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子どもの成長・養育を保障するために必要なこと―社会的不利益を被るヤングケアラー―

道中 隆関西国際大学名誉教授

2025年6月17日

子どもの社会的不利益は、子ども自身の努力の及ばない負の要因がしばしば重なり合い、次世代への連鎖が起こっている。家族へのアウトリーチによる実態把握と迅速な対応が課題となる。

長年の筆者の実践において確認された事象とともに受給層の生活実態調査1による数量解析を行った結果から、社会的な不利益を被る子どもたちが浮かびあがった。

子どもの社会的不利益は、子ども自身の努力のおよばないところの負の要因がしばしば重なり合い、その相乗作用として貧困リスクを高めていた。

実態調査は貧困のなかで大人になっていくすさまじい剥奪の実態を活写するものであった。こうした逆境的体験は、世代間連鎖を生み出している。Fig.1 のとおり、スーパーハイリスク層にある社会的不利益を被る子どもは、①から⑦の子どもたちである。これらに該当する項目は、しばしば重なり合い貧困の熟度を深化させている。

Fig.1 社会的不利益を被る子どもたち

出典: 道中(2014)「子どもの貧困と社会的不利益̶子どもの貧困連鎖を断つ」『内閣府子どもの貧困対策に関する検討会( 資料7)』を加筆修正.

具体的に社会的不利益を被る子どもたちとは、どのような子どもであろうか。筆者の福祉フィールドのpracticeから考えてみると、①生活保護受給世帯の子ども、②ひとり親家庭の子ども、③乳児・児童養護施設の子ども、④児童自立支援施設の子ども、⑤母子自立支援施設の子ども、⑥義務教育の網の目からこぼれ落ちた子ども、⑦著しい逆境的環境下の子どものヤングケアラーなどを思い浮かべることができる。

これらにカテゴライズした項目は、相互に重なりあっている場合が多く、子どもたちは経済的不利益を被るのみでなく、家庭の内外において文化的機会に恵まれず、中・高等教育を受ける機会も阻害されている。先行研究では経済格差が子どもの低学力や低学歴といった教育格差を生み、その教育格差が貧困誘因となって次世代に継承される「子どもの貧困」の連鎖2が報告されている。

ヤングケアラーは、幾多の困難を抱えるスーパーハイリスク群に位置づけられる(Fig.1 参照)。支援を要する事態に対して、頼みの親や周囲に頼るべき人がいない。身近に相談する人もいない状況のなかで孤立し易い。18 歳未満のケアを担う子どもによる家族介護は、勉強したいのに介護に追われ勉強に専念できないなどの実態が報告されている。ヤングケアラーが家族介護を余儀なくされている状況は、十分に認知されておらず、適切な社会資源の活用が限定的なものになっている。

これからの社会を担ってくれるヤングケアラーの若い人材が、介護のために学習等の機会を奪われ、成長が阻害される事態は大きな社会的損失となる。

介護は、協力し合える家族がいるかどうかや、介護される人の心身の状態など実際の介護の程度によって、介護に携わる人の負担の度合いが随分と異なる。家族が介護を要するようになると、ヤングケアラーが介護を担わざるを得ない。成長の糧となる多くの生活時間を介護に費やされるため時間的貧困となる。介護にかかりきりになると心身ともに疲れ果ててしまうおそれがある。

ヤングケアラーは、追い詰められてもどうしていいかわからない、相談機関や支援制度などの情報も知らない。ヤングケアラーの置かれている環境の現状は、成長や学びの機会を奪っている。ヤングケアラーは、当事者の家族の問題でなく、社会の問題として再認識しなければならない。

現代社会は、少子化のなか家族規模の縮小による家族機能の低下や地域の交流が減るなどの地域コミュニティの弱体化が指摘され家族が孤立しやすくなっている。ヤングケアラーが逆境的な環境に置かれていても声をあげ支援を求めることは少ない。誰かを頼ることを思いつかず、誰を頼っていいかわからない。家族内のケアの実態や課題は、周囲の人から気づかれにくい。地域では「家族の面倒をみているいい子だ」、「親の世話をするのは当たり前」といった肯定的な傍観者となりがちで初期段階から見過ごしてしまう。

慢性的な困難が長期間続くことで、家族の生活基盤が危うくなり、経済的な困窮が追い打ちをかけてくる。とりわけ未成熟な子どもが家族を介護する場合の負担は想像以上に厳しいものとなる。日々、介護に追われる中においては、成長に繋がる体験は難しく、自己肯定感や社会性の力が育まれない。学校や地域がつながることで早期発見の端緒となるが、学校現場では多忙な状況が続く中、いじめや不登校などの多くの困難な課題を抱えている。そのため、当事者からの相談や訴えがない限り見逃してしまう。ヤングケアラーを把握するためには、些細な変化や兆候などSOS に周囲が気づき、早期発見することで支援の手掛かりが得られる。家族へのアウトリーチによる生活線上での実態把握と迅速な対応が肝要であり、追い込まれる前の兆候の見逃しをいかに防ぐかが課題となる。

(初出は『EN-ICHI FORUM』2023年11月号)

(注)

1.道中隆(2007)「生活保護受給層の貧困の様相−保護受給世帯における貧困の固定化と世代的連鎖」『生活経済政策−特集都市の下層社会』No.127,August,通巻543号,生活経済政策研究所.

2.道中(2016)が詳しい。『第2版貧困の世代間継承—社会的不利益の連鎖を断つ』pp.45-71,晃洋書房.

参考引用文献

  • 道中隆(2007)「生活保護受給層の貧困の様相-保護受給世帯における貧困の固定化と世代的連鎖」『生活経済政策-特集都市の下層社会』No.127,August, 通巻543 号, 生活経済政策研究所.
  • 道中隆(2009)『生活保護と日本型ワーキングプア̶貧困の固定化と世代間継承』ミネルヴァ書房.
  • 駒村康平・道中隆・丸山桂(2011)「被保護母子世帯における貧困の世代間連鎖と生活上の問題」『三田學会雑誌』103 巻4 号, 慶応義塾経済学会三田學会雑誌編集委員会pp.51-77.
  • 道中隆(2014)「子どもの貧困と社会的不利益-子どもの貧困連鎖を断つ」『内閣府子どもの貧困対策に関する検討会』2014( 平成26) 年5 月22 日, 資料7.
  • 道中隆(2016)「貧困の固定化と世代間連鎖」『市政研究-子どもの貧困とその施策を考える』Journal of Municipal Research 第191 号, 大阪市政調査会.
  • 道中隆(2016)「子どもの貧困と背景を考えるー実態調査からみた支援のあり方」『研究紀要』第18 号, Bulletin of The Researches, 平成28 年度,( 公益財団法人) 兵庫県人権啓発協会.

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