家庭と地域の未来を拓く

【情報ファイル】教師の学びに関する制度の現況

EN-ICHI編集部

2025年6月11日

若手教師支援を提示

2024年8月27日、中央教育審議会(中教審)は「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」答申を公表しました。この答申では、「学校における働き方改革の加速化」「教師の処遇改善」「学校の指導・運営体制の充実」の3つの施策を一体的に推進する必要があるとしました。

出所:筆者作成

3つの施策の中でも「学校の指導・運営体制の充実」は、若手教師の支援に関わります。近年、教師の大量退職・大量採用に伴って若手教師が増加しています。教師は経験年数の少ない若手の段階から、児童生徒の教育に大きな責任を負う仕事であり、若手教師は時間外在校等時間が長く、精神疾患等による休職率も高いです。答申においては、若手教師の持ち授業時数を減じたり、生徒指導に係る体制の充実を通して若手教師をはじめとする教師の負担を軽減し、学びに関する高度専門職として成長していけるよう支援していくとしています。

教員の資質能力の向上に関しては、2022年以降、大きな制度変更がありました。2022年7月に教員免許更新制が発展的に解消され、2023年4月以降は「研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励」(以下、対話に基づく受講奨励)という仕組みが中心となっています。対話に基づく受講奨励では、一人ひとりの教員について研修履歴の記録作成と、それに基づいた校長等学校管理職からの学びに関する指導助言が行われます。

出所:筆者作成

免許更新制の下では免許更新という外的要因による学びになりがちでしたが、対話に基づく受講奨励では、教師の主体的選択を重視した制度へのシフトを目指しています。2024年度からは、「全国教員研修プラットフォーム(Plant)」という情報システムにより、多様な主体により提供される研修の受講と一元管理が可能となっています。

教師の主体性と職能上のスタンダード確保とのバランスを重視

一方、校長等が指導助言を行う際、教員育成指標や教員研修計画を判断基準とすることになっており、各教師の職責や経験に応じて備えるべき職能のスタンダードを確保しようという意図も見受けられます。文科省が発行する同制度に関するガイドラインにおいても、研修受講が期待される水準に到底達しないと認められる教師に対して、校長等が職務命令として研修を受講させることを検討するよう要請しています。

このように、「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策」は、教師の主体性と職能上のスタンダードのバランスを標榜した制度となっており、若手教師を中心に効果的な学びの機会が創出されることが期待されます。

ただし、対話に基づく受講奨励を想定通り稼働させるためには課題もあります。

出所:筆者作成

第一に、受講奨励を行う校長等学校管理職には、一方的な受講命令となったり、逆に放任とならないための指導力量が求められます。第二に、学校規模によっては学校管理職ではなく、主幹教諭等が受講奨励の一部を担当することも考えられ、中堅教諭が少なくなる中、ミドルリーダーの育成が急がれます。第三に、長時間労働の是正が問題となっている中、研修等学びの時間の確保が課題となります。第四に、Plantの稼働により、研修メニューの選択肢は大幅に広がりましたが、様々な提供主体があることもあり、研修の質を保証する仕組みの構築が必要となっています。

今後の働き方改革の中で、教師の学びに関する仕組みの精緻化も一体的に行われる必要があるといえます。


(『EN-ICHI FORUM』2024年11月号記事に加筆修正して掲載)

教育・人材 政策情報・リサーチ