家庭と地域の未来を拓く

包括的生徒指導とチーム学校および家庭・地域との連携

EN-ICHI編集部

2025年6月11日

いじめや不登校など、学校における生徒指導上の課題が増加する一方、教員の職務環境の厳しさへの注目が集まっています。包括的生徒指導はそうした状況を改善し、さらに家庭・地域との連携を深める潜在力を持っています。

近年、学校に通う児童生徒について、生徒指導上の課題が深刻化しているという認識が広がっています。まず、いじめは小中学校とも基本的に増加傾向にあります。コロナ禍における休校の影響により、2020(令和2)年度頃にはいったん減少したものの、2022(令和4)年度頃から再び増加に転じています。また、不登校についても、小中学校ともに2017(平成29)年度頃から増加速度が上がり、2020(令和2)年度頃からはコロナ禍の影響でさらに多くの児童生徒が不登校となっています(文部科学省, 2023a)。

一方、こうした生徒指導上の課題に対処する教員の「多忙化」も指摘されています。教育活動の多様性や突発性が増し、従来のように課題を抱える生徒一人ひとりに対して、教員が個別に対応する生徒指導の在り方は限界を迎えています。

まず、長時間労働の実態を確認しましょう。文部科学省が発行している『教員勤務実態調査(令和4年度)』によれば、2022(令和4)年度の一般教諭の平日における在校等時間及び持ち帰り(で仕事をする)時間の合計は、小学校で11時間23分、中学校で11時間33分でした。土日の場合、小学校は1時間12分、中学校は3時間7分となっています(文部科学省, 2023b)。労働基準法に定める一般労働者の法定労働時間が8時間であることを考えれば、教員の勤務時間は決して短くはありません。

出所:文部科学省『教員勤務実態調査(令和4年度)』をもとに筆者作成

そして、精神面の負担も大きくなっているといいます。吉岡(2020)は、近年の教員の多忙化の要因を①「子ども、保護者、社会の変化によるもの」、②「教員自身に由来するもの」、③「文科省や教育委員会などの行政上の政策・施策に由来するもの」の三つの要素に整理しています。

各要素の具体的な内容を概括すると、①は家庭や地域の教育力や、その源である家庭や地域におけるソーシャル・キャピタルの低下と、それに伴って最後の砦としての学校への社会からのプレッシャーの高まりです。②は、個人の生活を重視する方向へのライフスタイルの変化や、学校業務の中核となる中堅教員の減少からくる相互の成長の支え合いが難しくなったことなどによる、教員同士の同僚性の低下を指しています。③は教員の業務が、授業の時間割や会議等、既に決定されており動かせない予定に縛られているにも関わらず、「教育改革」として文科省や教育委員会から新たな業務を追加され、業務を処理しきれなくなることを指しています。

吉岡(2020)は、これらの要因によって、「終わらない仕事に対する漠然とした不安感や負担感、閉塞感を生み出し、児童生徒や保護者との関係においても孤立感や重圧感が生じることで、さらに徒労感や無力感につながることとなった」と述べています。その結果、バーンアウト(燃え尽き症候群)や、精神性疾患等に倒れる教員が増加したといいます(吉岡2020)。

出所:吉岡(2020)を元に筆者作成

上述のような状況から、「チーム(としての)学校」への転換が議論されるようになりました。この概念は、2015年に中央教育審議会が出した「チームとしての学校の在り方と今後の改善策について」という答申から打ち出されました。学校が直面する課題の困難化、複雑化、多様化という現状と、他方でそうした課題に対応すべき教員の多忙化といった相反する問題を、他の専門職の学校への参入を促すことで解決しようという提言です。これは、学校の活動は全て教員が行うという従来の学校観に変化を迫る取組でもあります。

しかし、他分野の専門家を学校に常駐させれば、即ち教員の負担が減り、学校の機能が充実するというわけではありません。スクールソーシャルワーカーなどの他の専門職が学校で十分に機能を発揮するためには、受け入れる側の教員集団との間で、互いの専門性を理解するプロセスが必要だという指摘があります。

例えば、鈴木・原田・伊田・伊藤(2019)は、スクールソーシャルワーカーが「学校の準職員として明確に位置付けられること」や「ケース会議の構成メンバーや活動目的、活動形態などに関して明確な指針を持つこと」が必要であると述べています。また、栗原(2017c)は、教育を軸としながらも心理・福祉に通じてマネジメントの観点を持つことが重要で、教師がチームの中核に位置づかなければチーム学校は十分に機能しないと述べています。

すなわち、教員集団には、違いを前提に他の専門職を受け入れつつ、自らも教育の専門性に立脚しながら同じ問題を考える姿勢と技能が要請されているといえます。これは、連携それ自体のための専門性を新しく獲得することが求められているということです。

ここまで述べた、教員が直面する環境を考えると、これからの学校現場では、生徒指導上の課題を解決するとともに、教員の時間的・精神的に逼迫した勤務状況を改善しつつ、福祉など他分野の専門職との連携を機能させることを同時並行で行う必要があるといえます。

