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【情報ファイル】IT人材79万人不足、理系女子育成に本腰

EN-ICHI編集部

2025年6月10日

理系分野の学生を10年で5割に
国立大が「女子枠」設置

経済産業省の「IT人材需要に関する調査」(2019年)によると、2030年にIT人材が最大79万人不足すると試算されています。

2022年9月、政府の「教育未来創造会議」第一次提言では、自然科学(理系)分野を専攻する学生割合を現在の35%から、10年間で5割程度に引き上げるとしました。背景には日本がAI分野の国際競争で立ち遅れているという強い危機感があります。

文部科学省は2023年7月、理工農系分野の拡充に向け国公私立の大学・高専118校を支援すること、さらに公立と私立の62校で理系学部や学科を新設する計画を打ち出しました。

日本は理学部の女子学生割合がOECD加盟国中最下位となっています。理系分野のジェンダーバランス改善に向けて、第一次提言では2023年度大学入試から、理工系分野の「女子枠」創設を推奨しています。提言を受けて、名古屋大学工学部は学校推薦型選抜で募集定員の半数を女子に限定するなど、「女子枠」を設ける大学が増えています。

内閣府の2021年委託調査(「女子生徒等の理工系分野への進路選択における地域性についての調査研究」)によると、大学入学者に占める理工系分野の入学者割合は、「理学」2.1%、「工学」11.5%となっています。学生の進路選択が文系に偏っている上に、分野別では理工系で男女比率の偏りが大きいです。分野別に入学者の女性比率をみると、「保健その他」71.5%、「医歯薬学」58.1%、「農学」45.7%に対して、「理学」30.2%、「工学」15.2%にとどまっています。2021年度は理工系を専攻する女子は7%と、男子28%を大きく下回っています。

出所:内閣府「女子生徒等の理工系分野への進路選択における地域性についての調査研究」を元に筆者作成

2022年11月、東京工業大学が2024年度入試に「女子枠」を創設し、女子比率を現在の13%から、20%超を目指すことを決定しました。さらに2023年5月25日、全国10の国立大学理学部が「ジェンダーバランスのとれた環境を実現」することを目指し、「女子学生比率向上に取り組む」との共同声明を出しました。

ただ、国立大の「女子枠」については「入試の公平性・平等性が損なわれる」「逆差別」「学力低下につながる」などの問題が指摘されています。一方、東京都が都立高校の男女別定員について2024年度撤廃を表明するなど、入試の公平性・平等性を厳格化する動きもあります。 文部科学省が女子大学の理工系学部設置を後押しし、理系女子の人材育成を図る施策が必要との認識は広がっています。一方で「女子枠」については今後も議論が続くものと思われます。

(『EN-ICHI FORUM』2023年8月号記事に加筆修正して掲載)

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