EN-ICHI家庭と地域の未来を拓く
専門高校における職業教育の方向性と地域人材育成
産業構造や社会システムの複雑化にともない、若者が社会に出る際に身につける必要がある知識・技術も高度化しているといわれています。高校段階の職業教育の在り方も検討が必要となってきています。
- 専門高校は地域の産業人材の育成に貢献してきた
- 専門高校には地域産業を担う人材育成の強化が一層期待されている
- 歴史的には縮小されてきた職業教育
- 専門高校生の2つの特徴は?!
- 専門高校は生徒のモチベーションを向上させ進路意識を明確化にする
- 大学への進学拡大が専門高校にもたらす課題とは
- 専門高校の高専化で地域産業を支える人材の育成を
専門高校は地域の産業人材の育成に貢献してきた
日本の高等学校には、普通教育を行う普通科のほかに、職業教育を行う専門学科、普通教育と職業教育を統合したキャリア教育を重視する総合学科が設置されています。このうち、専門学科を置く高校は専門高校と呼ばれ、戦後高度経済成長期を通じて、地域の産業人材の育成に貢献してきました。近年、職場で必要とされる知識・技術が高度化したといわれ、政策的に専門高校の職業教育を高等教育に接続しようという流れにあります。しかし、高等教育進学への対応は普通教育の拡大を要請し、専門高校における職業教育とジレンマを生む可能性があります。

出所:筆者作成
最初に専門高校の概要を把握しておきましょう。専門高校とは、農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉など、職業教育を主とする専門学科を置く高校を指した呼称です。専門高校は、地域産業を支える人材を育成し、日本の高度成長・工業化に大きく貢献してきたといわれています(和田2024)。文部科学省の学校基本調査によれば、昭和35(1960)年度には、専門高校に通う生徒の割合が制度発足後最も高く、4割の生徒が通っていました。令和5(2023)年度の生徒数は約50万人で、高校生全体の17・1%です。高校生全体に占める各専門学科在籍者の割合は、工業7・0%、商業5・6%、農業2・4%、家庭1・2%、看護0・4%、水産0・2%、福祉0・2%、情報0・1%です。全国の全日制・定時制高校数6528校のうち、専門高校は1920校(複数学科を置く高校は重複)であり、全体の約3割となっています。
高校の卒業に必要な単位数は74単位(1単位は50分授業35回に相当)ですが、専門高校ではそのうち25単位以上を専門教科・科目に充てることが定められています。ただし、外国語に関する科目、及び専門教科・科目と同様の目的を達することができる教科・科目をそれぞれ5単位まで含めることができます。
近年では、専門高校を卒業したのち、就職ではなく進学する者も増えています。令和6年度は全卒業生15万8221人のうち、就職者(自営業者及び無期・有期の常用雇用者)は47・2%でした。それに対し、25・5%が大学(短大含む)、24・7%が専修学校・公共雇用職業能力開発施設等に進学しています。

出所:文部科学省「高等学校卒業者の学科別進路状況」を元に筆者作成
専門高校には地域産業を担う人材育成の強化が一層期待されている
2020年代に入った頃から、政府の政策面において、専門高校には地域産業を担う人材育成の強化が一層期待されるようになりました。
令和元(2019)年度からは「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」が行われており、高校と自治体、高等教育機関及び産業界等がコンソーシアムを構築して、地域課題の解決等を通じた探求的な学びを実現する取り組みが推進されています。この施策のうち、「プロフェッショナル型」において、専門学科を中心に、地域の産業界との連携・協働による実践的な職業教育の推進が願われました(和田2024)。
また、令和3(2021)年度からは「マイスター・ハイスクール事業」も実施されています。同事業の概要説明では、「第4次産業革命の進展、デジタルトランスフォーメーション、6次産業化等、産業構造や仕事内容は急速に変化しており」、専門高校では「産業構造や仕事内容の絶え間ない変化に即応した職業人材の育成が急務となっている」と目的を述べています(文部科学省2024)。そして、指定を受けた専門高校と産業界等の関係者が協働し、カリキュラム刷新や教育実践を行うこととされています。
加えて、令和5(2023)年度から令和9(2027)年度までを計画期間とする教育振興基本計画(令和5年6月16日閣議決定)では、「確かな学力の育成、幅広い知識と教養専門的能力・職業的実践力の育成」を実現するための基本施策として、「キャリア教育・職業教育の充実」が挙げられています。この中で、「特色ある教育内容を展開する専門高校の取組と成果の普及を推進する」ことが言及されています。
同時に、職場で必要とされる技術・知識の高度化に対応するため、職業教育を高校段階にとどめず、大学・専門学校等の高等教育と接続することも企図されるようになっています。
例えば、中央教育審議会初等中等教育分科会の審議まとめ(2020年)や中間まとめ(2023年)からは、 3年間に限らない教育課程の開発・実施として、専門高校における専攻科制度の活用、高専への改編、高等教育機関と連携した一貫したカリキュラムの開発・実施を検討することも提言されています。このように、専門高校の教育内容を高度化し、職業教育を強化しようという政策意図が見えます。
歴史的には縮小されてきた職業教育
一方、職業教育は、歴史的には縮小される流れがありました。それを概観しておきましょう。

