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【海外子育てコラム_米国 vol.1】自宅出産を選んだ理由と、米国医療の「サバイバル」な現実
米国在住13年、ラスベガスでカナダ人の旦那さんと3歳の娘を育てるよりこさん。インタビューを通じて見えてきたのは、日本とは社会保障や医療制度が全く異なる子育て環境で、力強く生きる「自由と自己責任」の育児録です。第1回目は米国での出産を中心にお話を伺いました。(全3回のシリーズでお届けします。)
公的皆保険のない国で出産するということ
―お子さんを自宅で出産されたそうですが、なぜ自宅出産を選んだのですか?
最も大きな要因は、アメリカの医療保険制度でした。日本のような国民皆保険制度は存在せず、医療保障は基本的に民間保険に依存しています。比較的安価とされる保険でも月額700ドル(約10万円)以上かかり、しかも「自己負担額(deductible)が5,000ドルに達するまで給付が始まらない」といった高額自己負担型のプランが一般的です。
つまり、若く健康な人にとっては、高額な保険料を払い続けるよりも、一定のリスクを自ら引き受けて現金を確保する方が合理的だと判断するケースも少なくありません。
私も当時、保険に加入しないという選択をしていました。もっとも、大企業に勤務していれば企業提供型保険を利用できますし、低所得層には公的支援(Medicaidなど)があります。米国では、雇用形態や所得階層によって医療アクセスの質が大きく分断されているのが特徴です。
―医療保険に入っていなかったので、自宅出産を選んだということですか?
はい、病院で出産すれば、自然分娩でも1万ドル前後、帝王切開になれば2万ドル以上の請求が届くことも珍しくありません。問題は、事前に総額が明確に提示されない点です。医療費は医療機関ごとに異なり、分娩後に請求書が届くまで最終金額がわからないケースも多いです。
一方、自宅出産の場合、助産師(ミッドワイフ)との契約はパッケージ料金制で、検診・分娩・産後フォローを含め4,000〜5,000ドル程度。費用が明確であることが大きな安心材料でした。病院でいくらかかるかわからない中出産するのは、精神的な負担も大きいので、自宅出産は極めて有力な選択肢だったんです。(もちろん、お産がスムーズにいかず医療が必要となった場合は、支払う決意をしていました。)
産んだ瞬間から「日常」―スパルタな産後環境
―自宅での「水中出産」だったそうですが、実際の体験はいかがでしたか?
自宅に大きなビニールプールを用意して、温水の中で産むスタイルでした。自分のペースでリラックスできる環境だったのが良かったです。ありがたいことに出産はスムーズに終えることができたのですが、大変だったのはその後です。
日本では通常5~7日は入院すると思いますが、アメリカの病院は自然分娩なら48時間、帝王切開でも3〜5日で退院させられるスパルタ仕様です。自宅出産にいたっては、産んだ瞬間から「日常」でした(笑)。
― 産後は、助産師さんからのサポートもあまりなかったんですか?
助産師さんは「また2日後にチェックしに来るわね」という感じで、産後数時間後にはあっさり帰宅していきました。病院のような授乳指導も沐浴指導も、母体の回復支援もありません。初めての出産なので、本当に何をどうしたらよいかわかりませんでした。
助産師さんに「赤ちゃんは肌と肌を触れ合わせる(スキン・トゥ・スキン)のが一番よ」とアドバイスされたのですが、それをあまりに忠実に守りすぎて、娘を1週間くらいずっと裸で過ごさせてしまったんです(笑)。後から遊びに来た友人に「なんで服を着せていないの?」と驚かれて初めて気づきました。それくらい、何もかもが手探りでした。
日本で出産した友達の話を聞くと、日本の至れり尽くせりの入院制度とは対極にある、産後のスタートだったなと思います。

※写真はイメージです
家庭 ダイアローグ・コラム