家庭と地域の未来を拓く

不登校児童生徒の学び支援の枠組みと「個別最適な学び」

EN-ICHI編集部

2026年3月11日

教育機会確保法が成立して以降、公的な不登校児童生徒支援の目標は「学校への復帰」から社会的自立へと舵が切られています。学校(通常学級)に登校できなくても、個別の事情に合わせて学びの場を確保することで、成績や出席面での不利益を減らし、学校教育から社会への接続におけるリスクを減らすことを企図した制度設計が進んでいます。

不登校問題の解決は、日本の教育政策にとって大きな課題です。2025年10月に公表された「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、2024年度の小中学校における不登校児童生徒数は353,970人でした。

不登校数の増加傾向は2010年代から顕著になり、小中学校の不登校数は2012年に112,689人だったところから、翌2013年には119,617人、2014年には122,897人となりました。以降毎年増加を続けています。

そのように不登校数が増加していく中、不登校児童生徒の学びの確保が課題として認識されるようになりました。休息という観点から一時的に登校しないことの必要性は認められるものの、いずれ社会生活を営まねばならないことを考えれば、学校が担っている教科学習や様々な体験活動を補完していくことは重要な課題となります。

このような問題意識に立ち、2016年に教育機会確保法(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)が制定されました。教育機会確保法は、第三条第二項にて「不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること」と規定し、不登校児童生徒の教育機会の確保を国・地方公共団体の責務であるとしました。

第三条第二項に言う多様な学習活動には、不登校児童生徒が学校外で行う活動も含まれます。そのため、同法第十二条及び十三条では、そうした学校外での学習活動や、それを行う児童生徒の状況の把握と支援が規定されています。

学校外での学習を含め、児童生徒の個々の事情に合わせた教育機会を確保するという理念は、以降の不登校児童生徒支援の基調になっています。

学校外を含む多様な教育機会の確保という理念は、文部科学省が発出する通知等によってより明確にされてきました。2019(令和元)年に発出された「不登校児童生徒への支援の在り方について」(以下、令和元年通知)は、現行の不登校児童生徒支援の方針が固まった通知といえます。この令和元年通知では、不登校児童生徒支援の目標について「『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」と述べ、支援の目標が不登校児童生徒の社会的自立にあることを明確にしました。

学校への復帰を目標に設定していないのは、復帰を待っている間に「学業の遅れ」や「進路選択上の不利益」が生じる可能性があり、社会的自立へのリスクになるという認識があるからです。この認識に基づき、令和元年通知では学校外での学習活動が、学校での評価等に反映される仕組みの整備にも言及があります。令和元年通知の別記1では、一定の要件のもと、不登校児童生徒が学校外の公的機関(教育支援センターなど)や民間施設において相談・指導を受けた日数を校長の裁量で指導要録(注)上の出席扱いとすることができると規定しています。同様に、別記2では、不登校児童生徒が自宅にてICT等を活用した学習活動を行った場合、同じく一定の要件のもと、校長の裁量で指導要録上の出席扱いとし、学習成果を学校での評価に反映できるとしています。

また、「本人の希望を尊重した上で、場合によっては、教育支援センターや不登校特例校(引用者注:現学びの多様化校のこと)、ICT等を活用した学習支援、フリースクール、中学校夜間学級(以下、「夜間中学」という。)での受け入れ等、様々な関係機関等を活用し社会的自立への支援を行うこと」と述べ、本人の希望によって学校外での学びを支援するよう各教育委員会・学校等に求めています。  このように、児童生徒の社会的自立支援のため、学校外の教育機会を充実させることが施策の中心に置かれています。

出所:文部科学省(2025f)より転載


(注)指導要録とは「児童又は生徒の学籍並びに指導の過程及び結果の要約を記録し、その後の指導に役立たせるとともに、外部に対する証明等の際の原簿となるもの」と説明されています。(文部科学省(2010年)「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」参照)


2023年、文科省は不登校対策を一層推進するため、「誰一人取り残さない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」を発表しました。COCOLOプランでは、①不登校児童生徒全ての学びを確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整える、②心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援する、③学校風土の「見える化」を通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にする、という三つの柱が立てられ、不登校問題を根本的に、また総合的に解消しようという意図が読み取れます。