出所:筆者作成
戦後、職業教育に対しては、復興政策の中で中堅技術者の養成が求められました。1951年に産業教育振興法が制定され、国庫補助があたえられ、専門学科(職業学科)の安定的運営、そして職業高校の独立が促されました。また、高度経済成長期を迎えると、1966年の中央教育審議会の答申を踏まえて、専門学科の多様化が目指されました。
しかし、この頃、日本型雇用の普及を背景に普通教育指向が拡大し、職業教育との序列化が進みました。企業が一括採用した新卒者を自社内で教育することが一般化し、生徒・学生の就職が職業的知識・スキルではなく、「基礎的・汎用的能力」や「訓練可能性」によって左右されるようになりました(児美川2015)。結果、学校・大学において職業教育は重視されなくなり、新設の学校・学部も普通教育や具体的職業とは遊離したアカデミズム重視のものとなりました。そこにオイルショック等の経済危機による景気の後退、高等学校進学希望者の増加が重なり、普通科と専門学科間の序列化が顕在化し(川下2013)、もっぱら普通科高校が高校進学率の上昇を吸収しました。川下(2013)によれば、これにより「職業高校(専門高校)での不本意入学、中途退学が問題化するようになった」といいます。
こうした職業教育離れを背景に、1995年、文部省(当時)初等中等教育局長の私的諮問機関である「職業教育の活性化方策に関する調査研究会議」が「スペシャリストへの道」答申をだしました。この答申では、専門高校における教育は「スペシャリスト」になるための「第1段階」であるとされました。職業教育は学校教育を含む生涯教育の中に位置づけられるべきであり、高校段階では基礎・基本的な教育に重点を置くべきとしました(和田2024)。その後、1999年の学習指導要領改訂では、専門高校における専門教科・科目の必修単位数が「30単位以上」から「25単位以上」に引き下げられました。この専門教科・科目の必修単位数は戦後最低です。
専門高校生の2つの特徴は?!
上記のように、職業教育の必修単位数は縮小されてきましたが、それでも専門高校の教育は就職しようとする生徒のアイデンティティ形成に役立ってきた面があります。
南本(2016)は、専門高校の校長へのアンケートによって、専門高校に通う生徒の状況を記述することを試みました。調査対象は1100人の校長で、有効回答数は591名でした。生活態度や学習状況、進路意識などについて、4件法(「とてもあてはまる」~「全くあてはまらない」)で評価を尋ねています。
南本(2016)の調査からは、専門高校の生徒について、大きく二つの特徴が読み取れます。一点目は、生活態度は良好で指導に従順ですが、主体性に課題があるということです。生徒達の生活態度に関する項目では、多くの校長が肯定的な評価をしています。「遅刻・欠席が少ない」、「時間を守れる」、「掃除をきちんと行う」などの項目は、80~90%の校長が肯定的に評価しています。また「忍耐力がいる地道なことを嫌がる生徒が多い」という項目には、7割近くが否定的な回答をしています。
対して、生徒の主体性に対しては課題を認める評価となっています。「自分に自信を持ち、個性を発揮できている」、「何事にも積極的に取り組み指導性を発揮できる」などの項目では、6割前後の校長が「あまりあてはまらない」「全くあてはまらない」と回答しました。加えて、就職を明確に意識して入学してくるものの、一方で「自分の将来を深く考えず、周りにすすめられて入学して来る」という項目で6割弱の校長があてはまると認識しており、生徒の専門高校への入学・学習の動機が受身であることをうかがわせます。

出所:筆者作成
専門高校は生徒のモチベーションを向上させ進路意識を明確化にする
二点目は、専門高校での教育により、モチベーションが向上し、進路意識が明確化される生徒が多いということです。「演習や実験の授業形式では、意欲や能力を発揮する生徒が多い」、「実験・実習が多く、体験を通した学習が多いため、理解が深まり知識、技能・技術を身につける生徒が多い」などの項目では、9割以上の校長が肯定的評価をしています。また、「学ぶ中で仕事の内容や意義を理解でき、職業意識が培われる生徒が多い」は9割弱、「進路意識が明確になり、学ぶ内容に興味を持つ生徒が多い」は8割強の校長が肯定的に評価しています。専門教育の効果か、「卒業後、専門学科での学習成果を生かせる職種への就職を目ざす生徒が多い」と7割以上の校長が評価しています。ただし、専門学科での学習が自分の関心と合わないと考えたり、興味を示さなかったりする生徒が少しはいるという評価もあります。
南本(2016)の調査からは、主体性に乏しかった生徒が、専門高校における職業教育を通して、学習した内容と関連した職業への就職へと収斂していく様が見て取れます。この点、中澤・阿部・石井(2009)も、生徒にとって専門高校は「これから就く可能性の高い仕事に関連した職業に対するアイデンティティを育む場所としての側面を強く有している」と述べています。専門高校における職業教育は、地域産業界の教育内容と一致する分野に人材を供給するトラックとして機能しているといえます。

