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【海外子育てコラム_カンボジア vol.2】“祈るしかない”出産環境
カンボジア人の旦那さんとプノンペンで5人のお子さんを育ているさやかさん。上の2人のお子さんは日本で、下の3人はカンボジアで出産されたそうです。今回は、現地での出産事情を中心にお話を伺いました。
支援ゼロ、全額自腹
―実際カンボジアで出産してみて、日本との違いってどんなところにありましたか?
いろいろありますが、まず費用面から言うと、出産にかかる費用は全額自己負担です。日本では出産一時金がありますが、カンボジアではそういう制度はなくて、分娩費、入院費…すべて自費です。一応カンボジア国籍の人には本当に少しだけ補助があるみたいですが、それを受けるためには煩雑な書類を準備しないといけません。外国人は自費が基本です。
―出産費用はどのくらいかかるんですか?
私がローカルの病院で出産したときは7〜8万円くらいでした。設備の整ったローカルの病院だと1,000ドル~(約15万円~)くらいですね。帝王切開だと倍はかかって、2,000ドル~(約30万円~)くらいになるそうです。こちらに住む日本人が利用するような大きな病院だと出産費用は2,000ドル以上(約30万円以上)ですね。
検診も自費で、ローカルな病院は1回15~50ドル、日本人用の病院だと1回1万円以上かかる場合もあります。ただ、健診は2か月に1度の頻度で、日本ほど回数は多くないです。
―そうなると、「お金がなければ産めない」っていう状況になりかねませんね。
そうですね、カンボジアの一般家庭にとってはローカルの病院での出産でもかなりの負担です。実際、経済的な理由で出産を諦めたり、子どもを1人か2人に留める家庭も多いです。

カンボジアの街並み
命を預ける現場のリアル
―出産時の医療の質についてはどうでしたか?
その点がやはり日本とは一番違う点だと思います。医療設備が整っていないので、万が一お母さんや赤ちゃんに何かあっても対応できないことが多い。たとえば、38週未満で生まれると、「とにかく困る」って言われました。だから38週になるまでは「安静にして絶対にお腹から出さないで」と、医師や助産師から強く言われました。もし異常が起きたら、カンボジアの病院では対応できなくて、近隣の国に搬送しないといけないんです。日本のように医療でなんとかするんじゃなくて、「無事に産まれるよう祈る」。
―それは・・・だいぶ不安になりそうですね。
ほんとに。私は運良く無事に出産できましたけど、ちょっと何かあったら命に関わるっていうのは常に頭にありました。無事に出産できるまでは、毎日落ち着かない日々でした。そして、「(無事に出産できるように)助けてほしい」とご先祖様と天に祈りながら生活していました。

※写真はイメージです
日本とは異なる「技術と文化」
―健診や出産時の医療ケアについてはどうでしたか?
玉石混交ですね。面白いことに、私が出産した病院は医療器具は意外と良いものを使っていました。日本の大学の機械を使っているとかで、超音波は日本より画像がきれいで、4Dで顔もはっきり見えました。
ベテランの助産師さんの中には、「お腹を触っただけで赤ちゃんの位置や状態がわかる」みたいな信じられない技術を持っている人もいて、びっくりしました。
―どこの国にもすごい助産師さんがいるものですね。
はい、でもその一方で、とにかくお医者さんが縫うのが下手で、会陰切開後の縫合に40分かかることもありました。3人とも、毎回クレームレベルで下手でした。
あと、産後の子宮洗浄がすごいんですよ。日本だと自然に血が出るのを待つけど、カンボジアでは手を突っ込んでガーゼでごしごし拭き取る感じ。もう「雑巾がけか!」って思うくらい。それがすごく痛いんです。
ただ、これは多分彼女たちの経験上、血を残すことで母体が病気になったりして、不衛生だという認識があったんだと思うんですけどね。でも痛すぎて、旦那さんに「そんなに血を出さなくても自然に出るから大丈夫だよと伝えて、助産師さんにやめさせてくれない?」と毎回懇願しましたが、その思いは届きませんでした。

※写真はイメージです
命に向き合う覚悟が求められる
―日本と比べて、安心できる部分が少ない中での出産。精神的にもきつかったのでは?
確かに日本のような“安心感”はないです。でも、それとはまた別の“守られている感覚”がありました。説明が難しいんですが、信頼とか、願いとか、もっと感覚的なレベルの話です。
日本では安全・安心・清潔が確保された中で「予定通りに運ぶ」ことが前提ですが、カンボジアではもっと「流れに任せる」感じというか…。最終的には「赤ちゃんが自分の力で生まれてきてくれた」と実感できる部分が強かったです。
―医療が不完全だからこそ、より“命”に向き合う?
まさに。便利さや管理の正確さがない分、自然と向き合う覚悟が求められる。だからこそ、産後の赤ちゃんの泣き声が本当にありがたく感じられるんです。「ああ、生きてる、元気だ」って。
―そうした経験を経て、ご自身の中に変化はありましたか?
ありますね。以前はもっと「ちゃんとしなきゃ、いい子を産まなければ」って思っていました。でも今は「とにかく生きていればOK」と思えるようになりました。子どもが健康で元気に育ってくれることが、まずは一番大切なんだって。
もちろん、医療体制がもっと整ってほしいという願いはあります。でも、いろんなことが整っていないからこそ、感謝する気持ちや、人の力に頼ることの大切さを学びました。
“自然に任せる”文化の中で育てる
―産後はどのくらいで退院するんですか?
カンボジアは長くても4泊5日、早いところだと3泊4日で退院できます。下の子たちも家にいるので、入院日数が短いのはすごく助かりました。病院によって違いますが、私がお世話になった病院では退院1週間後に打つワクチンがあるので、そのついでに健診をしてくれます。日本では当たり前の1か月健診やその後の健診もほとんどないです。日系の病院では自費で健診をしてくれるそうです。定期予防接種は打ちますが、自費なので驚くほど高いです。
―離乳食はどんな感じなんですか?
日本のように便利な離乳食のパックも売っていますが、値段が高いです。なので、手作りが多いと思います。こっちではスープをよく飲むので、そこにごはんを混ぜて食べさせることが多いですね。あとはおかゆも結構売っているので、それを食べさせる人も多いかもしれないです。日本からのお見上げに離乳食パックを上げるととても喜ばれます。
カンボジアには細かい食育指導みたいな場が少ないので、状況は家庭によって様々です。日本のように段階的に離乳食を進めている家庭もあれば、1歳を過ぎてもペースト状の食べ物を食べさせている家庭もあります。子供の偏食についての知識がないからか、好きなものだけを食べてさせていたり、ご飯は食べないといって少し大きくなってからも粉ミルクが主食になっている場合もあります。
我が家では3人目以降は、日本で当たり前とされているような段階を踏んだ離乳食には取り組んでいないです。健診等がないので誰かに何かを言われることもないので、自分のペースで焦らず離乳食を進められるのは利点でした。とにもかくにも、小さなうちは薄味で育てるのが1番だという結果にたどりつきました。

カンボジアの家庭料理
【海外子育てコラム_カンボジア】
vol.1 プノンペンで5人を育てる日々
vol.2 “祈るしかない”出産環境
vol.3 家事・育児と仕事両立のリアル
vol.4 柔軟すぎる教育システムと情緒教育の欠如
