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少子化と結婚―ライフデザイン支援は未婚化・晩婚化を止められるか
進む未婚化・晩婚化
日本では出生数が減少の一途にあり、少子化が進行しています。近年、少子化の主な要因は未婚化・晩婚化の進行にあるという認識が広がってきました。その未婚化・晩婚化を緩和しようとして取られている施策の一つが、ライフデザイン支援(ライフプランニング支援)です。この文章では、ライフデザイン支援が行われている背景と、ライフデザイン支援の可能性、そして課題を紹介します。
将来をイメージする体験の提供
ライフデザイン年表のイメージ

出所:筆者作成
最初に、「ライフデザイン」(ライフプラン)とは何かを見ておきましょう。ライフデザインとは、簡単に言えば「人生設計」を意味し、いつどのようなライフイベントを経験するかあるいはしないのか、そしてどのように経験するかなどに関わる個人の計画や希望をいいます。ライフイベントとは、進学や就職、結婚、妊娠や出産、子育てなどに代表される人生の転機を意味し、人間関係や生活環境の変化をともなうことが多いです。
ライフデザイン支援とは、若者を主な対象として、ライフイベントに関わる情報を提供したり、希望や計画を考える機会を提供しようという取り組みで、自治体などが実施しています。講座やワークショップ、冊子・インターネットでの情報発信などが行われています。
例えば、京都府では「若者ライフデザイン・仕事と育児の両立体験事業」という名称で、年表やシールを使ってライフデザインを体験するワークショップを提供しています。シールには「企業に就職」or「自営(独立)」や、「結婚する」or「結婚しない」など、選択肢が具体的に書かれており、ライフイベントをイメージしやすい工夫がされています(3)。
また、埼玉県でも「ライフデザイン構築支援事業」が実施されています。埼玉県では、子育て家庭へ一日「留学」する『家族留学』や、産婦人科や保育施設への訪問・見学などを通じ、参加者がそれぞれのライフイベントをよく知ることができるようにプランが作られています(5)。
知識と体験の両方から、仕事と私生活について学ぶ機会が提供されるようになってきています。
不安の緩和につながる可能性
ライフデザイン支援は、若者が結婚に前向きになるきっかけとなり得ます。令和6年度にこども家庭庁が公表した調査によると、ライフデザインについて学習経験がある人のグループでは、学習経験がない人のグループよりも、結婚に前向きな人(「結婚はしたい」「結婚はできるならしたい」と回答した人)の割合が高くなっていました。特に男性では、学習経験があるグループのほうが、各年代で10%前後結婚したい人の割合が高くなっていました(3)。