三つの柱の中で、児童生徒の学びの確保に関わるのは柱①です。柱①では、多様な教育機会の確保を実現する取組として、(ア)学びの多様化学校(旧:不登校特例校)の設置促進、(イ)校内支援センターの設置促進、(ウ)教育支援センターの機能強化、(エ)高等学校等における柔軟で質の高い学びの保障、そして(オ)多様な学びの場、居場所の確保を挙げています。以下ではそれぞれの取組・教育機会の概要を順にみていきます。

(ア)学びの多様化学校

まず、学びの多様化学校は、2025年11月時点で59校(小学校12校、中学校40校、高等学校11校、(小・中一貫校をふくむ))設置されています。第4期教育振興基本計画では「各都道府県・政令指定都市での1校以上の設置」を計画期間内に進め、将来的には分教室型も含めて300校の設置を目指すとしています。不登校児童生徒の状況に即した柔軟な教育課程を可能とする制度下で、下学年(在籍の学年よりも下の学年)の教科指導、体験活動やソーシャルスキルトレーニングの導入等により、児童が継続して登校できるようになるなどの成果が見られるとされています。

(イ)校内教育支援センター

次に校内教育支援センターについてです。校内教育支援センターは、「自分のクラスに入りづらい児童生徒が、落ち着いた空間の中で自分にあったペースで学習・生活できる環境」として設置されています。児童生徒の所属学級とオンラインでつながり、指導やテスト等を受けられるようにすることも想定されています。2025年11月時点で小学校は8,841校、中学校7,033校に設置されており、日常的学びの場としての機能だけでなく、在籍級への復帰や欠席日数増加の防止機能を果たしているとされています。

(ウ)教育支援センター

教育支援センターは、教育委員会が開設する公的な施設です。在籍する学校に入りづらい児童生徒に対して学校外の学びの場を確保するとともに、地域の支援拠点として児童生徒の保護者に様々な学びの場や居場所などに関する情報を提供します。COCOLOプランでは、教育支援センターの機能強化として、アウトリーチ支援体制の強化、福祉機関等の関係機関を交えた不登校児童生徒支援協議会の設置、NPO・フリースクール等との業務委託や人事交流を通した連携促進などが推進されています。他に、東京都など一部の自治体ではメタバースを活用した不登校支援に関する実証研究なども行われています。

(エ)高等学校における柔軟で質の高い学びの保障

高等学校を対象とした取組では、自宅等でのリモート授業の受講を可能とする制度改正や、オンデマンド型の通信教育を活用可能とする法令改正が行われてきました。今後も柔軟で質の高い学びの確保に努める計画で、令和8年度予算の概算要求では、オンライン等を活用する学びを提供する事例創出、定時制・通信制課程における主体的・対話的で深い学びの実現に向けた研究、遠隔授業や通信教育を活用した域内の学校間の連携・併修ネットワーク構築に予算が計上されています。

(オ)多様な学びの場、居場所を確保

多様な学びの場、居場所の確保について、COCOLOプランでは文科省とこども家庭庁の連携のもと、身近な地域で人とつながり、学びに向かう土台作りや体験活動ができるよう、学校や家庭以外の多様な居場所づくりを広げるとしています。

具体的には、2023年12月に「こどもの居場所づくりに関する指針」(こども家庭庁)が閣議決定され、こどもの居場所づくり支援体制強化事業及びこどもの居場所づくりコーディネーター配置支援事業が実施されています。また、家庭や学校に居場所がない児童等を対象とした児童育成支援拠点事業、地域における不登校のこどもへの切れ目ない支援事業などが実施されています。

COCOLOプランでは、以上のような取組を通じて、不登校の児童生徒が「学びたいと思った時に学べる環境」を整えることが目指されています。

一方、教育機会の制度化が進むにつれて、現行の教育課程では対応しきれない課題があるという認識が示されるようになっています。

2025年3月、中央教育審議会にて次期学習指導要領(2030年より順次施行)を策定するための議論が始まりました。不登校対策についても、不登校児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ(以下、不登校WG)にて、ここまでの不登校児童生徒支援の取組の評価と、さらなる充実が議論されています。