そこで注目したいのが、日本版包括的生徒指導プログラム(マルチレベルアプローチ、以下、MLA)です。MLAは、広島大学教授の栗原慎二氏らの研究グループによって開発されました。アメリカをはじめ、海外で取り組まれてきた教育相談・生徒指導の「包括的アプローチ」を元にしています。全ての児童生徒を対象に、心理的・社会的な発達をベースとして、学業的・キャリア的発達を視野に収めた全人的な成長が目指されます(栗原2017a)。

同時に、個々の教員の力量を高めるために体系化された研修制度が整えられており、生徒指導に明確な見通しをもって同僚と協力するための技能の養成が図られています。

出所:山崎(2019)を元に筆者作成

山崎(2019)はMLAにおける生徒指導実践を次のようにまとめています。MLAにおける生徒指導は、目的によって一次的生徒指導、二次的生徒指導、三次的生徒指導の三層に分かれています。一次的生徒指導では、全ての子供たちを対象に「自分でできる力を育てる」ことが目的となります。二次的生徒指導でも全ての子供たちが対象となり、「友達同士で支え合う力を育てる」ことが目的となります。三次的生徒指導では、支援ニーズの大きい一部の子供に対して「教師や専門家が中心となり支える」ことが目的となります。そして、三次的生徒指導の必要性をなるべく最小限にするように、一次的生徒指導と二次的生徒指導の取組を充実させるという、予防的視点の強いプログラムになっています。

そして、MLAには学級集団の育成を意識した4つの基本プログラムがあります(山崎2019)。主に一次的生徒指導で行われるものに、個人の社会的資質や行動力の成長に焦点をあてた「社会性と情動の学習」(Social and Emotional Learning: SEL)があります。次に、主に二次的生徒指導として子供たちのつながりの力を活用し、集団の成長に焦点をあてた「協同学習」と「ピア・サポート」があります。そして、一次的生徒指導から三次的生徒指導を通して行われるものに、ポジティブな行動への介入を通じて子供たちに価値的な行動を身につけさせることを狙いとしたPBIS(Positive Behavioral Intervention and Support)があります。

MLAの研修に参加した教員は、上記のようなプログラムを自らも体験することになります。協同学習やSEL、ピア・サポートの実践に必要な技能を身につけるために、講義だけでなく演習、ディスカッション、リフレクションなどを行います。「研修会が協同学習の場であり、気づきを深めスキルを学び合うSELの場であり、それぞれの経験を支え合うピア・サポートの場となる」ということです(栗原2017b)。研修を通じて、教員集団が「情緒的つながり」「理念・目標・方針の共有」「役割の分担」の三要素からなる「チーム性」を体現できるようにしていきます(同上)。

また、研修にはいくつかの水準があり、学級内の取組みだけでなく、校内でリーダー的役割をになう教員の養成も行っています。主幹教諭などの中堅教員を、教育相談の視点を持ったミドルリーダーとして育成し、教員として子供の状態を観察しながら適切なタイミングで他の専門職や機関につなげるようにしています。このようなミドルリーダーは、「日々ネットワークを紡ぎ、継続的に情報をつかみながら、タイミングと適切な支援方法を模索」しています(大畑2017)。

このように、MLAは、生徒指導のスキル向上とともに、多忙化の要因でもあり、チーム学校の要件でもある、希薄化した教員集団の同僚性を回復していくことにつながるように設計されています。その点で、現代の学校現場に適した取り組みです。

生徒指導上の問題を根本的に解決しようとする場合、保護者・地域との連携は重要なテーマです。なぜなら、子供たちが受け取る教育的メッセージについて、学校と家庭・地域の間で一貫性を持たせるために必要だからです。

そうなると、いかに連携と、その潤滑油となる相互の信頼を形成するかが重要となります。露口(2012)によれば、学習環境、教員の指導力、学校改善などについて、学校から日常的に努力と成果に関する情報提供があるか否かが、保護者の学校に対する肯定的評価に影響するとしています。同時に、保護者が保護者同士のネットワークや地域の多様な人々からなるネットワークに参加していることが、学校を信頼する傾向と関係があることも見出しました(露口2012)。ここからは、学校が保護者と活動内容を共有しつつ、保護者ネットワーク形成を何らかの形で支援することが最善ということがうかがえます。

では、保護者の学校教育への関与はどのように深まるのでしょうか。学校と保護者・地域の連携が盛んなアメリカでは、次の四つの段階を経て保護者の学校関与が深まると考えられています(Stefanski et al., 2016)。

第一の段階は、「家庭や諸組織との連携」です。これは最も基本的な形態であり、まず生徒とその家庭が教育サービスだけでなく、保健サービスや社会サービスにアクセスしやすくすることに主眼が置かれます。

第二の段階は、「総合的サービスを提供する学校」です。第一の形態における基礎的なサービスへのアクセスを維持しながら、保護者は学校で開催されるイベントへの参加や、ボランティアとして関わるようになります。

第三の段階は「総合的サービスを提供するコミュニティの学校」です。学校運営の意思決定はより民主的要素を増し、保護者とコミュニティのメンバーは対等な参加者とみなされるようになります。

