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外国人との共生社会実現に向けて【第2回】難民支援の現場から見える「制度の歪み」―放置される人々への人道的責務
第1回 人類史の「再統合」と日本社会の覚悟―なぜ今、私たちは変わる必要があるのか
制度の隘路:長期化する審査と「仮放免」の過酷さ
外国人との共生を語る際、最も深刻な課題が凝縮されているのが難民支援の現場です。現在の日本の難民認定審査には膨大な時間がかかっており、その結果、多くの申請者が「仮放免」という極めて不安定な立場に置かれています。
仮放免中の人々は、働くことが許されず、健康保険もなく、移動の自由すら制限されています。なかには10年以上もそのような状況に置かれているケースもあり、彼らは文字通り「社会から切り離された」状態で生活しています。審査期間がこれほど長期化することは、個人の人生を破壊するだけでなく、社会の安定にとっても大きなリスクとなります。
審査が長期化する要因の一つに、申請内容の事実確認の難しさがあります。紛争地から逃れてきた人々は、迫害の証拠を携えて来ることが困難な場合が多く、入国管理局が現地の状況を正確に把握するのには限界があります。この「グレーゾーン」の期間をいかに短縮し、不透明な状況にある人々を減らすかが、社会の安全と人道支援の両面から問われています。

深刻化する「2世」のアイデンティティと無国籍問題
また、特に重大な課題は、仮放免中に日本で生まれ育った子供たちの問題です。親に在留資格がないために、日本で生まれたにもかかわらず「無国籍」状態になってしまう子供たちが少なくありません。
彼らは日本語を母国語として育ち、日本の文化や生活習慣を身につけていますが、義務教育の対象外とされるなど、教育の機会を十分に得られないリスクにさらされています。日本しか知らず、言葉も分からない「母国」へ強制送還される不安を抱えながら過ごすことは、子供たちのアイデンティティに深刻な影を落とします。
こうした不安定な環境で育つ若者が、社会への疎外感から犯罪やトラブルに関わってしまうケースもありますが、これは個人の資質以上に、彼らを適切に包摂できなかった社会構造が生み出している影の部分と言えます。彼らを「日本社会の将来を担う市民」として迎え入れる視点が、安心・安全な日本を守りつつ新しい活力を得るためには不可欠です。
審査の迅速化:AI技術が拓く可能性
こうした「放置される人々」を減らすためには、制度の現代化が急務です。一つの解決策として、AIなどのデジタル技術を難民認定審査に活用することが考えられます。
難民が主張する「迫害の事実」を確認するには、現地の情勢を精緻に調べる必要がありますが、人間が手作業で行うには限界があります。AIを使って現地の報道や膨大なデータベースと照合すれば、事実関係の確認を大幅に迅速化できるはずです。グレーゾーンに置かれる期間を短縮することは、人道的配慮であると同時に、社会の秩序を守るための「合理的な投資」となります。
経済的な理由から観光目的で入国し、その後難民申請を行い、日本で正規・不正規に就労するケースが横行している状況については、改善が必要であると考えられます。現在の日本の制度ではこのような行動が一定程度可能となっていますが、現在検討されている「JESTA」が運用されるようになれば、状況の改善が期待されます。

法治国家としての品格
日本が真の共生社会を目指すならば、入管施設における非人道的な対応や、認定基準の極端な厳しさを改善しなければなりません。国際的な人道支援の一環として難民を受け入れ、認定後の手厚い支援を行う欧米諸国と比較しても、現在の日本の対応はあまりに限定的です。ミャンマーやウクライナの戦火を逃れ来た人々に対しても難民認定はせず、「人道的配慮」というカテゴリーで対応しています。
「秩序」を保つことは重要ですが、人道的な視点を欠いた秩序は、真の共生を遠ざけます。困っている人々を適切に助け、透明性の高い審査を行うことが、法治国家としての日本の品格を維持することに繋がると思います。難民には、入国後に時間をかけて日本の習慣を教え日本社会への統合を促す必要があります。具体的には、日本語教育支援、職業訓練と就労支援、住宅支援、また働きに出ない主婦の社会統合支援などをもっと強化する必要があると思います。
※本コラムは2026年3月3日に行ったインタビューの内容をEN-ICHI編集部が整理してまとめたものです。
シリーズ「外国人との共生社会実現に向けて」
第1回 人類史の「再統合」と日本社会の覚悟―なぜ今、私たちは変わる必要があるのか
第2回 難民支援の現場から見える「制度の歪み」―放置される人々への人道的責務
第3回 共生のための具体的戦略と未来図―「みんなファースト」で日本を再定義する
著者プロフィール
井上健・いのうえけん
1957年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、サセックス大学(英)開発学修士。1985年にUNDPへJPOとして入職後、カンボジア・ソマリア・コソボ・東ティモールなどでの国連PKO要職、アジア生産性機構工業部長、JICA民主化支援シニアアドバイザーなどを歴任。東洋大学・獨協大学など多くの大学で非常勤講師も務める。専門はSDGs、国連平和維持・構築活動、民主的ガバナンス。現在はパーソナルガバナンス研究所代表として、在日外国人の定住支援と多文化共生社会の実現に取り組んでいる。