現在の取組の課題について、不登校WGの第一回会合で示された資料では、校内教育センター及び教育支援センターでは、「資質・能力の向上につながる指導の充実が課題(遅れを取り戻したり、進学や原籍級復帰に繋げるためにも重要)だが、現状、個別の指導計画がないため、組織的・計画的な指導が確保されていない」と指摘しています。また、「特別の教育課程の制度がないため、下学年の内容を学んでいても、原籍級の教育課程に基づく評価を行わざるを得ない面がある」と、現行制度の限界について述べています。

こうした課題分析を受けて、不登校WG第一回会合の議事録では、「個々の状態に応じた特別の教育課程」を充実させることの重要性が度々言及されています。

「個々の状態に応じた特別の教育課程」を準備することは、中教審における次期学習指導要領に関する議論全体の基調ともなっており、不登校児童生徒支援にも適用される流れにあります。

中教審の教育課程企画特別部会は2025年9月に各ワーキンググループにおける議論の土台となる「論点整理(素案)」(以下、論点整理)を公表しました。「論点整理」によれば、次期学習指導要領に向けた検討の基盤となる考え方は、①主体的・対話的で深い学びの実装、②多様性の包摂、③実現可能性の確保を三位一体で具現化し、「生涯にわたって主体的に学びつづけ、多様な他者と協働しながら、自らの人生を舵取りすることができる民主的で持続可能な社会の創り手をみんなで育む」ことです。(図を参照)

不登校児童生徒の学びの確保は、②多様性の包摂に含まれますが、その手段として①主体的・対話的で深い学びの実装の要素の一つである「個別最適な学び」が位置づけられます。

出所:文部科学省(2025g)より転載

具体的には、新設される「調整授業時数制度」における「裁量的な時間」の活用が検討されています。

「調整授業時数制度」とは次期学習指導要領に盛り込むことが予定されており、通常学校教育法施行細則で規定されている標準授業時数を下回るように授業時数を計画できる制度のことです。標準時数を下回った分は、他教科に振り替えたり、各教科等に該当しないものの「児童生徒の資質・能力の育成に特に資する効果的な教育プログラムを実施する」時間に充てることができます。この各教科等に該当しない教育プログラムに充てる時間を「裁量的な時間」と呼びます。

2026年2月現在、中教審不登校WGでは、不登校児童生徒を対象とした特別な教育課程における教育活動には、(A)各教科の目標・内容に基づきつつ、柔軟に実施する教育活動と、(B)(各教科には該当しない)不登校児童生徒の実態に応じた、特に効果的な教育活動の二つがあると想定されています。このうち(B)は、「裁量的な時間」での実施が効果的ではないかとされています。「裁量的な時間」では、下学年の内容の学習など、既存の教科指導では対応が難しかった取組を柔軟に実施できることで、休み始めの時期・回復期にある児童生徒の学習意欲を高めることも期待されています。他に、特例の対象ではない児童生徒と同じ空間で別々の取組を実施可能であることから、教室での学びに戻りつつある児童生徒を後押しできるという利点も提起されています。

このように、不登校児童生徒の学びの確保は、「個別最適な学び」の制度枠組みで進んでいくことになりそうです。

本稿では、2016年の教育機会確保法制定以降に整備されてきた不登校児童生徒支援の政策的枠組みを説明してきました。改めて確認すると、不登校児童生徒支援の目標は「学校への復帰」のみではなく、児童生徒の社会的自立に置かれています。そのために、学習の遅れや進路選択上のリスクを低減すべく、学校外での学びを積極的に制度に接続し、多様な教育機会の確保を企図しています。次期学習指導要領策定の議論も、こうした政策の流れを受け継ぎ、児童生徒が抱える事情に関わらず学びを確保できるよう、より個別最適を志向していると考えられます。

2026年2月現在、次期学習指導要領策定のための議論は継続中です。こうした施策がどのような効果を生むか、今後も注視していく必要があります。

参考文献

教育・人材 政策情報・リサーチ