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子供が「学び方」を選ぶ時代へ― 自律的な学びを育む授業スタイルの実践

“個別最適な学び”や“協働的な学び”が注目される中、教育現場では「学び方を考える」力(自己調整能力)を高める取り組みが始まっています。実際に小学校でチャレンジしている公立小学校の新田先生(仮名)にお話をうかがいました。
- 「教わる」から「自分で選ぶ」学びへ
- 学び方を「選べる」ことが自律性につながる
- インプット×アウトプットで学びを深める
- 教材の選択も「自由」に
- ロイロノートで実現する「見える化」
- “選ぶ”ことで始まる主体的な学び
- 心理的安全性のある教室づくり
- 柔軟な学びのスタイルの選択へ
「教わる」から「自分で選ぶ」学びへ
「今日の授業の目当てはこれです」
「はい、○○さんどう思いますか?」
「最後はこのまとめをノートに写してね」
これは、教育現場でよく見られる一般的な授業のスタイルですよね。でも、このスタイルだけでは、子供たちの学びは受け身のままなのではないでしょうか。
私は子供たちが「どう学ぶか」を自分で選ぶことによって、自律的な学びを身に付けられるのではないかと考えています。昨今、“個別最適な学び”や“協働的な学び”が注目されている中で、自分も学び方を選ぶ授業スタイルにチャレンジしてみようと思い、実践した内容を紹介します。
学び方を「選べる」ことが自律性につながる
学び方を選ぶ授業スタイルでは、学ぶ前にまず「どう学ぶか」を子供たちが選びます。一人で、ペアで、グループで、それとも誰かに教わるか、あるいは誰かを助けるか。教師が選択肢を提示し、子供自身に最適なスタイルを考えさせます(図表1)。
図表1 ニーズに合わせた協働相手

出所:新田氏提供
たとえば、安心して学びたい子は仲の良い友達と。視野を広げたい子は、考えの違う友達とペアに。「この内容、苦手だな」というときは、得意な子と組む。授業の途中でスタイルを変えるのもOKです。前半は同レベルの子と、後半は違う視点の子のところへ――そんな柔軟なスタイルも認められています。
このように、“誰と学ぶか”を自分で選べることが、「学ぶこと=自分ごと」になるきっかけになります。
インプット×アウトプットで学びを深める
このスタイルのもう一つの特徴は、授業の時間に「インプット」と「アウトプット」を組み合わせることができることです。
教科書を読んだり、先生の話を聞いたりするだけでは、学びはなかなか定着しません。自分が学んだことを友達に話す、実際にやってみる、教える立場になってみる―インプットとアウトプットを繰り返し組み合わせることで、学びの定着率がぐっと高まります。
子供たちにも「学んだことを友達に伝えてみようね」という声掛けを心がけています。そうすると、子供たちも自然とそのような意識をもってくれます。
教材の選択も「自由」に

学び方の選択だけでなく、教材も自由に選べます。教科書はもちろん、タブレット端末でネット上の資料を探したり、ワークシートを使ったり、付箋でアイデアをまとめたり。子供たちは、自分の目的に合ったツールを自由に選んで学習を進めます。
「誰と学ぶか」と「何を使って学ぶか」の組み合わせは本当に多種多様です。子供たちには「それを自分で選んでいくことが大事だよ」と伝えています。
ロイロノートで実現する「見える化」
実際の授業では、ICTツールの「ロイロノート」を活用しています。テンプレートをあらかじめ準備しておき、子供たちが自分の学びや振り返りを記入するカードは、クラス全員が閲覧可能な状態にしておきます。
図表2 ルーブリックの表示

出所:新田氏提供
授業の最初に、教師が授業の目当てとルーブリック(評価基準)(図表2)、学習の流れを共有します。教師が前に立つのは数分程度で、あとは子供たちが自分のペースで学ぶ時間です。子供たちは、自分の学び方や学んだ内容をロイロノート上のカードに記入していきます。他の子のカードも閲覧できるので、いつでも「他者の学び」からヒントを得ることができます。
図表3 児童の振り返りの例

出所:新田氏提供
授業の最後に振り返りの時間を持ちます。振り返りでは、自分の学び方が適切だったかを考えるように伝えています。中には、「今日は一人で学んだけど、途中で得意な人に意見を聞きに行って気づきがあった」など、学び方を自分で調整するような視点を持つことができた子もいました(図表3)。
“選ぶ”ことで始まる主体的な学び
「全部自分で考えて!」と言われると、大人でも困ってしまいますよね。だから、「自分で選ぶ」ということがポイントだと思います。選択肢の中から選ぶだけでも、子供たちは「自分で決めた」という感覚を持てます。
子供たちが自ら学び続ける姿勢を持つには、自己調整能力—「自分には何があっているのか、どう工夫したらよいか」など、学びについて自分で考え、学習する方法を調整する力—が不可欠です。
ルーブリックなどを使って現状を正しく把握できれば、子供たちは一つ上の段階にチャレンジしようとしてくれます。そうやって学び方を考える力を育成したいと考えています。
心理的安全性のある教室づくり

自律的な学びのスタイルは、子供たちの心の安全にもつながっています。たとえば、全体の前で急に当てられるのが苦手な子は、個別やペア学習なら「間違えたら笑われるのではないか」等と心配をする必要がありません。
また、この授業スタイルでは勉強ができる子が結構のびのびと活動します。通常の授業ですと、塾などで先取り学習をしている子は退屈していたり、ワークの時間をもったいないと感じたりすることがあります。
でも、このスタイルでは、ミニ先生になって他の子に教えるなど、どんどんアウトプット学習をしています。その結果、誰かが誰かに教えに行くのは当たり前ですし、勉強が苦手な子が他の子に「これどう思う?」と意見を聞くのも当たり前になっています。
できる子が苦手な子に教えるという環境が自然とできており、休み時間だけでなく、授業の中でも子供たちが様々な関わりを持つことができるようになりました。
柔軟な学びのスタイルの選択へ
文部科学省の「リーディングDXスクール」というWebページでは、こうした新しい学びの実践事例が数多く紹介されています。「本当にできるのかな」と思うようなものもありますが、実際にやってみると意外と成り立ちます。
私は、授業で新たなチャレンジをするたびに、子供たちの内側に学ぶ力や意欲はしっかりあるものだなと感じさせられています。
もちろん、すべての授業をこのスタイルで行う必要はありません。学習内容や単元に応じて、一斉指導と自律的な学びを柔軟に組み合わせていけばよいと思います。
新田先生のお話からは、子供たちの学ぶ意欲を引き出し、生かしていけるような取り組みが始まっていることがうかがわれます。画一的でもなく放任でもない。今後は授業をどのようにデザインするかが重要となりそうです。
教育・人材 ケーススタディ