EN-ICHI家庭と地域の未来を拓く
MAHAが描く“健康回復”革命―RFK Jr.長官の挑戦と新しい世界保健秩序
アメリカでロバート・F・ケネディ・ジュニア長官が推進する「MAHA」プロジェクトは、子どもの慢性疾患という国の未来に関わる課題に、根本原因から取り組む意図があるとされています。日本でも慢性疾患の増加と医療費の膨張が深刻化する中で、この取り組みの成否は大きな示唆を与えるものです。さらに、国際的な保健政策の再編を主導するケネディ長官の動きは、日本にも大きな影響があるでしょう。
従来の保健政策に真っ向から挑戦状を突き付ける彼の政策は、熱狂的な支持を受ける一方で、当然のことながら多くの批判にもさらされています。本稿では、MAHAに対する評価や判断は留保しつつ、ケネディ長官が掲げるMAHAの基本方針と、子どもの慢性疾患に関する最新の政府報告、さらには国際保健政策に対するアメリカの新たな戦略を紹介し、医療の未来を展望する一助としたいと思います。
- ロバート・F・ケネディ Jr.長官誕生の背景
- 「千の夢」を取り戻す――就任スピーチとHHS改革
- MAHA評価報告書が示した4つの原因と今後の展望
- WHO脱退と「新しい国際保健機構」構想
- まとめ――アメリカの健康・医療政策の転換点
ロバート・F・ケネディ Jr.長官誕生の背景
2025年2月13日、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が第26代米国保健福祉省(HHS)長官に就任しました。上院は賛成52対48の僅差で同氏を承認し、翌14日ホワイトハウスで宣誓が行われました。
長官は環境弁護士として知られ、民主党名門ケネディ家の一員でありながら共和党政権で要職に就くという、近年まれに見る越党人事です。14歳で父ロバート・F・ケネディ上院議員を、後に叔父ジョン・F・ケネディ大統領を暗殺で失い、深い喪失感から薬物依存に陥った青春時代を送った同氏は、「イエスとの出会いが人生を根底から変えた」と公言しています。
その後は弁護士として、ワクチン副作用や食品添加物に苦しむ子供たちの側に立ち、製薬・食品大企業を相手取る訴訟に奔走しましたが、巨大企業の資金力の前に勝訴はわずかでした。それでも19年間、毎朝「アメリカの慢性疾患を終わらせる使命を与えてほしい」と祈った結果、トランプ大統領からHHS長官就任を打診されたといいます。ケネディ家の親族や民主党員からの反対を乗り越えての長官就任は、彼にとって個人的信仰と公的使命が重なり合った瞬間でした。
「千の夢」を取り戻す――就任スピーチとHHS改革
就任式でケネディ長官は「健康な人は一千の夢を抱くが、病気の人はただ一つ―癒やし―しか望めない」と訴え、医療費が4兆ドルを超えながら糖尿病・肥満・自閉症・不妊・思春期早発といった慢性疾患指標が先進国最下位クラスに甘んじる現状を「国家的非常事態だ」と宣言しました。翌日、トランプ大統領は大統領令14212号に署名し、子どもの慢性疾患流行を終わらせる「Make America Healthy Again(MAHA)」委員会を設立しました。
長官は、慢性疾患の流行を反転させる最優先課題を達成するために、アメリカ国立衛生研究所(NIH)・アメリカ疾病予防管理センター(CDC)・アメリカ食品医薬品局(FDA)を含むHHS全機関の研究データと資金フローを原則オンライン公開し、官民癒着(いわゆる回転ドア)を断ち切る「徹底した透明化」を指示しました。
また職員に「能力・倫理・透明性・思いやり・誇り」の5つの価値観を提示し、政治から独立した科学と国民本位のサービスを再興するよう求めました。さらに、ワクチンの安全性だけでなく電磁波、農薬、超加工食品、精神薬、PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances:人工的に作られた有機フッ素化合物の一群)まで調査する姿勢を明示し、「隠されたリスクを照らし出すことこそ信頼回復への第一歩だ」と強調しました。
MAHA評価報告書が示した4つの原因と今後の展望
2025年5月27日に公開された「Make Children Healthy Again Assessment」は、米国の0~17歳の約730万人のうち4割超が喘息、アレルギー、肥満、自己免疫疾患、発達・行動障害など何らかの慢性疾患を抱えている実態を提示しました。報告書はその要因を科学的根拠に基づいて4つに分類し、それぞれに対して今後の戦略的介入が必要であると提言しています。
① 超加工食品(UPFs)の過剰摂取
MAHAは、アメリカの子どもたちの摂取カロリーの約70%が超加工食品(UPFs)から来ており、これが肥満や2型糖尿病、行動障害のリスクを高めていると指摘しています。これらの食品は栄養価が低く、強い味に慣れた子どもたちは自然食品を避けがちになり、健全な食習慣が定着しにくくなっているといいます。長期的には、生活習慣病だけでなく、集中力や学習意欲の低下にもつながると警鐘を鳴らしています。
② 環境有害物質の累積的な曝露
MAHAは、子どもたちが日常的にPFAS、農薬、マイクロプラスチック、重金属などの環境有害物質にさらされている現状を問題視しています。とくに分解されにくいPFASは体内に蓄積しやすく、ホルモンバランスの乱れや免疫異常、発達障害のリスクを高めるとしています。成長段階にある子どもへの影響は深刻であり、より強い規制と保護策が必要であると訴えています。
③ デジタル時代における運動不足と慢性ストレス