そして、第四の段階は「コミュニティ開発」です。「学校は大人と子供の知的成長や諸組織による社会サービス提供のためだけの場ではなく、保護者とコミュニティのメンバーが地域の問題を話し合い、対応する場」となります。

こうした段階を踏んで、学校と保護者・地域の連携は進んでいきます。

出所:Stefanski et al.(2016)をもとに筆者作成

保護者・地域との連携においても、MLAのような包括的アプローチは良いきっかけになりえます。

岡山県総社市は、2010(平成22)年度からMLAを取り入れた『だれもが行きたくなる学校づくり』というプロジェクトを展開し、大きな成果が上がりました。プログラムの開始時、総社市の中学校における不登校出現率は3.63%でしたが、2016(平成28)年度には1.63%まで低下しています(総社市ホームページ)。また、警察に逮捕・補導された中学生の数は、2009(平成21)年度の205件から、2015(平成27)年度には7件まで減少しました。

このプロジェクトにおいて、PBISが保護者・地域が学校教育と関わるきっかけになっています。PBISでは子供たちに価値的な行動を身につけさせることを狙いとしていますが、何が価値的な行動なのかは保護者・地域に諮って決められます。総社市では、子供たちに教える価値を決める際、幼稚園・保育園、小学校、中学校に通う全ての子供の保護者約8000人にアンケートを実施しました。その上で、保護者や商工会議所、警察署、主任児童委員、有識者などからなる委員会で検討し、価値項目を決定しました(総社市教育委員会、2015)。そのようにして決められた価値は地域住民に周知され、住民には地域で子供が価値的行動を実践するところを目撃したらほめることを励行し、学校に積極的に知らせるように促しました(同上)。地域住民からの評判もよいといいます。

総社市の取組では、保護者や地域住民の負担が重くなく、学校の取組に理解を深めるきっかけになっていると考えられます。この意味で、MLAは相互信頼の出発点となれる可能性があります。

出所:筆者作成

MLAをはじめとした包括的アプローチは、生徒指導の改善を目的とすることで、学校・教員と保護者・地域が目的を共有しやすくしていると考えられます。また、教員と保護者・地域のどちらかが一方的に支援する・される関係ではなく、対等に生徒指導を改善しようとする関係であるところに将来の協働への発展可能性があります。

今後の家庭・学校・地域の連携を考える際、MLAのような包括的なアプローチをもとに議論を詰めていくことは非常に重要です。


(EN-ICHI FORUM 2024年2月号記事に加筆修正して掲載)

参考文献

  • 大畑祐司(2017)「三次的生徒指導の実際―教育相談的視点をもったミドルリーダーの重要性」栗原慎二編著『マルチレベルアプローチ だれもが行きたくなる学校づくり―日本版包括的生徒指導の理論と実践』ほんの森出版、pp.132-137.
  • 栗原慎二(2017a)「マルチレベルアプローチって、何ですか?」栗原慎二編著『マルチレベルアプローチ だれもが行きたくなる学校づくり―日本版包括的生徒指導の理論と実践』ほんの森出版、pp.7-24.
  • 栗原慎二(2017b)「マルチレベルアプローチの研修」栗原慎二編著『マルチレベルアプローチ だれもが行きたくなる学校づくり―日本版包括的生徒指導の理論と実践』ほんの森出版、pp.138-143.
  • 栗原慎二(2017c)「マルチレベルアプローチは子どもを救い、教師を救い、学校を救う」栗原慎二編著『マルチレベルアプローチ だれもが行きたくなる学校づくり―日本版包括的生徒指導の理論と実践』ほんの森出版、pp.150-157.
  • 鈴木秀志、原田唯司、伊田勝憲、伊藤公介(2019)「「チーム学校」充実に向けたスクールソーシャルワーカーと学校の連携の在り方 : 浜松市教育委員会の取組」、『静岡大学教育実践総合センター紀要』29、pp.218-227.
  • 総社市教育委員会(2015)『だれもが行きたくなる学校づくり入門』総社市教育委員会.
  • 総社市ホームページ「だれもが行きたくなる学校づくり」(最終閲覧日2024年2月13日).
  • 露口健司(2012)「保護者ネットワークと学校信頼」、『愛媛大学教育学部紀要』59、pp.59-70.
  • 文部科学省(2023a)「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」
  • 文部科学省(2023b)「教員勤務実態調査(令和4年度)」.
  • 山崎茜(2019)「「マルチレベルアプローチ」の理論と実践―教育相談を中核とした日本版包括的生徒指導プログラム」、『地域連携教育研究』4、pp.95-100.
  • 吉岡治(2020)「頓挫する教員の多忙化解消 -働き方改革からの脱却と多忙化解消への道筋」、『神奈川大学心理・教育研究論集』48、pp.73-93.
  • Stefanski, A., Valli, L. and Jacobson, R. (2016) Beyond involvement and engagement: the role of the family in school-community partnerships. School Community Journal, vol.26, no.2, pp.135-160.

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