出所:こども家庭庁(2024)「令和6年度『若者のライフデザインや出会いに関する意識調査報告書』」p.131を一部改変
特に、ライフデザイン支援は経済的不安を和らげる可能性があります。同調査では、ライフデザインを学んだ結果、結婚や出産に対して前向きになった項目として、「キャリアプラン」を上げた人が19.1%、「マネープラン、経済的な情報」を上げた人が18.2%いました(3)。結婚や子育てにかかる費用や、家庭と仕事を両立する働き方について具体的にイメージできたことが要因と考えられます。
知らずに「選べない」ことを防ぐこと
もう一つ、ライフデザイン支援の重要な意義は「知らずに選べない」ことを防ぐことにあるとされます。こども家庭庁に設置された「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」は、「結婚年齢に関するデータ」や「男女ともに性や妊娠・出産に関する正しい知識」、「結婚や子育てに関する行政や民間のサービス」などについて伝え、「誤解に基づくライフデザイン設計とならないように、伝えることが大切」としています(4)。
というのも、これらの情報を知らずに晩婚・晩産となった場合、仕事と家庭の両立や子供の数など、理想の選択ができないことがあるからです。
晩婚・晩産と関連して知っておくべきことの一つが、妊孕能力(子供をつくる力)と年齢の関係です。男女ともに年齢が高くなるほど妊孕能力は低下するといわれています。女性の場合、35歳を過ぎると徐々に妊孕能力が衰え、45歳頃には体外受精などの高度な生殖医療技術を用いても、妊娠率が10%以下となることが指摘されています(1)。男性も35歳以降、加齢とともに精子の数や運動能力、正常な形態で生成される割合が低下すると言われています(6)。一部のライフデザイン支援では、こうした妊孕能力に関する情報が提供され、それによりキャリア設計を考える機会となる可能性が指摘されています(1)。
また、晩産による相対的な子育て負担の増加を知っておくことも重要です。平松(2019)は、大学生を対象にライフデザイン講座を行い、仮想夫婦のライフデザインを作成するグループワークを行いました。すると、学生からは「子どもを2人産んで、十分な収入があるうちに大学を卒業させると考えると、1人目を産んですぐに2人目を妊娠する必要があると分かって」「30代が想像以上に忙しい」という気づきが寄せられたといいます(7)。仕事を一人前にしながら、複数の乳幼児を育てることは、体力的にも大きな負担です。仕事を調整したり、産む子供の人数を希望よりも減らす結果になることも考えられます。そうしたことを事前に考え、ライフデザインを設計していくことが重要です。
平松(2019)によれば、若者には「予想外に近い将来に様々なライフイベントを取捨選択することはほとんど意識されていな」かったといいます。大学生は結婚や出産を「理想としてはしっかり仕事をしてから、落ち着いたとき」まで先延ばしにしようとする傾向があるそうです(7)。
希望する選択を実現するためにも、ライフデザイン支援の場で、気づく機会を持つことは意義があるといえます。
出会いの機会創出の難しさ
このように、ライフデザインを設計するための情報や体験を提供することは、結婚の希望はあるが不安がある層や、明確に意識していなかった層に気づきを促すという点で有意義です。
しかし、ライフイベント関連の情報提供や、ライフデザイン設計を体験する機会の提供だけでは、未婚化の問題を克服することは容易ではありません。なぜなら、未婚化には出会いの場が減少しているという次の段階の問題があるからです。
前述のこども家庭庁が公表したライフデザインに関する意識調査では、未婚者の29.3%が「結婚へのハードル」として「出会いの場・機会がないこと」をあげています。また、「結婚への不安事項」として、26.1%の未婚者が「理想の結婚相手にめぐり逢えるかどうか」をあげました(3)。
同時に、異性と出会ったとしても、どう接すればよいのかわからないことが結婚への道を遠のかせています。同調査では、出会う場所・機会がないと答えた未婚者のうち、57.1%は「自分に自信がない」、50.6%は「自分から積極的にアプローチすることが得意ではない」としており、異性とのコミュニケーションに対する不安が具体的な行動を妨げていることも示唆されます(3)。
出会いの機会を創出するとともに、異性とのコミュニケーションに前向きになるような取り組みが必要とされています。
さまざまなプログラムの組み合わせが鍵
以上のことから、ライフデザイン支援は結婚意欲のある層が希望する選択肢を自覚し、行動しやすくするという点で意義があります。特に、晩婚化・晩産化対策としての効果は期待が持てそうです。一方、現在主流の情報提供や計画を作成するプログラムでは出会いの場の創出や、異性との交流に対する不安の緩和という点では課題があります。
この課題を克服するためには、ライフデザインについて異性を交えたグループで話し合う取り組みが有効かもしれません。
再び平松(2019)の内容を紹介します。平松(2019)では、グループワークで仮想夫婦のライフデザインを考えました。「いつ結婚するのか、結婚式は挙げるのか」「子どもの数、育児期の仕事はどうするのか」「車は買うのか」など、様々なことについて「自分とは違う意見を持っている人と話し合うことで、いろんな発見があって面白い」、「自分が考えていることが絶対ではない」といった感想が寄せられています(7)。また、「結婚するというのはパートナーの人生観も受け入れて、自分の人生観と重ね合わせていくもの」といった気づきも得られています(7)。異性とのコミュニケーションにおいても、それぞれの事情や考え方が違うことが当然という心がまえができることは、前向きになるための一歩といえるのではないでしょうか。

一言でライフデザイン支援と言っても、多様なプログラムがあり得ます。様々なプログラムを組み合わせ、複合的な取り組みとしていくことが鍵といえそうです。
参考文献
- 1. 臼井綺海・西岡笑子(2020)「自治体におけるライフプランニング支援の現状」『防衛医科大学校雑誌』44(3・4)、pp.122-137.
- 2. 京都府Webサイト「ライフデザインワークショップ」https://www.pref.kyoto.jp/shoshi/lifedesignlabo.html (閲覧日:2025年4月24日).
- 3. こども家庭庁(2024)「令和6年度『若者のライフデザインや出会いに関する意識調査報告書』」 https://www.cfa.go.jp/policies/shoushika#chosakenkyu (閲覧日:2025年4月24日).
- 4. こども家庭庁(2024)「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ 議論のまとめ(中間報告)」 https://www.cfa.go.jp/councils/lifedesign-wg (閲覧日:2025年4月30日)
- 5. 埼玉県(2021)『ライフデザインガイドブック』https://www.pref.saitama.lg.jp/a0607/r2_lifedesign.html (閲覧日:2025年4月24日).
- 6. 日本生殖医学会「よくあるご質問 男性の加齢は不妊症・流産にどんな影響を与えるのですか?」 http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa25.html (閲覧日:2025年4月24日).
- 7. 平松紀代子(2019)「ライフデザインする力をはぐくむ試み」『滋賀大学教育実践研究論集』1、pp.9-16.