出所:筆者作成
大学への進学拡大が専門高校にもたらす課題とは
高等教育への進学拡大は、専門高校のトラック機能と整合的でない可能性があります。高等教育に進学するためには、特定の職業に関する知識・技術よりも、普通教育によって得られる汎用的・普遍的な知識を必要とします。もしくは、少子化の影響で拡大傾向にあるAO入試や自己推薦入試など、従来の学科試験によらない方法での進学を目指すことになります。このいずれも、地域産業を支える人材育成の観点からは課題があります。
普通教育を拡大する場合、専門高校は学習内容としては総合学科高校に近くなると考えられます。令和5年度の学校基本調査によれば、総合学科高校の就職率は22・4%で、専門高校の半分も満たしません。また、卒業時に進路未決定の者を表す「その他」(ただし浪人生を含む)は5・4%で普通科高校と同水準です(文部科学省)。総合学科高校は「生徒の人生すべてを見据えたキャリア教育を標榜する」(小西2020)学科であり、地域産業人材育成という目的に焦点を合わせた教育には向かない可能性があります。したがって、専門高校強化の政策目的とも整合性が取れません。
一方、AO入試や自己推薦入試など、非従来型の方式による高等教育進学も、専門教科・科目の習得に悪影響を及ぼす可能性があります。進路多様校の進路指導を研究した古賀(2016)は、「入試・入社=学科試験」の枠組みから外れ、内申や面接練習等に焦点化した進路指導は受験テクニック学習に陥りかねないことを指摘しています。それもまた、地域産業人材の育成という目的にはそぐわないでしょう。職業教育における高等教育との連結には、こうした課題があると考えられます。
専門高校の高専化で地域産業を支える人材の育成を
専門高校に対して地域産業人材の育成という期待がかけられており、高等教育との接続による教育内容の高度化が検討されています。しかし、専門高校が一貫した職業教育により生徒の職業人としてのアイデンティティ形成を促し、地域産業界に連結する機能を持っていることを考えると、安易に普通教育を拡大して大学・専門学校等と連結することが所期の目的に資するとはいえません。
むしろ、「進学」の要素を弱め、専門高校内での専門教育を強化することが目的達成への道筋であると考えられます。そうした教育は、既に高等専門学校(高専)で行われています。高専は中学卒業後に入学し、5年間の一貫教育で専門性を養います。中教審の答申においても、専門高校の高専化、ないしは3年間の本科卒業後により専門的な内容を学ぶ専攻科の活用が提言されていました。地域産業人材の育成に資するのはこちらの方向性であると考えられています。高専は工業科が主体で、かつ設置数の少なさもあり、地域の産業構造とは必ずしも一致していません。専門高校の「拡張」は、そうした高専の穴を埋める選択肢となる可能性があります。
ただし、専門高校が生徒の進路選択を収斂させる可能性があることは、生徒個人の人生設計にとってどのような意味を持つかは、別途検討する必要があります。地域と生徒一人一ひとりにとって有益な制度設計が求められるでしょう。
(『EN-ICHI FORUM』2024年5月号記事に加筆修正して掲載)
参考文献
- 川下新次郎(2013)「専門高校におけるキャリア教育について ―水産・海洋系高校における学内外の連携教育に注目して」『東京海洋大学研究報告』9, pp.73-78.
- 古賀正義(2016)「進路未決定高卒者に関する実証的研究―困難地区の進路多様校や特色校での3年間のパネル調査を中心に」『教育学論集』58, pp.1-28.
- 小西尚之(2020)「設置後25年の総合学科高校の現状 ―「総合学科高校の教育に関する実態調査」の結果から」『高崎健康福祉大学紀要』19, pp.13-25.
- 児美川孝一郎(2015)「若年労働問題への教育現場の対応―キャリア教育を超えて」『大原社会問題研究所雑誌』682, pp.13-21.
- 中澤高志・阿部誠・石井まこと(2009)「地域労働市場における高卒者の職業経験と専門高校の役割: 大分県における2つの専門高校を事例に」『地理科学』64(1), pp1-21.
- 南本長穂(2016)「専門学科の現状と課題に関する調査 : 公立専門学科高校の校長等調査から」『教職教育研究:教職教育研究センター紀要』21, pp11-27.
- 文部科学省「高等学校卒業者の学科別進路状況」.
- 文部科学省(2024)「令和6年度「マイスター・ハイスクール普及促進事業」の公募について」.
- 和田希(2024)「専門高校の現状と取組」『調査と情報』1261, pp.1-13.
