが、それらは個人を対象として考えられたものです。例えば、精神分析は心理障害の形成に関わる無意識を仮定し、行動療法は誤った学習の結果として問題行動を記述します。 これに対してシステム論的な家族療法では問題を個人の心理状態に還元しません。そうではなく、個人が属するシステム全体の機能不全がその構成員(個人)を通して現れていると考えるのです。この点でシステム論的アプローチは臨床心理学の中の心理支援モデルとしてユニークです。
子どもの問題の発生はシステムの危機の現われ

代表的な例として不登校の問題への対応を挙げることができます。上記の個人パラダイムにおいては、不登校はその子どもに原因があり、それは無意識的な葛藤であるとか、あるいは不適応的な行動の学習などとして捉えられるでしょう。すなわち、その個人に、問題の主な原因を帰属させるのです。
このように、個人の行動の原因を個人に帰すのはごく自然な論理であり、一般的に人はそのように考えます。不登校の子どもの保護者は、「うちの子はとても神経質なんです」などと言うかもしれません。このような原因→結果のモデルを直線的因果律と呼び、これと対比的にシステムにおける相互作用的な影響関係を円環的因果律と呼んでいます。 そこでは原因と結果を一義的に決めることは困難です。実際、家族の中で子どもが不登校になると、それは親に影響を及ぼし、親の子どもへの関わりが変わるでしょう。すると、今度はその親の変化が子どもに影響すると考えられるでしょう。このようにシステムの構成員の関係は相互作用的です。

出所:筆者作成
それではシステム論的家族療法は、子どもの不登校をどのように捉えるのでしょうか?よく見られるのは、両親間の不仲などによるシステムの緊張の高まりがその子ども(神経質な子ども)の不登校を引き起こしたと解釈できるものです。関係性が悪化して会話がなくなっていた親夫婦は、子どもの不登校の問題が起きたことで話し合う必要性を感じるかもしれません。その結果、両親の話し合いが始まると、システムは別の形に移行する可能性があります。この場合、子どもの問題の発生はいわば家族システムの危機の現われであり、子どもにその自覚はなくてもシステムの機能不全を回復させようとする意味があると解釈できるのです。
そのためシステム論的家族療法では、システム内で問題を生じている個人をIdentified Patient(IP)と呼びます。「患者」ではなく、「患者と見なされた人」ということです。これは先に述べたように、その個人に問題の原因(病因)があるのではなく、むしろシステムの問題(病因)を背負わされた人という理解を示しています。そして、このような発想から家族療法では「犯人捜しをしない」という支援コンセプトも提起されました。子どもの不登校をめぐって、それは母親が悪いのか父親が悪いのか、さらには両親の育て方が悪いのかといった問題の「犯人」をめぐる議論が生じる可能性がありますが、家族療法家はそういう原因帰属をしないでしょう。多くの場合に関係者はそれぞれに解決努力をしており、それがむしろ裏目に出ているというのが、システム論的家族療法が発見したことだからです。
支援アプローチへの利点
さらに、このようなシステム論的な考え方は、不登校をめぐる問題の見立てに有用であるだけでなく、支援アプローチにも大きな利点があります。個人に問題の原因があるとする通常の考え方では、言うまでもなく支援者は本人に会う必要があります。仮に無意識の葛藤を心理面接によって解決することを目指すとして、そもそも相手が面接に来なければ支援はできません。ところが相手は不登校の子どもです。その子どもが支援者のもとに来られないことは十分に想定されます。そうなると「お子さんを連れてきてくれますか?」という矛盾した依頼で終わってしまうかもしれません。これは実際に引きこもりの支援相談の現場でよく出会う光景でしょう。
それに対して、システム論的な立場では支援者は理論的に必ずしも子どもに会う必要はありません。問題の原因はその子どもにあるのではなく、家族の機能(関係性)の障害に求められるからです。したがって面接者はその家族成員のうちの誰か一人と面接ができればよいでしょう。通常は、問題を心配し、その解決を模索する構成員の一人(多くは母親)が相談に来ますが、家族療法家はその一人を通して家族システムを変えることを目指すでしょう。幸いなことに、家族療法家は子どもに会えなくてもその子へアプローチするためのさまざまなシステム論的方法を知っているのです。
(注)現代は家族の多様性や変容が論じられますが、ここではシステムという観点から見られる普遍的な性質とそこから開発された家族療法について述べました。家族療法にも多くの学術的議論がありますが、本稿は家族システムの機能を情報論的な視点から論じるコミュニケーション学派の立場からおもに述べています。
(『EN-ICHI FORUM』2024年5月号記事に加筆修正して掲載)
引用・参考文献
- マリアン・コーリィ、ジェラルド・コーリィ(1998)Becoming a Helper,(3rd Ed.)下山晴彦監訳(2004)心理援助の専門職として働くために―臨床心理士・カウンセラー・PSWの実践テキスト.金剛出版.
- 中釜洋子、野末武義、布柴靖枝、無藤清子(2008)家族心理学―家族システムの発達と臨床的援助.有斐閣ブックス.
- 中村伸一(2017)家族療法のいくつかの考え方.家族社会学研究,29(1);38-48.
- 日本家族研究・家族療法学会編(2003)臨床家のための家族療法リソースブック―総説と文献105.金剛出版.
- 若島孔文、長谷川啓三(2018)新版よくわかる!短期療法ガイドブック.金剛出版.
- 遊佐安一郎(1984)家族療法入門―システムズ・アプローチの理論と実際.星和書店.