MAHAは、スマートフォンやタブレットの長時間使用により、子どもたちの運動不足や睡眠障害、メンタル不調が深刻化していると警告しています。スクリーン依存による刺激過多が集中力の低下や情緒不安定を引き起こし、早発思春期やうつ、不安症の増加につながっていると分析しています。子どもの健全な発達のためには、生活環境の見直しが不可欠だと強調しています。
④ 医療の過剰介入と薬物依存
MAHAは、ADHDやうつ症状に対する小児向け薬の処方がこの20年間で倍増しており、医療への過剰依存が進んでいると批判しています。薬物療法が症状を一時的に抑える一方で、副作用や依存リスクが軽視されていることに懸念を示しています。予防と根本的支援を重視した、倫理的かつ持続可能な医療への転換が求められていると述べています。
こうした4つの根本的な課題に対し、MAHA委員会はすでに対応策の立案を進めており、2025年8月にはホールフード中心の食事法の臨床試験、全国的なライフスタイル介入、化学物質のリスクマップの作成などを含む包括的戦略を発表する予定です。これは子どもの健康回復にとどまらず、国家の未来を守るための包括的な健康改革の始まりを意図するものです。

WHO脱退と「新しい国際保健機構」構想
2025年5月20日、ケネディ長官は世界保健総会(WHA)に寄せたビデオ演説で「WHOは官僚主義に沈み、企業医療と中国の政治的影響に屈した」と痛烈に批判しました。WHOが初期のCOVID-19ヒト‐ヒト感染情報を抑制し、武漢ウイルス研究所説を否定してコウモリ起源説を喧伝した経緯を例に挙げ、「透明性と加盟国の主権を守るという原則を放棄した」と断じたのです。
トランプ大統領はすでに米国のWHO脱退を正式決定し、ケネディ長官は「透明・効率・説明責任を徹底する新たな国際保健機構」を同志国と創設する構想を提示しました。この新機構は、慢性疾患の根本原因究明と生活習慣改善を最優先課題とし、研究データをオープンソースで共有しつつ、各国の医療文化と主権を尊重するモデルを標榜します。アルゼンチンやイタリアが参加を検討し、アジア・中東諸国からも関心が寄せられていると報じられ、既存の国際保健ガバナンスを揺るがす動きとして注目されています。
まとめ―アメリカの健康・医療政策の転換点
ケネディ長官が掲げる「治療から予防へ」「透明な科学へ」というビジョンは、米国医療が“病後対応”から“根源対策”へ舵を切る歴史的転換を意味します。その背景には、生活習慣と環境を整え、真因を断つことでこそ国民の夢と生産性が回復するとの考えがあります。この転換を実現するために、ケネディ長官は、医療者・研究者・企業・為政者が「人々の健康に奉仕する」という医の原点に立ち返り、高い倫理観を共有しながら、改革に取り組むことを要請しています。
MAHAプロジェクトの取り組みに対しては賛否両論が入り乱れていますが、既存の医療に対する米国民の不信感が背景にあることは否めません。MAHAが提示した問題意識は、各国の医療者にとっても、自国の慢性疾患への向き合い方を見直す一つのきっかけとなるでしょう。
参考文献
- The White House. (2025). Executive Order on Establishing the President’s Make America Healthy Again Commission.
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/establishing-the-presidents-make-america-healthy-again-commission/(2025年6月30日閲覧) - U.S. Department of Health and Human Services (HHS). (2025). Executive Order: Make America Healthy Again (MAHA).
https://www.hhs.gov/press-room/eo-maha.html(2025年6月30日閲覧) - The White House. (2025). Make America Healthy Again Assessment Report.
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2025/05/WH-The-MAHA-Report-Assessment.pdf(2025年6月30日閲覧) - U.S. Mission to International Organizations in Geneva. (2025, May 20). Secretary Kennedy to World Health Assembly: The United States Is Holding the WHO Accountable.
https://geneva.usmission.gov/2025/05/20/secretary-kennedy-to-world-health-assembly-the-united-states-is-holding-the-who-accountable/(2025年6月30日閲覧) - Reuters. (2025, May 20). RFK Jr. slams WHO as ‘moribund,’ encourages others to quit.
https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/rfk-jr-slams-who-moribund-encourages-others-quit-2025-05-20/(2025年6月30日閲覧)
